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番外編
S.H.E.
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およそ10年ぶりの実家。
そしておよそ10年ぶりの部屋。
窓を開けて見えるのは、今いちばん大切な人の懐かしい部屋。
そう思うと胸がトクンと波打ち、自然と顔も緩む。
見上げれば月や星たちが綺麗に夜空を演出してる。
今までずっと過去に捉われ、足を向ける事のなかった場所。
ようやくこうして帰ってくることが出来た。
「みーちゃーん、下でお茶にしない?」
階下からの母の声で現実に引き戻された。
「今、行くー。」
そう言ってカーテンを閉めると、テンポよく階段を下りた。
リビングでは私の持って帰ったお土産を開け、お茶を注ぐ目を赤くした母が待っていた。
30分前。
私が突然帰って来た事に驚き、喜ぶ母親の興奮っぷりはすごかった。
笑いながら泣いていて。
落ち着いたかと思えば、また泣きだして。
その繰り返し。
それもそうだろう。
10年もの間、帰ってくることはおろか、連絡さえまともにとってなくて。
私から電話した回数も片手で足りるくらい。
我ながら薄情な娘だと思う。
それでも母はずっと私を想ってくれていた事が痛いほど伝わってくる。
だから、とても簡単な、そして大事な言葉さえも紡ぎ出す事ができなかった。
「みーちゃん、何かあった?」
ちょっとしたティータイムが始まると、やや控えめな声色で母が訊ねてくる。
いつもそう。
争い事が嫌いで、出来るだけ穏便におさめようとする性格のせいか、母は父や娘の私にでさえ顔色を窺う。
それは私が物心つくころから、ずっと。
そして今、その母の問いかけにかなり動揺してる私がいる。
今日、帰ってきた大きな理由。
それを伝える事に少し躊躇いと恥ずかしさが入り混じる。
それをどう捉えたのか、母は慌てて、
「あ、いいのよ。無理して言わなくて。みーちゃんがこうして帰ってきてくれただけでも嬉しいもの。今日は泊まっていくのよね?晩御飯は豪勢にしなきゃね。みーちゃんの好きな料理、いっぱい作るから全部食べてね。」
そう言って話を変えていく。
私に気を使う母に胸の痛みがさらに増した。
今言わなきゃ。
その考えが頭を巡ると同時に口は開いていた。
「ごめんね、お母さん。」
「え?」
「今まで心配ばかりかけたでしょう?」
「そんなこと・・・。」
「ううん、ずっと心配かけてた。わかってたのに私、何もしようとしなかった。ホントにごめん。でもこれからはたぶん大丈夫だから。」
「みーちゃん?」
怪訝そうに目を細めた母に、私は呼吸を整え、ようやく本題を伝えることに成功した。
暫くぽかんと口を開いたまま固まっていた母は、理解し終えると同時にまた泣きじゃくり、私を抱きしめてくれた。
― 結婚しようと思うの、空と ―
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