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第五王道『SUN SUN! 七拍子☆』
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しおりを挟む「……ふぇぇ~~!」
「……マジか! お前ガキ……あぁ、くそっ!」
言い掛けた言葉を飲み込み、立ち上がった木原先輩がグッと抱き締めてくる。身長差で負けている俺は、広い胸にすっぽり収まってしまった。
俺はこんな風に、例えばか弱い女子を抱き締められる、逞しい男になりたいのに。
体も、そして心も、先輩達みたいに強くなりたくてここに入学したのに。
振り切れてしまう、この泣き癖を直したかったのに。
「俺も入る~~~!!」
「駄々っ子か! 頼むから、とにかく泣き止んでくれ! こんな所聡ちゃんに見られでもしたら……!」
焦ったように、大きな手が頭や背中を撫でてくる。それでも応援団に入部して良いとは言ってくれない。
ますます涙が溢れてきた時、生徒会室のドアがノックされた。返事も待たずにドアが開く。
四季高等学校の制服に着替えた、望月先輩が慣れた様子で入ってくると、ピタリと足を止めた。
ぐずぐず泣きながら、そんな望月先輩を見つめた。
学らんじゃなくても、格好良かった。制服姿も様になっている。内側から溢れ出る男らしいオーラのせいだろう。
身長が伸びる予定で買っただぶだぶの制服姿の俺とは別次元だ。
スッと、潤いのある黒い瞳が細められている。後ろ手にドアを閉めた望月先輩に、木原先輩が俺を離して一歩、後退した。
「ま、待て、聡ちゃん。何か誤解しているようだが……」
「……誤解? 故郷が泣いているのに、何の誤解がある?」
「これはだな……」
後退する木原先輩に迫るように、大きなテーブルを回り込んで来ようとしていた望月先輩。
ぶわっと涙を溢れさせた俺は、憧れの、男の中の男である望月先輩に、思い切り抱き付いた。
「俺も入る~~!!」
「…………故郷?」
目を細めていたはずの望月先輩は、俺を温かい優しい目で見つめてくれた。ぐずぐず泣いている俺の両頬を両手で包み、しゃくりあげながら話す言葉を聴いてくれる。
「何で駄目なの!? 俺……俺も……先輩と一緒が良い……!!」
「俺と一緒? 何を?」
「お……おうえ……応援団……入りたいのに……! だ……駄目って……!」
望月先輩の制服を握り締めた。涙目で見上げる俺を見つめ、そっと両腕を伸ばして抱き締めてくれる。天然パーマをゆっくり撫でた望月先輩は、俺が落ち着くように背中をポンポン叩いた。
「故郷が入部したいのなら、俺は構わないよ」
「聡! お前、約束が違うぞ!」
ちゃん付けを外し、厳しい声を出した木原先輩を静かに見つめた望月先輩は、低音で囁いた。
「故郷が入部できないのなら、俺は団長を辞める」
「……何だと!?」
「こんなに泣いて……可哀想に」
チュッと、天然パーマにキスされた。
「……故郷……」
優しい声にしがみ付く。何度も撫でてくれる大きな手。
「…………可愛いな」
濡れていた俺の頬にもキスしている。紅くなっているだろう俺の唇にも、そっと重ねてきた。
近い顔。
重なっている少し大きな唇。
涙で霞む視界に映る、長い睫。
しゃくりあげていた息が止まってしまう。
重なっているのは、望月先輩の唇で。
重ねられているのは、俺の唇で。
目がパチクリした俺と同様に、木原先輩の目も信じられないと目が何度もしばたいた。
「聡――――!! それだけは駄目だと言っただろうが!!」
叫んだ木原先輩に、ハッとなったように望月先輩が離れた。自分の唇に手を当てている。
見上げていた俺と目が合うと、僅かに頬を赤く染めた。
「す、すまない! 紅い唇があんまり可愛くて……!」
望月先輩の親指に唇を拭われた。呆然としてしまった俺の天然パーマを何度も撫でてくる。
「ごめんな。本当にごめん。泣いてぐずっている故郷がこんなに可愛いなんて思わなくて……」
「……か、可愛い……?」
「ああ……本当に……可愛い」
囁きながら、当てられたままの親指で唇をなぞってくる。
泣いていたことも忘れ、背筋に冷たい汗が一滴流れた。
顔と顔の距離があまりに近いことを改めて意識し、踏んではいけない地雷を踏んでしまったとようやく気が付いた。
「……故郷……」
「お、俺! やっぱり諦めます!!」
おでこに受けそうになったキスをサッと避けた。目元をゴシゴシ袖で擦り、少しずつ後退していく。
「空手部で頑張ります!」
「故郷……」
「我がまま言ってごめんなさい!」
ペコリと一礼し、逃げるように生徒会室を飛び出した。
「故郷! 待ってくれ!」
望月先輩の声がしたけれど、ドアを閉めて廊下を走っていく。
ひたすら走っていく。
ひたすら、ひたすら、走っていく。
ポロリと、零れた涙を飛ばしながら。
「……応援団が~~! 俺のファーストキスが~~~!!」
どちらも憧れている望月先輩のせいで叶わず、奪われるとは。
何に対して泣けば良いのかも分からないまま、泣きながら廊下を走る。
振り切れたままのストッパーは戻らず、緩んだ涙腺も戻らない。
涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、走り続けた。
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