さみしがりやの末っ子アイドルは、仕事ばかりの30才バツイチに愛されたい <dulcisシリーズ>

はなたろう

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プロローグ

1.アイドルに抱かれる夜

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「帰っちゃやだ」


年下の甘えん坊な彼は、子供みたいに駄々をこねる。


ああ、またこのパターンか。何度もこの甘い罠に引っかかってしまう。


数ヶ月前までは、人気アイドルな彼と、こんな蜜月の関係になるなんて、夢にも思わなかったーー。


「ねぇ、いいでしょ?」


くせっ毛なのかパーマなのか、ゆるふわな金髪。白く透明感のある肌、まるでギリシャ彫刻みたいな裸体でベッドに寝そべっている。

たとえ裸だろうと、人に見られることには慣れているのだろう。自分に自信があると、羞恥心なんてなくなるのかな。


「朝まで一緒にいてよ」


自分の欲求を素直に言葉にする。彼のワガママを、私が受け入れてしまうのは、いつからだろう。


「ケイタ、今日が何曜日か知ってる?」


日曜日の23時。明日のためにも早く帰らないと、朝が辛いだけだ。

満員電車に揺られ出社して、大量のメールから必要なものだけをピックアップして返信。これだけで午前の時間は過ぎる。

月曜日の朝を想像すると、どんなに好きな職種でも、憂鬱な気分になる。


まぁ、会社勤めをしたことのないアイドルには、分からない感覚なのかしら。土日も平日も関係ない仕事だから。


そう、彼はアイドル。

人気アイドルグループ、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバー。

春のドームツアーでは、3都市6公演で約19万人を動員し、その生配信の視聴者は日本記録を更新した。最新アルバムは販売日にミリオン突破。

甘いベビーフェイスで、ファンには「ケイちゃん」と呼ばれる、23才の末っ子アイドル。


「今夜は帰るよ、明日は大事な会議があるからね」


床に散らばった下着を拾い、手早く身に付ける。あれ、服はリビングだったかな。


「杏ちゃん」

「なぁに?」


振り返ると、彼がベッドから身を起こし、真っ直ぐに私を見ていた。

その瞳は、ステージで輝く「みんなのケイタ」とは違う、1人の男としての欲求を隠さずに向けてくる。


「帰したくない」

「だめ」

「ボクのこと嫌いになったの?」

「え?どうしてそんなこと聞くのよ」


仔犬が怒られたときのような、大きな黒目がこちらを見ている。私は下着姿のままベッドに腰かけると、ケイタの髪にそっと触れる。


「さっき、杏ちゃんが『いや』って言うこと、ずっと、何度もボクがしたから、怒ってるのかと思って」

「それは……」


なんと返せばいいか分からず、ただ少し前まで、ここであった出来事の数々を思い返してしまい、耳まで赤くなってしまう。


「いやだったわけじゃ、ないよ」

「ほんとに?」

「うん」

「気持ちよかった?」

「うん」

「もう1回したいくらい?」

「うん……、え、コラ!」


後ろから抱き締められた。

せっかく身に付けたばかりの、ブラジャーのホックを外された。しかも、口でだ。なんて、しつけのなっていない犬なのか。


「しようよ、もっと」


引き寄せられて、そのままベッドへ引きずり込まれた。


「今でないと、もう終電に間に合わないから」

「タクシーで帰ればいいよ。なんで電車にこだわるかな」


答えは『給与日前だから』ですが?

口には出さないけど、金銭感覚の違いも悩ましい問題。年は私の方が上なのにね。


「明日の朝、ここから会社に行けば?」

「泊まるつもりで来ていないから、服も化粧品も、替えの下着も無い」

「一緒に住もうって、何度も言ってるのに」


イタズラな手は、巧みに私の弱いところに触れて、だんだんと思考回路を狭めてくる。


「ちょっと、ケイタ」


さっき、何度も指で弄ばれたばかりなのに。


「また濡れてるよ」

「ん、やっ、やだ」

「やだ?本当の本当に?どっちのやだなの?」


身体はなんて正直なんだろう。

少し前まで枯れていた心と身体が、ケイタに愛され満たされると、すぐに泉のように彼を欲しがる。


「杏ちゃん、お願い。帰らないで」


私の鼻に自分の鼻をスリスリさせる。本当に犬みたいだ。


「杏菜」


不意に真面目な表情。普段は子供っぽいくせに。


ケイタの指が私の唇に触れ、そして、答えを急かすように舌先をなぞった。


「もう、わかった。朝まで一緒にいよう」


本当は、私だって帰りたいわけではない。


帰らないという答えに満足したのか、それとも、安堵したのか……。


ケイタが私の奥へと辿り着く。


「杏ちゃん、可愛いよ」


アラサーでバツイチの私のどこがいいのか。



これは、彼と私の、秘められた恋の物語。

始まりは、あの日の「再会」からだった――。


「大好きだよ」


遠退く理性の中で、甘い言葉を何度と聞いただろうか。




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