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第一章 冒険の始まり
5.正ヒロインに目もくれず
しおりを挟む「着きました。ここが俺の住んでいるナナギ村です」
「のどかなとこだな…」
勇者に案内されて俺は最初の村、ナナギ村へと辿り着く
ここでは本チャンのストーリーと分岐のサブイベがある
敢えて内容は伏せるけど、まず勇者が森に薬草採りに行く時に聖剣を見つけて戻る筈が、魔王側の手下もついでに連れて、しかも手まで繋いで村に戻るなんてハナからストーリー潰してるから、どうなってしまうのかが気になってしょうがない
「おー!ラシエル!ちょっと遅かったんじゃ…誰だソイツ」
村に戻って早速、ラシエルの親友であるフータスが出迎え光の速さで痛い所を突いてくる
「あ、この人は預言者様なんだ。実は俺…」
勇者が言い掛けて黙り込む
うーん、と悩んだ素振りを見せた後、俺にだけ聞こえるようにコソコソと小声で耳打ちした
「俺が急に動かなくなってリュドリカさんのおかげで動けるって言うと、キミが変に村の人達に疑われるかもしれないから、このことは俺達だけの秘密にしましょう」
シーッと目を細めて笑い掛けてくるラシエルはまるでいたずらっ子のようで、もうそれすらも尊すぎてカッコいいの言葉以外見つからない
「う…うん…」
ラシエルはまたフータスに向き合うと、俺のフードを深く被らせた
「この人はさっき魔物に襲われかけて、危ないところだったんだ。まだ少し怯えているから、そっとしておいてくれないか?」
事実を交えて淡々と告げるラシエルに、フータスはすぐに焦ったように返事をする
「そっそうなのか!それは怖い思いをしたな…何もないところだけど、ゆっくりしてけよ」
ニカッと太陽のように笑い掛けるフータスも、ゲームキャラの中でかなり人気がある
日に焼けて小麦色の肌と、ツンツンとクセのある短髪、弓の使い手で、いつも背中に弓矢を抱えている
そんな彼は、俺とラシエルが手を繋いでいることには特に反応は無かった
鈍いのか寛大なのかそこも彼の魅力の一つかもしれない
「ありがとう、フータス」
「おう。それより、その剣はなんだ?何だか淡い光を放っているような…まさか、それって…」
「うん…村長の言ってた聖剣だと思うんだけど…俺は今預かってるだけで実はこの人のものなんだ」
「えぇっ!?そうなのか!?この人の…ってコイツも勇者の末裔なのか!?」
「…………。」
うおおおい、黙って聞いてたら何か話がややこしくなってる!!
誰のせいだよ!俺のせいだな!フードを深く被っているせいでよく見えないがフータスがキラキラとした瞳で俺を見ている気がする
「いや…俺はそんな大した者じゃ…それに勇者はラシ…」
「おーい!みんな!ラシエルが勇者と聖剣を見つけて戻って来たぞ!」
「なッ…!?」
やめろバカヤロウ!!
フータスの一声で、村のみんながざわつく
そっとしておいてくれって、言ったよな!?
いつの間にか俺とラシエルの周りには、村の住人が囲うようにゾロゾロと集まっていた
「勇者だと…?俺はてっきり勇者の子孫のラシエルだと思ってたんだが…」
「あんなちっちゃいのが勇者…?てゆーかあれは誰だい?顔がよく見えないわ」
全く持ってその通りです。勇者はラシエルだし、俺とかホントに誰だよって感じですよね、分かります。でももう取り返しのつかないとこまで話が肥大してしまっている。どうにかしてここで誤解を解かなければ…
「ラシエル?誰よ、その子…」
「メルサ?」
メルサ!?あのメルサ・シモンドか!?
村で一番美人の女の子で、勇者の花嫁候補の一人。寧ろ一番の正ヒロイン
二つ結びのピンク髪に、同じく淡い桃色の瞳、線が細く華奢な身体は、誰もが守りたくなるヒロインの風格だ
そんなメルサが、俺とラシエルが仲良くお手々を繋いでいる様子を怪訝な目で見ている…気がする
「なに手なんか繋いで…」
そこで口籠るが、多分その後に出てくる言葉は気持ち悪い一択だろう
でもラシエルは特にうろたえる事無くメルサに面と向かって言う
「俺の大事な人なんだ。今は魔物に襲われて疲れているから、そっとしておいてくれないか?」
「は…ハァ!?大事な人!?」
大事な人!?ラシエルそれは大袈裟に言い過ぎだ!!
いやニュアンス的にはそれも合ってるのか!?それでもヒロインの心に嫉妬心を芽生えさせるのには十分すぎる言葉になってしまった
「どこの誰だか知らないけど、ラシエルに何か吹き込んだんじゃないでしょうね!?顔も隠しているしまさか黒魔術師!?怪しいわよアンタ!」
「メルサ!」
ヒロインが声を荒げて怒鳴ると、ラシエルが一言大きな声でヒロインを呼ぶ
それに驚いてメルサは目を丸くしながら黙り込んでしまう
「キミがそんな風に言うなんてガッカリだよ。失望した、もう暫く顔も見たくない」
「は!?ラシエル!?」
な!?勇者何言ってんだ!?
今までにないくらいに怖い顔でメルサを睨みつけて、ヒロインがめちゃくちゃ動揺してんじゃん!おい!
「な、なぁ…ラシエル…俺別に気にしてないから…」
小さな声でボソボソとラシエルに言うと、勇者は困ったような笑顔を向けた
「貴方って人は…本当に優しい方ですね」
俺を優しい目で見つめる勇者を、更に妬ましそうに見る正ヒロインがあまりにも気の毒すぎる。村一番の美人が台無しだよ
「おい、そんなことより村長のところに行った方がいいんじゃないか?」
見兼ねたフータスが助け舟を出さんと話に割って入る
ラシエルはあ、そうだねとまた柔和な顔に戻りちょっと待ちなさいよと引き留めるメルサを蔑ろにして俺の手を引いて歩き出した
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