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戦間期(1932〜1941)
『大和』の産声二 軍令部案
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昭和八年三月、松田少佐が嶋田少将と共に向かったのは、ひどく小さな部屋であった。これから、世界最大の戦艦を作ろうというには、不釣り合いに見える。しかし、その内部にいるのは、その目的に似合った、いや、役不足とすら言える様な人物であった。
海軍大臣岡田啓介、軍令部総長伏見宮博恭王、艦政本部長杉政人少将、第四部ー造船部ー部長藤本喜久雄大佐、連合艦隊司令長官小林躋造中将といった、名だたる人物が肩を並べていた。松田少佐は真逆自分の論文がこんな大ごとになっているとは予想も付かずにいた為、入った瞬間から呆気に取られていた。一体いつの間に根回しをしていたのか。
「君が、新戦艦計画を出した…?」
岡田大臣の言葉に、漸くハッとしたようで、慌てて敬礼をした。
「はっ!軍令部第一課所属松田千秋です!」
「うん、まあ二人とも掛けたまえ」
答礼をした、岡田大臣のその言葉に、嶋田少将共々用意された椅子に座った。
「では、始めようか」
会議では、最初に数枚にまとめられた冊子が配られた。
「これは…」
松田少佐の論文を元にまとめられたものであった。しかし、幾つかの相違点がある。先ず、主砲の口径。元々は四六サンチだったものが、四六乃至五〇サンチとなっている。排水量もそうで、五万トンだったものが、五万トン乃至六万トンになっている。反対に、速力は三〇ノット以上と下げられていた。更に、水上機も偵察と観測合わせて八機となっている。
とはいえ、このような案が可能かどうかは、これから確かめられることになるので、これも確定事項では無い。
松田少佐がふと顔を上げると、藤本中将が渋面を作っていた。やはり、これは過大な話であったか。松田少佐は、不安に駆られた。
「艦政本部に尋ねたいが、可能かね?」
伏見宮王の率直な質問に、杉少将は藤本大佐の方を向き、「どうだ?」と小声で言った。藤本大佐は少しの間悩み、答えた。
「恐らく、可能であると思います。主砲は五〇サンチは分かりませんが、かつて四八サンチ砲を実験目的で製造したと聞いた事がありますから四六サンチならば可能でしょう。しかし、この要求では、速力も三〇ノットに届かないかもしれません。排水量も五万トン内に収まるかどうか」
「君でもか」
この伏見宮王の発言には、過去の藤本大佐の活躍が影響している。彼は、独自の復元性理論を元に、条約型の妙高型重巡や、特型駆逐艦、千鳥型水雷艇といった軍艦艇で、用兵の要求を殆どそのまま飲み込んだ艦を設計している。とは言え、それも排水量が想定より増えているのだが。表沙汰にしなければ分からない事である。その為、これらの事情は暗黙の了解となっていた。
「しかし、排水量が六万トンにまで増えるのは少しまずいかもしれん」
そう言ったのは杉少将である。伏見宮王がその続きを促すと、彼はその理由を語り始めた。
「排水量が五万トン程度ならば、国内にはおれを建造できる船渠が官民合わせて四カ所あります。しかし、六万トン以上になると、大規模な拡張工事が必要になります。その分経費がかかりますし、環境によってはそれが出来ないかもしれません」
「この内のどれかを削る必要が出てくる、と言うワケか……松田、君の思想ではどれが一番重要なんだ?」
嶋田少将に、にわかに話を振られて、松田少佐は一瞬狼狽したものの、直ぐにコホンと咳払いを一つして話し始めた。
「この中で削るとしたら、防御力でしょう。海軍最大の仮想敵国である米軍は、パナマ運河という制約があります。その為主砲が一六インチ以下に限られてくるのは皆さんご承知の通りであると思います。その為、防御力は対一六インチの、念のため五〇口径の砲身長を持つ主砲撃に耐えられるもので有れば良いと思われます。反対に、最も重要なのが砲撃力と速力で、砲撃力は問題ないようですが、速力は米軍が新たにレキシントン級並の速力を持った艦を建造してくるかも知れず、これに対抗するには最低でも三〇ノットの速力は必要です」
松田少佐少佐が、論文において、速力を三二ノットとしたのはもう一つ理由が有り、米海軍が今後二七ノットの戦艦を建造したとしても、これに対して五ノット分速力で上回れば常に砲戦のイニシアチブを取れるからである。尤も、これは論文に書いてあり、その為にこの会議で松田少佐は言わなかったのであるが。
「しかし、こういう戦艦を作るには、それなりに費用がかかる。それが、自艦の砲撃に耐えられないとは。それに、米軍がパナマの拡張に乗り出したら、如何するのか?」
「それは、問題ありません。パナマは各国の商船が通る世界貿易の要。そこが拡張工事に入るとしたら、その話は直ぐさま世界中に広がるものと思われます。そうなれば、その時に新たな艦を作れば良い。パナマの拡張は年単位の時間が必要となると思われますから、その期間は十分にあるかと」
松田少佐の的確な説明により、異論は潰え、ここに新戦艦設計の優先順位がハッキリと出た。嶋田少将は、やはりこの男を連れて来て良かった、と思った。
しかし、この先にも数々の苦難が横たわっていようとは、この中の誰も思いもしなかったのである。
海軍大臣岡田啓介、軍令部総長伏見宮博恭王、艦政本部長杉政人少将、第四部ー造船部ー部長藤本喜久雄大佐、連合艦隊司令長官小林躋造中将といった、名だたる人物が肩を並べていた。松田少佐は真逆自分の論文がこんな大ごとになっているとは予想も付かずにいた為、入った瞬間から呆気に取られていた。一体いつの間に根回しをしていたのか。
「君が、新戦艦計画を出した…?」
岡田大臣の言葉に、漸くハッとしたようで、慌てて敬礼をした。
「はっ!軍令部第一課所属松田千秋です!」
「うん、まあ二人とも掛けたまえ」
答礼をした、岡田大臣のその言葉に、嶋田少将共々用意された椅子に座った。
「では、始めようか」
会議では、最初に数枚にまとめられた冊子が配られた。
「これは…」
松田少佐の論文を元にまとめられたものであった。しかし、幾つかの相違点がある。先ず、主砲の口径。元々は四六サンチだったものが、四六乃至五〇サンチとなっている。排水量もそうで、五万トンだったものが、五万トン乃至六万トンになっている。反対に、速力は三〇ノット以上と下げられていた。更に、水上機も偵察と観測合わせて八機となっている。
とはいえ、このような案が可能かどうかは、これから確かめられることになるので、これも確定事項では無い。
松田少佐がふと顔を上げると、藤本中将が渋面を作っていた。やはり、これは過大な話であったか。松田少佐は、不安に駆られた。
「艦政本部に尋ねたいが、可能かね?」
伏見宮王の率直な質問に、杉少将は藤本大佐の方を向き、「どうだ?」と小声で言った。藤本大佐は少しの間悩み、答えた。
「恐らく、可能であると思います。主砲は五〇サンチは分かりませんが、かつて四八サンチ砲を実験目的で製造したと聞いた事がありますから四六サンチならば可能でしょう。しかし、この要求では、速力も三〇ノットに届かないかもしれません。排水量も五万トン内に収まるかどうか」
「君でもか」
この伏見宮王の発言には、過去の藤本大佐の活躍が影響している。彼は、独自の復元性理論を元に、条約型の妙高型重巡や、特型駆逐艦、千鳥型水雷艇といった軍艦艇で、用兵の要求を殆どそのまま飲み込んだ艦を設計している。とは言え、それも排水量が想定より増えているのだが。表沙汰にしなければ分からない事である。その為、これらの事情は暗黙の了解となっていた。
「しかし、排水量が六万トンにまで増えるのは少しまずいかもしれん」
そう言ったのは杉少将である。伏見宮王がその続きを促すと、彼はその理由を語り始めた。
「排水量が五万トン程度ならば、国内にはおれを建造できる船渠が官民合わせて四カ所あります。しかし、六万トン以上になると、大規模な拡張工事が必要になります。その分経費がかかりますし、環境によってはそれが出来ないかもしれません」
「この内のどれかを削る必要が出てくる、と言うワケか……松田、君の思想ではどれが一番重要なんだ?」
嶋田少将に、にわかに話を振られて、松田少佐は一瞬狼狽したものの、直ぐにコホンと咳払いを一つして話し始めた。
「この中で削るとしたら、防御力でしょう。海軍最大の仮想敵国である米軍は、パナマ運河という制約があります。その為主砲が一六インチ以下に限られてくるのは皆さんご承知の通りであると思います。その為、防御力は対一六インチの、念のため五〇口径の砲身長を持つ主砲撃に耐えられるもので有れば良いと思われます。反対に、最も重要なのが砲撃力と速力で、砲撃力は問題ないようですが、速力は米軍が新たにレキシントン級並の速力を持った艦を建造してくるかも知れず、これに対抗するには最低でも三〇ノットの速力は必要です」
松田少佐少佐が、論文において、速力を三二ノットとしたのはもう一つ理由が有り、米海軍が今後二七ノットの戦艦を建造したとしても、これに対して五ノット分速力で上回れば常に砲戦のイニシアチブを取れるからである。尤も、これは論文に書いてあり、その為にこの会議で松田少佐は言わなかったのであるが。
「しかし、こういう戦艦を作るには、それなりに費用がかかる。それが、自艦の砲撃に耐えられないとは。それに、米軍がパナマの拡張に乗り出したら、如何するのか?」
「それは、問題ありません。パナマは各国の商船が通る世界貿易の要。そこが拡張工事に入るとしたら、その話は直ぐさま世界中に広がるものと思われます。そうなれば、その時に新たな艦を作れば良い。パナマの拡張は年単位の時間が必要となると思われますから、その期間は十分にあるかと」
松田少佐の的確な説明により、異論は潰え、ここに新戦艦設計の優先順位がハッキリと出た。嶋田少将は、やはりこの男を連れて来て良かった、と思った。
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