祓屋探偵・御影夜一と憑かれた助手

水縞しま

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第三章 溺れる部屋

愛すること

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 自分たちが第一発見者だと名乗ると、二人は肩を震わせた。

 堪えきれなくなったのだろう。彼女……谷上結花の母親は、両手で顔を覆った。隣にいる父親が、寄り添うように体を支える。

「娘のことを見つけてくださって、ありがとうございます……」

 母親が、嗚咽まじりの声で言った。

「僕も妻も、まだ……受け止めきれていないんです」

 父親の声も震えている。

「……あの子が、病気だったことも知らなくて。不甲斐ない親です、僕たちは」 

「余命宣告までされて、怖かったと思うんです。不安だったろうに。それでも、私たちには言ってくれなかった。とても大事で、慈しんで、愛してきたつもりだったけれど。でも、きっと間違っていたんでしょうね。苦しめていたんだと思います。家を出てから、連絡もほとんどなくて。最後まで、私たちには何も言ってくれなかった」

 涙に暮れる両親を見て、灼は「届いていないんですか」と訊いた。

「彼女からの最後のメッセージ。たった一言だけど、貴方たちに送信したはずです」

 父親には『わたしは大丈夫です』、母親には『どこかで生きています』。自分の気持ちを伝えるのが下手な彼女なりの、精一杯の言葉だった。

「愛し方とか、伝え方は、ひとそれぞれなんやと思いますよ」

 隣にいる夜一が、穏やかな声で言った。 

「愛しとったから、悲しませたくなかったから、お嬢さんはそうしたんやと思います。そうでないと、あんな真っ暗で……。さみしいところで、死んだりなんかしません」

 静かに、けれど強く夜一は言い切った。彼の言葉通りだ。愛していたこと。視えた者として、灼はそのことを二人に伝えたかったのだ。

 彼女の両親が、少しでも救われたら良いと思う。いつか、穏やかな気持ちで手を合わせることができたら……。

 彼女もきっと、そう願っているに違いない。

 灼の中に、かすかに残っていたはずの谷上結花の意識は、もうどこにも存在しなかった。ようやく、灼は自分の気持ちに折り合いをつけることができた。





 神戸へ帰る日。青倉は、駅まで見送りにやって来た。

「午前休を取ってやりましたよ」

 青倉は、ちょっと誇らしげだ。

 週末なので、たとえ半休でも取得は難しかっただろうと推測する。なにしろブラックな社風なので。脱社畜への第一歩かもしれないと、灼は安堵した。

「ところで、夜一さんは……?」

 青倉が、きょろきょろと周囲を見回す。

「コンビニに行ってる」

 菓子類や酒のつまみを大量に仕入れているのだ。

「夜一の持論だと、新幹線の車内で食うと美味さが倍増するらしい」

 どこで食べても同じだと灼は思うのだが。

「なんか、遠足みたいっすね」

 青倉が苦笑いしている。

 しばらくすると、両手にレジ袋を提げた夜一が駆けてきた。

「いっぱい買ったで~~!」

 満面の笑みだった。

 青倉を見つけた夜一は、「ちょうど良かった!」と声を弾ませる。

「渡したいものがあってん」

 そう言って、レジ袋を灼に押し付ける。

「これ!」

 ボディバックから夜一が取り出したのは、御守りだった。灼が真心を込めて制作したものだ。

「青倉さんは、家系的に引き寄せやすいねん」

「え、そうなんですか? もしかして、あのシェアハウスに住むことになったのも……?」

 青倉が心配そうな顔で、夜一と御守りを交互に見る。

 そういえば、青倉の親戚が夜一の世話になり、そこからの付き合いだったことを思い出した。

「次に住むところは、八家不動産の紹介やから問題はないけど。それでも職場とか、外出先とか、色々と心配やから。この御守りを肌身離さず持ってて欲しいねん」

「分かりました」

 青倉が、神妙な顔でうなずく。

「灼くんのお手製やで」

 にひひ、と夜一が笑う。

「これが? へぇーー! 灼さんって、器用なんですね」

 青倉が感心したように、裏と表を何度もひっくり返して見ている。

「うるせぇ」

 バカにされている気がしないでもない。押し付けられたレジ袋を夜一に渡しながら、灼は舌打ちをした。

 しかし冷静に考えてみると、御守りが初めてしかるべき人間の手に渡ったことになる。これまでは「気のせい」な人々の気休め程度にしかなっていなかった。まぁ、気休めになるなら、それはそれで良いのかもしれないが。
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