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2. 猫の恩返し
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灰色の瞳、どこで見たのだろと考えた。
そうだ、前に拾った野良猫と同じだ。三毛猫で、華奢な猫だった。懐いていたはずなのに、1年ほどでふらっとどこかへ行ったまま、帰ってはこなかった。
あの猫の瞳は、どこか寂しげな色をしていた。
「お邪魔します」
彼は丁寧に靴を揃えて入って来た。俺はすぐにエアコンと電気ポットの電源を入れる。
「名前は?」
「ソラ」
「偽名?」
「いいや、本名だよ。そっちは?」
「佐々木圭人、25才、この下のカフェをやっている。雇われオーナーだけどな」
暖房が効いてきた部屋。電気ポットからお湯の沸く音が聞こえる。
ソラに積もっていた雪がとけて、前髪を濡らしていた。やがて、ポタリと細い首筋に雫が落ちる。その行方を思わず見つめてしまう。
「じゃあ、ケイって呼んでもいい?」
「あ、ああ」
知り合って5分とは思えないほど、ソラは自然に話しかけてきた。
「濡れてるだろう、タオルと着替えを持ってくる」
「うん、ありがとう」
中性的で美しい顔立ち。男なのに女よりも魅力的で、心がざわつく。俺の日常の倫理観が、この見知らぬ青年によって揺さぶられていた。
なぜ、男相手とわかっているのに、こんなにドキドキするんだ。
クローゼットからタオルと、着古した自分のスウェットの着替えを引っ張り出した。この異様な緊張から逃れるには、「善意の行動」に徹するしかなかった。そもそも、変な下心なんてない。あるはずもない。
リビングへ戻ると、ソラが濡れたシャツに手をかけたところだった。
「ちょっと待て!」
なんだか、見てはいけない気がする。
俺の制止を無視し、ソラはあっさりシャツを脱ぎ捨てた。上半身は半裸になり、さらに濡れたデニムのボタンに指をかける。
照明に照らされた鎖骨のくぼみ、薄い胸筋のライン、そして細い腰回り――。
寒さより熱が上回った。俺の視線は、ソラの濡れた肌に釘付けになる。
「……こ、コーヒー淹れるから」
慌てて視線を外し、ドキドキしたのをごまかすように、ソラから背を向けた。
「ねぇ、ケイ」
次の瞬間、背中から回された腕。
「えっ!?」
細い腕だと思ったが、意外にも強い力で後ろに引かれた。バランスを崩し、俺はソファに倒れこむ。いや、押し倒されたというのが、正しい表現だろう。
「な、なにして」
抵抗しようとしたが、あまりの距離と迫力に身体がこわばる。
目の前の顔が近い。淡い灰色の瞳が俺をじっと見つめ、ハスキーな声で甘く囁く。
「お礼はするって、言ったじゃん」
唇が触れた瞬間、全身が電撃に打たれたように震えた。ソラの唇は雪のように冷たいのに、その口づけは柔らかく、そして熱い。
「んっ……!」
舌先が深く絡んでくる。熱くて息ができない。こんなキスは、はじめてだった。
理性は必死に叫ぶ――俺はゲイじゃない!
なのに、身体の奥はさらに熱くなる。息が乱れ、手のひらがソラの背中を押し返すこともできない。
ソラの指が、俺のシャツの下に忍び込み、胸を撫で上げる。男の肌の感触に、ゾッとするほどの快感が走った。
「や、やめろ……!」
「なんで? いいじゃん、素直に受け取ってよ。気持ちよくさせてあげるから」
挑発するように甘く囁かれ、触れられるたびに体が異常なほど反応する。
ドキドキして、理性が遠のくのを感じながら、俺は必死に最後の抵抗を試みた。
「や、やめろ」
「身体は素直に受け入れたいって、そう言ってるよ?」
このままじゃ、ダメだ。俺は――!
そうだ、前に拾った野良猫と同じだ。三毛猫で、華奢な猫だった。懐いていたはずなのに、1年ほどでふらっとどこかへ行ったまま、帰ってはこなかった。
あの猫の瞳は、どこか寂しげな色をしていた。
「お邪魔します」
彼は丁寧に靴を揃えて入って来た。俺はすぐにエアコンと電気ポットの電源を入れる。
「名前は?」
「ソラ」
「偽名?」
「いいや、本名だよ。そっちは?」
「佐々木圭人、25才、この下のカフェをやっている。雇われオーナーだけどな」
暖房が効いてきた部屋。電気ポットからお湯の沸く音が聞こえる。
ソラに積もっていた雪がとけて、前髪を濡らしていた。やがて、ポタリと細い首筋に雫が落ちる。その行方を思わず見つめてしまう。
「じゃあ、ケイって呼んでもいい?」
「あ、ああ」
知り合って5分とは思えないほど、ソラは自然に話しかけてきた。
「濡れてるだろう、タオルと着替えを持ってくる」
「うん、ありがとう」
中性的で美しい顔立ち。男なのに女よりも魅力的で、心がざわつく。俺の日常の倫理観が、この見知らぬ青年によって揺さぶられていた。
なぜ、男相手とわかっているのに、こんなにドキドキするんだ。
クローゼットからタオルと、着古した自分のスウェットの着替えを引っ張り出した。この異様な緊張から逃れるには、「善意の行動」に徹するしかなかった。そもそも、変な下心なんてない。あるはずもない。
リビングへ戻ると、ソラが濡れたシャツに手をかけたところだった。
「ちょっと待て!」
なんだか、見てはいけない気がする。
俺の制止を無視し、ソラはあっさりシャツを脱ぎ捨てた。上半身は半裸になり、さらに濡れたデニムのボタンに指をかける。
照明に照らされた鎖骨のくぼみ、薄い胸筋のライン、そして細い腰回り――。
寒さより熱が上回った。俺の視線は、ソラの濡れた肌に釘付けになる。
「……こ、コーヒー淹れるから」
慌てて視線を外し、ドキドキしたのをごまかすように、ソラから背を向けた。
「ねぇ、ケイ」
次の瞬間、背中から回された腕。
「えっ!?」
細い腕だと思ったが、意外にも強い力で後ろに引かれた。バランスを崩し、俺はソファに倒れこむ。いや、押し倒されたというのが、正しい表現だろう。
「な、なにして」
抵抗しようとしたが、あまりの距離と迫力に身体がこわばる。
目の前の顔が近い。淡い灰色の瞳が俺をじっと見つめ、ハスキーな声で甘く囁く。
「お礼はするって、言ったじゃん」
唇が触れた瞬間、全身が電撃に打たれたように震えた。ソラの唇は雪のように冷たいのに、その口づけは柔らかく、そして熱い。
「んっ……!」
舌先が深く絡んでくる。熱くて息ができない。こんなキスは、はじめてだった。
理性は必死に叫ぶ――俺はゲイじゃない!
なのに、身体の奥はさらに熱くなる。息が乱れ、手のひらがソラの背中を押し返すこともできない。
ソラの指が、俺のシャツの下に忍び込み、胸を撫で上げる。男の肌の感触に、ゾッとするほどの快感が走った。
「や、やめろ……!」
「なんで? いいじゃん、素直に受け取ってよ。気持ちよくさせてあげるから」
挑発するように甘く囁かれ、触れられるたびに体が異常なほど反応する。
ドキドキして、理性が遠のくのを感じながら、俺は必死に最後の抵抗を試みた。
「や、やめろ」
「身体は素直に受け入れたいって、そう言ってるよ?」
このままじゃ、ダメだ。俺は――!
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