上 下
167 / 359
第四章 高校生編

※※※

しおりを挟む
文化祭が無事に終われば、あとに待っているのは勿論期末テストと冬休みである。
今回は特に大きな騒ぎもなく、問題もなく期末テストを迎え、順調に学年首位を獲得。
次席は華菜ちゃんと優兎くんの接戦だったみたい。逢坂くんがもう追い付けないとぐったりしてたけど、大丈夫っ。追い付けるよっ!逢坂くんならイケるっ!!
って応援したんだけど、増々遠い目をされちゃいました。解せぬ。
樹先輩が追い打ちをかけてやるなって言うんだよね。どーしてー?凡人の気持ちは凡人にしか解らないんだってさ。樹先輩にだけは言われたくないセリフだよね、それ。
って訳でもう12月になるわけですが。
エイト学園に入学してどうなる事かと戦々恐々としてましたが、あれ?案外平気だった?
回避出来ないようなイベントにはぶつかってきたけど、それだって基礎知識があるなしでだいぶ違うし。違ったし。
今は結構平和だよね?
ママが油断するなって言ってたけど、同じくママの口から命に関するイベントはないって言ってたし。
……そもそもが命に関するイベントがあるってのが、おかしいんだよね。
普通の乙女ゲームって命に関する事ってある?ないよね?
私このゲームって至って普通の乙女ゲームだって思ってたけど…あれ?至って普通なのか?これ。
いや、でもな。乙女ゲームって一口に言っても結構種類あるよね?特に良く小説とかになってる場合の乙女ゲームって完全な中世ヨーロッパ風の世界に飛ばされたり転生したりするじゃない?あぁ言う世界の場合って普通に魔物とかいるじゃん?死とは隣合わせだよね?
ただのパラメータゲーム…の筈なにのどうしてこんなに危険な事が多いんだろう…?
こうなってくると、自分の脳内フィルターが恨めしい。
ちゃんと思い出したいのに、どれも中途半端。
終いには春頃にユメ達と遊園地に行った記憶がなくなると言う逆の現象が起こる始末。どゆこと?
そう言えば、その遊園地の後から、私の男性に対する恐怖心って言うのが少し薄まっている気がする。
徐々に回復傾向にあった事は確かだった。けど、文化祭でステージに立った時もそうだったけど、その時も男の人の視線を一杯受けていたけれど、叫びもせずに立っている事が出来た。
やっぱりお兄ちゃん達と一緒にいた事によって回復傾向にあるんだろうか?
自分の事なのにさっぱり分からない。
分からないと言えば、文化祭の時同級生の攻略対象の皆さんが話かけてくれたけど、あれも何を言いたかったのかな?
全員が全員謝ってくれたけど、…ぶっちゃけて言えば私、あんまり気にしてないと言うか記憶に残ってないから気にしなくても良かったのに、って感じである。

―――コンコンッ。

部屋のドアがノックされてハッと我に返った。
そうだったそうだった。
これから生徒会主催のクリスマスパーティがあるんだった。ドレスに着替えて、軽くメイクもして、真珠さんも手伝ってくれたから仕度も結構早めに終わっちゃったから、すっかりボーっとしちゃってたよ。
レースの手袋をしてもう一度鏡の前でくるっと自分の姿を確認して、うん、オッケーっ!
ドアを開けると、そこには優兎くんが立っていた。双子のお兄ちゃん達はもう会場入りしてるし、鴇お兄ちゃんも同じく。
なので、今日は優兎くんと一緒に移動です。
「ごめんね、お待たせっ」
「ううん。そんなに待ってないから大丈夫だよ。むしろ私の方が早く準備終わっちゃったからね」
あはは~と二人で笑い合う。
優兎くん、すっかりスーツ着慣れちゃったなぁ。ちょっとずるいよね。私いまだにドレス着るの抵抗あったりするのに。
「それじゃあ行こうか。えっと確かホテルをとってるんだったよね」
「そうそう。学生にどんだけお金かけてるんだろうねーって所だったよ」
「それは女子クラスが出来たからだよ。兄達の話によれば男だけの時は、恋人の出来ない男達が集まってバカ騒ぎしようぜってのがこのクリスマス会の始まりらしいし」
「あららー。…ってあんまり馬鹿に出来ないね。私達も聖女で同じ事したし」
「うん。だから僕も兄達から聞いた時、どこも考える事は一緒だなって思ったよ」
鞄を持って部屋を出て、二人並んで階段を降りて玄関へと向かう。丁度終業式で帰宅した旭達と入れ違い、行って来ますと挨拶をして私達は真珠さんの用意してくれた車に乗り込んだ。
そんなに遠くない場所にあるホテルの会場に向かい、到着次第真珠さんと別れ、私と優兎くんは中へ入る。
真っ直ぐ会場である階層へ行く為にエレベーターに乗り込む。そんなに高い位置ではなかったようで。すぐに到着して私は優兎くんと一緒にエレベーターを降りる。
するとそこには受付待ちの生徒が沢山たむろしていた。
「あれ?時間間違った?」
「いや、間違ってないと思うけど?」
優兎くんが腕時計を覗くのに便乗して私も優兎くんの時計で時間を確認する。えっと…今はPM6時半。受付開始が6時20分からだから、丁度いいかと思ってきたんだけどな。
「あ、違う、美鈴ちゃん。女子だけ先に会場入りさせてるんだ。行って来なよ」
「えっ!?」
ちょ、ちょっと待ってっ!?
あの男子の中を一人で行くのっ!?無理っ!!
「そんな顔しなくても大丈夫。今の美鈴ちゃんなら、周りが避けてくれるから安心して行っておいでよ。それに会場内には多分兄達がもういるから、そっちの方が安心だよ」
「そう、なの?」
「うん。絶対」
「じゃ、じゃあ、頑張って、みるっ」
ぐっと拳を握って覚悟を決めて。
優兎くんが言うように受付へ向かって真っ直ぐ歩く。
「……え?」
一歩踏み出す度にモーゼの十戒並に人垣が割れて道が出来て行く。
えっとー…これはこれで凄く申し訳ないと言うか恥ずかしいんですけど…。

「すげぇ…白鳥さんのドレス姿だ…」
「深海のように澄んだ青のドレス…滅茶苦茶似合う」
「やべぇ…神々し過ぎて近寄れねぇ…」
「女神だ…」
「崇めろ」
「拝め」
「同じ学校に入れた幸運を喜べ」

好き勝手言ってるなぁ…って、嘘でしょっ!?
皆折角良いスーツやタキシード姿なのに、それで膝ついてお祈りとか止めてっ!!
急げ急げっ!!
私が早く入らないと悪化するっ!!
受付の男子生徒に招待状の代わりである学生証を提示して、私は急いで会場の中へと入った。
会場の中は確かにまだ女子しかいないようで、一先ずホッとする。
「美鈴ちゃーんっ!」
あ、華菜ちゃんに皆がもう揃ってるっ!
急いでそちらに駆け寄る。
私が一番遅かったのか。でも良かった。やっぱりこう言う時って親しい人がいるとホッとするよね。
「女子が先に会場入りするって言ってたけど、美鈴ちゃんがホントに入ってこれるかどうか心配してたんだよ」
「優がいるからとは言ってもな。男子は足止めされてるし」
「でも、私の言った通り大丈夫だったでしょ?」
「確かに。愛奈さんは誰も王子には近寄れないって言ってましたし」
「事実、王子は今ここに一人で来たしね」
皆がニコニコとテンション高く会話している。
それが私の話だってのは今は一先ず置いといて。
何で皆こんなに衣装に気合が入ってるの?
華菜ちゃんは桃色のドレスにスクエアラインの襟で白のボレロを羽織っている。膝上丈のスカートから覗く同じく桃色のレースとウェストの位置にある大きなリボンが可愛い。…逢坂くんが好きそうな型だ。
愛奈は…黒に一瞬見えそうだけど、良く見ると濃い紫のドレス。ボートネックラインで肘上まで袖がある。けど愛奈は髪の色が薄い紫色だから相まって凄く綺麗な仕上がりになっている。
円は、深い緑のマーメイドドレス。スリットが凄いよ?背中もかなり開いている。横にゆったりと流した髪が色気を増している。女の私ですら圧倒される色気である。誰を悩殺する気?
ユメは、サックスブルーのバルーンスカートのドレス。レイヤード風の襟元で裾には可愛らしいフリル。でもサテン生地な所為かな?すっごく小悪魔感が溢れてる。騙されそうな男子が続出しそう。
そして、桃は安定の着物。けど良く良く目を凝らしてその着物を見ていると真っ赤な生地に金の刺繍が入ってるんです。他の糸で刺繍された花が目立ちがちですがひっそりと、けれどしっかりと金の刺繍が主張しております。
一方私のは、フィッシュテールの深い青のドレス。蔦と花の刺繍が同色で入っていて襟元がラウンドラインで袖はない。襟元から胸元まで透け感のあるレースで出来ていて可愛い。そのレースと同じ生地で手袋が作られている。
……あれ?何か私簡単に済ませ過ぎた?
皆結構バリバリに着飾って来てるよね?
そもそも、ゲームでもこのクリスマスパーティってあるんだけど、女子のドレスって皆結構おかしげなの着てた気がするんです。ユメなんてゲームの中だとハートバルーンで埋め尽くされたドレスを着ていたのです。
まぁ、実際そんなドレス着る様な人っていないとは思うんだけど…こうも違うと、え?どうした?ってなってしまう…。
「やっぱり女の子が揃うと華やかだね。ね、棗」
「そうだね。皆シックな色合いなのに華やかにさせてるんだから凄いよね」
「葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん」
背後から声がして振り返るとそこにはスーツ姿のお兄ちゃん達が立っていた。
「………お兄ちゃん達。それ仕事用のスーツじゃない?」
「実はそうなんだ。買いに行く暇がなくてね」
「鴇兄さん達も仕事のスーツを使いまわしてたよ」
二人が苦笑する。もう、折角のクリスマスパーティなのに。あ、そう言えば鞄の中にハンカチあったよね。
……あったあった。ハンカチを手早く折って、お兄ちゃん達のポケットに入れる。
「ないよりはマシだと思うから」
「ありがとう、鈴ちゃん」
「器用だよね、鈴は」
「どういたしまして」
ニッコリ笑顔で答えると、柔らかな笑みで返される。ゲームだとこんな微笑み好感度MAXになっても返して貰えないよ。家族特典って凄いね。
「さて。そろそろ、男子の開場かな」
「だね。葵。樹と猪塚は?」
「今日のプログラムの最終調整に行ってるよ」
「そう。それじゃあ、暫くは安全だね」
安全?何がだろう?
首を傾けると、お兄ちゃん達は気にしなくていいと笑った。
それから数秒後、入口の方ががやがやと騒がしくなり始める。男子が入って来たって事が一発で解るね。
そしてそんなガヤガヤの中で、際立ってデカい声が凄い速さでこっちに向かってきた。

「まどかああああああああっ!!」

黒い塊が円に衝突。
しかも、円は平然とそれを受け入れて、嬉しそうに抱き上げてる。円、今、ドレスっ、ドレス姿だよっ。気にならない?そうなのっ?
「円、円っ、綺麗だなっ!可愛いなっ!いや、やっぱり綺麗だなっ!」
「ハハッ、ありがとう、ケンっ」
え?ちょ、え?円が超可愛く笑ってるっ!?どゆことっ!?
風間くんを腕の中に抱きしめてすっごく幸せそうなんだけどっ!?
「それじゃ、皆。アタシは行くね。また後で」
抱っこのままいなくなるのっ!?あれっ!?円が可愛いやら男らしいやらっ!!どこに突っ込みを入れたらいいのっ!?

「ハニーっ!!迎えに来たよっ!!」

ぶはっ!!
やばいっ!口に飲み物含んでなくて良かったっ!!絶対噴き出してたよっ!!
って言うか、素肌にジャケットってどう言う事っ!?巳華院くんっ!どうしたっ!?
「ダーリンっ!!お待ちしてましたわっ!!」
ダーリンっ!?
桃っ!?一体全体どうしたのっ!?帰って来てっ!?
「君を迎えに行くのに、どんな正装をしたらいいか迷いに迷ったよ。だが…私にとって一番の正装はこの筋肉だとっ、そう悟ったんだっ!!思う存分堪能してくれっ!!」
「ダーリン…嬉しいですわっ!もう、私どこまででもついて行きますわっ!!」
はやまるなーっ!!
桃、桃っ、しっかりしてーっ!!
「もういっそ、ジャケットも捨ててしまおうかっ!?」
「ダーリン、それはいけませんわっ」
そ、そうだそうだっ!!桃、その通りだっ!!
「そんな事をなさっては、私だけ知っていたはずのダーリンの美しさに他の皆様が気付いてしまうかもしれませんものっ」
ちっがーーーーうっ!!
ふえぇぇんっ!!桃ーっ!!正気に戻ってぇーっ!!
「それでは皆さん。私はダーリンと参りますわ。では、後程またお会いしましょう」
ひょいっと桃は巳華院くんの肩に座らされ、そのまま遠ざかって行った。……え?何?あの戸○呂兄弟……。
桃が、桃が御乱心ー…しくしくしく。
心の中でしか叫んでないのに、若干息切れが……うぅっ…。

「嫁っ。嫁っ!」

今度はどこのどいつだっ!
「嫁は何処でござるーっ!?」
ゴスッ!
「がふっ!?」
愛奈…。ハイヒールは投げるものではないよ?
「見つけたでござるーっ!」
ひぃっ!?
おでこ…だよね?覆面してるから解らないけど、おでこだよね?目じゃないよねっ!?何にしてもヒールが刺さってる、刺さってるよぉーっ!!
「遅いのよ、婿」
「申し訳ないでござるっ!」
突っ込み場所はそこじゃねぇーっ!!
「どうして、もっと早く来ないのよ」
「も、申し訳ないでござる…」
ゴスッ!
「ぐはっ!?」
殴った…。え?暴力は駄目だよ、愛奈。
暴力ってレベルじゃない気もするけどねっ!!
「……待ってたんだから、さっさと来なさいよ。私は、その…アンタの嫁なんでしょ?」
「嫁…。本当に申し訳ないでござる。けど、迎えに来たでござるよ。一緒に行くでござる」
デレたーーーーっ!!
愛奈がデレたーーーーっ!!
可愛いーーーっ!!でも解せねぇーーーっ!!
何でっ!?どうしてこうなったのっ!?
「じゃ、王子。また後で」
「あ、うん。またね」
近江くんと愛奈が仲睦まじく去っていくなぁっ!?どゆことっ!?
そろそろ貧血が起きそうだよっ!?

「夢芽(ゆめ)……。待たせたな」

ふぇいっ!!
未くんまで登場だぜ、こんちきしょーっ!!
しかも、気の所為かなっ!?ユメの名前を、若干違う発音で呼んでる気がするのは気の所為なのかなーっ!?
「未、さん…」
ぎゃああああっ!!ユメの照れ顔がめっちゃんこ可愛いーっ!!めっちゃんこって何だーっ!?
もう、私の心の中がだいぶ大変な事になって来てるーっ!!おんぎゃああああっ!!
「正宗で良いって言ったはずだが?」
「う、ぁ…その…正宗、くん…」
顔を真っ赤にして俯くユメが超愛おしいっ!!えっ!?待ってっ!!そのユメ頂戴っ!!
「……呼び捨てにしてくれ。私は夢芽の本当の名前を教えて貰ったんだから」
「……ま」
「ま?」
「まーくん、で許して…?」
なんだこれっ!!なんだこれっ!!ユメが超可愛いっ!!今何かユメの本当の名前とか言ってたけど、一先ずそれは置いといてっ、ユメが可愛いっ!!下さいっ!!幾らで売ってくれますかっ!?お金ならありますっ!!
「仕方ないな。今はそれで良いがいつか呼んで欲しい」
「う、うんっ。まーくんっ」
二人共幸せそうですねっ!!何よりですよっ!!
「それじゃ、王子っ。私達行くけど、何かあったら直ぐ呼んでねっ!絶対だからねっ!」
「う、うん。いってらっしゃーい…」
手をふりふり。
ユメの腰に手を回してきっちりエスコートする未くん。
そんな二人を見送る。

…………。

……………。

…………………。

「どゆことっ!?」


全力で振り返って華菜ちゃんに問いかける。
「どゆこと、って、そゆこと?」
「あー、成程ー。そーゆー事かぁ…って納得出来る訳ないじゃんっ!!えっ!?何っ!?今の組み合わせっ!!どうしてああなったのっ!?予想外過ぎて私声が出なかったよっ!?ダーリンハニーで脳内突っ込み炸裂しまくったよっ!?」
「あー。あれは驚くよねー」
「だよねー…ってそうじゃなくてっ!!」
華菜ちゃあぁぁんっ!!
詳しく教えてよぉーっ!!
「あ、恭くん来たっ!じゃあね、美鈴ちゃんっ」
「華菜ちゃんっ、詳しく話していってよぉーっ!!」
なんて私の叫びも虚しく、華菜ちゃんはテンション高く逢坂くんの方へ駆けて行ってしまいました。
「うぅー……一体どうしてこうなったのー?皆過去の恋を忘れられないんじゃなかったのー?」
「え?皆、そんな事言ってたの?」
「優兎くん…」
いつの間にか入場をすませてたんだね。でもそんな事より。
「皆、過去の恋はきっちり清算した上で新しい恋をしたんだよ?」
「そ、そんなの知らないよー。皆の恋バナー…協力したかったよー…」
しょんぼり。
皆そんなに隠れて大人にならなくたって良いのにー…。
「鈴ちゃん。ほら、そんなに落ち込まないの」
「そうそう。わざと鈴に知らせなかった訳じゃないんだから。ね?」
「うぅ…」
「それに、皆まだ恋人同士じゃないらしいしね」
「ちょっと優兎くんっ!それはそれでどゆことなのっ!?」
くわっ!!
牙を剥きだし、優兎くんの襟首を掴んでがしがし揺さぶる。
私の大事な子達で遊んだりしたら…社会的に息の根止めてやる…がるるるっ…。
そもそもダーリンハニー言ってて付き合ってないって、どうなのっ!?
「まぁ、それは本人達に聞いた方がいいんじゃない?男の僕を通じて聞くよりもさ」
それも、そうか…。じゃあ、後で本人達に直に聞く事にしよう。
あまりにもドでかい衝撃だったから脳の回転が遅くなったけど。
ちょっと真面目に考えるに…。
クリスマスパーティはゲーム内だとエスコートしてくれる人から前日にお誘いのメールが届く。これは好感度が一定値以上でお誘いが来る。文化祭の時と違って好感度上位者とかじゃなく、一定値以上だったら必ず届く。
そして、逆にイベントの選択肢を失敗したり、友好度が好感度より圧倒的に多く完全に友達関係を築きあげてしまった場合、メールのお誘いは来ず、尚且つパーティ会場でただ会話をして立ち去っていく。ライバルキャラがいる場合はライバルキャラが一緒について行く事になる。
……と言う事は?
同級生組、別名賑やか士組はもう恋愛フラグが立たないって事になる、よね?
これは、もしかして喜ぶべき事じゃないだろうかっ!?
だってだってっ。恋愛イベントフラグを四本確実に折ったって訳だよねっ!?やったーっ!!
初めて目標達成出来るかもしれないっ!!
卒業エンドを目指すってあれっ!!
お兄ちゃん達が妹である私に恋心を抱く訳ないしっ。御三家のお兄ちゃん達も同様でしょっ?年下組は蓮蘭燐みたい、弟なもんだしっ!御曹子組は優兎くんとは姉弟だしっ、あとは樹先輩と猪塚先輩だけどうにかしておけば私卒業エンド迎えられるっ!!
そうしたら、その後は財閥の仕事しつつ、こっそりと隠居生活の準備をして男のいない田舎に籠るっ!!
わーいっ!!やったーっ!!
予想外の事は起きたけれど、私にとっては最高の情報をくれたクリスマスパーティ。
私はお兄ちゃん達と一緒に大いに楽しんだのだった。勿論、男子生徒から逃れながら…。

クリスマスパーティが無事に終わり、終業式があって冬休みに突入。
勿論外出はしませんでした。家族と優兎くんで初詣行ったくらい、かな?
毎年の行事だからね。中学の二年間は行けなかったけど。
年賀状は皆から届いた。これね。ゲームでも年賀状届くんだけど、そのデザインと全く同じのが届いて。
ママと二人素直に驚いた。色々誤差があるのにここはそのまんまなんだーってね。
「お姉ちゃん、続き読んで、続きー」
「旭達はもう自分で読めるのに、甘えんぼだね~。えーっと…おばあさんが川で洗濯をしているとどんぶらこっこどんぶらこっこと川上から大きな桃が流れてくるではありませんか。おばあさんはその大きな桃を持ち帰る事にしました。その為にも桃を自分の方に引き寄せなくてはいけません。そしておばあさんは閃きました。おじいさんの褌を川の水で濡らし重量をと吸着力を増した所で投げ縄よろしくなげたのです。ぐるぐるびたっとくっついた桃はおばあさんの手により引き寄せられ持ち帰られる事に…」
「………普通に読めるんだな、って感心してたんだが、気の所為だったようだな」
鴇お兄ちゃんが何か言ってたような?気の所為?
そんなこんなで冬休みも終わり、そして、乙女ゲームでは必ずある。言い方を変えられても必ずと言って良いほどのイベントが訪れる。
もうね、解るよね。
そう。

バレンタインデー。

私はいつもの様にお兄ちゃん達、全員に配って終わりにしようかなと思ってたんだけど。
今年のバレンタインは月曜日。
土日休みに入る前の金曜日に華菜ちゃん達が家庭科部室に突撃して来た事によって予定は変更された。
「美鈴ちゃんっ、私にチョコレートの作り方伝授してっ!」
「ふみ?良いけど、華菜ちゃん、珍しいね。手作りするなんて」
「本当は作る気なかったんだけど。恭くんが、食べたいって言うからさ」
あらあらまぁまぁっ!
そんな美味しい話なら協力するに決まってるじゃないっ!
「お、王子っ!私も便乗して良いっ!?」
「ユメ?」
「じゃあ、私もお願いします。王子」
「構わないけど」
「……なら、私も」
「愛奈も?」
「皆ずるいぞ。王子アタシも良いかい?」
「それは全然構わないんだけど、でもどうしたの皆、いきなり」
いつものまったりな空気はどこへやったの?
私が首を傾げていると皆視線を逸らしてしまった。これは…恋バナの匂いがするっ!
よしっ!じゃあクリスマスに疑問に思ってた事を思い切って聞いてしまおうっ!!
「じゃあ、土曜日に私の家に泊りで作りにおいでよ~。皆でパジャマパーティしよ?」
提案すると、全員が一斉に賛成してきた。
こうしてバレンタイン前のお泊りパジャマパーティが決定したのだった。

土曜日のお昼過ぎ。
皆が鞄にお泊り道具を詰めて家に来た。
客室はあるけど、やっぱりパジャマパーティだし、客室だと味気ないよね?
と言う事で、ちょっと狭いかもだけど寝れなくはないので五人並んで私のベッドで寝る事にしましたっ!
鞄とかは部屋の隅に置いて貰って。
私の部屋にあるガラステーブルを六人で囲む。
チョコレートに関するお菓子が載ってる本を机の上に何冊か並べておいて。
私は部屋を出てキッチンに向かい紅茶とお菓子をお盆に乗せて戻る。
紅茶を皆の前に置いて、作っておいたモンブランタルトを切り分けてそれも紅茶と並べておく。
「あ、私もお菓子買ってきたよっ」
「アタシも作ってきた」
「夢子ちゃんと円ちゃん、流石。私はお菓子はあるかなって思ってチョコレート菓子レシピをネットで調べてプリントアウトしてきたよ」
「私は、お菓子あると思ったし、レシピも用意してるかなって思って、これ持って来た」
「まぁ、メッセージカードですわね。もしかして愛奈さんの手作りですの?流石ですわ。こうなると私が持って来ておいたラッピング資材は霞んでしまいますわね」
「皆、準備万端だね。でも誰一人として、原材料のチョコレートを買って来て無いんだね」
『あ……』
うん。この子達らしい。
完璧そうで一番重要な所が抜けているんだから。
「必要な材料は金山さんと真珠さんに買って来て貰おう。さて、皆どんなの作りたいのー?円はお菓子をよく作るでしょう?大体纏まってるんじゃない?」
「あぁ、うん。大体纏まってるかな。垂れ耳犬の棒付チョコにしようと思って」
「へぇー。垂れ耳は描くの?それとも型に入れて?」
「そこで迷ってるんだよねぇ。描きたくてもアタシはそこまで絵が得意じゃないし」
「じゃあ、型だね。チョコは何味?」
「チョコ自体の味より、中に入れたいね。ナッツとかドライフルーツとか」
「成程ねー」
えっとメモ用紙あったかな?
机の棚にあったような…あ、あったあった。
改めてガラステーブルにペンとメモ帳を置いて、まずは円に言われた物を書き記していく。
「……王子。プロテインって作れますでしょうか」
「…………えーっと、うん。ちょっと待ってね。チョコの話からいきなりプロテインに飛んで私ちょっと付いて行けてないから、ちょっと待って」
チッチッチッ……チーンッ!
うんっ!わっかんねっ!!
なんでプロテインの話になったのっ!?もしかして、いやもしかしなくても巳華院くんにあげる為っ!?
うぅ…なんてこったい…。
「プロテイン。作れなくはないと思うの。ネットで調べたら色んなのが出てくると思うし。でもそこはチョコ味の既製品を買って、それはそれとして別にチョコレート作った方が良いんじゃないかな?だって計算して体作りしてるよね、彼」
「ハッ!?王子の仰る通りですわ。では銅本にプロテインの準備をさせておいて私は…そうですわね…マカロンを作る事にしますわ」
「マカロンね。中身を考えるとー、必要なのはあれと…」
材料をメモして行く。
「王子っ!私これにするっ!トリュフっ!」
「はいはーい。ユメはトリュフね。味はどうする?イチゴとかホワイトとか。飾りとかもありだよね」
「うぅー…ここは普通のを作って大人っぽくみせたいっ!」
「ん。分かった。じゃあ、ビター系中心に…」
材料を追加でメモする。
「王子、私、これ」
「愛奈は、チョコレートケーキ?ハート型?」
「うん。……難しい?」
「うーん。簡単とは言えないけど、でも大丈夫っ。ちゃんと手伝うよっ」
「ありがとう。中にこれ、仕込みたい」
「…………山葵まるごと…?」
コクコクッ。
そんな良い笑顔で…いや、でもこれは流石に可哀想なので。
「チョコレートに悪いから却下。もう少しチョコレートを美味しく頂ける罠にしよ、愛奈」
「……じゃあ、砂糖菓子のサンタさんを中に埋めるだけにする」
「うん。まぁ、それなら良し」
となると、砂糖菓子のサンタさんもリストに入れておかないとね。
「後は、華菜ちゃんだね。どんなのにするの?」
「……美鈴ちゃん。恭くんがね、これ、食べたいって言ってたの」
そう言って見せられたのは…。
「これって、オペラ?」
「そう…」
「これまた難しいリクエストされたんだねぇ…。でも」
「うん。期待以上の物を作って驚かせたいのっ!」
「だよねっ!任せてっ!ちゃんと協力するよっ!失敗しても良い様に多めに材料を頼んで置こうっ!勿論皆の分もだよっ!そして完璧なの作ってやろうっ!」
『おーっ!』
一致団結した所で。
リストアップされた材料は静かに真珠さんの手へと渡されて、私達は女子トークに入る。
女子トークってあれだよね?別名弾丸トークと言うだけあって。

「あー、あの人っ!解る解るっ!駅前で踊ってる人でしょーっ?」
「その人がどうなさいましたの?」
「それがさっ。ズボンのゴムが切れちゃったらしくて、片手で抑えながら踊ってたっ」
「マジ?それはそれでスゴイ根性だね」
「あ、そうそうっ。根性と言えばさ、この前テレビで」

等々、トークは留まる所を知らない。喉が渇いたら、紅茶を一口飲んで、またお喋り。
この状況。中学の時は普通だったんだけど…優兎くん、辛かっただろうなぁ…。後で謝っておこう。
お喋りして。時間になったら晩御飯作って皆で食べて。誠パパやお兄ちゃん達が女子が多いと華やかだなって笑ってて。
旭達とゲームで勝負して。交代でお風呂に入って。
部屋に戻ってここからが本当のパジャマパーティです。
パジャマを着て、ベッドの上でごろごろしながらトーク。内容?勿論、恋バナですっ!
「ぶっちゃけて聞くけど。皆どうして突然バレンタインチョコレートを作ろうと思ったの?」
華菜ちゃん。ほんとぶっちゃけ過ぎだねっ!だけど私もそれを聞きたかったから同意しておく。
「どうしてって。…気持ちを伝える為、でしょうか」
「わお。ハッキリ言うね、桃」
「なんて言ってるけど、円~?犬太とどうなってるの~?教えてよ~」
ユメ、聞き方がおばさんだよ…?
が、気になるので大人しく頷いておくっ!
「そもそも。円って巳華院くんが好きだったんだよね?どうして風間くん?」
そことくっつく予定だったよね?とは言えないからこれも飲みこんでおく。
「どうしてって言われてもね。……ケンはアタシを女扱いしてくれるから。あの小さい体でもアタシを全力で守ろうとしてくれる。巳華院はアタシを見てくれなかったけど、ケンはずっと見ていてくれるから。それに何より可愛いっ!」
ぐっ。
拳を握って堪らないって顔してる。円幸せそうだね。…まぁ確かに?円は可愛いものが好きだから彼はある意味好みぴったりなのかもしれない。
「アタシにしてみたら、桃の方が予想外だね。あの筋肉馬鹿の何処が良いんだか」
「あら。円さん。それは聞き捨てなりませんわ。ダーリンは素敵ですわ。私を綾小路家ごと受け止めて下さったんですもの。ダーリンは自分の好きな事をなさっててくれて構わないと申しましたのに、私の事をちゃんと考えて下さったのです。そして虎太郎と違ってちゃんと私の意志を尊重して、その上で自分のなさりたい事を自分の意志でご決断なさるのです。虎太郎と違ってただ流されたりしない。ダーリン以上の殿方など私はもう二度と出会う事は出来ませんわ」
きりっ。
桃が力強く言い切った。あの部屋に閉じ込められていた桃からは想像もつかないくらいの逞しさを感じる。……これは、巳華院って言う後ろ盾を得た事と、恋をしているおかげなのかな?
「どちらかと言えば私よりも愛奈さんの方が不思議ですわ。虎太郎の何処を気に入って下さったのです?最初は虎太郎の顔を見てしまったから已むを得なくなのかと思っていたのですが…」
「別に已むを得なくとかじゃないし。…むしろ私の方が惚れてるんだと思う。だって婿の顔、私の好きな小説のキャラクターにそっくりで。最初はその顔に惹かれたんだけど。でも、少しずつ接するようになって、何かドジする度にフォローしてたら、もう駄目。目を離せなくちゃった。未と違って婿は一人じゃ何も出来ないし。私が支えてあげなきゃ誰も支えられないじゃん?」
ぷいっ。
顔を真っ赤にして逸らす愛奈。知ってる?それをツンデレって世の人は言うんだよ。そしてね、それを見たオタク民は萌えを叫ぶんだよ。
近江くんは次から次へと予想外の事を起こすからね。そう言う意味では研究者体質の愛奈にとっては目を離せない相手なのかも。
「そう言えば、夢子。前も思ったけど何であの無表情大王の表情が解るの?全部言い当ててたし。ハッキリ言って夢子と逆のタイプでしょ、あいつ。何が良いの?」
「まーくんは無表情なんかじゃないよ。ちゃんと顔に感情出してるよ。でも何が良いの?って聞かれると、優しい所、かな。私がどんなに酷い態度をとっても彼は笑ってくれる。それに犬太と違ってうるさくないし。大人だし。ホントは初めて見た時から大好きなのっ」
ふわっ。
ユメが柔らかく微笑む。
まさかユメの想い人が未くんだとは思わなかったけど、こんなに穏やかに微笑むユメが見れるならあの時発破かけたのは正解だったのかもしれない。
うん…。
皆幸せそう。なのに、皆恋人同士じゃないんだよね?どうして?
そう問いかけようと思ったけれど、先に華菜ちゃんが聞いてくれた。
「私から見たら、相手方も同じ気持ちでいてくれてると思うんだけど、どうして恋人じゃないの?」
四人が顔を見合わせると苦笑した。
「それがさー。色々あって、女子の中では一番仲良しって位にはなってると思うんだ。けど」
「そうですわね。こう、外堀だけが固められたと言うのでしょうか?」
「付き合いとか会話の流れ上で互いに自覚してるだけになっちゃってる、みたいな?」
「だから、いっそこのバレンタインデーに改めて告白して、正式に恋人同士になっちゃおう、って」
そうなんだ…。
それでちゃんとした恋人関係になれるならそれでいいのかもしれない。
いいのかもしれないけど…。
「うぅ…」
「美鈴ちゃん?どうしたの?」
私はついつい顔を覆ってしまった。
だって、だってさぁっ!?

何もあんな賑やか士組とくっつかなくても良いじゃないっ!!

四聖の皆には真っ当な彼氏を作って幸せな人生歩んで欲しかったのにぃっ!!
ゲーム本編で彼らとくっつく事は知ってたよっ!?知ってたけど、皆各々楽しそうに女子同士でつるんでたから、現実はきっと違う人を選ぶだろうなって思っててっ!!
違う人を選んで欲しいなって思っててっ!!
なのに、なのにぃっ!!
「私の可愛い四聖達が、お笑い提供組に持って行かれるなんてっ!!うわあああんっ!!」
ベッドの上で私は泣き崩れる。冗談だけどほんとに泣きそうだよ、もうっ!
「まぁまぁ、美鈴ちゃん。人にはそれぞれ好みってのがあるからさ」
「そうだけどっ!そうだけどぉっ!もっと他に良い物件あったでしょーっ!お兄ちゃん達とか、御三家のお兄ちゃん達とかっ、樹先輩と猪塚先輩は捨て置いたとしても優兎くんとかっ、施設の三つ子とかでも良いじゃないっ!!」
「……美鈴ちゃん。それ、本気で言ってるの?あの人達を狙うとか無理でしょ。告っても一瞬で振られるっての。流石に四人共身の程を知ってるよ」
華菜ちゃんに超冷静に突っ込みを入れられた。四聖の皆は可愛いんだから無理ではないと思うんだけど。なんで振られるの前提?
「…ここまで気付かれないってのも、何か可哀想な気がするねぇ」
「そりゃ、王子だし」
「うん。王子だもんね」
「王子ですから」
「美鈴ちゃんだからね」
「え?なに?ちょっと皆で何で解決してるのっ?さっぱり分からないんだけどっ?」
体を起こして聞き返すも、生暖かい視線を返された。解せぬっ。
「王子はさ?好きな人っていないの?気になる人、とか」
「木になる人?いやー、中々いないと思うよ?ファンタジー世界とかに行けば寄生する木とかあって、人を木にする事は出来るかも知れないけど」
「王子。そうじゃない」
「ふみ?」
「本気で分かってないね」
「ふみみ?」
「王子は恋をなさってはいないのですか?」
「コイ?魚じゃなく?ラブの方?」
「そう。ライクやラブの方。そう言えば美鈴ちゃんと私の恋バナはしても美鈴ちゃん本人の恋バナって聞いた事なかったね」
私の恋バナ、かぁ…。
正直に言えば、今の私にそんな余裕はない。男性恐怖症だって最近ようやく改善されて来たくらいだし。
「男性恐怖症があったとしても、一人くらいいるんじゃない?好きかも、って想った人」
「まぁ、いなかった訳じゃない、けど…」
前世では私もそれなりに恋をしてきた。
「どんな人?」
恋するお年頃の皆は興味津々で聞いてくる。
どんな人と言われてもね…。
「優しい人、だったな。何か失敗したりして落ち込んでると馬鹿だな、って笑って頭撫でてくれて。これからもずっと一緒にいられる…そう、思って、た…」
ずっとずっと側にいられると思ってた。
何て事ない、普通の、本当に普通の人だった。
同じ職場で…、後数日経てば、前世の私は誕生日を迎えて。誕生日当日私は彼とのデートを控えていた。
でも、誕生日を迎える前に私はストーカーに殺された。私の方が望んでもいないのに遠い場所へ来てしまった…。
今更思い出してもどうしようもない事だけど。
不意に切なくなる瞬間がある。
あの時ストーカーに襲われず、彼のもとへ行けていたなら、と…。
「美鈴ちゃん…」
そんな昔の感傷に浸っていた私の手がそっと握られた。華菜ちゃんの手の上に四聖の皆の手が重なる。皆で手を握ってくれている。あったかいな…。
「美鈴ちゃん。私は、私達は何があっても美鈴ちゃんの味方だからねっ。どんな恋をして、誰に反対されたとしてもっ。私達だけは味方だからっ」
「華菜ちゃん…」
「王子のおかげで私達の今がある。あの時王子が声をかけてくれたから私にはこんなに友達が出来た」
「愛奈…」
「王子がいるから今がこんなに楽しい。恋をすることが幸せだって思えるんだよ」
「円…」
「王子。貴女が私に外の世界を教えてくださったのです。本当の恋が何なのかを気付かせてくださった。私は心から感謝しておりますわ」
「桃…」
「例え王子の男性恐怖症が治らなくても、私達は側にいるよ。王子がもし寂しくなったら私達がくっ付いててあげる。私達だけで足りなかったら子供一杯産んで皆で王子を抱きしめるよっ!」
「ユメ…」
皆、なんでこんなに優しい…。
涙が込み上げてきて、私は慌てて俯く。
すると、私の背中にトンッと円が背を預けてくれて、ユメは腰に、華菜ちゃんは頭を抱きしめてくれる。桃と愛奈は私の片手をぎゅっと握ってくれた。
過去の恋を思い出して、辛くないと言ったら嘘になる。あの人の側にいたかったのは紛れもない真実。
でも、こうして私の事を思って、側にいると言ってくれる大事な友達といる今が幸せなのも真実で。
「ありがとう、華菜ちゃん、皆。私、幸せ者だね」
微笑んで心の底から感じた言葉を告げると、私の頭を抱きしめている華菜ちゃんがにやりと笑い、言った。
「まだまだ。これからもっともっと幸せになるんだよっ!皆で幸せになるのっ!欲しいものも全てゲットして沢山沢山幸せを謳歌するんだよっ!!」
どやっ!!
胸を張ってそう宣言した華菜ちゃんに、すかさず、
「小さい胸張って主張されてもねぇ」
円の揶揄い混じりの突っ込みが入り、
「ちょっとっ、円っ。ちっさい胸と身長は関係ないでしょっ」
とユメのフォロー?が入り、
「身長はどこから出て来たの?」
愛奈の疑問が飛び、
「さぁ?」
桃が流す。
また何時もの空気が戻ってくる。
でも、今はそれが何よりも幸せで愛おしい。
知らず私は微笑んでいた。そんな私につられて皆も笑う。
こうして、幸せをかみしめながら夜は更けて行った。

次の日になって、私達はバレンタインチョコレート作りに本気で取り組み、各々望みの物を何とか完成させた。
ラッピングして完成させたバレンタインの贈り物をしっかりと鞄に詰めて皆が帰宅した後に、私もバレンタインのチョコレート菓子を手早く作った。
バレンタインよりは早いけどお兄ちゃん達や旭達、優兎くんに誠パパ、金山さんにはその日の内に食べて貰った。チョコレートケーキを作ったんだっ♪
御三家のお兄ちゃん達にはアルコール入りのボンボンを。年下組の皆には施設の皆で食べれるようにと量産型クッキーを箱に詰めて真珠さんに配達して貰った。
翌日学校にて、わざわざ催促しに来た樹先輩には市販のチョコを。猪塚先輩にはちょっとお高めの市販チョコ。え?作らないのかって?作らないよ?だって必要ないよね?
こうして私のバレンタインは幕を閉じたんだけど。その後。四聖の皆が無事に告白を成功させたと報告が入って華菜ちゃんと二人で大喜びして、お祝いのケーキを焼く計画を立てたのは皆にはまだ内緒である。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,491pt お気に入り:4,185

転生令嬢はやんちゃする

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:3,168

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,350pt お気に入り:3,012

処理中です...