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第五王道『SUN SUN! 七拍子☆』
☆2☆仲間入り
しおりを挟む眩しい太陽の光。
流れ落ちていく汗。
洗練された見事な振り。
男の中の男。
汗臭い青春ドラマの一ページのような、そんな瞬間に立ち会いたい。
いや、俺がその青春を感じたい。
女達だけでなく、男達にも憧れてもらえるような、あの人のような、男になりたい。
あの人のように。
強い男に!
俺はなりたいんだ……!
ギュッと力強く握り拳を作った。顔がもふっと何かに埋まる。
顔に当たっている、柔らかい物。
触り心地が良くて、抱き寄せた。もふもふしている手触りと、良い感じに胸に収まるフィット感に、頬をすり寄せる。
ああ、きっとあれは、夢だったのだろう。
新しい土地、新しい環境、新しい学校での生活が始まるから。きっと心が緊張して、憧れていた先輩の変な夢を見てしまったようだ。
望月聡先輩が、ピンク系のふわふわした物が好きだなんて、ありえないだろう?
俺は馬鹿だ。
憧れすぎて、失礼な夢を見てしまうなんて。
今日こそが、私立四季高等学校の寮に入る日のはずだ。だいたい、運良く同部屋になるはずがない。何を勝手な夢を見て、失礼なことを思ってしまったのか。
望月先輩はきっと硬派で、男の中の男で、いつだってクールなはずだから。決してピンクなんて好きな色ではないはずだ。
「故郷、起きてくれ。そろそろ起きないと、朝食が無くなるぞ?」
ふわりと、頭を撫でられる。優しい手は、母の手だろうか?
子供の時以来だ、母に頭を撫でられる夢を見るなんて。今度はホームシックにでもなったのだろうか。まだ寮にも入っていないのに。俺ってちょっと恥ずかしい。
胸に抱いていた物に顔を埋めながら、いやいや、とぐずった。もう少し眠っていたい。
「ほら、起きてくれ。故郷、なあ、おい。……あんまり可愛い姿でぐずらないでくれ」
そっと、頬に手を当てられた。やけにリアルだった。
母の夢にしては、手が大きい気がする。頬に当たっている手も、まるで本物のようだった。
あれっ、と思い、重たい瞼を開けた。目に飛び込んでくる、白と黒の物体。
もふもふしていた物は、パンダの抱き枕だった。大きめの瞳が、俺をキュルンと見つめている。
「…………ぇ」
俺にぬいぐるみの趣味は無く、抱き枕を使ったこともない。これは一体、誰の悪戯だ?
姉か? 俺をからかっているのか?
じっとパンダの抱き枕を見ていた俺に、黒い影が差す。
「寝癖、凄いな。天然パーマだからか?」
また、頭を撫でられた。目を擦りながら見れば、望月先輩で。
夢の中をまださ迷っているのだろうか。どうして望月先輩が居るのだろう?
着替えを済ませたのか、白いシャツにジーンズ姿で俺を微笑みながら見つめている。その手は、優しく、優しく、俺の爆発した天然パーマを撫でている。
「可愛いな……本当に可愛いよ。抱っこしてみて良いか?」
「………………!!」
一気に目が覚めた。身を乗り出そうとした望月先輩が現実の人で、本当に俺と同部屋で、ピンク系が大好きで、ぬいぐるみが超好きな応援団長だということを思い出す。
あまりのショックに、昨日は夕飯も食べずにベッドで眠ってしまった。荷物もそのままになっている。気遣ってくれた望月先輩の背後にあるピンクの世界がどうしても受け入れられなくて、布団を被って眠ってしまった。
このままでは危険だ。ぬいぐるみにされてしまう!
飛び起きた瞬間、二段ベッドの天井に額を打ちつけた。激痛が額に走る。
「おい、大丈夫か? 天井が低いんだから気を付けろよ?」
長い腕が伸ばされる。額を押さえて丸まった俺を軽々と持ち上げ、ベッドから降ろしてしまった。
そのまま、膝に抱えられてしまう。胡坐をかいた望月先輩の膝に、俺はお姫様抱っこをされていた。
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