婚約破棄なぞ王子は望んじゃいない

三木猫

文字の大きさ
3 / 4

中編2

しおりを挟む
「私と賭けをしましょう?」
王妃様がまたとんでもねーこと言いだしたよ、おい。
碌でもない事が待っていそうで素直に頷けない。でも私は知っている。
「それじゃあ、賭けの内容を説明するわね?」
王妃様が人の話を聞かないって事を…。
もう話が進んじゃってるし…。
陛下。そんな憐れみの視線を私に送らないで。同情するなら金…げふんげふんっ。これは言っちゃならんことだった。
同情心たっぷりのその瞳を、同情なんてしてないでどうにかしてよの視線でじっとりと睨み返す。あ、視線逸らした。ずるいぞ、陛下。
「賭けの内容は単純よ。どんな手段を使っても構わないから学園卒業までにウォルターに『婚約破棄』を宣言させたらクリスの勝ち。どう?」
「婚約破棄を宣言させたら?」
ちょっと待ってよ。それを言わせれたら私今こんなに苦労してねーよ?
「そう。その代わり、卒業までに宣言させられなかったら諦めて私のもとへ来て貰うわ」
「…セリーヌ。その言い回しだと若干意味が変わってこないか?」
「私のもとへ来て貰うわっ」
二回言ったっ!?
「…大事な事だったんだな…」
止めてよ、ハリー。私もそう思っちゃったけど。
そもそも嫁に行くって話じゃないの?あれ?私王妃様の嫁に行くのかしら?
「勿論勝負はフェアに行かないといけないから、ウォルターにこの事は内緒にして置くわ」
受けるとは一言も言ってないんだけどー。
「ね~え?クリス」
「は、はい?」
「クリスはウォルターの事、嫌い?」
嫌い?いや、別に嫌いではないわ。
首を左右に振る。
「なら問題ないわねっ!」
え?問題ないの?
「政略結婚ですもの。嫌いでないなら問題はないでしょう?」
「で、でも…」
「大丈夫よ~。余計なものは全て排除してあげるから」
外堀固められてる感が半端ないのは気のせい?
「気の所為ではないと思いますわ…」
ですよね。ハリーの言葉に素直に頷ける。
「さて。そうとなったら私も準備をしなくてはね」
「え?セリーヌ、様?」
いきなり立ち上がるから強制的に私も立たねばならなくなった。え?何?何事?
「早速結婚式の準備をしなくてはっ」
「え?え?セリーヌ様?賭けの話はどこへ?」
「あら?私は私で賭けに勝つ事を前提に動きますわよ~。おほほほほ~」
ちょっ、なにそのドレス捌きっ!?えっ!?もう姿消したんだけどっ!?
唖然とその姿を見送っていると、
「クリスティーナ」
陛下に名を呼ばれて慌てて陛下の方を見る。すると、陛下の瞳にはものっ凄い疲れが浮かんでいた。
「すまん」
謝られても…。
だが、今更どうする事もできまい。
こうなったら、賭けに勝つしか道はないんだな。
作戦会議も含め、私は陛下の御前から失礼し、急ぎ自分の屋敷へと帰った。勿論、ハリーを引き連れて。
私の自室へ到着して、侍女にお茶を頼み早速作戦会議だ。
「で?どうしたらいいと思う?まずはアンタを王子の前に差し出して子供作らせるでしょ?」
「おい、姉ちゃん。けろっと怖い事言うなよ」
「その流れは良いとして。流産するのも危険だから、とりあえず産む方向で行くでしょう?そうなると、男の子がいいと思うの。王位継承権を持つ子になるからね。となると、あなたの爵位がちょっと問題よね。あ、でも私の父様が爵位を与えれると思うから、そこは安心していいわね。…ハリー。頼みがあるの」
「…碌でもない予感しかしないけど、…なんだよ、姉ちゃん」
「男の子を産んで頂戴」
きりっ。
表情だけやたら引き締めてハリーに男児の出産を頼む。
「出来るかっ!」
「やって頂戴」
きりきりっ!
何かハリーが叫んでいるけれど、気にしない。私は弟を生贄にする事になんの躊躇いもない。
「やって出来る事と出来ない事があるっ!」
「大丈夫よっ!ヤってしまえば確実に子は出来るからっ!」
「やるの意味が違ぇわっ!!…あー…もう、姉ちゃん酷ぇよ…」
「え?あ、ありがとう…キャッ」
「褒めてねぇしっ!頬染めてんなよっ!!可愛いなっ!!この野郎っ!!」

………。
…………。
………………。

「冗談だって言えよっ!」
「え?何で?」
「何でって。ここは『なーんてね、冗談よ。さて、そろそろ本気で作戦考えましょうか』とか美しく言うシーンだろっ!」
「言わないわよ。本気だもの」
「うぅぅ…」
あ、崩れ落ちた。
「姉ちゃん。俺に対して愛情なくねぇ?」
「………………………………ソンナコトナイワヨ」
「嘘くせぇっ!!間が長過ぎるだろっ!!」
「もう。仕方ないわね。分かったわよ。子供を作るのは勘弁してあげる」
「ほんとか?」
「えぇ、勿論嘘よっ!」
「嘘かよっ!ぬか喜びさせんなよっ!」
いちいち五月蠅いわねぇ。ちっとも作戦が決まらないじゃない。
「じゃあ、なに?私に愛のない結婚をしろって言うの?それとも、ウォルター様に溺愛して追放されろって言うの?」
「いや、だから。さっきも言ったろ。王子の方が姉ちゃんに溺愛してるからそれはねぇって」
「どうしてそんな事が分かるのよっ。そもそもウォルター様からそんな言葉聞いた事ないって言ってるでしょうっ」
「……あ、あー…そっか。成程」
ぽんっとハリーが手を打った。何が成程なのよ。
訝し気にハリーを見るとハリーはそれはそれは可愛く微笑んだ。美女って得ね。
「姉ちゃん。可愛いなぁ。そっかー。あの王子が好きって言ってくれないから拗ねてたんだな」
「なっ!?そ、そんなことないわよっ!」
い、いきなり何を言いだすのっ!?私がそんな殊勝な訳ないじゃないっ!
「そっかそっか。姉ちゃんも王子の事好きなら話は別だよなー」
「す、好きってっ、どちらでもないって言ったじゃないっ」
あぁ、顔が熱いっ。もう、ハリーがいきなり変な事言うからっ!
「良く考えてみたら、前世の小説を読んでた時も王子がカッコいいってずっと言ってたもんな。今世で王子に折角会えても婚約破棄されてしまう令嬢に生まれ変わって王子の側にいられなくなるって知ってたら、少しでも王子の近くにいれるようにって思うよなー。そんでも好きって言われたかったんだ?」
「だ、だからっ、違うって、違うって言ってるのにぃ…」
耐えられないっ。
あまりの羞恥心にしゃがみこみ私は顔を両手で覆った。
「やべぇ…姉ちゃん可愛い…」
何かハリーが言ってるけど耳に入らない。
恥ずかし過ぎる…。私そんな事思ってないのにっ!

……本当に?

本当にそう思ってる?
小さい時、ウォルター様と初めてあってその美しさに見惚れていたのは誰?
記憶が戻った時、ウォルター様を小説の王子だと知って喜んでいたのは誰?
どうせ別れなければいけないのならと、傷が浅い内にと遠ざけようとしたのは誰?
ウォルター様に抵抗している癖に殆ど力が入らずそのキスにその体に胸を高鳴らせていたのは誰?

……全部、私だ。
無意識にそんな心の内から目を逸らしていたのは臆病な私。
結局私には前世で読んだ小説の悪役令嬢と同じ、王子を溺愛してしまう性質があるのだ。
嫌われてしまう性質があるんだ。
だから、ハリーに何度大丈夫だと思うと言われてもそれに納得する事が出来なかった。
「ハリーの、ばか…。こんな風に意識してしまったらもう、辛さしか残らないじゃない…」
立ち上がりハリーをぽかりと叩く。
八つ当たりだ。それがなによっ。変な事を自覚させたハリーが悪いんだものっ。私は悪くないっ。
「姉ちゃん…。ごめん、泣くほど王子が好きだったなんて思わなかったんだ…」
は?泣く?何言ってんの?
意味が分からず私は目の前にあるハリーの頬を撫でると、ハリーは俺じゃないと言いながら苦笑した。
そのままハリーの手が私の頬をなぞる。
「なぁ、姉ちゃん。王妃様の賭け。乗ってみようぜ。勿論、俺が孕むとかそう言うのなしで」
「…え?」
「俺がこんなんなんだから、王子はきっと俺に惚れたりなんかしないと思う。だから小説の通りには行かないとは思うけど。でも、王子の本心を聞くにはあの公開断罪を起こす必要があるんじゃねーかな?小説の中だとあの断罪のシーンが一番王子の本音をさらけ出していた気がするし」
やたらと大人びたハリーの瞳が安心させるように私を見詰めている。
「姉ちゃんだってこのまま他の女に王子が獲られるのは嫌だろ?婚約破棄して貰うにしても、断罪されるにしても、気持ちをはっきりさせた方が逃げるにしてもなんにしても効率がいいよ」
「気持ちをハッキリさせる…?」
「そ。王子も姉ちゃんも。何を求めてるのか、誰を求めてるのかをハッキリさせよう」
「う、ん…」
私がおずおずと頷くと、ハリーはにっかりと歯を見せて笑った。
「んじゃ、とりあえず俺はこのフェロモン使って、王子に言い寄ってみようかな?ついでに、姉ちゃんにやられたていで虐めとかされたフリしてみっか」
「え?じゃ、じゃあ私は何をしたら?」
「何もしなくいいって言いたい所だけど…。そうだな。あり得ないとは思うんだけど俺に王子がもし気持ちを傾けちまった時の為にアルビオン族の人用意しといてくんねぇ?」
「アルビオン族?」
アルビオン族ってあの巨人族の一種よね?変化が得意な。
この世界には多種多様な種族がいる。例えば今名前が出て来たアルビオン族って言う巨人族とか、逆にコロボックル族と言う小人族とかね。
アルビオン族は変化が得意、コロボックル族は魔法が得意だったりと色んな能力者がいる。その点人間はどっちも使えない。まぁハーフになると親から能力を引き継ぎ使える様になるけども。純血には敵わない。
「でもなんでアルビオン族?」
「もし王子が俺に気持ちを傾けたとしても、俺としては男とどうこうなるつもりはない。だから、代役として仕立て上げるのさー」
「成程」
納得。早速父様に頼んで呼んで置こう。一応ざっと事情も話して。
アルビオン族の里は結構遠くにあるから呼んで辿り着くのは多分、それこそ卒業式の時だろう。
それまでの間。
私達は様々に動いた。
私は婚約破棄の為に、ハリーをとことんウォルター様の側に放り投げた。その度ハリーに文句を言われ、ハリーが側にいる間はフェロモンにやられていた王太子様が我にかえって私とキスを巡って攻防戦を繰り広げたが今の所私の勝利に終わっている。
ハリーは王太子に本音を言わせる為に、小説の中の私がしていた事を全て自作自演をしていた。それを王太子にしなだれかかって報告。ハリーの言葉によればだんだんハリーを見る目がやばくなってきたそうだ。やっぱりヒロインだって事、だよね。ウォルター様はヒロインに惚れる様に出来てるのよ。
王妃様は王太子を婚約破棄から守る為に………何かしていたんだろうか?私には王妃様に本気で隠密行動されると知る事なんて出来ないよ。
途中私達一体何をやってるんだろうと思ったけれど。
あえてもうそこに触れる事はなかった。

そして、卒業式当日。
アルビオン族のキャロル様が到着した。
……ゴリラだ。
ゴリラがドレスを身に纏って優雅にしゃなりとお辞儀をしている。
あっといけない。呆気にとられてしまった。挨拶を返さなければ。
「は、初めまして。キャロル様。クリスティーナと申します」
「……うほ…っといけないいけない。ついこっちの言語の方が楽で…。ごめんなさいね?」
ゴリラ姿のままで令嬢言葉って…。
私達は学園の空き教室でキャロル様と話していた。
因みにキャロル様。変化の大きさは自由自在だそうで。今は私達と同じくらいの大きさになっている。
「あ、あの…人型になられた方が楽なのでは?」
「人型になると天井を突き破ってしまいますもの。変化をしている時だけ体格を変えられるんですのよ?」
「あぁ、なる程。そうなんですね」
納得。素直に頷いていると、何故かキャロル様は嬉しそうに目を細めて私を抱き上げて頬擦りした。
あの、地味に痛ぇんですけど…。ゴリラの毛ってこんなにごわごわしてるんだ…。
「色々事情はあると思いますが、こんな可愛らしいご令嬢に気持ちも伝えず、ウェンディ様に手を出そうとするなんて酷いですわっ。ちゃんと私がお仕置きしますからね」
「あ、ありがとう、ございますっ」
ごりごりごり…。
痛ぇっす。マジで痛いです。頬擦りって攻撃の一種だったんですね。
結局卒業式当日の今日まで、ウォルター様は婚約破棄を言いださなかった。
ハリーも色々頑張って私に思いを告げさせようとしたけれど駄目だったんだって。ウォルター様はハリーに惚れたんじゃないかな?ハリーは全力で否定してたけど。
ちょっと形は違えど断罪のシーンに近づいてるのよね。
「所で、クリスティーナ様?」
「はい。なんでしょう?」
「どうせ、お仕置きをするならばいっそこんな手はいかがでしょう?」
キャロル様は楽し気にその内容を口にした。
とってもとっても楽しそうなその作戦に私は一も二もなく頷いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※AIイラスト使用 ※「なろう」にも重複投稿しています。

あなたの絶望のカウントダウン

nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。 王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。 しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。 ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。 「本当にいいのですね?」 クラウディアは暗い目で王太子に告げる。 「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」

とある断罪劇の一夜

雪菊
恋愛
公爵令嬢エカテリーナは卒業パーティーで婚約者の第二王子から婚約破棄宣言された。 しかしこれは予定通り。 学園入学時に前世の記憶を取り戻した彼女はこの世界がゲームの世界であり自分が悪役令嬢であることに気づいたのだ。 だから対策もばっちり。準備万端で断罪を迎え撃つ。 現実のものとは一切関係のない架空のお話です。 初投稿作品です。短編予定です。 誤字脱字矛盾などありましたらこっそり教えてください。

処理中です...