4 / 79
序章
降臨-4
しおりを挟む
お盆も過ぎた夏の終わりの夕刻。日差しは多少衰えても、暑さは全く弱まる気配を見せない。どこかすぐ近くでツクツクボウシが鳴いている。
デパートから帰ってきたアクアは、買い物の荷物を凛也に任せ、車から降りると、玄関へ向かった。途中、ふと立ち止まる。
玄関のすぐ手前の花壇に植えられた風船葛が目に入った。アクアは自らの手で植えた風船葛の実に手を伸ばす。実をちぎり取るつもりだったのが思い留まった。
風船葛はアクアが大好きな植物だ。花は白くて小さく目立たないが、良く見ると、美しいと思う。けれど主役は、何とも愛らしく膨らんだ親指くらいの大きさの実だ。アクアの妊娠が判明した時期に種を植えたのだが、今は支柱に戯れるように絡みつき、生い茂り、鈴生りになった実をつけている。
いつか、アクアの赤ちゃんに、風船葛の実をポンと叩いて割ってみせて、遊んでやるつもりだった。
アクアは、既に茶色く枯れた実を選んで摘み取った。手で潰すと、乾燥した皮は音を立てて粉々になり、中から三粒の種が出て来る。
種には、黒地に大きなハート型の白い模様が入っていた。とても可愛らしい外見だ。アクアは種をしばらく指先で弄んだ後、地面に落とした。
買い物袋を手に提げて、凛也がアクアの背後を通り過ぎて行った。玄関の前に立ち、引き戸を開けると、アクアを促すかのように振り返る。
アクアは凛也と共に家の中へ入ると、寝室のある二階へと階段を上がろうとした。その時、騒々しい足音と共に、キッチンから子供たちが飛び出してきた。
近所に暮らす凛也の妹、秋歩の二人の娘たちだ。七才の春菜と五才の優花。
突進するように走り寄ってきた春菜に、アクアはいきなりお腹を触られた。
「赤ちゃん、男の子? 女の子? お母さんがそろそろ分かるかも、って言ってた。あたし絶対、女の子がいいなあ」
アクアはにっこり微笑んだ。上手に微笑むことができたと思う。首を傾げて見せる。
赤ちゃんはね、カエルさんのお顔だよって言ったら、春ちゃんびっくりするかな?
「ねえ、どっちなの?」
春菜が、焦れたように問いただす。
「春菜、優花、何やってるの? スイカ、もう食べないの? 早くこっちへ来なさい!」
キッチンから同居の義母の声が届いた。
凛也が話したから、義母は事情を知っている。ただし、本当の事は打ち明けていない。二人で相談して、赤ちゃんがお腹の中で既に亡くなっている、と報告したのだ。
春菜と優花が台所に駆け戻っていく。
デパートから帰ってきたアクアは、買い物の荷物を凛也に任せ、車から降りると、玄関へ向かった。途中、ふと立ち止まる。
玄関のすぐ手前の花壇に植えられた風船葛が目に入った。アクアは自らの手で植えた風船葛の実に手を伸ばす。実をちぎり取るつもりだったのが思い留まった。
風船葛はアクアが大好きな植物だ。花は白くて小さく目立たないが、良く見ると、美しいと思う。けれど主役は、何とも愛らしく膨らんだ親指くらいの大きさの実だ。アクアの妊娠が判明した時期に種を植えたのだが、今は支柱に戯れるように絡みつき、生い茂り、鈴生りになった実をつけている。
いつか、アクアの赤ちゃんに、風船葛の実をポンと叩いて割ってみせて、遊んでやるつもりだった。
アクアは、既に茶色く枯れた実を選んで摘み取った。手で潰すと、乾燥した皮は音を立てて粉々になり、中から三粒の種が出て来る。
種には、黒地に大きなハート型の白い模様が入っていた。とても可愛らしい外見だ。アクアは種をしばらく指先で弄んだ後、地面に落とした。
買い物袋を手に提げて、凛也がアクアの背後を通り過ぎて行った。玄関の前に立ち、引き戸を開けると、アクアを促すかのように振り返る。
アクアは凛也と共に家の中へ入ると、寝室のある二階へと階段を上がろうとした。その時、騒々しい足音と共に、キッチンから子供たちが飛び出してきた。
近所に暮らす凛也の妹、秋歩の二人の娘たちだ。七才の春菜と五才の優花。
突進するように走り寄ってきた春菜に、アクアはいきなりお腹を触られた。
「赤ちゃん、男の子? 女の子? お母さんがそろそろ分かるかも、って言ってた。あたし絶対、女の子がいいなあ」
アクアはにっこり微笑んだ。上手に微笑むことができたと思う。首を傾げて見せる。
赤ちゃんはね、カエルさんのお顔だよって言ったら、春ちゃんびっくりするかな?
「ねえ、どっちなの?」
春菜が、焦れたように問いただす。
「春菜、優花、何やってるの? スイカ、もう食べないの? 早くこっちへ来なさい!」
キッチンから同居の義母の声が届いた。
凛也が話したから、義母は事情を知っている。ただし、本当の事は打ち明けていない。二人で相談して、赤ちゃんがお腹の中で既に亡くなっている、と報告したのだ。
春菜と優花が台所に駆け戻っていく。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる