不良のオモチャ

メシウマ

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握られた弱み1

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ただの出来心だった

万引きの原因なんて、だいたいそんなモンだ

家庭事情とか、成績不振とか、人間関係とか、そんな他愛のない理由から、思春期の学生は、一番手っ取り早い“万引き”という犯罪に手を汚す

なにくわない顔をして、店員が近くにいないことを確かめると、スルリと学生カバンに適当なモノを滑り込ませた
そしてそのまま店から足早と去る

万引きは、これが初めてだった


だから俺は、最も見られてはいけない人間に、その光景の一部始終を撮られていたことに、気付くことが出来なかった


.


次の日の放課後、俺は担任から職員室に呼ばれる
勿論良い意味で、だ
この前の中間考査でまたトップになった俺は担任教師の自慢の生徒だった

「相澤、お前凄いな!本当に先生の誇りだよ」

まるでヒーローでも見るような羨望の眼差しに、俺は嫌気をさしていた

「先生、言いたいことはそれだけですか?じゃあ、俺はこれで……」

踵を返して歩き出す。この居心地の悪い自称教育者の溜まり場から一刻も早く抜け出したかった

「あぁ~待て待て相澤!お前は本当にツれないヤツだなぁ、まだ話はある!」

ピタ、と足を止め、きっと何か面倒なことだろうと思いつつ、担任教師の元へ戻る

「もうすぐ生徒会選挙だろ?お前立候補してみないか?」

やっぱりか、と眉間に皺を寄せたが、解すように手を目頭に当て、口を開く

「お断りします」

そして失礼しますと一言付けたし、担任の呼び止める声を聞き流しつつ、職員室を後にする

俺は教師が大嫌いだった
期待されればされるほど、慣れない優等生を演じるほど、ストレスは募っていった

だから俺はそんなストレスの解放から、あんな非行に走ってしまった


誰もいない教室に置いていたカバンを取りに行き、俺はすぐに帰路につく

足早と廊下を歩いていると、ふいに後ろから呼び止められる

「相澤く~ん」

聞き慣れないその男の声を少し怪訝に思ったが、後ろを振り向く

廊下を見渡すと、自分の隣のクラスの窓越しから金色の頭を出した、同じクラスメイトの東拓海あずまたくみだった

相澤優斗あいざわひろとくんだよね~?キミ」

教室の窓から背を向けた形で呼び止める東の頭は、金髪で、耳にいくつもピアスを開けいて、典型的な不良の代名詞のようだった

学校にもあまり来ておらず全く面識はないのだが、進級早々担任とゴタゴタを起こし、目の前で机が舞ったりしたせいで、その不愉快さは俺の記憶に嫌でも残ってしまっていた

「……そうだが…」

しかも不良のくせに、柔道段持ちで全国ベスト3という余計なオプションまで備えていた

俺はコイツと、心底関係を持ちたくはなかった

「ちょちょ、そんなとこつったってないでさ、こっち来なよ」

ニコニコと手招きをしてくる東に、少なからず悪い予感がした
どういった言い訳をして逃げようか、そんなことを考えて、その場を動くことはなった

「さっさと来いよ」

親しげに話しかけていた東は、動じない相澤に痺れを切らせ、本性をちらつかせる

俺はまともな言い訳を考えることも出来ず、重い足取りで東のいる教室に入った

「………なっ…!」

教室の中を見渡すと、一人の女性徒が東の性器をくわえている光景が目に飛び込んできた

「あ、もういいよミキちゃん。全然気持ち良くなかったわ」

東はそう言い女の頭を掴み強引に引き離す

「え~、ゴメンねたっくん、ミキ下手くそで…」

女性徒は、物欲しそうに東の目を潤んだ瞳で見つめた

「今日そういうのマジでいいから、帰っていいよ」

東はそんな女の目を見ようともせず、自分の性器をズボンに仕舞う

女性徒は、もうっこの遅漏!と怒って教室から飛び出していった

一方東は、お前が下手くそ過ぎんだよメス豚がとぼやいていたが、気を取り直して笑顔を俺に向ける

相澤はそんな光景を困惑しながら見ていて、言葉を発することも出来なかった

「あ~ゴメンゴメン、ビックリしちゃったよね?」

笑顔のままイスから立ち上がり、俺の方に寄って来る
端正な顔立ちに、高い身長、不良のクセに女たちに学校一のイケメンと囃し立てられ、まるでテレビに出てくるアイドルのような見た目のコイツは、一体何の用事があって俺を引き留めたのだろうか

「……さっきの子は………」

「あ、いいのいいの、気にしないで!勝手に舐めてきただけだから」

「はぁ」

イケメンというのは何もしなくても女が勝手に性処理までしてくるのか、と圧巻する

「…でさぁ話変わんだけどさ~、コレ、キミでしょ?」

東はつい今の出来事をもう忘れているかのように、ポケットからスマートフォンを取りだし、ディスプレイに映った動画を俺の目の前に向ける

そこには昨日万引きをした店の防犯カメラの映像の一部で、見事に自分の不審な姿が映りこんでいた

「相澤クン万引きは初めてだったのかな?ダメだよ~ちゃんとカメラもあるか見とかなきゃ」

ニコニコと笑いながら肩を叩く東の手に、動揺を隠せなかった
俺はケータイの画面を見つめたまま、黙りこむ

「あ、心配しないで?オレここでバイトしてんだけどさ、店長には俺から言っておいてあげたし、金は払っといたから」

コイツの不可解な行動に疑問が湧く
なんでそんなことまで…………

「ねぇ、聞いてんの?」

いつまでも黙っている俺に不良の顔が近づく、近くで見れば見るほどその顔付きは妖艶でいて、酷く恐ろしかった

「……何が……望みだ……」

声が震えてしまったことに自分でも驚き、気恥ずかしさで下を俯く

「おっ、なーんだ話が早いじゃん、さすが優等生」

バカにしたような口振りで、東は俺の頭を無造作に掴む
そして、俯いた俺の頭を強引に引き上げ、鋭い眼差しを俺に向ける

「お前、今日から俺のオモチャだから」

そう言って俺の頭を強く地面に叩き付け、背中を踏みつける
声も出ないほどの激痛に、涙が滲んだ

打ち付けられた頭を手で抑えながら、軽い脳震盪を起こし吐き気を催す

その苦痛の中で、俺は確かにそう思った


もうコイツから逃げられない、と
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