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課外授業編
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しおりを挟む魔法学院の一年生を迎え入れて一日が経った。
昨日は到着したばかりだっただに、自由行動と休息の時間が主だった一年生達も今日から課外授業が始まる。
早朝にまだ眠そうに瞼を擦る一年生達を見るとまだ子供らしさの残る年齢だというのがわかる。
といっても、昨日は街全体が一年生達を迎え入れるためにお祭りムードであった。
街には夜店が立ち並び、この日のために用意されたご馳走が誰でも買えるようになっていたし、街の住人達の自主参加で催し物まで開かれた。
子供達も大いに楽しんだ様子で、夜明け近くまで興奮して眠れなかった子もいるようだ。
まだ眠そうにしていても仕方がないだろう。
課外授業において、どういったことをするのかはその街の領主である魔法使いに一任されている。
もちろん事前に学院側に内容を伝え、問題がないかは検討されている。
北の街では吹き荒れる北風を遮り、魔力で暖をとる魔道具の作り方を学び、全員で制作したらしい。
東の街では、ハカッシュという名前の植物から虫除けの呪いに使う魔法薬を調合したらしい。
そんな中、我らがクルザナシュの領主にして今では国内外問わず名前を知られるようになった魔法使いレオンは課外授業の初日を前にして……いじけていた。
「お前な……いい加減気持ちを切り替えてくれよ……」
念の為に迎えに来たマークは扉を開けて起きたままの格好をしたレオンを見て呆れ顔である。
原因はハッキリしている。
なぜならば、昨日レオンを襲った被害をマークも側で見ていたからだ。
事件が起きたのは昨日の夕刻、レオンが荷馬車の魔道具を見た後のことである。
もともとレオンはこの一年生達の課外授業のための街への受け入れを楽しみにしていた。
「才能のある若い魔法使い達に会える」というだけでなく、その若い魔法使い達の中には今年から入学した弟のマルクスがいるからである。
当然、レオンは夕食を共にできるものだと思い夕刻ごろにマルクスを誘ったのだ。
しかし、その答えはノーであった。
「兄さん、気持ちは嬉しいけど一つの街の領主が一人の学生と懇意にするのはよくありません。もちろん僕と兄さんは家族だけど……この課外授業では先生と生徒という立場を守ってもらいたいのです」
キッパリと言い切るマルクスのその姿に、レオンは度肝を抜かれた。
ついこの間まで「兄さん!」と可愛く駆け寄って来てくれたのに……。
いつのまにかこんなにもキッパリ物を言えるようになったなんて……。
レオンの中で、マルクスの成長が嬉しい反面、予想していなかった答えに気持ちは大きく沈んだ。
レオンが学生の時、家族に会えるのは一年に一回の帰郷の時くらいだった。
さらに、レオンはその後アルガンドという極北の国で五年間を過ごすハメになり、その間故郷の国では死んだことになっていたのだ。
その間家族に会いたいと思わなかった日はなく、こうして会えるようになった今、注がれる愛情は桁違いなのである。
そんなわけで、弟に夕食を断られた偉大な兄はそのことを朝まで引きずっているのだった。
「実際マルクスの言い分は最もだと思うぜ? 新入生達には貴族生徒が多いし、貴族ってのはやたらとプライドとかを気にするからな。それに、子供な分そういう感情を隠そうともせず素直にぶつけてくる。トラブルを回避するにはいい方法だろ」
マークはレオンを無理矢理着替えさせて、顔を洗わせた後、昨日のマルクスの発言をフォローする。
レオンとマルクスのことを兄弟だと知っていても、レオンがマルクスを自宅に招くと「ズルい」と言い出す生徒もいるだろう。
それが貴族生徒ならば後々の軋轢を生むきっかけにもなる。
それ自体はレオンも十分に理解しているのだ。
しかし、楽しみにしていた弟との食事が無くなってしまったのが悲しいのである。
「ほら、これやるから元気出せよ」
未だにしゃっきりしないレオンにマークは懐から出した羽ペンを渡す。
レオンはその羽ペンをまじまじと見つめた。
ただの羽ペンに見えるが、実際は魔道具らしい。
魔力を込めると自動的にインクが出てくる仕組みのようだ。
「これは?」
「マルクスからだ。昨日こっそりとお前に渡してくれって頼まれたんだよ。王都でお前へのお土産に買ったらしい」
しれっと言ってのけるマークにレオンは思わず大きな声で
「なんで早く渡さないんだよ!」
とツッコミを入れる。
「だってお前昨日落ち込んで早々に家に引き篭もったじゃないか。渡す暇がなかったんだよ」
とマークは謝罪しながら言うが、レオンは既に羽ペンを強く握りしめてニヤニヤと笑っていた。
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