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最終章 数多の未来への選択編

※※※(奏輔視点)

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ドォンッドォンッと地響きがして地面が揺れる。
砂や石が弾け飛び、地面が抉れた。
「ちっ、ちょこまかとっ」
「それはこっちのセリフやっ!」
ちょこまかと逃げ回っては、俺達の攻撃を避けて、隙あらば姫さんに近寄ろうとする。
どこまでもこいつの狙いは姫さんって事かと、呆れと怒りで攻撃の威力が増した。
「『火炎弾(ファイヤーボール)』」
RPG鉄板の魔法だ。
ちっと舌打ちしたそいつは難無く回避する。
だが回避した先には待ち構えていた大地がいて、そこからまた一撃が繰り広げられた。
ボォンッ!!
都貴の周囲が暴発した。
俺達は一気に距離を取る。
その隙を狙われる訳にはいかないと、瞬間移動で姫さんの前に戻り、案の定姫さんを狙ってきた奴に向かって氷の刃を放つ。
「そ、奏輔お兄ちゃんっ。私も戦、ッ!?」
戦うなんて言わせない。
姫さんを止める為に、額にキスをすると……顔を真っ赤にして停止した。
うん。これでいい。
「大人しくしとって。俺からもう姫さんを奪わんといて」
耳元で息を吹きかける様に囁いて、再び戦闘に戻る。
姫さんにはもう傷一つつけさせないと誓っているものの、姫さんはどうにも誰かが危なかったり、自分が何も出来ない状況にあるとどうしても動いてしまう質らしい。
それはとても姫さんらしい美点だが、今はそれが姫さんの死に直結する事を俺は知っているから。
多少強引でも動きを止めなければいけない。そして、もう一つ。
さっさとこの戦いを終わらせなければいけない。
次から次へと攻撃スキルを叩き込む。三人がかりで一斉に攻撃を仕掛けてはいるものの、どうにも致命傷に結びつかない。
それ所か都貴の攻撃力が全然衰えないのは何でや?
…大抵技を使い続けるとMPが減る筈だ。例えそれが神の力を奪っていたとしても、一度自分の力としているなら限界があるはずなんだ。
まずは相手のMPを削ってみるか?
その後、【能力解析(アナライズ)】のスキルを使って状況を把握しよう。
その為にはまず、二人に渡した武器に【MP吸収】のスキル付加しなければならない。
決まったからには即行動。
透馬と大地の持っている剣にスキルを付加し、そして俺も【精神衰退】のスキルをアイツにぶつける。
黒い球体の様な物が無数に現れて、触れた途端に精神力、MPが失われて行くスキルだ。
「……ふっ」
笑ってる?
しかも、そいつにとっては何の影響もないのか、むしろ自分から球体へぶつかって行っている時もある。
発動されたスキルの球体が全て無くなった時、【能力解析(アナライズ)】を発動させてみたが…やっぱり奴のステータスは見れないようだ。
ゲームでもボスキャラはある程度弱体化させないとステータスは開示されない事が多い。今回もそう言う事だろう。
そう考えると、恐らく今の攻撃でMPに変化はないと言う事だろう。だが、透馬達のMPが減らない所を鑑みるとMPを吸収すると言う事に関しては成功していると考えて良い。
となると、奴は何らかの手段を用いてMPを回復していると考える方が良さそうだ。
ならまずはその供給を断ち切る必要があるな。
結界のスキルを反転させて使うか。
「【逆結界(アンシールド)】」
これは相手からの攻撃を防ぐ術ではなく、敵に使用する事により、自分の能力を外に出さないようにする術に変化する。しかも、回復も攻撃も全てのスキルの発動を妨げる。
青白い光が奴の体にまとわりつく。
「な、にっ!?」
焦った顔。やっと奴の余裕そうな顔を曇らせる事が出来たな。
「これは、効いたみたいやなっ!形勢逆転ってさせて貰うでっ!」
スキル関係は一切通用しなくなるが、その代わりに純粋な物理攻撃が覿面に効くようになる。
大地の活躍の場だ。
スキルなしであんだけの力を持ってるんやから、下手すると大地の方が化け物やけどな。今はその力に助けられてるんだから何の問題もない。
俺達の殴りや蹴りは地味に奴にダメージを与えて行った。
そして。
「うぐぅっ!?」
そいつの腹に大地のドでかい一発が決まった。
体ごと吹っ飛ぶ。
「とどめっ」
「待ぃやっ!大地っ!透馬も近寄るなっ!」
二人を押しとどめ、俺は素早く奴の側に駆け寄る。
勿論念の為に自分に結界と、あいつら二人にもより固めな結界を張っている。
前回は透馬と大地が押した瞬間にコイツに利用された。同じ轍は踏まない。
隙を見せずに、全開で警戒しながら一歩また一歩と近づく。
目の前に俺が辿り着いた瞬間に、そいつは一撃を放つ。
「そんなもん、想定内やっ!」
結界で弾いたりなんてしない。
その一撃を俺はスキルで吸収し、MPへと変換する。
「くそっ」
何度も何度もそれは放たれるが、全て無駄に終わる。
「無駄やで。さぁ、観念して貰おうか」
「……僕を殺す気ですか?」
「………」
口車に乗るつもりも会話をするつもりもない。
無言で返答を返し、俺はそいつの姿を確認した。……殴られた後があれども、奴が回復している事に気づく。
これはヤバい。
早く止めを刺さなければっ。
ポケットからナイフを取り出して、止めを刺そうと振り上げたが―――、

「遅い…」

奴の方が早かった。
ナイフは蹴り飛ばされ、そのまま回し蹴りが俺に決まる。
咄嗟にガードをしたので吹き飛ばされるのは回避したが、そいつは勢いよく走りだす。
目的は勿論、姫さんだ。
急いで瞬間移動で姫さんの前に立ち、奴を殴り飛ばす。
だが、奴…都貴もそれを想定していたのか、吹っ飛びはせずその場に耐え、俺を見て笑った。
「おかしい。…何だ、その強さ。君がそんなに強い筈がない。『僕の記憶』にはない。嵯峨子奏輔は『強くはない』筈なのに」
「失礼な奴やな。強くない強くない、て。けどそんな強くない奴にやられてるお前はもっと強ないな」
「おかしい…オカシイオカシイオカシイッ!」
声が、変わった。笑みを浮かべたままだってのに、その表情は不気味でしかなく。
ちょお、待ってぇな。
パァンッ!
俺が驚いている間に音を立てて俺が奴に放った【逆結界】が破られた。
増々ヤバさを感じ、俺は咄嗟に姫さんを抱き寄せた。
「奏輔、お兄ちゃんっ」
姫さんも、佳織さんも、勿論透馬も大地もこの異変に異様な不気味さを感じ、ジリジリと距離を取る。

「………どぉシて、邪魔、するルる?…そこ、いる、カミの子、が欲しイ、ダケけケ」

じわじわとそいつの周りに黒い霧状の物が集まって行く。
一体何が始まるんやっ!?
周囲を見回すと黒い雲が空を、辺りを覆い始める。
「どうなってんだっ!?」
「ヤバくねぇか、これっ!?」
ヤバいに決まってる。
しかも、この雲は半球体を描き、壁となって俺等を閉じ込めようとしていた。

「………重力、ニ、押シ潰されろ。ハハ、ヒャハハハハハッ!!」

急激に体が重くなる。
まるで上から全身を抑え付けられてるようだ。
くそっ。こいつの思う通りにさせて堪るかっっ!
スキルを発動させて…【盾】…いや【結界】だっ!
全員分の結界を発動させる。しかし、重力攻撃は予想外に強かった。
俺が知り得る最強の強さの結界を張ったと言うのに、体にかかる負荷は半分にもならない。しかも…雲状の壁は徐々に徐々に縮小されていっている。
「このままやと圧迫死やっ」
「奏輔、姫だけでも外へっ」
「姫ちゃんだけじゃ駄目だっ!佳織さんと二人じゃないとっ!」
大地と透馬はそう言うが、俺は、頷けなかった。
ここで姫さんを一人外に出した所で、外には恐らく先代の金山さんが待機している。…金山さんはこいつと同じ巫女ショウコの子の転生体。だから姫さんから自分から離れた。けど、姫さんが側に来てしまえば今まで保っていた理性は消えるだろう。コイツだって自分の転生体の一人が側にいるのに使わない訳はない。
それに、何より…俺がもう姫さんを離しとうないんや…。
グッと姫さんを抱きしめる。
すると、体にかかる重力が増した。
耐え切れずに膝を付く。
「あぅっ…」
姫さんの喘ぐ声が聞こえる。俺達ですらきついのに姫さんだったら…。
何の助けにもならないかも知れないが、せめてと結界の二重かけをする。
多少楽そうになったのが目に見えて、微かに安堵するがこれは地面に這い蹲るのも時間の問題だろう。…だけど、俺はどうしても姫さんを離したくなかった。
だからせめて姫さんにかかる重力が減る様にと、俺は姫さんを俺の腕の下になるように地面に倒して覆いかぶさった。
「姫さん…、いや、美鈴ちゃん」
名前を呼んだことに一瞬キョトンとしたが直ぐに姫さんは微笑み俺に聞き返す。
「なぁに?奏輔お兄ちゃん」
「ごめんな。本当は、外に、逃がして、やるのがいいかも、しれないって、解っとるんよ。…けど…俺は、今度こそ、美鈴ちゃんを守りたいんや。だから、一緒に、いてくれるか?」
「……うんっ。当然、だよっ。…一緒に、いるっ。絶対にっ」
「……おおきに」
自然と笑みが出た。
姫さんが生きてるだけでどんな困難な状況でも切り抜けて見せようと思える。

「……そこ、邪魔だヨ。どいて、どけ…ドケよ」

重力に耐える中で、何とか気力で顔だけ振り返ると、そこには俺のナイフを振りかざした都貴の姿があり、

「死ネシネ死ネェェッ!!」

狂った声とほぼ同時に背中に衝撃が走った。

「―――ッ!!」
「や、やめてぇっ!!」

痛みよりも熱さが先に立つ。
「奏輔お兄ちゃんっ!!」
血が腕を伝う。
途端重力に耐えていた腕に力が入らなくなる。
ガクガクと震えるが、今ここをどくわけにはいかない。
「早ク、死ネ、死ネぇっ!」
「止めてっ!!奏輔お兄ちゃんっ!逃げてっ!!」
奴が再び手を振り上げた。
姫さんが必死に俺をどかそうとする。
けれど、俺はどかなかった。

「……大丈夫や、姫さん」

血で濡れた手で姫さんの頬に触れる。
姫さんは目に一杯の涙をためて、無理だと顔を振る。
それにもう一度大丈夫だと、俺はそう言って笑い、

「死ネェェェぇぇぇっ!!」

ナイフが突き刺さりそうになる瞬間に、渾身の力を持って、研究データの本を奴の顔面へと叩きつけた。

「スキル【召喚】発動っ!」

俺の声が鍵となり、研究データの本が千切れ、一枚の紙となり散らばりそれぞれが光を放って文字が光りだす。
その光が一つの魔法陣を描き、そして、更に大きな光を放つ。
これで…駄目ならもう後がない。
一縷の望みを賭けて、俺はその光の行方を見続ける。
光は集い、形を成し―――。

『……本当に、凄いわね。ここまでやるとは思わなかったわ』

声が、届いた。
光は女性の姿を作り上げる。
『まずは、重力を消しましょうか』
彼女が手を振った瞬間、今まで俺達を襲っていた重力が消えた。
そして逆に、
「うがぁっ!?」
『貴方の行動は塞がせて貰うわね』
彼女が指を鳴らすと、都貴は巨大なシャボン玉の様な泡の中へと閉じ込められてしまう。
「奏輔お兄ちゃんっ!」
動けるようになった姫さんが俺の体を支える。
「……み、お…?」
佳織さんの呟きに女性が振り返る。
『久しぶりね。薫。前世ぶりかしら?』
「……本当、に…?」
『そうよ。本物よ。……本物って言っていいのかしら?この世界の私の姿をしてないから、断言も出来ないわね』
はて?と考え込んでしまう彼女に、佳織さんはゆっくりと立ち上がって歩み寄る。
「あぁ…」
『あら?泣いてるの?薫』
「泣くわよっ。泣くに決まってるじゃないっ!会いたかったものっ!」
『…とは言うけど、薫。それはこっちのセリフよ。いっつもいっつも先に死ぬのは貴女じゃないっ。私をいーっつも残してっ』
「うっ…」
『そもそも、貴女はいつもっ』
……佳織さんが正座させられて説教されてる。レアな光景や…。
「…おい、奏輔、大丈夫か」
「今止血してやるからちょっと我慢なー」
大地と透馬が駆け寄り傷の手当てをしてくれる。
その間姫さんは俺の側から全然離れなかった。むしろ何故か腕をぎゅっと抱きしめている。
「………ごめんなさい。反省してます」
『よろしい』
俺が手当てを受けている間に何やら説教タイムが終了したようだ。
『さて。それじゃあ、私はこいつを連れて帰るわね』
にっこりと笑って、彼女はパンと手を叩く。
すると周囲を囲っていた黒い雲も瞬時に消え去る。
『奏輔くん』
「え?」
『……召喚スキル。良く編みだしたわね。でも残念。ちょっと失敗だったわね』
「……お見通しですか?」
彼女はふふんと笑った。それが鴇と同じ笑い方で。
「奏輔お兄ちゃん?」
「…本当は【時の巫女】ではなく【時の神】を呼ぶつもりやったんや」
『ここに、この世界で生きていた【私(ミオ)】がいたら、この召喚は失敗に終わってしまう所だったわ。そこにショウコもいるからね。けれど、まぁ、結果オーライね』
時の神を呼ぶつもりが、時の巫女を呼んでいた。召喚と言うのは、その場にいない何かを呼び出す事。
この場に時の巫女であるカオリ、ショウコが既にいた。だから、もしミオが生きていたなら、この召喚で呼びだす事は敵わず、俺達の負けで終わってしまっていたと、そう言う事だ。
けれど、結果オーライ。その通りだと頷いた。
『……さて、行きましょうか。…あの人の下へ』
女性が不敵に笑う。
閉じ込められた球体の中で何かが暴れているが、細工したのか中はもう見えない。
『それじゃあね、薫』
「うん。…また、会おうね」
『えぇ、勿論よ。…佳織も誠も色々【あの人】に記憶、弄られちゃってるから、再開しても気付き難いかもしれないけど、私はちゃんと覚えてるから。一緒にあの人を殴りましょうね』
「…ねぇ、あの人って?」
『じゃあね』
佳織さんの疑問は解決される事なく、女性は笑顔で手を振って消えた。あの男と一緒に。
静寂と戦いの後だけが残る。
「……終わった、んか?」
無意識にぼそりと呟いていた。
それに答えてくれたのは他でもない姫さんで。
「うん。終わった…。終わったよっ。奏輔お兄ちゃんっ」
目の前に満面の笑みを浮かべた姫さんがいて。
俺は姫さんを抱きしめていた。
姫さんが、生きてる。
生きてるっ!!
守り切ったっ!!
「やっと、終わったんやね……。よか、った…」
「ふみっ!?奏輔お兄ちゃんっ!?」
気が抜けて、ついでに意識も遠ざかる。
「血が足りてねぇんだっ、この馬鹿っ」
「直ぐに医者に行くぞーっ」
「うわあんっ、奏輔お兄ちゃんっ、しっかりぃーっ!」
皆の慌てる声の中、俺は姫さんを救えた事をただただ喜びながら、意識を落とした。

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