祓屋探偵・御影夜一と憑かれた助手

水縞しま

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第二章 不幸が続く家

記憶 

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 深夜になっても雨は止まず、シトシトという雨音が部屋の中に響く。

「雨、止まへんな……」

 横になった夜一が、ぽつりと言った。

「まだ、起きてたのか」

「うん。灼くんもやろ? 枕が変わったら、寝られへんもんな?」

 茶化すように夜一が言う。

「うるせぇ」

 普段は粗暴を絵に描いたような灼だが、繊細な部分もある。夜一が指摘した通り、枕が変わると寝付けないのだ。

「朝になったら、晴れとるかな?」

「そうだと良いけどな。雨の中、あの酷道を運転するのは面倒くせぇから」

 いい加減、眠りたい。灼は祈るように目を閉じた。





 目が覚めると、どういうわけか灼は、あの的形の屋敷にいた。

 一瞬、訳が分からなかった。間違いなく、自分は民宿にいたはずだ。

 それなのに、どうして……。

 ふいに、足音が聞こえた。振り返ると数人の男女がいた。皆、着物を纏っている。その中の一人、中年の女が灼を見て眉を潜める。

「カヤ、そんなところで何をしてるん!」

 甲高い声だった。

 女が睨みながら、こちらに向かってくる。

「母屋には来たらあかんって、いつも言うてますやろ。あんたの家はね、あの蔵なんよ。分かる?」

 女が、土蔵を指さす。

「嬉しいやろ? もともと住んでた家より、あの蔵のほうがよっぽど立派なんやから」

 女の口元は、ひどく歪んでいる。なんて醜い顔だろうと思う。

 仕方なく蔵に戻り、手毬をつく。

 手毬には、わずかに泥が付着している。何度も拭ったが、なかなか綺麗にはならない。泥を見る度に、耳の奥に轟音が響く。嫌な音だ。

 濁流が、全てを飲み込んでしまった。

 父と母の墓。それから生家。的形の屋敷と比べると、みすぼらしい家だったけれど、自分にとっては大切な家だった。

 唯一、手元に残ったのが手毬だった。

 母から教わった手毬唄を歌う。

 こんな歌だったろうか。あの頃よりも、ずいぶん物悲しいメロディーが耳に届く。

 ……寂しい。

 最近、毎日のように思う。

 ここには、自分を気遣ってくれる者はいない。優しい言葉をかけてもらうこともない。

 寂しい。心細い。

 自分はずっと、ひとりぼっちだ。

 ……誰も、おらへんの?

 ひとりで手毬をつくのは、飽きてしまった。誰か、誰か。一緒に遊びたい。名前を呼んで欲しい。寂しい。心細い。誰か……。





「灼くん」

 体を揺すられて、灼は目が覚めた。

「夜一、か……?」

「うん」

 暗闇の中に、ぼんやりと夜一の顔が浮かんでいる。心配そうに、灼をのぞき込んでいる。  

「大丈夫? うなされてたけど」

「平気だ」

 ……あれは、夢だったのか。

 それにしては、ずいぶんリアルだった。全身が気持ち悪い。汗でぐっしょりだ。

 目を閉じたが、それから眠ることはできなかった。朝になっても、雨は降り続いていた。

「雨の勢い、昨日より増してるなぁ」

 夜一が、窓の外の曇天を眺めて言った。民宿のすぐそばを流れる川も、昨夜より増水しているようだ。

「今日は、行動できひんな……。あの集落の辺りは地盤が緩いらしいから、また土砂崩れでも起こったら大変やし」

「ツイてねぇな」

 布団から体を起こし、灼は舌打ちをした。

 不機嫌な灼とは反対に、夜一は楽しそうだ。上機嫌で茶を淹れ始める。

「おれも一緒に遊べたらなぁ」

 昨日に引き続き、寧々とカヤは一緒に遊んでいる。なんでも、カヤに手毬唄を教えてもらい、寧々も一緒に歌っているというのだ。

「……お前、良い年して手毬なんかで遊びたいのか?」

 小馬鹿にしたように言うと、夜一が憐れんだような目で灼を見た。

「灼くん。寧々ちゃんの歌が聞かれへんからって、おれに嫉妬せんといてよ」

「はぁ!?」

 見当違いも良いところだ。なぜ、夜一なんぞに嫉妬しなければいけないのか。まぁ、多少は寧々の手毬唄が聞けたらいいかも、とは思うのだが……。

「はぁーーい、お茶ですよ~~!」

 声を聞いて、二人のいる場所を正確に掴んでいる。夜一は寧々とカヤの近くに湯呑を置いた。

 手毬で遊ぶのを中断して、二人は仲良く茶を飲み始めた。こうして並んでいるのを見ると、友だちのようであり、姉妹のようでもある。

「寂しくは、なさそうだな……」

「え? 灼くん、何か言うた?」

 ズズ~~! と茶をすすりながら、夜一が灼のほうを見る。

「いや。別に」

「灼くんの分もあるで?」

「あぁ」

 柔らかく湯気の立つ湯呑に、灼は手を伸ばした。
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