さみしがりやの末っ子アイドルは、仕事ばかりの30才バツイチに愛されたい <dulcisシリーズ>

はなたろう

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#3〈杏菜が知らないケイタの話〉

2.首輪を外す対価

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すぐに空になったグラスをまた満たす。


「ワインの開け方も、注ぎ方も美しいわ。見ていて気持ちがいいわね」

「教え方が上手だったからだよ」

「ふふ、そうね」


自画自賛ってこういことだよね。


「初めて会ったときは、まだまだ子供だったのに、随分と大人になっちゃって。さみしいわ」


ボクが施設で暮らしていたのは小学校の6年間。

その後は祖母と中学卒業まで一緒に過ごした。特別良い思い出もなく、かといって悪い思い出もなく。

昼夜逆転の幼少期と施設での6年間に比べれば、マシだったと言える程度の生活だった。

中学生の後半からは、家にはほとんど帰らなくなったが、祖母からの説教は無かった。

数年前に祖母は亡くなった。ボクがアイドルになり、テレビで活躍する姿を見ることはなかった。

誰も来ないような小さな葬式代を、立て替えてくれたのは彩華だった、


「感謝しているよ」

「いらないわ、感謝なんて。自分の欲のためにしたことだもの。誰かのためじゃないわ」


いつだったか、夜も街をうろついていたときに、彩華に出会った。

自分好みの可愛い少年を拾っては、ペットのように可愛がるのが、趣味という狂った女だった。

他にも何人も飼っていて、その中でも、ボクが一番のお気に入りだったのだろう。やっかまれることも多かった。


「わたし、たくさん知っているのよ?ケイちゃんの可愛いところ」


長い爪でスマホの画面をスワイプさせる。


「彩華の趣味嗜好は否定しないけど、ボクはもう、十分付き合ったと思うよ」

「そうね、いつも、一番いい声で鳴いてくれたもの。手放すには惜しいわ」


彩華はスマホの画面をこちらに向けた。

あられもない姿の男女が、ベッドの上にいる動画が流れる。彩華の部屋の寝室には、複数のカメラがあることは知っていた。


さっきの、ボクとみぃちゃんの態勢が逆になったようだ。


うまく生きるための知識と知恵と、人間の心理、立ち回りを教えてくれた師匠のような人だから、仕方がないか。


「人気アイドル狂乱の宴。下世話な週刊誌には、チープな見出しがぴったりね」


彩華は、自分との行為だけではなく、自分のお気に入りの少年たちが、互いに抱き合う姿を見るもの好んだ。


彩華曰く『狂乱の宴』とやらを見ながら、シャンパンを飲む姿にはみんながうんざりしていたけど、ボクにはどうでも良かった。そのときは、ね。


「別にリークしても構わないよ。アイドルなんて面倒な仕事、やめてもいい」

「そう?アイドルであることに未練は無くても、杏ちゃんが知ったらどう思うかしら」

「さぁ、どうだろうね」

「こんな姿、恥ずかしいわ」


画面を見る目が、狂喜を帯びる。


「その姿を見て興奮するど変態だもんね。こっちも、未成年へのわいせつ罪で訴えようか。証拠を持ってるのは自分だけだと思ってるの?道連れだよ、あんたもね」


ボクの言葉に、彩華は声を出して笑いだした。肩を大きく揺らすと、大きな胸もたわわに揺れる。

心底楽しいと言わんばかりだ。ここまで大笑いする彩華は、初めて見たかもしれない。飼い犬に牙を向けられたことが可笑しいなんて、凡人には分からないツボだね。


「ふふ、そうよ。ケイちゃんのビー玉みたいな瞳が好きだったのよ」


ボクの頬に触れた。

慈しむように、優しく何度も撫でられる。


「はじめて会ったときもそうね。せっかくのキレイな顔も、自分の将来も、アイドルになって人気が出たあとも、まるで何の興味もないですっていう目が良かったのに」


彩華は手を止める。


「杏ちゃんと再会してから、つまらない子になっちゃったわね」


爪の先で頬をカリッとひっ搔かれた。熱さに似た痛みが一瞬走る。


あーー、血が出たな。


明日はバラエティの収録と、雑誌の撮影だ。個人活動だから、他のメンバーに会うことはない。顔に傷なんて作って、質問や詮索されるのはうんざりだ。

メイクで隠せるくらいの浅い傷ならいいけど。


「この店の会員証もお返しするよ」

「それだけじゃ、足りないわ」

「縁を切るための対価は?」


彩華の金で好き勝手にやらせてもらった時期があった。反省したところで仕方は無いけれど。


「大した額じゃないわ。そうね、ネット配信ドラマ、ワンクールのギャラ相当かしら」

「なんで、その話を知ってるのさ」

「お帰りの際は、テーブル席のお嬢さんに、ちゃんと謝った方がいいわよ」


まったく。

ついさっきのやり取りまで知っているのか。夜の女王様は何でもお見通していうことか。やっぱり師匠にはかなわない。


「大好きな杏ちゃんが見るかもしれないのに、演技であっても、他の女を抱くような仕事は嫌なんでしょう?いいじゃない、精いっぱい励みなさいな、演技だと思われないくらいに、真剣に抱いてあげなさいよ」

「本当に性格が悪いね」

「乗るの?乗らないの?わたしは気が短いことも知っているはずよ」

「わかったよ」

「撮影は私も見学させてもらおうかしら」

「勘弁してよ」


本当に来てしまいそうだな。


「安く済んで良かったわね、dulcis〈ドゥルキス〉のケイタさん」


くすくすと笑う。


「ケイちゃんの首輪は、次の燃えるゴミの日にでも出すわ」

「うん、そうしてくれる?」


じゃあ、話はこれで終わりかな。ソファから立ち上がる。


「お母様に会いたくなったら、相談に乗るわよ」

「冗談でしょ。もう顔も思い出せないよ」

「ふふ」


個室のドアが閉まった。


あーーあ。気が向かないけれど、戻ってみぃちゃんに声を掛けてから帰るかな。


「嫌だなぁ。ゴメンね、杏ちゃん」


でも仕事だから許してくれるよね。

ボクが愛しているのは、本気で抱きたいと思えるのは、世界中で杏ちゃんだけだから。


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