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第3章

第26話 お姉ちゃんは12周目で折れる part6

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 セレナと一緒にお城へ向かい、門番に招待状を見せる。
 正真正銘、ラウル王子の直筆なので文句の一つもなく門は開かれた。

「リリーナ・アッシュスタイン様、先日の非礼をお詫び致します」

「へ!? な、なんのことかしら?」

「殿下の客人とは知らず、あなた様の言葉も聞かずに追い返すような真似をしてしまいました。門番失格です」

 止めろっ! セレナの前でその話をするなっ!
 心の中ではブチ切れているが、そんなことは言えないから諦めて微笑み返した。

「お詫びするのは私の方です。あなた様は与えられたお仕事を全うしただけなのですから」

「なんと慈愛深いお言葉。痛み入ります」

 私、あなたの主人でも何でもないのだけれど。
 そんな風に頭を下げられるとますますセレナが怪しんでしまう。というか、もう遅い。

「さぁさぁ、行きましょう」

 案の定、不審がっているセレナの背中を押しながら門をくぐり、お城の中へと入っていく。
 案内役のバトラーに連れられ、ラウル王子の部屋へ向かっている途中、中庭のテラス席が目に止まった。日当たりのよい場所に設置された純白のテーブルと椅子が光を浴びて輝いている。

「やぁ、ようこそ。セレナ嬢、リリーナ嬢」

 丁寧にスカートを摘まみ、軽く膝を折って挨拶するセレナ。
 私も同じように挨拶したが慣れない。見知らぬ貴族たち相手であれば演技の一つもできるが、相手はラウル王子の顔をした日本人だ。
 そんな感情が顔に出ていたのだろう。彼は苦笑いをこぼし、着席を促した。
 丁寧にスカートを折りながらソファに腰掛ける。
 セレナは落ち着かないのか、膝の上で小さく手を動かしていた。

「これは非公式の茶会で、きみたちを友人として呼んだまでだ。あまりかしこまらないでくれ」

 そう言われてもセレナの表情は硬い。
 多分、それが普通なのだろう。私が砕けすぎなだけだと思う。
 しかし、それでは困るのだ。これからセレナに婿候補を紹介するのだから、少しでも警戒心を解いておきたい。

「殿下、今日の外は風が心地良いです。こんなに良い天気なのに部屋の中に居ては勿体なく思ってしまいますね」

 ぼけーっとしているラウル王子は「そうだなぁ」とおじいちゃんみたいな感想を述べながら窓から空を見上げた。
 違う、そうじゃない。私たちを外に連れ出しなさいよ。

 ポンコツ王子に私の心を察することは難しかったらしい。
 本当に大学生あるいは社会人なのか?
 業を煮やした私は咳払いを一つして、セレナに見えないように窓の外を親指で指し示した。

「あぁ! 外に出ようか。王宮の庭園は陽がよく当たって気持ちいいんだ」

 ラウル王子の後に続き、庭園に出た私たちは隣同士に純白の椅子に腰掛けた。
 彼は私の前に座り、セレナの前の一席が空席となる。
 ラウル王子がメイドに目配せをすると、紅茶の準備をしたメイドはティーカップに紅茶を淹れずに廊下の方へ行ってしまった。

 私はおもむろに立ち上がる。
 ティーポットを持ち上げ、軽く揺すってからラウル王子のティーカップに紅茶を注いだ。

「どうしてリリーナが?」

 声を出すことを躊躇うように遠慮がちに発せられた疑問。
 私はセレナの声を聞くまで無意識的に行動していた。

「あ、いや、これは。その……」

 先日、ラウル王子と一緒に貴族名簿を読み漁っていた時にメイドを追い出したのが仇となった。
 あの時も私が彼に紅茶を淹れた。セレナが声を出さなければ「砂糖は2つでいいわよね」と口走っていたかもしれない。

「流石は姉だな!」

 言い訳が思いつかず口ごもる私に助け船を出すようにラウル王子が大声で言った。

「うちのメイドには後で言っておく。気を悪くしないでくれ。うん! リリーナ嬢の淹れてくれた紅茶は美味いな。セレナ嬢も遠慮せずに飲んでくれ」

「は、はい。ありがとうございます。いただきます」

 いまいち納得していない表情のセレナが一口、紅茶を飲んで息を吐く。

「美味しい」

 そう。ここの紅茶はとても美味しいのだ。
 私は注いだだけだが、なんだか嬉しくなってしまう。

 席について、同様にティーカップに口をつける私にジト目が向けられていることに気づく。
 これでお互い様か。
 私は口をへの字にして謝罪と感謝の代わりとした。
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