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第十三話 不可解1

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あの日を境に、先輩達は学校でオレを見かけても顔色を悪くして逃げるように立ち去る日々が続いた

同じクラスの田中も、話しかけてもまるで空気のように返事もしなければ、蔑むような目でこちらを見て無視を決め込んでいる

「…まあ…そうなるよな…」

オレにとってみれば先輩や普段つるんでいる同級生ヤンキーとの繋がりは、特に惜しむこともなければ慣れないキャラを演じる事もなく気疲れすることもなくなってただただ穏やかな日々を過ごせていた

これもあの二人の仕業なんだと考えると、少し複雑な気分になる

しかし、ネットに流された画像や動画の事を知っているクラスメイトの人たちは、影でコソコソと何かを話しては、決してオレに近づくことはなかった

完全に孤立してしまったオレは、それに臆することなく今までの遅れを必死に取り戻すかのように堂々と勉強に明け暮れた
自分の身を守るのは、自分しかいない

この前の二人の不可解な行動に疑念を持つこともあるが、それ以上に今でもあの時のことを思い出すとやはり屈辱と苛立ちの方が勝ってしまう
その熱量を糧に、勉強の合間は必死に筋トレも行った

そして驚くほど穏やかな日々が三ヶ月も続いたが、忘れかけた頃にまたオレのもとに嵐がやってくる


「やっほー、マツリちゃん。元気にしてた?髪型変えたんだね」

「何だその眼鏡?マスクも…風邪引いてんのか?」

学校の帰り道、突然前からあの二人が姿を現した

「ッッ!」

声も出せずに身を硬直させたが、動かない足に喝を入れ踵を返して逃げようとする

「おいおい、まるでオバケでも見たかのような態度だな」

しかしそれは一歩遅く、呆気なく千紘の長い手に腕を掴まれてしまう

「……ッ…今更…何の用だよ…」

怖じ気付くことなく二人を睨みつけては、手を振り解こうと躍起になる

「そんなに警戒しないでよ~、せっかく久々に会えたのにー」

「オレはお前らに会いたくなんかない!ていうかどの面下げてオレの前に現れるんだよ!お前たちが何したか分かってんのか!?」

カッとなっては眼の前でニコニコと笑う市井に怒鳴りつけて、放せバカと続けて毒づいた

「俺達がお前の為にデジタルタトゥーが残らないよう動いてやったのに、随分な言い様だな」

「…え?」

「マツリちゃん、そこそこ有名なユー〇ーバーだったからね。画像や動画を消したり変な気起こそうとしてるオジサン達に忠告して回ってたらこんなに時間かかっちゃった」

「……動画…?」

先輩達から散々撮られていたコスプレ画像や動画
ネットに多量に流されていた為に、アカウント自体は消してもやはり一度ネットに上がってしまえば拡散は止められないモノだった

オレは途中からインターネットを見ることはやめ、出来るだけ姿を変えようと髪型を短髪にし暗く染めたりマスクや眼鏡で隠れるように地味に過ごしていた
それでも当初は学校帰りに後を尾けられる事が時々あり、遠回りをしては振り切って逃げるようにしていた

しかしそれも最近になってはめっきりと途絶え、連中も飽きたか諦めたものだと思い平和に過ごせていたものだとばかり思っていた

「お前がネット上では節操なく誰とでもヤりまくるビッチだと思われていたからな。キモい奴らがたかってくるのも無理はないわな」

「まあ、俺達もその一人なんだけどね~」

うるせえな、と千紘は市井を睨みつける
オレはその言葉が信じられずスマホを鞄から取り出しては、自分の事をエゴサした

すると画像や動画は勿論のこと、自分に特定するような名前すらヒットせずまるで存在しなかったかのように何も残っていなかった

「そんな…嘘だ」

「こういう時、親のコネがあると便利だよな。ということでビッチで淫乱ヤリモク少年のことは俺達しか知らないワケだが」

その言葉にカチンと頭にくる
言い返そうと口を開くが上手く言葉が見つからない

「かなり頑張ったからそれなりにご褒美欲しいよね」

市井がオレの肩に腕を回してくる
傍から見れば、完全にチンピラに絡まれるカモだ

「…今日は…お金はそんなに…」
 
そう言えば、この人にお金借りてたんだと今更ながらに顔を青くする

「前も言ったけど金じゃねえよ。分かるだろ」

「…………。」

分かりたくもない
そもそもなんでこの二人に目を付けられているのか未だに理解が出来なかった
それに、何故ここまでそんなに親しくもない相手にこれほどのお節介を焼くのか
ヤリたいだけならこの前のように力でねじ伏せてしまえば、どうとでもなるはずなのに

それでもやはり、この二人の顔や容姿を見ればまず相手に困ることはないだろう

「………何したら良いんですか…」

「とりあえずカラオケでも行く?」

「へ…?」

「ここから近い場所だと…やっぱあそこか」

そうだね、そこにしようと市井が賛同する
余りにも拍子抜けな提案に啞然としていたら、二人はこちらを見てフッと笑みを溢した

「なんだ?エッチなことが良かったのか?」

「…なっ!違う!」

「アハハ、それも良いけど最近受験のストレスも酷いんだよね。今日はパーッと歌いたい気分♪」

思わず怪訝な顔をしてしまう
そんなこと、二人だけですればいいのに
そもそも自分の必要性を全く感じなかった

「それ…ぼ…オレ要らないですよね…」

「絶対いるよ~!寧ろ必須!ほら、時間勿体ないから早く行こう」

「え…ちょ…待っ…!」

二人はこちらの言い分も聞かず、半ば強制的に連れ回されてしまう
早く目的地に行けば良いのに、無駄にウィンドウショッピングなんかをして、結局カラオケに着いたのは言い出して二時間後だった

店員に言われた部屋番号に入り二人は荷物を下ろすと、ドカッとカラオケルームに備え付けられたソファに座り込む

オレは未だに身を警戒させて、その場に立ち尽くしてしまった

「はーお腹空いた!ポテト頼んじゃお。てか何でそんなところ突っ立ってるの?座りなよ」

市井がタッチパネルでポチポチと何かを注文している
千紘はボーッと大きなテレビ画面に映し出されたPV映像やアーティストと司会のやり取りを見ていた

やはりこの状況が理解出来ない
別に友達でも何でもないのに、一体この二人は何を企んでいるのだろうか

「そこに突っ立ってるなら何か飲み物入れてこいよ。勿論帰ったりしたら分かってるよな」

「………はい…」

オレは一時の間だけでもこの異様な空間から抜け出したかった
フロント近くのドリンクバーに辿り着き、深く溜息を吐く

金曜の夕方だからか、割と学生が多く自分の通っている生徒もちらほらと周りに見えた

勿論話しかけるなんてことはなく、お互いに目が合っても遠くでヒソヒソと小さな声で耳打ちされるだけだ

「はぁ…帰りたい…」

また深く溜息を吐くと、後ろから何かが背中にぶつかる

「…ッ!?」

「何ボーッとしてんだよ。ほら」

後ろに立っていたのは千紘だった
空のグラスを差し出し、何か飲み物入れろと続けて言う

すると心無しか周りがザワザワと騒いでいる気がした
学生達はこちらをチラリと見ては、黄色い声が聞こえてくる

当の本人はグラスを持って水を入れては、オレに早くしろと急かすだけだった

(そうだよな、傍から見ればこの人はイケメンだ…あんなことされなければ僕だって目で追ってしまう)

そんな事を考えて他人事のように棒立ちになっていると、千紘がこちらを見ては流れるようにマスクをずらしてキスをしてきた

「………はっ!?」

「その眼鏡、似合ってない。マスクも邪魔だし、外せよ」

千紘はフッと目を細めて笑うとその場を後にする。去り際に早くしろよ、とだけ言い残し明らかに周りから悲鳴が聞こえてくるのをまるで無視して部屋に戻っていった

一方でそんな状況に一人置き去りにされ、気まずさと恥ずかしさで顔が真っ赤になったオレは、急いでグラスにコーラを注いではその場から逃げるように千紘を追いかけた

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