夫が愛する妾との子供を認めない私は酷い悪女ですか?それならどうぞ、お好きになさって旦那様 〈ルイディアとマートルの日常〉

はなたろう

文字の大きさ
17 / 29
結婚生活 2年0ヵ月 ~菜の花は警告する~

ショータイムはこれから

しおりを挟む
今夜は、私の屋敷でお茶会が開催されます。

近隣の貴族の夫人たちを招き、いわゆる情報交換の場を設けているのです。政治の動向から社交界の噂話、王家の内部事情まで、あらゆる情報が飛び交います。

私の趣味ではありませんが、いざという時に「知りませんでした」で恥をかくのは困ります。

これも領主としての務めですから、情報収集は欠かせません。


「ルイディア様、皆様お揃いです」


執事の声に、私は頷き日当たりの良いサロンへと向かいました。

色とりどりのドレスが、部屋の雰囲気を華やかに彩っていました。

窓から差し込む夕日が、彼女たちの宝石をきらめかせ、グラスの中で琥珀色に輝く紅茶を照らしています。


「皆様、ごきげんよう。ようこそお越しくださいました」

「お招きいただきありがとうございます」


来客の中でも特に格上のダテン伯爵夫人が笑顔を見せた。社交界で影響力を持つマダムの一人です。


「本日は娘を連れて参りました」


伯爵夫人の隣に立つのは、まだ十代と思われる若い娘でした。大きな胸元を強調する流行りのドレスに、少し挑戦的な眼差し。

若さゆえの尖った雰囲気が、眩しく映ります。


「ようこそお越しくださいました。レディ・ウィード」

「ウィーネですわ、ルイディア様」


私としたことが、お名前を間違えてしまいました。


「ご無沙汰しております。王都の祝祭でお会いしましたね」


ウィーネは微笑みを崩さずに訂正しました。その冷静に少しばかり感心します。この年齢で、これほど落ち着いていられる方は珍しいでしょう。


「まあ、ごめんなさい、ウィーネ。さあ、どうぞおかけになって。今日は皆様とたくさんお話できるのを、楽しみにしておりましたのよ」


柔らかな笑みを浮かべ、席へと促します。

お茶会が始まり、上品な談笑がサロンを満たしていきました。紅茶の香りと、焼き菓子から立ち上る甘い匂いが混ざり合い、穏やかな時間が流れます。

その時です。


「ただいま、ルイディア」


サロンの扉が開き、旦那様が入ってきました。

まったく、どこをほっつき歩いていたのでしょうか。夕暮れ時まで姿を見せなかった旦那様に、私は内心の苛立ちを隠せませんでした。


お茶会には必ず顔を出すよう、いつも言い聞かせているのです。お客様に夫婦揃って挨拶するのは、当然の礼儀ですから。

こんな夫でも、彼と会えるのを楽しみにしているご婦人方は多いのです。

ほら、この通り。


「まあ!マートル様!お会いできて光栄ですわ!」

「いつ見ても見目麗しいお姿。まるで春の風が部屋に入ってきたようですわね」


ご婦人方の目の色が変わりました。

若い娘だけでなく、年配の夫人たちにも人気があるようです。どこが良いのか、私にはさっぱり分かりません。

胸焼けしそうな甘い顔立ちに、口から出る愛想の良い言葉。そのすべてが、私には薄っぺらく見えてしまいます。


「皆さまようこそ。こんなに素敵なマダムがたくさんいらっしゃるなんて。これでは、外の花壇の花々も霞んでしまいますね」


なんとまあ、口先だけの軽い言葉でしょう。

そして、その言葉に歓声を上げるご婦人方にも、正直うんざりします。

まるで蜜を求めて群がるミツバチのようです。

彼の一言で、場の空気は簡単に和らぎます。それは侯爵家を円滑に回すためには、確かに必要なことなのでしょう。

ですが、その光景は、私を確実に疲弊させました。


あら?


ウィーネだけが、背筋を伸ばしたまま、その場に立っていました。

媚びることもなく、軽薄な言葉に浮かれることもなく、ただ静かに状況を観察している様子です。

その気概に好感を覚えました。

案外、私と気が合うのかもしれません。彼女の瞳は、冷ややかに光っていました。


「僕はそろそろ失礼しますね。皆さま、どうぞごゆっくりお茶会をお楽しみください」


そう言って旦那様は、優雅に一礼しました。一仕事終えたと言わんばかりの、満足げな笑みです。


「またあとでね、ルイディア」


彼は私の手を取り、頬に軽く口づけました。

その振る舞いは、いつも通り完璧です。この茶番のために、わざわざこの場に顔を出させているのです。


「まあ、仲が良くてうらやましいわ」

「皆様も、ご主人にたっぷり愛してもらってくださいね。夫婦は仲良くなければ、ですわ」


私は余裕の笑みで応じました。

作り物の笑顔を貼り付けているうちに、頬の筋肉が強張っていくのを感じます。


ウィーネが、きゅっと唇を噛み締めたのが目に入りました。彼女には、この茶番がどう映っているのでしょうか。


「それでは」


夫が背を向けた、その瞬間です。


「お待ちください、旦那様」


私は、はっきりと、そして冷ややかな声で呼び止めました。


その一言で、サロンの空気が張りつめます。談笑は止み、全員の視線が私たち二人に集まりました。


旦那様を、このまま逃がすつもりはありません。


この場で、彼に課された役割を、きちんと果たしてもらう必要があるのです。


「皆様、申し訳ございません。私の旦那様が、大切なご挨拶をお忘れのようですから」


さぁ、ここからが見所ですわ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

透明な貴方

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。  私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。  ククルス公爵家の一人娘。  父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。  複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。 (カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

どうしてか、知っていて?

碧水 遥
恋愛
どうして高位貴族令嬢だけが婚約者となるのか……知っていて?

完結 私は何を見せられているのでしょう?

音爽(ネソウ)
恋愛
「あり得ない」最初に出た言葉がそれだった

処理中です...