王道ですが、何か?

樹々

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第四王道『異世界にトリップ、てきな? Ⅱ』

2.夢からの現実、現実からの夢?

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「萩野君!」

 耳横で呼ばれ、目が覚めた。

 目は覚めたはずなのに、室内は薄暗い。淡い光に照らされた知らない部屋。先ほどまで居たマーブル色をした空はどこにもない。甘い匂いを放つ湖も。

 俺は誰かに覆い被さっていた。この抱き心地は、先輩そのもので。俺を引きはがそうとしていた先輩の手に押される形で離れた。

 先輩はパジャマ派だ。きっちり上までボタンを填めて眠る。彼はいつものベッドで寝て、その下に敷いてもらった布団で寝ていたはずだった。

 それが俺はベッドに乗り上がり、寝ていた先輩を襲っていたのか、パジャマのボタンは全て外れていた。アンダーシャツはめくれ、首筋には俺が付けたのだろう、キスマークまで付いている。引き下ろしたズボンは足下にわだかまっていた。

 唇が、淡い光の中でも分かるほど、濡れていた。

「……ぁ、お、俺……!」

「とにかく、降りてくれ」

「ぁ、は、はい!」

 転がるようにしてベッドから降りた。先輩がゆっくりと体を起こしている姿を見守るしかない。

「……うぐっ」

「……!」

 まさか、ディープキスを仕掛けていたのか。慌てて小さなゴミ箱を持ってきた。吐きたいなら吐いてしまった方が楽になるだろう。

「すみません! 吐いちゃって下さい!」

「……大丈夫」

「でも!」

 明かりを付けると、顔面蒼白になっていた。何度もえづいている。背中をさすってやりたいけれど、今、俺が触れるとそれはそれで嫌悪感が増してしまうかもしれない。

 目の前で好きな人が苦しんでいるのに何もできない、苦しませている原因が自分だと思うと、胸が苦しかった。

「……泣かせる、つもりはないんだ」

「……え?」

「そんなに……苦しんでいたとは知らず、済まない」

 苦しんでいるのは先輩だろうに、言われた意味が分からなくて、ゴミ箱を持ったまま困惑した俺の頬に先輩の手が触れた。その手が、濡れている。

 初めて、自分が泣いていたことに気がついた。先輩の手が拭ってくれる。

「……体を洗いたい。妹に見つからないように行こう」

「……ぁ、お、お先にどうぞ。俺は後で……」

「いいから、行こう」

 ズボンだけは引き上げて、先輩が先に部屋を出て行く。時計はもう、深夜一時を回っている。なるべく音を立てないよう、先輩を追いかけた。

 二階の一番奥が妹の部屋になる。階段を降りて行くと、先輩が先に浴室に消えた。シャワーの音が聞こえ始めてから俺も中に入った。歯ブラシを手に取ると、力無く磨いた。



 終わった。



 きっと、先輩に嫌われた。お付き合いも解消されるかもしれない。最悪、先輩・後輩の立場も危うくなるかもしれない。

 鏡に映る自分の顔を殴りたくなる。寝ぼけていたとはいえ、恋人関係だとはいえ、その気が無い人を襲ってしまうとは。

 何故、あんな夢を見たのだろう。妹・律子の影響だろうか。

 今日、先輩の家に遊びに来て、律子の質問に応えたり、モデルをしたりしてはいた。いきなり裸になってくれと言われたのには驚いたけれど、先輩にとっては可愛い妹で、頼まれたら断れなくて。

 先輩をモデルに模写した物を見せてもらう代わりに俺も脱いだ。時には先輩と絡むようなシーンもせがまれて、内心ラッキーと思っていた。

 モデルが終わり、約束通り見せてもらった先輩をモデルにしたキャラクターたち。その中に、金髪・碧眼のイケメンもいた。それが夢になって出てきたのだろう。

 俺の願望を叶えるような、性に素直な先輩になって。

「……はぁ~」

 口の中をゆすぎ、ついでに顔も洗った。冷たい水で洗っていると、浴室のドアが開いた。口から心臓が飛び出すとはこのことだろう、驚きのあまり体が揺れた。

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