夫が愛する妾との子供を認めない私は酷い悪女ですか?それならどうぞ、お好きになさって旦那様 〈ルイディアとマートルの日常〉

はなたろう

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結婚生活 1年0ヵ月 ~桜は蕾こそ美しい~

私を淑女に育てた侍女は誰より気高く優しい

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桜が散ると、瑞々しいグリーンの若葉が芽を出します。

この生命力を感じさせる新緑の頃も、私は愛してやまない季節です。

儚い桜が散るのを見送るよりも、新緑が色濃く大きく育つ姿を見守る方が、性に合っていると思うのです。


「まぁ、今日のティータイムはいつもより華やかだわ!」

「桜の花の塩漬けを作っておいて正解でしたね」


マルス子爵夫人は笑顔で、桜のお茶をティーカップに注いでくれた。

焼き菓子にも、桜の花が入っていてます。ほんのり花の香りと、塩漬けの塩味がたまりませんね。


「やっぱり午後のひと時は、あなたと一緒でないとね」

「ふふ、そう言っていただけて光栄です。そうでなければ、今ごろは、マルス子爵家の屋根裏部屋で縮こまって生活していたかもしれません」

「そんなタイプでもないでしょうに」


二人で目を合わせると、くすくすと笑いあう。


「でも、本当にこれでよかったのかしら?」


「ええ。お嬢様の近くでこうしてお茶が飲める。これ以上の幸せはありませんよ」


マルス子爵の要望は、離縁はしたくはないが、後継ぎがいない現状を憂いており、夫婦間での子供が望めない以上は、授かった子供を跡取りとしたい。

あくまでも生まれた子供は夫婦の子供として、出生届を出したい。

そのためにも、出産まではカリーヌに屋敷にいてもらいたい。

出産後は好きにしていいので、自分はこれまで同様だが、妾である子供の母親と暮らしたい。


なんて勝手で傲慢な考えでしょうか。

妾が出産するまで、屋敷に軟禁状態とし、カリーヌが出産したことにしたいなんて。

つまり、この先の数か月は、狭い屋敷(我が家と比べればですが)に、妊娠中の妾と本妻が生活を共にするということ。

妻が妊娠している、ということを旦那様含め周囲に話していた理由が納得できた。

しかし、マルス子爵が思うほど、カリーヌは彼に従順ではありません。


当然ですがね。


「カリーヌは私を優しいと言ってくれたけれど、カリーヌこそ優しい女性であることを知っているわ」


妾とその母親も屋敷から追い出した。聞こえは悪いがそれは事実です。

でも――。

それで終わるなら、なぜ王都に立ち寄ってからここに帰って来たのか?


妾が出産をした後に、その子供との養子縁組ができるよう手続きをしたのでしょう。


これは、王都の法務局に努める友人から聞いたこと。

もちろん、信頼できる方であり、必要な調査の一環として、我が家に連絡が来たのです。

賢いカリーヌのことですから、私が知っていることも承知の上で、最後までしらばっくれるのでしょう。


妾の子を養子として迎え、書面上は自分の子供とする。


残念ながら現在の法律では、養子縁組したその子供に爵位の相続権はありません。

しかし、法は日々変わるものですから、子供が成長した時には、別の道があるかもしれません。

まぁ、小さな子爵家がひとつ無くなったとしても、世間は何も変わりません。

極論ですが、カリーヌが他界するときは、我が侯爵家が手厚くお見送りします。
もちろん、子爵家に亡骸を返すこともないでしょう。


「小さな赤ん坊が養子としてマルス子爵家に来るなら、育児をする人手が必要ね」

「そうですね。乳母を見つけないといけませんね」

「結局、マルス子爵の希望かなったり、かしら」

「さて、何のお話でしょうか」


眉一つ動かさずに、優雅な手つきでお茶を飲む。凛としてとても美しい女性の姿です。


「あら、少し塩見が強かったでしょうか」


寂しくないはずはない。

貴族の結婚なんて、みんな望む相手とはできないけれど、それでも幸せになれる人も、そうでない人もいる。


それは、本人の努力だけでなんとかなるものではない。

やがて、マルス子爵家には、幼い子供を抱いた妾が戻ってくるのでしょう。

結局はみんなで仲良く暮らす家に、カリーヌの居場所はありません。

桜茶のしょっぱさは、カリーヌの心の涙の味かもしれませんね。


「それより、お嬢様。マートル様の姿をお見かけしませんが?」


あら、忘れていました。

王都での不貞を反省させるべくお仕置きをしていたのですが、反省どころか喜んでしまわれたので、ついつい気絶するまで――。


あらいやだ。

いいえ、なんでもございません。今の発言はお忘れください。


「旦那様は、そう、まだ夢の中かもしれませんね」
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