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#2〈アイドルお宅訪問〉
3.身体の記憶をリプレイス
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食事のあとは、のんびりコーヒータイム。
さっきはレトルト食品で不満に感じたかもしれないけれど、こっちは大丈夫。近所にある専門店で豆を挽いてもらってます。
ニコチンとアルコールと並ぶ大事な要素。カフェインだもの。
「わぁ、いい香りだね」
「ふふん、そうでしょう」
パスタの汚名返上。つい自慢げになってしまう。
「本当にブラックでいいの?」
「うん、なんで?」
砂糖とミルクをたっぷり入れた甘いコーヒーしか飲めなそう、なんて言ったら怒るだろうか。
よく考えたら、飲んでいたお酒も辛口だったから、味覚はお子様ではないらしい。見た目によらずといったところか。
「このお揃いのマグカップは、旦那さんの?」
「その旦那さんっていうの、やめてよ。もう離婚して赤の他人だし」
「じゃあ、田中さん」
それもなんだか変だな。少し前までは自分も田中さんだったわけだ。
「結婚祝いにもらったけど、祐介はコーヒーはあまり飲まなかったから、そのマグカップは使ってないよ」
「へえ。祐介さんね」
面白くないと言いたげな表情。
「まぁ、いいや。この前の映画の評判が良くてね、続編が検討されてるみたい」
「映画の続編?」
「ドラマ化だって。地上波じゃなくて、ネット配信だけど」
「すごいじゃない。主演ドラマは初めてだよね」
dulcis<ドゥルキス>では、コウキが俳優として目立って活躍しているが、他のメンバーもちょこちょとドラマや映画に出演している。
歌って踊って、演技して、テレビにも出て、大変だなぁと感心する。
「さっき、マネージャーさんに断ったよ」
「え、なんで?」
断るとかあるの?仕事なのに?
私の仕事と同列には考えられないのだろうけど、こっちは断るという発想が無いの。
「杏ちゃん、映画見てくれたの?」
「男子高校生の役だったね。制服姿、似合ってたよ」
ケイタは童顔だし、ブレザー姿を見ても違和感はなかった。
「ボクが他の女の子とキスしてても、何とも思わないの?」
「そう、言われましても」
いわゆる学園ラブコメで、映画終盤ではキスシーンはあったけれど。
「ドラマになったら、エッチなシーンもあるかもしれないよ」
「えっと、私は何とお答えすればいいでしょう」
「妬かないの?」
夫が他の女と自宅でセックスしているのを見ても、取り乱さなかったような女ですけど?なんて、心の中で自虐してみる。
「目の前にいる圭太と、画面越しのケイタと同一人物とは思えないからなぁ」
「杏ちゃん、念のため聞いておくけど。杏ちゃんはボクの彼女だよね」
ブッ、コーヒーでむせてしまった。
「そ、そうなの、かな」
「セフレとでも思ってたの?」
「いや、そうじゃないけど」
なんとなく抱かれてしまい、なんとなく何度か繰り返してしまった。相性がいいのか、ケイタが上手なのかは定かじゃないけれど、流されてしまう自分が情けない。
ケイタがまっすぐな愛情を向けていることは理解している。だからこそ、ちゃんと受け止められるか、不安になることがある。
「私、今年で31歳だし」
「知ってるよ、11月3日の文化の日だよね。今から連休でオフ希望出してるから、会えなかった分も含めてお祝いしようよ」
そんなこと考えてくれてたのか。
「バツイチだし」
「そうなるように、仕向けたのはボクだよ。反省はしてるけど、後悔は1ミリもない」
言い切られると、むしろ清々しいか。
「ケイタは芸能人で、私は一般人だし」
「なら、辞めてもいいよ」
「うそでしょ?あんなに人気なのに」
その言葉はあまりに現実離れしている。私への底なしの執着に驚いてしまう。
「杏ちゃんより大切なものはないよ」
マグカップをテーブルに置くと、ケイタは私を抱き寄せた。
「何年待ったと思ってるの?たった3年やったアイドルという仕事は手放せても、杏ちゃんはもう手放せないよ」
彼のふわふわの金髪から、甘いシャンプーの香りがした。私に染み付いたタバコの匂いを、少しずつ塗り替えていくようだった。
「ボクのお嫁さんになるのは、杏ちゃんだけだからね」
「また、それ」
「女性が離婚したあと、すぐ再婚できるようになったんだよ。ボクは今すぐにでも役所に行きたいけど、無理強いはしない。でも、諦めるつもりもない」
このまま波に乗れば、国民的スター街道まっしぐらなのに。そこまで言わせるのは女冥利に尽きるというものか。
「それに、杏ちゃんだって、きっともう、ボクがいないとダメなはずだよ」
耳元で囁かれる。そして、そのまま耳たぶを甘く噛られた。
ゾクっと、背筋が悦ぶように震える。
「離れられない身体にしてあげるよ」
さっきはレトルト食品で不満に感じたかもしれないけれど、こっちは大丈夫。近所にある専門店で豆を挽いてもらってます。
ニコチンとアルコールと並ぶ大事な要素。カフェインだもの。
「わぁ、いい香りだね」
「ふふん、そうでしょう」
パスタの汚名返上。つい自慢げになってしまう。
「本当にブラックでいいの?」
「うん、なんで?」
砂糖とミルクをたっぷり入れた甘いコーヒーしか飲めなそう、なんて言ったら怒るだろうか。
よく考えたら、飲んでいたお酒も辛口だったから、味覚はお子様ではないらしい。見た目によらずといったところか。
「このお揃いのマグカップは、旦那さんの?」
「その旦那さんっていうの、やめてよ。もう離婚して赤の他人だし」
「じゃあ、田中さん」
それもなんだか変だな。少し前までは自分も田中さんだったわけだ。
「結婚祝いにもらったけど、祐介はコーヒーはあまり飲まなかったから、そのマグカップは使ってないよ」
「へえ。祐介さんね」
面白くないと言いたげな表情。
「まぁ、いいや。この前の映画の評判が良くてね、続編が検討されてるみたい」
「映画の続編?」
「ドラマ化だって。地上波じゃなくて、ネット配信だけど」
「すごいじゃない。主演ドラマは初めてだよね」
dulcis<ドゥルキス>では、コウキが俳優として目立って活躍しているが、他のメンバーもちょこちょとドラマや映画に出演している。
歌って踊って、演技して、テレビにも出て、大変だなぁと感心する。
「さっき、マネージャーさんに断ったよ」
「え、なんで?」
断るとかあるの?仕事なのに?
私の仕事と同列には考えられないのだろうけど、こっちは断るという発想が無いの。
「杏ちゃん、映画見てくれたの?」
「男子高校生の役だったね。制服姿、似合ってたよ」
ケイタは童顔だし、ブレザー姿を見ても違和感はなかった。
「ボクが他の女の子とキスしてても、何とも思わないの?」
「そう、言われましても」
いわゆる学園ラブコメで、映画終盤ではキスシーンはあったけれど。
「ドラマになったら、エッチなシーンもあるかもしれないよ」
「えっと、私は何とお答えすればいいでしょう」
「妬かないの?」
夫が他の女と自宅でセックスしているのを見ても、取り乱さなかったような女ですけど?なんて、心の中で自虐してみる。
「目の前にいる圭太と、画面越しのケイタと同一人物とは思えないからなぁ」
「杏ちゃん、念のため聞いておくけど。杏ちゃんはボクの彼女だよね」
ブッ、コーヒーでむせてしまった。
「そ、そうなの、かな」
「セフレとでも思ってたの?」
「いや、そうじゃないけど」
なんとなく抱かれてしまい、なんとなく何度か繰り返してしまった。相性がいいのか、ケイタが上手なのかは定かじゃないけれど、流されてしまう自分が情けない。
ケイタがまっすぐな愛情を向けていることは理解している。だからこそ、ちゃんと受け止められるか、不安になることがある。
「私、今年で31歳だし」
「知ってるよ、11月3日の文化の日だよね。今から連休でオフ希望出してるから、会えなかった分も含めてお祝いしようよ」
そんなこと考えてくれてたのか。
「バツイチだし」
「そうなるように、仕向けたのはボクだよ。反省はしてるけど、後悔は1ミリもない」
言い切られると、むしろ清々しいか。
「ケイタは芸能人で、私は一般人だし」
「なら、辞めてもいいよ」
「うそでしょ?あんなに人気なのに」
その言葉はあまりに現実離れしている。私への底なしの執着に驚いてしまう。
「杏ちゃんより大切なものはないよ」
マグカップをテーブルに置くと、ケイタは私を抱き寄せた。
「何年待ったと思ってるの?たった3年やったアイドルという仕事は手放せても、杏ちゃんはもう手放せないよ」
彼のふわふわの金髪から、甘いシャンプーの香りがした。私に染み付いたタバコの匂いを、少しずつ塗り替えていくようだった。
「ボクのお嫁さんになるのは、杏ちゃんだけだからね」
「また、それ」
「女性が離婚したあと、すぐ再婚できるようになったんだよ。ボクは今すぐにでも役所に行きたいけど、無理強いはしない。でも、諦めるつもりもない」
このまま波に乗れば、国民的スター街道まっしぐらなのに。そこまで言わせるのは女冥利に尽きるというものか。
「それに、杏ちゃんだって、きっともう、ボクがいないとダメなはずだよ」
耳元で囁かれる。そして、そのまま耳たぶを甘く噛られた。
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