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本編
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しおりを挟む神様は僕に何を与えたいのだろう
幸せ・・・・それとも・・・
目の前から来る女性をいつ彼女だと気付いただろう。
そんな記憶すら消えていない。
思ってもみない偶然に緊張と不安と期待で頭が真っ白になったから。
ただ状況は決して喜ぶべきものではなかった。
だって・・・彼女は泣いていたから。
夜の闇でほとんど見えなかったけど。
でも僕にはなぜかわかった。
「みー?」
思わず声をかけていた。
衝動的に。
だって見てられなくて。
「え?」
驚きながら振り返った彼女、みーは僕を見ても不思議そうな眼差しをしている。
あぁ、そうか。
僕が誰だかわからないんだ。
そのことに気付いたら、胸が苦しくなった。
それだけ僕の存在は彼女の中から消えていたと言う事だから。
ゆっくりと彼女に近づいた。
そして距離が1メートルもないくらいになり、ようやくみーは僕のことを思い出したようだった。
でも今の僕はそんなことよりもみーの瞳から溢れ出た涙がすごく痛々しくて。
「みー、泣いてるの?」
泣かないでよ。
そういう気持ちを込めて僕は訊いた。
思えば僕はみーの泣き顔ばかり見てる気がする。
今も、そしてあの時も――
中学2年の夏、全寮制の高校に通う事に決めた大きなきっかけとなったあの日。
兄貴がみーと別れた事をわざわざ僕に告げてきた。
『もうみーの声は聞かせる事が出来ねーんだ、悪いな。』
兄貴は平然とそう言ってのけた。
なんで・・・そんなに軽く言えるんだよ。
みーのこと、好きじゃなかったのかよ。
絶対にみーは今頃泣いてる。
あんなにも兄貴のことが好きだったんだから。
案の定、運が良いのか悪いのか。
僕は見てしまったんだ、みーを。
僕の部屋の窓からみーの部屋が見える。
けれど、兄貴とみーが別れてからその窓はいつもカーテンで隠されていて。
でも数日経ったある時、風が吹いてそのカーテンが揺れて、みーの姿が見えた事があった。
数少ないそんな機会に見たみーは、ただ泣いていた。
口に手を当てて、声を必死に押し殺して。
それなのに、そんな光景を目にしたのに僕は何もしてあげられなくて。
だから決めたんだ。
全寮制の高校に行こうって。
安易な考えかもしれない。
環境を変えたら強くなるっていうのは。
でも今のままよりもマシだと思ったんだ。
これから先、何があるかわからないけれど。
みーは僕の言葉に素っ気なく、すぐにその場を立ち去ろうとした。
僕は慌ててその手を取った。
特に何か考えがあってというわけじゃなく、咄嗟に体が反応して。
「何?まだ何か用?」
放してよ、みーの心がそう言っているように聞こえたけれど、僕はそれを無視した。
と言うか、頭は真っ白でも本能は完全に意志をもって体を動かしてくれていた。
「ちょっと来て。」
みーの腕を引っ張り、僕の体は自分の部屋へとみーを連れていった。
みーが部屋に入ると同時に僕は急に現実を肌で実感していた。
僕のそばにみーがいる
そう思ったら急に心臓がバクバクしだして。
体もさっきまでの勢いがなくなり、素の自分へと戻っていた。
と、とにかく落ち着こう。
そう思って、みーを部屋へ残し、一旦その場を離れることにした。
キッチンで飲み物を用意しながら考えるのはみーへかける次の言葉。
何を話せばいいのか・・・
こんな展開を誰が予想できただろう
思わずため息が出ていた。
みーが泣いた理由なんて1つしかない。
きっと兄貴に関すること。
なんであんな奴のために泣くんだよ。
あんな・・・最低な奴のために。
けれどその考えはすぐに別のものにかき消された。
「はは・・・・・・最低なのは僕か。」
自分の過去を棚に上げて、兄貴を悪くいうなんて。
そんな資格ないのに。
もう彼女の泣き顔なんて僕は見たくない。
けれど僕には彼女を笑顔にさせる術を持ち合わせるほど、経験も知識もない。
そんな自分に嫌気がさした時、ふと、勉の言葉を思い出した。
『これをきっかけに話せばいいんじゃね?合格したんだー、お祝いしてくれよーとか。一緒に祝およ、高校と大学の合格をーとか。』
そうか。
高校合格。
それだ!
急に目の前が明るくなった気がした。
勉、助かったよ。
ここにはいない親友に心の中で感謝を述べ、飲み物を手にすると彼女の待つ部屋へと階段を上がった。
でも。
ドアを開けてすぐに違和感を覚えた。
とてもはっきりと。
それが何なのかなんて、考えるまでもなくて。
“ 僕の部屋に彼女が存在していることが似合わない ”
ただそれだけ。
その時の僕の感情をどう表現すればいいのだろう。
悲しさや悔しさ、惨めさ。
そんな負の感情だった。
それらを隠すのは少し大変だったけれど、なるべく平静を装って声をかけた。
「どうかした?」
急に僕の声が聞こえて、少し体を震わせた彼女はそれでも気丈に見せていた。
そして一言。
「別に。」
素っ気ないその言葉を聞いた僕は、なぜかとても苦しくなった。
拒絶されたような気がしたんだ。
だから訊かない方がいいとわかっていても先程見た光景について訊いてしまったんだと思う。
「何で泣いてたの?」
それを口にしてしまった瞬間、しまったと思ったけれど後の祭りで。
でも彼女はあくまで僕を突っぱねる姿勢を崩さなくて。
それが悔しくて、
「・・・・・・大地。」
核心をつく名前を出していた。
案の定、彼女の体は僅かに震えた。
やっぱりな。
「当たりか。」
わかってはいたんだ。
でもこんなにもわかりやすい反応された僕の胸は思った以上に痛みが襲っていた。
どうしてあんな奴をそこまで想えるんだ
本性を隠した奴なのに・・・
「僕、知ってるよ。みーと兄貴が付き合ってた事。」
嫉妬したのかもしれない。
僕を陥れた人物に対して。
そして僕を拒絶する人へちょっとした報復がしたかったのかもしれない。
本人達が隠していた関係を僕が知っているなんて思ってもいなかったんだろう。
彼女はすごくびっくりした顔で僕を見つめた。
「なんで・・・。」
あまりの驚きで言葉も続けられないようでそのまま無言になった。
少しだけ胸の閊えが取れた気がした。
「わかるよ、僕だって一応、みーの幼馴染だし。・・・・・・・雰囲気やお互いへの仕草とか。」
思わず自分の愚行を曝け出しそうになり、差し障りのない言葉で交わした。
けれど僕の考えが甘かった。
みーは思った以上に僕の言葉に疑問を抱いていた。
「嘘。今、何を言おうとしたの?」
「何が?」
声を抑えつつも心の中が焦りの色に染まっていく。
「他にもあるんでしょ?大地から聞いたの?私と付き合ってたって。」
「兄貴からは何も...。」
そう言って、後悔した。
ここで肯定しておけばよかったんだ。
そうすればこれ以上の尋問は避けられたのに。
でもすでに遅くて。
みーはさらに追及してくる。
「じゃあさっき何を言おうとしたの?雰囲気や仕草で気付いたっていうけど、私達がこうやって接するのって数年ぶりだよね?それなのにわかるはずないじゃない。」
「そ、それは・・・。」
言えない。
これ以上は。
絶対にあの事だけはみーに知られたくない。
それに、みーはわかるはずないって言ったけど。
それは違う。
例え兄貴の脅しがなくても二人の事はとっくに気付いてた。
ずっと見てたから。
みーだけをずっと。
でもそれを言ったら、僕の気持ちまで知られてしまう。
それだけは避けたかった。
「言って。」
「無理。」
「ダメ、言って!」
「嫌だ。」
「言いなさい!空!」
あくまで拒否を貫く僕の姿勢は攻め寄ったみーに脆くも崩れていく。
制服を掴まれ、みーの顔がすぐそばまで来て。
色んな意味で動揺した。
みーの体温が感じられそうなくらい近くて、でも彼女は怒りを露にしていて。
彼女の性格は知り過ぎているくらい知ってる。
頑なで最後まで諦めない。
つまり、そんな彼女に詰め寄られた僕は逃れられない。
ふいにみーの瞳に映る僕を見た。
とても弱々しくて、自信のない自分。
無様だ。
そんな僕がみーの瞳に映る資格はないのかもしれない。
そう思ったら、さっきまでの勢いは跡形もなく消えていった。
あぁ、やっぱり無理だ・・・
これ以上黙ってるなんて
ごめん、みー
僕は今から君を傷つけてしまう
だけど・・・でも・・・お願い
僕を嫌いにならないで
その願いだけを胸に僕をゆっくりと彼女の体を離し、俯いたまま震える唇を開いた。
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