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2章 学園生活

2 貧乏娘、ばっちりいじめられていた

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 アーロンは、登校初日からここまで、毎日マリアベルと共に登下校している。
 馬車の中でも、学院内で会ったときも彼女はいつもご機嫌で。
 だから、貴族なのに学費免除の特待、ご令嬢としての教育もあまり受けていない、というやや特殊な子でも、いじめられたりはしていないのだろうと判断していた。
 しかし――!

「あら、マリアベルさん。ごきげんよう。今日もアーロン様に送っていただいたんですって? 婚約者ですらない殿方にそんなことをさせて、貴族の娘として恥ずかしくないのかしら?」

 席につき、ホームルームまで教科書を読んで過ごそうとしていたマリアベルに、こんな言葉が降りかかる。
 マリアベルの傍らに仁王立ちする彼女は、腰まで届く栗色の髪をふわりとなびかせて、ふふんとマリアベルを見下ろした。
 その緑の瞳は、明らかにマリアベルを蔑んでいる。
 その後ろでは、

「馬車もないそうですから、仕方ありませんよ」
「アーロン様も、こんな子が幼馴染だなんて大変よねえ」
「いつまであの方の優しさに甘え続ける気なのかしら」
「私だったら、恥ずかしくて王立学院になんて通えませんわ」

 と、取り巻きの女子たちがくすくす笑っている。

「クラリスさんに、お友達の皆様。ごきげんよう」

 マリアベルからも挨拶を返す。
 男に甘える貧乏娘を攻撃したつもりだったのに、マリアベルがにこっと笑うものだから、クラリスと呼ばれた女子は面白くなさそうに顔を歪める。

「クラリス『さん』ねえ……。同格の家柄のおつもりなのかしら?」
「伯爵家同士ですから」

 あっけらかんとそう返せば、クラリスはマリアベルをきっと睨みつけてから、「いくわよ」と取り巻きに声をかけ、その場を立ち去った。
 といっても、同じクラスのため、離れた席に移動しただけなのだが。

 そう、特待貴族マリアベル。ばっちりいじめられていた――!

 マリアベルに絡んできたのは、伯爵家のご令嬢、クラリス・グラセス。
 爵位は同じで、どちらも由緒正しき家系だが、グラセス家は貧乏貴族ではない。
 一応、同格の家柄ではあるのだが……クラリスからすれば、貧乏娘と一緒にするな! といったところなのだろう。

 先日の魔法の実技授業では、クラリスに炎の攻撃魔法を向けられている。
 マリアベルからすれば弱弱しいものだったため、詠唱や魔法陣すらいらない水魔法で、ひょいと相殺して終わったが。
 その後のクラリスは、クラスメイトに向けて魔法を誤射したとして、教師にこっぴどく叱られていた。
 事実、相手がマリアベルでなかったら大事になっていたので、しっかり叱られ、反省すべきことである。
 以降、彼女が魔法を使ってマリアベルを狙うことはなくなったが、代わりにこうして絡んでくる。


 学園生活も2週目に入った。
 マリアベルには、まだ友達と呼べる人はいない。
 話しかけてくる男子の数はそれなりだが、女子には嫌われ気味。
 クラリスのように、アーロンにお世話をされていることや、貧乏貴族であることを指摘し、嘲笑う者も少なくはない。

「まあ、こうなるわよね……!」

 正直なところ、これくらいは想定の範囲内だったので、マリアベルはこの状況を「あはは」と笑って流した。
 それに、クラリスたちの言うことにも一理ある。
 婚約者でもない男性に、毎日毎日、送迎させているのだ。
 しかも、馬車の中では二人きり。
 貴族の娘としてどうなの? と思われることそのものは、いたしかたないだろう。
 しかし、友達が欲しいという思いは、まだ消えていない。
 始業前の教室で、ぽつんと一人孤立しながら、「お友達ができるよう、頑張ろう」と意気込んだ。
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