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最終章 未来への選択編

第三十一話 無限~白鳥家編~

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「鈴ー。行くよー」
「はーいっ」
靴を履いて棗お兄ちゃんと葵お兄ちゃんの三人で玄関を出る。
今日は同じ時間に大学の講義があるから一緒に出る事にした。お兄ちゃん達に一緒に行っても良い?って聞いたら快く頷いてくれたし。やっぱりお兄ちゃん達は優しい。

……あの後。
私は選択した。
色々考えたんだよ?好きと言う恋愛感情はないけれど、誰となら頑張れるかな?とか、誰とだけは離れたくないって思ってるんだろう?とか。
ママには『少し一人で考えなさい』と日にちを貰って。丸一日、お菓子を作りながらじっくりと考えて思ったの。

私は『お兄ちゃん達と離れたくない』って。

私は今のこの生活が幸せなの。この家族での生活がずっとずっと続いてくれたらいいな、ってそう思う。
だから、私は白鳥家編を選択した。
それを伝えると、ママはやっぱりねと言う顔をして苦笑った。どうやら想像がついていたらしい。
その後、これからのストーリーの流れを教えてくれた。
けれど、ママが言うには、この白鳥家編が一番ママの抵抗が効いたストーリーだって言ってた。
その理由は、まずホストになる筈の鴇お兄ちゃんが全くもって世捨て人のちゃらんぽらんになっていない。次に、葵お兄ちゃんも棗お兄ちゃんもそこまで大きなコンプレックスを抱えていない。そして、何より、本来母娘の関係がぎすぎすしている筈が、私とママが超仲良しって事。
兄妹って言う壁が大きく立ちはだかる筈のストーリーなんだけど、もうそんなの全く関係ないねって事で。
でも、だからこそママは怖いんだって言っていた。
どんな方向からヒロイン補正が発生するか、想像がつかない。
それに、今現在ヒロイン補正がしっかりと発動している事がある。
それは、ストーリー選択した事により、御三家のお兄ちゃん達と年下組の申護持の三つ子三人と連絡しかとれなくなった。
連絡がとれるなら良いじゃんって感じだけど、これが本当に連絡だけなんだ。
例えば鴇お兄ちゃんに透馬お兄ちゃんが会いに来た。でも私はちょうど出掛けていて会えない、とか。陸実くんと電話して会えるかな?と日付を合わせようとすると、決まってその日にテレビの仕事を入れられる。良くも悪くもタイミングが兎に角合わない。
私は大学に進学したんだけど、アイドルになったユメ、近江くんと一緒に違う大学に行った愛奈、そして、巳華院家へ本格的花嫁修業に入った桃とは会う事が出来なくなったのも、多分ヒロイン補正だろうと思う。
メールや電話では連絡はとれても、会う事が全く出来なくなった。
ママに相談したら間違いなくヒロイン補正だと断定された。
白鳥家編で関わってくるのは、御曹司編で出て来たキャラだけなんだって。どう言う風に関わってくるかは教えて貰えなかったけど。
でも、ストーリー選択で疎遠になると言う事は…、御三家編や年下組編を選んでいたら私はお兄ちゃん達と疎遠になっていたって事で…。
そんな事にならずに済んでホッとした。ホッとしたって事はやっぱり私はお兄ちゃん達と離れたくなかったんだなって思って、この選択は間違ってなかったって心底思った。
お兄ちゃん達とは離れたくないから。

「鈴ちゃん?どうかした?」
「え?」
「上の空だから」
「そう、かな?」
「うん。ふらふらと左右に揺れて歩くから、つい僕と棗が心配で思わず手を繋いでしまう位には上の空だったよ」
手を繋いでしまう位…?あ、本当だ。
お兄ちゃん達が手を両サイドで手を繋いでくれてる。…大学生にもなってこれって…。恥ずかしい…。
「ご、ごめんね?葵お兄ちゃん、棗お兄ちゃん」
「ぜーんぜん」
「可愛いから大丈夫」
あぁ、恥ずかしいのに両手が塞がってて顔を隠せない事実。真っ赤な顔を隠したい。熱い顔を隠したいぃ…しくしくしく。
「あ、そうだ。鈴」
「なぁに?棗お兄ちゃん」
「今日、鴇兄さんが接待があるって言ってたけど。聞いてる?」
「接待?あー、あの話の長い社長さんの所でしょう?うん。聞いてるよー」
「それ、僕達も招待リストに入ってるらしいよ」
「へ?」
だって、それ飲みの場だよね?私未成年だよ?入れない入れない。
「それがねぇ。未成年の鈴ちゃんを考慮して、料亭での食事会にしてくれたらしいよ」
「えー…。有難迷惑ー…」
「だよね。ただ単に鈴に媚を売りたいだけってのが丸わかり」
面倒だなぁ…。日本企業って無駄な接待多過ぎだよねぇ。
…ふぅ。仕方ないな。これもお付き合いって奴だよね。中身は社会人ですから。ちゃんとその辺りは弁えてますよー。好きかどうかは別としてね。
「本当なら父さんに行って欲しい所だけどね」
「最近、父さん、あちこち飛び回ってるよね。棗、理由知ってる?」
「いや、僕は聞いてない。葵は?」
「全然」
そうなんだ?そう言えば、誠パパ私の卒業式とかにも一瞬だけ顔出して、おめでとうって頬擦りして直ぐ車でどこかに向かっちゃったもんね。
誠パパ一体なんでそんなに忙しいんだろー?
財閥の仕事の殆どは私とお兄ちゃん達が引き継いだのになー?
「っと、鈴ちゃん。だから、考え事しながら歩いちゃダメだってば」
「ふみ?」
「っもう。鈴ってば」
「…ふみ~…」
ついつい考え事しちゃう。
お兄ちゃん達がいるからつい甘えちゃうんだよね、きっと。
そんなこんなで怒られながら、大学に到着しました。
教室へ入って、窓際の一番後ろの席を取る。うん。ぬっくぬく。お日様の光がちょうどいい。
「王子」
「美鈴ちゃん」
「白鳥ー。よっすー」
入口の方から手を振って、円、優兎くん、風間くんが歩いてきた。
「あれ?三人共、この授業取ってたっけ?」
私と優兎くんは経営・経済学だから一緒でおかしくはないとして。円と風間くんは法学部じゃなかったっけ?
大体、授業開始までまだちょっと時間があったような…?
「優に呼ばれたんだよ。メール届いてなかったかい?」
メール?あ、そう言えば携帯放置してたんだった。慌てて鞄の中から携帯を取りだすと、確かに優兎くんからメールが来ていた。
「ごめん。全然気付かなかったよ」
「だと思ったから、こうやって直に来たんだよ。それでね、美鈴ちゃん。本題に入るんだけど。僕と樹先輩、それから猪塚先輩で来月から留学する事に決まったんだ」
「えっ!?」
本当にいきなりのが来たっ!
「結構急だね?」
「あー…。ちょっと気になる事があってね。それを相談したら樹先輩と猪塚先輩が、直に目で見た方が早いとか言いだして」
「要は、とばっちり?」
「みたいなもの、かな?まぁ、相談を持ち掛けたのは僕だから。何とも言いようがないんだけどさ」
「そうなんだー」
「でも一応三ヶ月の予定だから。夏休み前には帰ってくるよ」
「入学して間もないのに、大変だねぇ」
素直に同情すると、優兎くんが珍しく私にじと目を向けてきた。
「半分は美鈴ちゃんが、突然FIコンツェルンを僕に戻したのが原因なんだけど?」
「さー。そろそろ授業かなー?」
「こらっ。美鈴ちゃんっ。話を逸らさないのっ」
聞こえなーい。だって、元々は優兎くんの会社なんだから。優兎くんが面倒見なきゃ、でしょう?今までだって、FIコンツェルン関係の仕事は優兎くんに回して来てたしね。
そっかぁ。それにしても優兎くん達御曹司組も離れちゃうんだね。…あれ?でもママは御曹司組だけは関わりあるって言ってたよね?どう言う事だろう?
これはストーリーにそっているのか、違うのか。私は『無限―エイト―』をプレイしてないから解らないや。帰ったらママに確認してみよう。
「それでさ。白鳥。どうせなら今日花崎達入れた六人で一緒に飯食おうぜ。送別会って訳じゃねーけどさっ。なっ?円っ」
「そうそう。それで王子は平気かなって確かめる意味も込みで会いに来たんだ」
それは嬉しいな。
「じゃあ、お昼にカフェテリアで皆でお昼にしよっか」
家だと準備とかもあるだろうし逆に落ち着かなそうだし、送別会って事なら気兼ねない方が良いよね。
風間くんの発案に同意して頷くと、四で手早く待ち合わせの時間を決めた。そんな私の横に苦笑しながら座る優兎くんと二人で、円と風間くんを見送り、授業へと向かった。

「~~以上で、本日の講義は終わります」
……むむっ。何か所か納得出来ない箇所があるんだけど…。………これは…、後で鴇お兄ちゃんに聞いてみるべきか…。
教科書の説明と、教授の説明が自分の中で上手く噛み合わない。うむむ…こういうのって放っておくと解らなくなるんだよね。かと言って一人で教授の所に行くのも正直嫌だなぁ…。
うん。やっぱり鴇お兄ちゃんに聞いてみよう。
えーっと…今何時?十二時?ヤバい。そろそろ待ち合わせの時間だね。
教材を鞄に入れて、立ち上がる。優兎くんと授業が被ったのは最初だけだったし。今は私一人。
風間くんが華菜ちゃんと逢坂くんにも連絡したって言ってたっけ。じゃあ私は真っ直ぐ向かうだけでいっか。
男性恐怖症が薄まったおかげで、ちょっと怖いけど大学校舎内とか一人で歩けるようにはなった。それにこの大学なんでかエイト学園の出身者が多くて顔見知り度が高い。だから私の事情も知ってる人が多くてちゃんと距離を保って会話してくれる人が大半で凄く助かる。
「やっほ、白鳥さん」
「やっほ~」
「白鳥さん、今日午後は?」
「今日はなし~」
こうやって普通の会話も出来る様になった。これって凄い進歩っ!
そう言えば華菜ちゃんって今日午後に出てくるって言ってたよね?じゃあ、逢坂くんとちょっと早めに出てくるのかな?そうそう。華菜ちゃんと言えば。ママに華菜ちゃんの立ち位置の話も聞いたよ。
華菜ちゃんは、どの作品にも出てくる美鈴の親友兼情報役。エンディングって形はないにしても、ずっと一緒にいて支えてくれるキャラなんだって。それを聞いた時私心の底から嬉しくて泣きそうになった。うぅ…華菜ちゃん…。
…華菜ちゃんの事考えてたら、早く会いたくなって来た。
ちょっと急ごうかな。
大学って基本的に広い校舎多いよね。どこから行けば近道かな?えーっと…?右手に曲がると今は人が多いからかえって遅くなっちゃうよね?じゃあ、逆方向に行って、あそこの角を曲がって。

ドンッ。

「ふみっ!?」
誰かにぶつかったっ?
咄嗟に踏みとどまって倒れる事は避けたけれど。願わくば樹先輩じゃありませんようにっ!
「ごめん。大丈夫?」
ひぃっ!樹先輩じゃないけど、男の人だーっ!
「って、あ、白鳥さんか。ごめんね。前を見てなかったから」
顔を上げないと相手の顔が見えない、
って事は胸にぶつかったのかな?
そっと見上げると、そこにいたのは透馬お兄ちゃんより控えめのチャラ男系、見知らぬ人。
「えっと、こっちこそ、ごめんね。私も前、見てなかったから」
「ははっ。お互い様って事でいいかな?」
「も、勿論っ。そ、それじゃあ、ね?」
「うん。本当、ごめんね」
「こちらこそ」
そう言って直ぐに離れて、少し駆け足でその場を去る。ふみーっ!何でこう人にぶつかるのかなーっ!?こればっかりは前世からそうだった気がするからヒロイン補正は関係ありませーんっ!
猛ダッシュして、カフェテリアに駆け込む。
「あっ。美鈴ちゃーんっ!こっちこっちーっ!」
「華菜ちゃーんっ!」
手を振ってくれている華菜ちゃんのいる席、オープンテラスの方のウッドデッキの上に置かれた白い丸テーブルの所まで走って、衝突…抱き付く。
「どうしたの?美鈴ちゃん」
「知らない男の子にぶつかったー」
「あー…美鈴ちゃん、考え事してたでしょー」
「ふみっ?」
「今までは誰かしら側にいたけど、今はそうはいかないんだから気を付けなきゃダメだよ?」
「…………ふみぃ…。ごめんなさい…」
しょんぼり…。
華菜ちゃんの言う事があまりにも最もな所為で私は何も言えない。ただ謝るのみ。ごめんなさい。
六脚ある椅子の一つを引いて、華菜ちゃんの隣に座る。
「さて、と。美鈴ちゃんがしょんぼりした所で、何か頼んでおこうよ。恭くん、何が良い?」
「華菜。お前、白鳥にも容赦ねぇのな」
「愛情だよ、あ・い・じょ・お♪」
「愛情なんだっ?じゃあ、いいやっ♪えへへっ♪」
華菜ちゃんの愛情なら仕方ないねっ♪
「おーい…騙されてるぞー。白鳥ー」
えーっと何頼もうかなー♪そう言えばカフェテリア使うの初めてー♪
華菜ちゃんと相談して適当なスイーツを選ぶ。後軽食のサンドイッチとかね。飲み物は…これは個人で頼んで貰いましょう。
私はアイスティーを頼んで、華菜ちゃんと逢坂くん、三人で会話を楽しむ。
暫くして、円と風間くんが。少し遅れて優兎くんが合流した。
送別会とか言いながら、話す事は普段話す事と一切変わらない。
「あ、そう言えば、美鈴ちゃん。夢子ちゃんの出演する歌番組。そろそろじゃない?」
「え?あ、そうかもっ」
「私のタブレットで見ようよ」
華菜ちゃんが手早く準備してくれて、タブレットに歌番組が映される。おお、グットタイミングッ!
『驚愕の快進撃っ!初登場ランキング1位っ!MEIによる新曲っ!【きらめき☆ドリーム】ですっ!どうぞっ!』
アナウンスが流れて、ユメが登場する。ほわーっ!アイドル感バッチリーっ!キラキラふわふわな舞台衣装。髪色がピンクなのに衣装もピンク。全身桃色凄いね、ユメ。でも可愛いっ!可愛いよっ!そして踊りが超ハードだよっ!頑張ったんだね、ユメ。お姉さん涙が出そうだよっ!
「確か一之瀬のマネージャーに未がなったんだっけ?」
「そうそう。夢子ちゃんがアイドルになるって聞いて焦った未が追い掛けてったんだよね」
「ダチから聞いたけど、結構敏腕マネージャーらしいぞ?」
「って言ってもイチにしてみたら、未の顔もテレビに映るって嘆いてた。ライバルが増えるからそっちの方が嫌みたいだぞ?」
「アイドルとマネージャーだもんね、仕方ないとは思うんだけど。結婚とか難しくなるよね」
「あれ?でも確かユメが今の事務所と契約する時の条件として、未くんとの結婚を前提にってあったから大丈夫じゃない?MEIって名前も羊の鳴き声からとってるわけだしね」
画面を見ながら、皆でユメについて話していると、ふっと画面が陰った。え?なんで?
「それって、もしかして今超人気のアイドルMEI?」
え?誰?
私達が一斉に声の主に視線を向けると、そこにはさっきぶつかった男の人がいた。
「都貴(とき)くん?どうしてここに?」
都貴くん?優兎くん、知り合いなの?
目線だけで問いかけると、優兎くんはにっこり笑って頷いた。
「とってる授業が被る事多くて。良く話をするんだ。でも、どうしたの?」
「さっき白鳥さんとぶつかったんだけど。白鳥さん、これ落としてったから」
都貴とか言う男子が私に向かって手を差し出した。その手の平にはペンが置かれていた。子猫の模様が描かれたシャーペン。
「あ、私のペンっ。重ね重ねごめんね?ありがとう」
「いえいえ。どういたしまして」
素直にペンを受け取って、じっと手の平の中のペンを見る。…おかしいなぁ。ペンケースにちゃんとしまった筈なのになぁ…。鞄にしまおう…あれ?鞄のチャック、開いてない…え?
ちょ、ちょっと待って。どうして開いてないのに落ちたの?これ、本当に私のペン?…いや、私のだ。私のペンだって証拠に私がコッソリ付けているマークがある…。
ちらりと視線を落とし物を拾ってくれた人へと向けると、あちらも私の視線に気付いたのか、にっこりと微笑んだ。
う…怖い…。
「それね。結構前に拾ったんだ。返すの遅くなってごめんね」
「あ、あっ、そうなんだっ」
そうなんだ。前に拾ったんだったら、その時たまたま鞄に入れてなかったとかあるもんね。何だ、びっくりしたー。
「にしても、花島。君の友達って凄いな。美形だらけじゃないか」
「そう?まぁ、僕と恭平を抜きにしたらそうかもね」
「おい、優兎。そりゃ嫌味か?」
「そうだよっ、優兎くんっ。恭くんは一般的でも私にとっては超美形なのっ!」
「…華菜。フォローになってねぇ」
うん。なってないね。でも、逢坂くんが満更でもなさそうだし、腕に抱き付かれて嬉しそうだからあえて何も言わない。
「特にキャンパスのマドンナと知り合いってのも凄い」
キャンパスのマドンナ?誰?
「あぁ、うん。美鈴ちゃんとは幼馴染だから」
……へ?
つんつんと腕をつつかれ横を見ると華菜ちゃんが隣で私を指さしていた。
「キャンパスのマドンナ。美鈴ちゃんの事だからね?」
「えー?そんな馬鹿なー」
「美鈴ちゃん。そろそろ自分の可愛さ自覚しようね?自覚が男から身を守る為の一歩だよ」
「じ、自覚って言ったって。私より綺麗だったり可愛い人は一杯いるでしょう。華菜ちゃんだって可愛いし、円はどんどん綺麗になって行くし、優兎くんは美人だし」
言うと、逢坂くんは力強く頷き、風間くんは首がとれる勢いで頷いてるし。ほらー、皆同意してるよー。
「待って、美鈴ちゃん。最後が解せない」
「……優兎くんは美人だしっ!」
「二度言う意味はなにっ!?」
「大事な事だからねっ!」
ぐっ。親指を立てて優兎くんに突き出す。
すると、優兎くんは微妙な顔でこっちを睨んだ。
「優兎くん。美鈴ちゃんは美人だって言ったんだから良いじゃん。可愛いとか綺麗とかじゃない訳だし」
「そうそう。優は美形だって言った訳だろ?褒め言葉だって」
「二人共。笑いながら言われても説得力ないよ」
隣に座っている優兎くんがすっかり拗ねてしまった。
あらら?揶揄い過ぎたかな?
「ごめん。優兎くん。揶揄い過ぎたね。今日の晩御飯は優兎くんのリクエストに応えるから許して?」
「え?本当っ?美鈴ちゃんっ」
「うん。私の料理で良いならね」
「良いに決まってるよっ。嬉しいなっ。何にしようっ♪」
「ぷっ…」
うん?誰か今噴き出した?優兎くん?じゃなさそう。他の四人でもないっぽいし…。
ふと視線が一人に集まった。
「都貴くん。何笑ってるの?」
「…ふっ…ははっ、あははははっ!」
指摘されて増々おかしくなったのか、腹を抱えて笑いだした。
「花島、滅茶苦茶遊ばれてんじゃんっ、っははっ!おっかしっ!」
そんな涙流してまで笑うこと、したかな?
「あー…笑った。白鳥さんって結構面白いんだね。こう高飛車なイメージがあったよ」
「え?そうなの?」
高飛車…私からは一番遠いものだと思ってた。作って傲慢な感じを出す時は、誰かを威嚇する時くらいだしね。
「っと、そうだ。自己紹介がまだだったね。俺の名前は都貴静流(ときしずる)って言うんだ。よろしく」
「都貴くん?…うちの一番上のお兄ちゃんと同じ名前だね」
「そうなの?それは何かの縁かな?これから仲良くしてくれると嬉しいな」
「あ、うん。改めて白鳥美鈴です。よろしく」
手を差し出されたから、その手を握って握手する。
にっこり笑顔を送られたから、私からも笑顔を返す。すると、彼はあっさりと手を離した。
「じゃ、俺そろそろ行くから。白鳥さん、近い内に顔合わせるかも。それじゃあね」
都貴くんは颯爽と去っていった。
「……都貴静流。特に目立つ要素を持たない事なかれ主義の男。染めた茶髪と金のピアスが目印。似たような連中とつるんでる所為か更にモブ感が増す」
「…えっと…華菜ちゃん?」
「都貴グループの長男。下に妹が一人」
「華菜ちゃーん?もーしもーし」
「……………うんっ。却下っ!美鈴ちゃんの相手としてはあり得ないねっ!」
「品定めっ!?」
「美鈴ちゃんっ!あれはなしでっ!」
「な、なしも何も…そんな考え微塵もなかったよ」
開いてた手帳をポケットにしまい、何故か華菜ちゃんは大きく頷いている。華菜ちゃん、その手帳に何書いてるのかな?お姉ちゃん、それ気になって仕方ないなー?
「あ…イチの出番終わっちまった」
「オレ、一応家で録画してるぞっ?明日持って来てやろうかっ?」
「本当?流石ケンっ!頼むよっ!」
「そうだろっ!円の為だからなっ!」
「うんうんっ。ありがとう、ケンっ」
「へへっ」
う…二人の仲に割って入る勇気はない。けど、それ私の分も焼いてーっ。
「美鈴ちゃんには私が焼いてあげるよ」
「あ、ほんと?ありがとう」
「それに、これもRECってたから、もう一度再生しようよ」
「わーいっ!」
「流石、華菜ちゃん。抜かりないね」
皆で画面を再び覗き込むと、すっかり歌番組は終わりニュースへと切り替わっていた。
テレビだもんね。ニュースくらい流れるよね……って、え?
私はニュースの画面を見て、一瞬目を疑った。

『…○×自動車道にて、自動車の追突事故が起きました。その事故で、運転者『武蔵麗子』さんがいまだ意識不明の重体です…』

ニュースキャスターが淡々と読み上げて行く。
「ねぇ、これって…」
「うん。間違いないよ。武蔵先生だ」
「事故って…」
聖女時代の生徒会顧問だった先生で、凄く強い優しい先生だったんだけど…。本当に?嘘じゃなくて?
私は自分の携帯を取りだして、今のニュースについて詳しく調べてみる。
「…凄い。車がぐしゃりだよ…。意識不明でも一命をとり止めてただけでもこれは幸運だったよ」
「…美鈴ちゃん。お見舞い、どうする?」
「うん。一応行っとこうかな…。優兎くんはどうする?」
「行きたいけど。僕もうかなり…」
「だな。がっちりしてきたからな。昔の同級生と会って男とバレテも面倒だろうし。イチも今人気急上昇中で出歩くのは不味い。桃も正直無理だろ。動き回ってるし。愛奈は今近江と一緒に旅行中だ」
「じゃあ、私と円が代表して行こう。お見舞いの品は私が代表して選んでおく。お金は後できっちり割り勘するから安心してね」
「ならアタシは皆に連絡をしておくよ」
優兎くんの送別会なのに、様々な事が重なりなんだか送別会らしくなくなったなと皆心で思ってはいたものの、それ以上の衝撃で落ち着かなくなったのだった。

あの後、私は急いで帰宅して、真珠さんを巻き込んで色々準備をしていた。
「真珠さん。お見舞い品の準備お願いしても良い?」
「勿論でございます。お嬢様」
えっと後は、念の為にお見舞い品にお手紙つけておこうかな…。
自室でバタバタとしていると、コンコンとドアをノックされた。
誰だろ?
持っていた便箋と封筒を机の上に置いて、ドアへと急ぐ。ドアを開けるとそこには葵お兄ちゃんが立っていた。
「鈴ちゃん。準備出来た?」
「え?」
「…もしかして、忘れてる?今日会食があるって朝伝えたよね?」
「…………すっかり忘れてました」
そう言えばお兄ちゃん達がそう言ってた。
「忘れてたって珍しいね?…どうかしたの?何かあった?」
「中学時代お世話になった先生が事故にあって…」
「そうなの?それは、大変だったね…」
「うん…」
「そっちに意識を持ってかれてたんなら、仕方ないね。お手紙を書いてるって事はお見舞いに行くんでしょう?いつ行くんだい?」
「今すぐにって言いたい所だけど、多分今はご家族も色々大変だろうから…落ち着いた頃に代表で円と顔出すつもり」
「そっか」
「でも、意識不明の重体って言ってたから…覚悟だけは、しておかなきゃいけないかもね」
「そう」
ふっと俯くと、葵お兄ちゃんが優しく頭を撫でてくれた。……ハッ!?そうだっ!こうしちゃいられないんだったねっ!
「ご、ごめんねっ、葵お兄ちゃんっ。今すぐ準備するからっ」
わたわたわたっ。
会食に行く時の格好どうしようっ。ワンピースでいいかなっ!?ビジネススーツっ!?
「鈴ちゃん。無理しなくてもいいんだよ?」
「駄目だよっ。武蔵先生の事は辛いけど。でも私は今動けるから。やれることをやらないとねっ」
「…そう。解った。準備はもう少し遅れるって鴇兄さんに伝えておくよ。ゆっくり準備して」
そう言いながらもう一回私の頭を撫でて、葵お兄ちゃんは部屋を出て行った。
さてっ、準備しなきゃっ!
それから更に真珠さんを頼り準備を完了させた。
結局ビジネススーツになったけど、大丈夫だと思う。
リビングで待っていてくれた葵お兄ちゃんを呼んで、真珠さんが回してくれた車に乗りこむ。
後部座席に二人乗りこみ、目的の料亭へと向かった。
「少し、遅刻かな?」
「大丈夫。鴇兄さんと棗が生贄になってくれてるから」
「生贄って」
思わず笑ってしまう。
「間違ってはいないでしょう?」
「ふふっ。そうだけどね」
車に揺られて。葵お兄ちゃんと他愛もない会話をしていると目的地である料亭に到着した。
いっそ着物着て来た方が良かったかな?和の装いの店にドレスはちょっと…だろうし。ビジネススーツって言う選択は間違ってはいないとは思うんだけど。
女将さんに中を案内されて、会食の部屋へと移動する。おおー…如何にもな料亭の格式高いお庭がある。ふっ…ぶっちゃけ心の中はいまだ私には不釣り合いでびびっちゃう。
ちょっと長めの廊下を歩くと、目的地に到着した。何で分かったかって?それはね?
「鈴」
棗お兄ちゃんが部屋の襖の前に立っていたから。
「お待たせ。棗お兄ちゃん。鴇お兄ちゃんは中?」
「うん。そう。……鈴。葵から事情は聞いたよ。…大丈夫?」
あ…。心配かけちゃったんだね。
「大丈夫だよ。ありがとう。棗お兄ちゃん」
微笑んで、ついでに棗お兄ちゃんに抱き付いて英気を養う。うん。癒された。さて、と。行こうか。
女将さんに開けて貰い、にっこり微笑んで一礼した。顔を上げて会食の相手を確認して、うっと一瞬脳内で怯む。
「大変お待たせいたしました。都貴社長」
笑顔で流したけれど…都貴社長、…都貴社長かぁ…。正直苦手なんです。なんでかって?だってやたら鼻息荒く顔近づけてくるんだもん…。初対面で握手の時やたら親指でやたら手を撫でられた、あの気持ち悪さ。忘れられない…。
でも仕事だからね。今は我慢するしかない。何か他に企業的な悪い所見つからないかな、とか思ってないよ。うん。
「あぁ、総帥。来ましたか」
「えぇ。お待たせしました」
鴇お兄ちゃんが正座して、胡坐をかいている都貴社長とテーブルを挟んで向き合っている。外面モードバリバリって事はやっぱり鴇お兄ちゃんも苦手なんだよね、きっと。
すっと中に入って鴇お兄ちゃんの隣に座る。
「都貴社長。本日は私に合わせてこのような場を設けて頂いてありがとうございます」
「いぃえいぃえっ!美鈴総帥にお会いしたかったのはこちらですからなっ!この位当然でございますよっ!」
唾がっ、唾が飛んでくるっ!
どれだけ既に酔っぱらってるのっ!?今何時っ!?家を出たのが大体午後五時くらいだったから…ここに来るまでの移動時間も考えて…まだ六時とちょっと過ぎくらいだよね?もう泥酔してるんですけどっ!?下手すると貴方の下で働いてる社員たちがまだ動いている時間だって言うのにっ!
「いやいや。相変わらず美しゅうございますなぁっ!このような妹御を持てて鴇さんも幸せでしょうっ!」
「それはもう。とても幸せですよ」
と言いながら、もう一杯とお酌する鴇お兄ちゃん。どんだけ飲ませるのっ!?つんつんとばれないように机の下で鴇お兄ちゃんをつつくと、「うん?」とまた爽やかな笑顔を私に向けてきた。
…が。
その…目が、目が全く笑ってない。明らかにその瞳はこう言っている。
(いつまでも面倒な事に付き合わされて堪るか)
と。だからって酔い潰すのはどうなの?
くいくいっとスーツの裾を引っ張って、鴇お兄ちゃんが身を屈めたのを確認して耳打ちする。
「(何でさっさと飲ませちゃったの?話は?)」
「(話も何も、最初から俺を酔い潰させる気満々だったぞ)」
「(じゃあ、鴇お兄ちゃんが来た早々もう飲んでたの?)」
「(飲んでたし、飲まされた。まぁ、俺は酔わないから何の問題もない)」
鴇お兄ちゃん、ざるだからな…。
「(私、来る必要あった?)」
「(……一応な。これでもお前を押してる社長の一人だからな)」
「(うー…仕方ない。これも営業か…)」
面倒だなぁ…とあからさまに顔に出ていたんだろう。鴇お兄ちゃんが苦笑して頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「おおおっ!兄妹揃って美しいとは、眼福とはこういうことを言うんでしょうなぁっ!がっはっはっ!」
もう、ほんと、ほんとさぁ…。いるよね、ゲームでこんな感じの悪役。こうダルマ体型で手と足がおまけでついてるようなおじさん…。髪があればまだ……でも、ヅラだよね、あれ…。なんだっけ?バッハ?モーツァルト?とにかく作曲家風の髪型をしてる。どっから調達して来たの、それ。
「白鳥総帥。どうぞ、どんどん召し上がって下さいっ!ここは私の一押しの店でしてなっ!」
「えぇ。頂きますね」
ガハガハ笑ってるけど、食べろと言うなら食べましょう。確かに目の前に運ばれて来た料理は美味しそうだしね。箸を持って一口。うん。上品な味。美味しい。……ご当地の料理食べたいなぁ…とか思ってない。思ってないよ。…思ってるよっ。高級過ぎて良く解んないよーっ!
「所でっ、白鳥総帥っ」
「はい。なんでしょう?」
「失礼ですが今おいくつでしたかなっ!?」
本当に失礼だね、この野郎。女性に年齢は聞くものじゃないって昔から言うでしょうにっ!これがママだったら一発殴られてるよっ!?
私が答えずにいると、流石に不味いと思ったのか、慌てたように言葉を連ねてきた。
「いえねっ!悪い意味ではないんですよっ!ただねっ!白鳥総帥ももう結婚出来るお年でしょうっ!?」
あ、このパターン、まさか…。
「実は家に年の近い息子がおりましてなっ!良かったらどうですっ!?一度見合いなどっ!!」
やっぱり来たーっ!!
「都貴社長。私は今財閥の経営と大学とで一杯一杯ですので」
「実はですなっ!この店に既に連れて来ておるんですよっ!今呼びますから一回顔を合わせてはっ!?」
聞けよ、こらっ!
しかも話はあれよあれよと社長の中で進んで行く。
うわーん、助けてーっ!
双子のお兄ちゃん達は部屋の外で待機してるから、隣の鴇お兄ちゃんに全力でヘルプの視線を送る。鴇お兄ちゃんは分かってるとちゃんと頷いてくれて。
「おや?社長。まさか私から可愛い妹を取り上げる気ですか?」
にこにこと笑いながら、でっかい矢が都貴社長へと放たれた。
「がっはっはっ。鴇さん、妹御がいくら可愛いからって、いけませんぞっ!妹離れ兄離れしなくてはっ!」
そうじゃなーいっ!
鴇お兄ちゃんの矢が空振りしたーっ!
どうしよう。ここは一旦席を外すべきかな?
でも外したら話が進んでいた、とか嫌だし。かと言って都貴社長の息子とか会いたくないし……って、うん?都貴?…何か今日聞いた気がする。もしかして、都貴社長の息子って…。
そんな事考えてる間に、その息子が到着した。女将さんが開けた襖から堂々と都貴くんが入って来た。
「やっぱり…」
「早速会えたね。白鳥さん」
私はあんまり会いたくなかったんだけどなとは言えず、そうだねと当たり障りのない事を答えて頷いておく。
「あー。親父。また飲み過ぎて。いっつも我無くす程飲むなって言ってるだろ」
と言いながら都貴社長の横に座る。
「おおーっ、静流ーっ!見ろっ!お前の嫁さんだっ!」
「違います」
「照れてるのがまた可愛いだろっ!」
「違います」
「儂の嫁さんにしたいくらいだぞっ!この幸せものめっ!」
「………はぁ」
全く聞きゃあしない。仕方ない。こうなったら。
「これ以上人の話を聞かないのであれば、残念ですが都貴社長の会社との提携は打ち切りと言う事で」
言うと、焦った都貴くんが動いた。
「おわっ!?白鳥さんっ、待って待ってっ」
「ヒッ!?」
手を握らないでーっ!いきなり触らないでーっ!
振り払いたくても結構な力で中々難しいっ!
「親父、今はただの酔っ払いだからっ、発言真に受けないでっ!」
何で身を乗りだしてくるのーっ!?こないでーっ!!
「失礼。うちの総帥に気安く触らないで貰えますか?」
鴇お兄ちゃんが手を外してくれて、しかもその手を落ち着くようにと擦ってくれる。ふみ~…鴇お兄ちゃんがいなければ私気絶してたよ、きっと…。
「お兄さん、随分過保護なんですね。俺はただ同級生として、触れていただけなんですが?」
「同級生?そうなのか?美鈴」
「え?あ、うん。一応」
「成程。付き合う人間はちゃんと考えろよ、美鈴」
さっきは鴇お兄ちゃんがカチンと来てたみたいだけど、今度は都貴くんの方がカチンときたらしい。
ぎろりと都貴くんが鴇お兄ちゃんを睨みつけた。
「何か間違えているか?一応こちらは接待される側だ。来た早々俺を酔い潰そうとし、自分も酒に酔い、俺の大事な妹を無理矢理奪って行こうとするのが、接待か?」
ギッと睨まれて、都貴くんは怯む。
「酔っぱらってる所為でと言うが、接待で泥酔するのがそもそも間違いだ」
…まぁ、きっと予想以上に酔ってるのは鴇お兄ちゃんが仕返しとばかりに飲ませたのが悪いと思うけどね。
「仕事の話も満足にしない。大体あなた方のしたかった事は理解した。もとより美鈴と息子を政略結婚させるのが狙いだったんだろう?なら、もうここに用はない。行くぞ、美鈴」
立ち上がった鴇お兄ちゃんを見て、私も頷いて立ち上がる。
「ちょっ、白鳥さんっ、待ってよっ」
呼び止められた。さて、どうしよう。振り向いても良いんだけど、そうすると接待が長引く。そもそもこの一回で提携を切ろうとは私も鴇お兄ちゃんも思ってない。かと言ってここで甘やかしても良い事はないし。う~ん…?
「ほらっ、親父も呆けてんなっ。俺も白鳥さんにちゃんと謝るからっ、親父もそっちの白鳥さんの兄貴に謝れって」
「お、おおっ。そうだなっ。鴇さん、失礼したっ。つい気が急いてしまって。この通りだっ。今一度今度の商談の事を話してくれまいか」
「白鳥さんっ。俺からも謝る。だから、チャンスくれないか?」
……仕方ない、か。
私が座り直すと、
「いいのか?」
鴇お兄ちゃんが聞いてくる。それに素直に頷いて答えると、鴇お兄ちゃんも席に戻り商談が始まった。
その後の商談はすんなりと進み、ある程度まとまった所で私はトイレに行くと席を立った。
部屋を出ると、そこには双子のお兄ちゃん達の姿はない。きっとお兄ちゃん達の分もあるって言ってたから料理を食べに行ったんだろう。
トイレも来る時説明を受けて直ぐそこだと分かってるから、迷う事なく真っ直ぐ向かう。
うあー…女子トイレって落ち着く。男性恐怖症がいくら薄まって来てるからってなくなってる訳じゃないんだよーっ!!って叫べたらどんなにいいか…。
あの場は少し鴇お兄ちゃんに任せてゆっくり戻ろうかな。…喉乾いたし。お水貰ってこよう。何処に行ったらいいのかな?…人っこ一人いないよ…。部屋に戻って人呼び出しても良いんだけどさー?結局戻らなきゃダメって事だよねぇ…。
頭の中でぐーるぐる考えながら、部屋へと戻ると私の席にオレンジジュースが置かれてる。鴇お兄ちゃんが頼んでくれたのかな?
商談でずっと話しっぱなしだったから?何にしても有難いっ。流石鴇お兄ちゃんっ♪
鴇お兄ちゃんの隣に座って、そのオレンジジュースを一気に飲み干す。

………んんっ!?

しまったっ!?これお酒だっ!!
全部飲んでから気付くとかっ!?私馬鹿っ!?
と反省してももう遅い。これオレンジジュースで割ってるから分かりにくいけど、かなりきついお酒で割られてる。多分、ウォッカだ…うぅ…ふわふわする~…。
「美鈴?」
突然動きがおかしくなった私を不審に思った鴇お兄ちゃんの声が、この日最後の記憶になった。

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