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8.料理苦手女子が作るたまご雑炊
温かい栄養
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まだまだ仕事が終わらない実久に挨拶をして会社を出る。
先に買い物を済ませてから駅に向かうことにした。郡司のマンションの最寄り駅にもスーパーはあるけれど、高級志向がウリの店なのだ。
残念ながら庶民の私とは水が合わない。卵は200円台で買いたい。本心では、ギリ100円代を希望している。
心安らかに商品をカゴに放り込めるスーパーで、ゼリーや果物、レンジでチンするだけのご飯、その他にも栄養になりそうなものを購入する。
買物袋をわしゃわしゃと両手に持ち、電車に乗り込む。
すっかり夜になってしまった。車窓に顔を近づけると、明かりの灯った家々が風景として流れていく。他人の家から出勤して、またその家に帰る。不思議な感じだな、と思いながら、私はしばらく夜の景色を眺めていた。
◇
『ごはんできたよ! 冷蔵庫にグレープフルーツ冷やしてるから。食べやすいように、包丁で皮は剥いてあるから』
郡司にメッセージを送ってから、わたあめと夜の散歩へ行く準備をする。
『たべる。ありがとう』
郡司は、昨日から何も食べていなかったらしい。
食料の調達係として来たつもりだったけれど、乗りかかった船とばかりに腕まくりをした。レンジでチンするご飯は買っていたので、雑炊を作ることにした。
卵も入れるので栄養はバッチリ。
他人様、しかも病人に食べさせるのだから責任重大だ。慎重にレシピ検索をして、手洗い&消毒をしっかりと行ってから調理を開始した。
まずは、ボウルに卵を割り入れる。ガサツな上に不器用な私にしてはめずらしく、きれいに割ることができた。殻が混入することもなかった。
菜箸でしっかりと溶きほぐしておく。
土鍋を用意して水を入れ火にかける。白だし、しょうゆ、みりんを加え沸騰させる。 便利な白米をレンジでチンして、熱々ごはんができたら土鍋に入れ加熱する。
弱火にしてコトコト煮込み、ごはんが柔らかくなったら中火にする。ここで火力を上げるのは、卵をふわふわにするためだ(レシピにそう書いてあった)。
ふつふつと沸いてきたのを確認してから、溶きほぐした卵を回し入れる。全体をやさしく混ぜ、卵に火が入れば完成。卵はふわふわ、ごはんはトロトロ。消化にも良さそうな雑炊の出来上がりだ。
じゅうぶん過ぎるくらいに味見をしてから、郡司に出来上がった旨のメッセージを送ったのだった。
「今頃、ちゃんと食べてるかな……」
わたあめと一緒に、元気に夜の道を歩きながら、部屋にいる郡司のことを想像する。よくよく考えてみれば、病人で味覚が鈍っているであろう郡司なので、何度も味見をする必要はなかったなと気づいた。
食べ過ぎて、ちょっとお腹が膨れている。多めに作っておいてよかった。
「ちょうど夜ごはんになったし、一石二鳥でよかったかなーー!」
テッ、テッ、テッ、と私の前を歩くアフロ犬が、ぐりんっと振り返った。
歩みを止めることなく、しかし頻繁に私を見上げてくる。何か意思を感じる顔だ。何だろう……?
「あ、もしかして。さっきの『夜ごはん』に反応したのかな?」
わたあめが、ぐりりーーんと歩きながら一回転する。「そうだよ!」と全身で訴えている。さすがは食いしん坊犬。「ごはん」のワードに敏感だ。
それにしても、外灯で足元が照らされているとはいえ、回転しながら歩くなんて、かなり器用なわんこだと思う。
「わたあめちゃんは、そんな技も持ってたんでちゅねーー! エライでしゅねーー!」
外灯に照らされ、ぐりりんと回転しながら歩く白い毛玉。それを追いかける怪しい口調の人間。一人と一匹の夜さんぽは、もうしばらく続いた。
先に買い物を済ませてから駅に向かうことにした。郡司のマンションの最寄り駅にもスーパーはあるけれど、高級志向がウリの店なのだ。
残念ながら庶民の私とは水が合わない。卵は200円台で買いたい。本心では、ギリ100円代を希望している。
心安らかに商品をカゴに放り込めるスーパーで、ゼリーや果物、レンジでチンするだけのご飯、その他にも栄養になりそうなものを購入する。
買物袋をわしゃわしゃと両手に持ち、電車に乗り込む。
すっかり夜になってしまった。車窓に顔を近づけると、明かりの灯った家々が風景として流れていく。他人の家から出勤して、またその家に帰る。不思議な感じだな、と思いながら、私はしばらく夜の景色を眺めていた。
◇
『ごはんできたよ! 冷蔵庫にグレープフルーツ冷やしてるから。食べやすいように、包丁で皮は剥いてあるから』
郡司にメッセージを送ってから、わたあめと夜の散歩へ行く準備をする。
『たべる。ありがとう』
郡司は、昨日から何も食べていなかったらしい。
食料の調達係として来たつもりだったけれど、乗りかかった船とばかりに腕まくりをした。レンジでチンするご飯は買っていたので、雑炊を作ることにした。
卵も入れるので栄養はバッチリ。
他人様、しかも病人に食べさせるのだから責任重大だ。慎重にレシピ検索をして、手洗い&消毒をしっかりと行ってから調理を開始した。
まずは、ボウルに卵を割り入れる。ガサツな上に不器用な私にしてはめずらしく、きれいに割ることができた。殻が混入することもなかった。
菜箸でしっかりと溶きほぐしておく。
土鍋を用意して水を入れ火にかける。白だし、しょうゆ、みりんを加え沸騰させる。 便利な白米をレンジでチンして、熱々ごはんができたら土鍋に入れ加熱する。
弱火にしてコトコト煮込み、ごはんが柔らかくなったら中火にする。ここで火力を上げるのは、卵をふわふわにするためだ(レシピにそう書いてあった)。
ふつふつと沸いてきたのを確認してから、溶きほぐした卵を回し入れる。全体をやさしく混ぜ、卵に火が入れば完成。卵はふわふわ、ごはんはトロトロ。消化にも良さそうな雑炊の出来上がりだ。
じゅうぶん過ぎるくらいに味見をしてから、郡司に出来上がった旨のメッセージを送ったのだった。
「今頃、ちゃんと食べてるかな……」
わたあめと一緒に、元気に夜の道を歩きながら、部屋にいる郡司のことを想像する。よくよく考えてみれば、病人で味覚が鈍っているであろう郡司なので、何度も味見をする必要はなかったなと気づいた。
食べ過ぎて、ちょっとお腹が膨れている。多めに作っておいてよかった。
「ちょうど夜ごはんになったし、一石二鳥でよかったかなーー!」
テッ、テッ、テッ、と私の前を歩くアフロ犬が、ぐりんっと振り返った。
歩みを止めることなく、しかし頻繁に私を見上げてくる。何か意思を感じる顔だ。何だろう……?
「あ、もしかして。さっきの『夜ごはん』に反応したのかな?」
わたあめが、ぐりりーーんと歩きながら一回転する。「そうだよ!」と全身で訴えている。さすがは食いしん坊犬。「ごはん」のワードに敏感だ。
それにしても、外灯で足元が照らされているとはいえ、回転しながら歩くなんて、かなり器用なわんこだと思う。
「わたあめちゃんは、そんな技も持ってたんでちゅねーー! エライでしゅねーー!」
外灯に照らされ、ぐりりんと回転しながら歩く白い毛玉。それを追いかける怪しい口調の人間。一人と一匹の夜さんぽは、もうしばらく続いた。
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