TIME

樫野 珠代

文字の大きさ
上 下
11 / 79
高校1年-5月

1

しおりを挟む





せっかくのゴールデンウィークも天気は最悪。朝から降り注ぐ空からの雫が地面を叩きつけている。それを窓越しの席に座り、呼び出した人物をひたすら待つ。ウィーンという自動ドアの音の後、駆け寄ってくる足音。
「ごめん!春菜。待たせて。」
優香は手を合わせながら詫びた。
「ううん、大丈夫。それより雨は大丈夫だった?かなり降ってるね。」
「もーホントにこの雨どうにかしてよ!」
先程の殊勝な態度はどこへ行ったのか、憮然とした態度で優香はテーブル越しの前の席へと着いた。
「これじゃ、ゴールデンウィークの楽しさも半減だね。」
「そうだよー。せっかくさ5連休なのに!しかも今日は初日だよ!最初から天気で滅入っちゃうわよ!」
「それより優香、なんか話があったんだよね?」
「あっ!そうそう。春菜さ、この連休って暇?」
「え?ゴールデンウィーク?まぁ暇だけど・・・何?」
「旅行行かない?」
「旅行?」
「そ!親戚がやってるペンションが蓼科にあるんだ。直前で部屋に空きができたって電話がきてさ、親に勉強しに行くって言ったらOKでたんだ。3泊4日で行こうよ!」
「う~ん・・・どうしよう。家のこともあるし。」
「家の事って・・・秋緒のこと?」
「うん。ほとんど仕事だとか言ってたから・・・。」
「だったらいいじゃない!秋緒も高校生なんだからさ、一人でできるって!」
「そうだけど・・・。」
「もう!春菜が甘やかすから秋緒は何もしないんじゃない!たまにはさせなさい!」
「う・・・。」
「唸ってもダメ!それに春菜がいない方がお互いに助かることあると思うよ?」
「え?」
意味ありげに笑みを浮かべながら優香は春菜を見据えた。
「ま、いいじゃない!よし!そうと決まったら秋緒に連絡ね。」
そう言って自分の携帯を取り出すと、ピピピっとボタンを押し電話を掛けている。
はぁ・・・優香の勢いってすごい・・・
優香が電話をかけてる間、春菜は窓の外に視線を向けていた。相変わらずの雨模様。
明日も降るのかなぁ・・・。
そんなことをぼぅーっと考えてると、少し見え難い水滴のついた窓の先に見知った姿を発見した。ちょうど電話を切った優香が私の視線に気付き、同じ方向へと視線を流す。
「あれ・・・正臣じゃん。」
優香の声が聞こえたかのように相手も私達の存在に気付く。実際は、店の中と外だから聞こえるはずもないのだが。雨を跳ね飛ばしながら、店の中へと入ってきた。
「よぉー。何してんだ?連休だってのにお二人揃って。」
「あんたこそ、なんでわざわざここまで来るのよ。邪魔しないでよね。」
「相変わらずだな。」
そう言いながら優香の隣りに腰掛ける。
「なんで一緒に座らなきゃいけないのよ!他の席に着きなさいよ!」
そう言って正臣を突っぱねる。
「お!じゃあ春菜の隣りでもいいわけね。」
そう言って正臣は立ち上がろうとすると慌てて優香が引っ張り強制的に横に座ることになった。
「あんたが春菜に近づくなんて私が許さない。」
「はいはい。で?ここで優雅にお茶か?」
正臣は春菜へと視線を投げかけ、にこりと微笑む。
「優香が旅行に誘ってくれてたの。蓼科の・・・」
「春菜、言わなくてもいいわよ、こんな奴に!」
優香が春菜の言葉を遮り、正臣をじろっと睨む。
「へぇ。旅行か・・・そりゃいいな。俺も行こっかなぁ。」
「はぁ!?なんであんたがっ!」
「人数多い方が楽しいでしょ、旅行ってさ。よし!俺も行く!決めた。」
そう言って正臣は手をポンと叩く。
「ちょっと!何考えてんのよ!だいたい誰があんたを連れてくなんて言った!?私は春菜と二人で行くの!」
「いいじゃん。荷物くらい持ってやるしさ。それに女だけだと危ないだろ?」
「結構です!女だけの方が安全だわ。あんたが来る方が危ない。」
「うわぁ、きっつー。春菜、俺が行っちゃダメかな?」
「え・・・」
二人のやり取りを何気なく聞いていた春菜は突然話を振られ戸惑っていた。
「わ、私はどちらでも・・・だけど泊まる所とかの問題もあるし、優香じゃないと・・・」
そう言ってチラッと優香の方へ目を向け、助けを求めた。優香もそれには満足したらしく、ふふんっと鼻で笑いながら正臣を見据える。
「そうなのよねー。あいにく泊まる所は私の親戚のペンションだし、空き部屋はないと思うわ。残念ね~」
「ふ~ん・・・もし空き部屋があったらOKなわけだ。じゃ、電話して聞こうぜ。空いてるかどうか。」
「冗談。私がなんであんたの為に聞かなきゃいけないわけ?有り得ないわ」
優香の機嫌がまた悪くなっていることに春菜が気づいた。
どうしてこの二人は・・・。
溜息がでてしまう。仲良くして欲しいのに、いつもケンカばかり。何か切っ掛けがあれば、仲良くなるのかなぁ・・・
そうだ!この旅行で仲良くできないかな?
優香は嫌がるだろうけど、二人の為を思えば。
「優香・・・とりあえず電話だけでもしてみたらどうかな?それでダメだったら正臣君も諦めるだろうし。」
「そうそう、春菜はやっぱり優しいな。」
「春菜まで・・・もう!わかったわよ!かければいいんでしょ?ただし!空きがあったってちゃんとあんたは料金払うんだからね!」
「マジかよー!ま、それはしょーがないか」
「当たり前でしょ!春菜はともかく本来あんたは必要ないんだから!」
半ばヤケクソになった優香が再び携帯を取り出す。
その間、春菜と正臣は久しぶりの会話をしていた。
「正臣君、旅行はいいけど、部活は大丈夫なの?」
「ん?あぁ、大丈夫。それよりさ、1個聞きたいことがあったんだよね。」
「聞きたい事?」
「そ。大した事じゃないんだけどさ・・・」
そう言いながらも正臣が言葉を濁し言い難そうに眼を逸らす。いつもの正臣らしくなく春菜は不思議に思う。そしてようやく口を開きかけた時に、優香が電話を終え携帯をポンっとテーブルに荒々しく投げた。
「最悪・・・」
そう呟きテーブルに肘をつきそれに顔の乗せて膨れている。
優香にとって最悪ということは・・・空きがあったということだ。
優香のいい所は、口ではいろいろ言うが嘘をつけない素直なところだ。相手の声が聞こえないのだから、うまく空きがないと誤魔化せただろうに・・・。
「お!空きがあったんだな?ラッキー、じゃ明日よろしくぅ!ついでに格安料金で頼むな!」
正臣のテンションが一気に上がり、携帯で誰かに電話を掛けていた。その横には、どす黒いオーラを放つ優香がいた。
「ゆ、優香?他にも誰か、呼ぶ?空き部屋があれば、の話だけど・・・」
そう言うと優香が徐に顔を上げ、その表情に怪しい輝きを灯していた。
「ふっ・・・そうよ、それよ!春菜、サイコー!今ね、聞いたら全部で3部屋空きがあるんだって。直前だし食料調達の関係でもう予約は入れないって言ってたからさ、あと数人は呼べるってことよ!私と春菜で一部屋でしょ?あと2人は大丈夫!意地でも誰か捕まえてやるわ!」
打倒正臣!に燃える優香に圧倒されながらも機嫌が少しよくなったことに胸を撫で下ろした。
そう言えば、正臣君の話が途中だった・・・
目の前で携帯を片手に話す正臣に視線を向けた。
なんだったんだろう・・・途中まで聞かされてオアズケなんて余計に気になるんだけど。
正臣が電話を切り終わりと、早速集合場所や時間などを決めていく。
「とりあえず梅見丘駅に朝8時集合。それから向こうには勉強で行くってことになってるからしっかりと教材を持ってきて。あと3泊分の着替えとか各自で考えて用意してくるってことで。あっそうだ、正臣!あんた、誰か男連れてくる?あんたの部屋にもう1人泊まれるけど。」
やけにあっさりと正臣の参加に同意した優香を怪訝そうに見ながらも、敢えて機嫌を損ねない為に口を挟まない。
「なるほど。どなたか希望はありますか?ご要望にお答えしますが?」
わざと丁寧な口調で優香に聞き返した。
「希望?そうねぇ~、女に興味のない男がいいわねぇ。」
「は?そんな奴、知り合いにいないって。」
「ご要望にお答えするんじゃなかったの?」
ふふん、っと鼻で笑い、優香は正臣に言い返した。
「おまえも変わった趣味だなぁ。まぁそういう奴じゃないとおまえ、相手にしてもらえないわけだ・・・納得。」
1人で頷き納得していた。
「それどういう意味かしら?正臣君。返事によっては明日、置いてくからね。」
「冗談だって。それに元はと言えばおまえが茶化すからだろ?」
「茶化してなんかないわよ。春菜に変な虫が付かない様に気を配ってるの。3泊も一緒にいるんだし、変な気を起こされても困るじゃない。」
「ま、そりゃそうだ。ライバルは少ない方がいいな。」
「ライバル?」
「そ、俺のね。」
「・・・・・・」
優香は頭を抱え、言葉も出なかった。一方、正臣は満面の笑みだ。
「おまえ、好きな奴とかいないの?」
突然、正臣が優香に聞いてくる。
「あんたに関係ない」
「まぁ確かに俺には関係ないけどさ。もし好きな奴いるんならソイツを誘ってやろうかと思ったんだけど。」
「結構よ、そんなお膳立てなんて。それにあんたの魂胆わかってるんだから。」
「魂胆?」
「そ、私とソイツをくっつけてその間に春菜に近づこうとしてるんでしょ?バレバレよ」
「おぉ、なるほど!そういう事も出来るわけか・・・。おまえってすごいよな。短時間でよくそこまで考えられるな。俺、尊敬したわ、今」
「あんたに尊敬されても・・・ってマジで考えてなかったの?」
優香は僅かに驚いていた。そんな優香の表情を見て、正臣は眉間に皺を寄せる。
「あ?あぁ、当たり前だ。そんなに計算高く生きれない性分なんでね!」
どうやら本当のようだ。ぶすっとした顔のまま、正臣はぷいっと横を向いた。
「・・・へぇ~・・・」
優香は正臣の態度に感心しつつ、何かを考え始めた。
「とりあえず誰か適当に1人連れてくから心配すんな。」
「はいはい。わかりました。」
優香はにっこりと微笑んで言った。
「なんだか楽しくなりそう、ふふふ」
明らかに怪しい・・・。
だけど触れない方は無難だと思う。
なんだか怖い旅行になりそう・・・。



明日の準備がある、と言って二人は帰っていった。
春菜も店の前で二人と別れると家の方角へと体の向きを変えた。雨は先程よりも幾分か和らいではいたがそれでも傘がなければずぶ濡れとなるだろう。
秋緒は、午後は仕事でその後デートって言ってたから・・・夕食は私一人分でいいのか。
トボトボと家に向かって歩きながら、夕食のことを考えていた。だから突然、曲がり角から出てきた人間に気付かず、ぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
謝りながらちらっと相手を見ると、祐介がそこにはいた。
「あ・・・」
視線が合い、慌てて俯いた。すると、祐介の横で女性の声が聞こえた。
「祐介、誰?知り合い?」
その声の方に自然と目が移動した。
大学生?社会人?
とにかく年上だということはわかった。身に付けているものや仕草などが大人っぽく、春菜は自分と比べて明らかにレベルが違っていた。二人は一つの傘に入り密着した体がいかにもカップルという関係に見せている。
「いや、知らねぇ。行こう」
そう言って祐介は彼女の腕を取り、相傘でそのまま通り過ぎていく。
ショックだった。
『知らない』その一言が。
たった一言の言葉なのに・・・重みがこんなにもあるなんて・・・。
居た堪れなくなり、傘を持っていることも忘れるかのように走り去った。祐介にとっては、私は無に等しい存在。胸中に漂うモヤモヤが体全体に広がっていく。
私の存在って何なんだろう。
未だに回復しない病状。周りの人間と距離を置くことでしか安心できない自分。
私が生きてる意味はあるの?誰か教えてよ。
春菜の目に映る風景は未だに灰色の世界だった。



待ち合わせの場所に予定より早めに着いた春菜は近くのベンチへと腰掛け本を手に1人で読み耽っていた。
よかった、今日は天気が良くて・・・。
昨日の天気はどこへいったのか、今日は晴天に恵まれた。ふと目を追っていた本の表面に影が落とされた。見上げるとそこには正臣がにこっと微笑んで立っていた。
「春菜、早いなぁ。」
「あ、おはよう正臣君。そんなに早くないよ。それに私、家が近いし。」
正臣は春菜の横に並ぶように座ると、辺りを見回した。
「今日はさすがに人が少ないよな。」
「うん、連休2日目だしね。皆、どこかに出掛けてるんだよ」
「ま、時間も時間だしな。こんな朝早くから行動する奴なんてそんなにいないか。」
両手を頭の後ろで組み、足も無造作に組みながら正臣は空を見上げた。
正臣君、やっぱりかっこいいな。
皆にモテるのもわかる気がする。明るめの茶色い髪でちょっと癖毛な感じも正臣らしい。鼻筋もすっきりとしてるし、何より瞳が大きくて印象的。本当に精悍な顔のつくりだった。
足も長い・・・自分と比べると歴然で空しくなるけど。
「・・・な、春菜_?」
名前を呼ばれて我に返ると、正臣の顔がドアップで視界に入ってきた。
「ひゃっ!」
正臣の顔があまりにも近く、春菜はビクッと体を震わせ、驚いた。それを見た正臣は、くくっと笑った。
「春菜、何考えてたの?何度呼んでも心ここにあらず、って感じだったし。」
そんなに名前を呼んでたの?
気付かなかった。
「え・・・あ、ごめんね。ぼーっとしてた。」
まさか正臣君の顔に見惚れてたなんて言えない。正臣は正面を向き、まだ笑っている。
「なんだ、残念。俺の方をじーっと見てたからてっきり俺に見惚れてたのかと思った」
どきっ!
図星です・・・
とも言えない。
「ご、ごめんなさい。そんなに見てたつもりはないんだけど・・・。」
「なんか謝られると傷つくな。なんだか俺は対象外だ、みたいに言われてる気がする。」
「対象外?」
「うん、春菜にとって俺は彼・・・。」
「対象外よ!明らかに!!」
正臣の言葉を断ち切るようにいきなり頭上から声が降ってきた。見上げるとそこには眉をキッと逆ハの字型に吊り上げ怒りを顕にした優香が仁王立ちしていた。
「優香!おはよう!」
「なんだよ、邪魔すんなよ。」
会話を邪魔された正臣も途端に目を細め、優香を見上げる。
「邪魔なのはどっちよ。あんたは他の子の相手をしとけばいいの!」
そう言って、優香は親指を後ろへと向けた。その方向へ目を向けると、離れたところからこちらに歩いてくる女の子が二人。
あれって・・・
「恭子と未久、呼んどいたの。」
そう言って優香は意味ありげな笑みを浮かべ、正臣を見下ろす。同じクラスの子だった。橋本恭子と小倉未久は、笑顔で手を振りながらやってきた。
「おはようっ、高橋君!」
「やっほ~、高橋君!」
二人共、正臣しか眼中にないようだ。
「はよ~・・・」
正臣はとりあえず、という感じで挨拶を交わす。しかしその後、優香をキッと一睨し聞こえないようにチッと舌打ちした。一方優香はそんな正臣の視線を気にすることもなく、二人に話し掛ける。
「ごめんね二人とも。いきなり誘っちゃって!」
「ううん!私達、すごく楽しみなんだ。ね?」
「そうそう!だって高橋君と旅行でしょ?ホントに楽しみ!」
二人はそう言って、互いに微笑み合い、喜んでいた。そんな二人を満足そうに見ていた優香が付け足す。
「お二人さん。高橋君“達”って言ってよね。一応私達もいるんだから。」
「私達?」
そう言われて、恭子たちは初めて優香ともう一人いることに気が付いたようだ。
二人の視線が同時に春菜へと突き刺さる。
「あ・・・五十嵐さん・・・。」
「五十嵐さんも一緒なんだ・・・おはよう。」
二人の声のトーンが明らかに下がっていた。
「うん、おはよう。」
春菜は気にせず、恭子達を見つめた。5人の間に微妙な雰囲気が流れ、春菜はそれが自分のせいだと感じていた。視線を下げ自分の足元を見ながらやっぱり来なきゃよかったと後悔していた。そんな春菜の考えを察したのか、口を開いたのは正臣だった。
「春菜、喉渇かない?買いに行こうぜ?」
「え?あ、うん。そうだね、着くまで結構時間かかるんだよね」
正臣が立ち上がり、それに続いて春菜が立ち上がった。すると恭子と未久が正臣の両脇を固め、一緒に歩き出した。
「私達も買いに行く!」
「一緒に行こうよ、高橋君」
「お、おい・・・」
二人に押されていた正臣は、春菜を振り返った。すると優香が春菜の腕を取り、3人を見送る。
「正臣、買ってきてよ私達の分も。お茶でいいいから。じゃ、頼んだわよ!」
春菜も優香と一緒に3人を見送る。それを見た正臣は表情を一瞬暗くし、そのまま前を向いて店へと入っていった。
「優香、ごめんね。やっぱり私、来ない方が・・・」
よかった、と言いたかったが最後まで優香が言わせなかった。
「春菜!私は春菜がいないと嫌なの。本当は二人だけで行く予定だったんだから。それに私こそごめん。考えなさ過ぎだった。あの子達呼んだのもただ単に正臣と春菜を引き離すだけの為だったんだもん。そのせいで春菜に嫌な思いをさせちゃった。本当にごめん。」
「そんな・・・優香は何も悪くないよ?謝らないで。」
「・・・うん。わかった。春菜、私はいつでも春菜の味方だからね。それを忘れないで。」
「ありがとう。」
「はぁ、それにしても・・・正臣って・・・。」
軽く息を吐きながら優香が呟いた。
「正臣君がどうかしたの?」
「ん?あぁ、あいつも意外と一途なんだなぁと思って。」
正臣の入っていった店の方を眺めながら、優香が考え深げに言った。
「珍しいね、優香が正臣君をそんな風に言うなんて。」
春菜は何気なしに言ったのが間違いだった。優香の眉がピクっと反応し、その後、人を瞬時に黙らせる眼力が春菜を直撃した。
「なんか言った?」
う・・・怖い。
「い、いえ。」
優香の威圧感は半端じゃない。優香の恐怖に慄いていると、後ろで声が聞こえた。
「あれ?河本と・・・五十嵐さん?」
名前を呼ばれ、優香と春菜が振り向くとそこにはクラスメートの石舘 康平が立っていた。
康平は正臣と同じバスケ部で背が高い。
近くにくるとまさに見上げる、という状態になる。
「石舘じゃん、何やってんの?こんなところで・・・」
「それはお互い様だろ。」
そう言って康平は爽やかに微笑んだ。ちょうどその時、正臣達が戻ってきた。
「おぉ、来たな。待ってたんだぜ、康平。」
「きゃー。石舘君!」
「石舘君だ!!え?何?石舘君も!?」
3人が同時に話し出す。話し掛けられた康平は慌てる風もなく淡々と答える。
「昨日、正臣から旅行に誘われたんだ。それにしてもまさか皆も一緒だとは思わなかったよ」
なるほど・・・
春菜は納得した。正臣と康平は同じバスケ部でしかも同じクラス。仲良くなるのに時間はかからなかった。2人並ぶとそれだけで目立つ。目立っているだけあって、春菜でさえ二人がよくつるんでいることを知っていた。しかもタイプの違う二人だからなおさらだ。正臣に比べてやけに落ち着いている康平。慌てることを知らないんじゃないかというくらい、いつも穏やかな時間が康平の周りに流れている。
と、そんな中1人だけ表情が変わった。紛れもなく優香だった。
「やられた・・・」
優香はぼそっと呟き、忌々しく正臣を睨んでいる。
な、なんなんでしょうか、優香さん。
優香と春菜を余所に残りの人間は話が盛り上がっていた。
「え?ほんと?一緒に行けるんだ!やったぁ!」
「マジ?すごーい!嬉しい!高橋君と石舘君が来てくれるなんて!」
「正臣。もっと早く誘えよなー。いきなり前日の夕方に誘うか、普通。」
「まぁいいじゃないか、康平。おまえも暇だったんだろ?」
「暇なわけないだろ。連休中は部活に集中する予定だったんだからな。っておまえもだろ・・・」
「俺は部活より大事なものを選んだんだよ。」
「意味がわからん。」
「えー、なんの話?教えてよぉ~。」
「ずるーい。私も混ぜてぇ。」
賑やかだな・・・。
そんなことを考えてると突然、優香が彼らの間に割って入った。
「あぁ!!!もうっ!!話は電車の中でして!とにかく行くよ!」
話がなかなか終わらない事に優香がキレたらしい。あまりの剣幕に4人は固まった。優香はそのまま荷物を持ち、他のメンバーを置き去りにして春菜を従え改札に向かった。
「ゆ、優香。落ち着いて・・・。」
「私は十分落ち着いてるわよ!」
いや、全く落ち着いてないです・・・
それどころか、噴火して煙が見えます。
「でも正臣も考えたわね。さすが、と言うか・・・。」
「え?」
さっきから優香の話す意図が見えない。すると優香が振り向き、春菜を見ながら話し出した。
「石舘君のことよ。まさか彼を誘うとは思わなかった。計算外だわ。」
「石舘君がどうかしたの?」
「ん?あぁ、春菜は気にしないで私の隣にいればいいの。それよりさ・・・二人だけで話があるんだ。あとで付き合って。」
「あ、うん。いいよ。」
なんだろう、優香が『話がある』なんて珍しい・・・。
各して6人は、切符を購入し、ホームへと駆け上がった。


 





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:54,160pt お気に入り:6,795

あなたに愛や恋は求めません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:109,767pt お気に入り:8,827

異世界転生~チート魔法でスローライフ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,157pt お気に入り:1,833

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:77,574pt お気に入り:646

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49,424pt お気に入り:4,903

似て非なる双子の結婚

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:72,392pt お気に入り:4,227

転生不憫令嬢は自重しない~愛を知らない令嬢の異世界生活

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:51,272pt お気に入り:1,774

処理中です...