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第五章 光風の国ブリサルト

44.第二のヒロイン

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「やめて!放して!」

驚くことに目に飛び込んできた光景は、ラシエルがフードの人物を組み敷き、聖剣を取り出そうとしているところだった

「んなっ!?何してんだよ!?」

俺はラシエルの元へ駆け寄り後ろに回された右手を必死に抑える
ラシエルはそれでもフードの人物の首根を掴んではそこから退こうとしなかった

「お前、さっきのは何だ。怪しい光を出して、何か悪いことを……」

「ら……ラシエル様……?」

地面に抑え込まれた人物が、ラシエルの名を口にする
ラシエルはピクリと肩を揺らした

「……お前……いや、貴女は……」

フードが捲れ、漸くその人物の顔を捉えたのを確認すると、俺は隙を見せたラシエルの肩をもう一度強く押す

「早く退いてやれよ!失礼だぞ!」

「あ、はい……すいません」

ラシエルはサラの上から退いて、もう一度頭を下げた

「大変失礼致しました。王女様」

「大丈夫ですよ。……久しぶりですね。そんな堅苦しい呼び方しないで下さい、昔みたいにまた名前で呼んで」

「いえ……そういう訳には……」

二人のやり取りを横で見る
余所余所しいラシエル。何だか新鮮だなあ
まあ本来のストーリーではサラに対して飛びかかる、なんてことはしなかったけど、その後の二人の再会シーンは同じだ。よしよし、ヒロインパワーでこのまま二人の仲を取り持てば、きっとラシエルはまともに戻る筈だ
俺は意気揚々としながら顔がニヤける

「でも、どうしてこんな所に?ここは今厄病が蔓延していて危険だというのに」

「それは……彼に連れられて」

ラシエルは俺の方を見てくる
急に話を振られた俺は、焦って挙動不審になった

「あっ、俺っ…?」

「はじめまして、サラと申します。貴方は……」

「俺の嫁で」
「ン゙ン゙ン゙ッッ!リュドリカです!お会い出来て光栄です!」

あっぶねぇ!いきなりなんて爆弾発言をしようとしているんだコイツは!
サラはラシエルの言葉を上手く聞き取れなかったのか、俺の返事に対してだけよろしくお願いしますねと答えた

「………。貴女こそどうしてこんなところに?カタルアローズは今……」

「はい、魔王が復活してお父様とお母様は監禁されています。国民も既にみな洗脳に掛かってしまい国から出る事も出来ないようです」

サラはハッと気づいたように、取れていたフードを深く被り直した

「私は……お父様のおかげで唯一逃げ切れました。王都から遠く離れたこのブリサルトは、魔王の力が及ばないとお父様が……」

あー、そういえばあったね。そんな設定
あれ?そしたら俺のこのパールのネックレスも、ここにいれば爆発することはないんじゃないか?最近通信が来ないのも、そういうことなのか?

サラは辺りを見渡し、身を竦める

「しかし、既にここは魔王の息がかかった後でした。この国の女王は今……」

サラはそこまで言うと、口籠る
言って良いものなのか、考えている様子だ

「魔王によって姿を変えられ、ここから西に向かった先にある洞窟に身を潜めています。私は治癒の力があるので、女王を助けようとしたのですが……硬い鋼鉄が身を覆い、私の治癒魔法が防がれてしまうようです」

「じゃあ一体どうすれば……」

「女王の神器である弓矢を、鋼鉄の関節部分に打ち込むのです。場所は全部で八つ。そうすれば、あの硬い鋼鉄は剥がれ落ちる筈です」

サラが洞窟に向かった時には、女王ミジャルーサの意識はまだ完全に魔物に取り込まていなかった
その時に女王がサラに頼んで、城から弓矢を持ち出して来るよう頼まれているのだ

しかしサラも魔王軍から追われる身。簡単に身分を明かすのはリスクを伴う
女王がいない今ブリサルト城に入ることは困難で、サラも身を隠しながらの街の人々の治療に追われていた

ここで勇者ラシエルが行うのはサラの身分を敢えて明かし、国のヒーローとして王室に認められることだ
サラが治療に集中出来るように勇者はサラに近づく魔王軍の一味を倒し、厄病に苦しむ人々を探し出す
そして街の評判度を上げたサラは王室に認められ、中に入る事を許される

そして神器である弓矢を取り出し、完全に正気を失った女郎蜘蛛と化したミジャルーサに挑む

「その女王の神器はどうやって手に入れるんですか?」

「それが……私もそこで行き詰まってしまい…城に入る方法がなくこうして街の人々の治療に明け暮れていました」

「身分を明かさないのですか?」

「はい……一部の魔王軍が私を追っているので……それに、明かしたところで女王がいない今、誰も城に入ることは出来ないのです」

「………。」

ラシエルは考えるこむ
俺は、その横でまるでリアルBSBゲームのストーリーを鑑賞している事に感動し、敢えて黙って二人のやり取りを見ていた

「それならば、身分を明かしてもっと大胆に治療を行いましょう」

「そ……そんな事をすればすぐに魔王軍に見つかって……」

「俺が倒します。貴女は治療に専念して、国民からの支持を得るのです。そうすれば女王がいない今、国の救世主としてきっと認められる筈ですから」

「それは……任せて良いのですか?」

「お任せ下さい」

サラは金色の大きな瞳を揺らす
ラシエルを見つめるその目には、少なからず特別な感情が芽生えているのがすぐに分かった

この二人、なかなかいい感じじゃないか?
俺はよしよしとそんな二人の様子を見ている

「本当にありがとうございます。貴方は昔から変わりませんね」

「いえ、当然のことですから。困った事があればすぐに助けます」

仲睦まじく笑い合う。
サラとラシエルの顔を交互に見るとチクリ、と何か違和感が胸に残った

……?何だ?

このモヤモヤとした感情の正体を、リュドリカはまだ知らない






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