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6話 猫と黒豹
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「飲みたい気分だったのよ」
タオルを受け取ると、代わりにワインの入った紙袋を差し出した。
梨夏は店内をさっと見渡す。すぐに、カウンターのソラに目が止まった。
「こんばんは。はじめて見るお客様ね」
梨夏がにこりと品良く微笑む。
「はじめまして、ソラです」
さっき一瞬見せた警戒心はどこへやら。
猫は爪をうまく隠せるらしい。ソラも同じように、可愛らしく微笑み返す。
「ソラ君、随分とかわいい顔してるわね。いい男は大好きなの。ねぇ、よければ一緒に飲まない?」
梨夏の目は興味深く、俺とソラを行き来する。
その視線は、人を吟味するように冷静で、それでいて妖艶だ。
「ほら、圭人。さっさとCLOSEの看板を出してらっしゃい。オーナー命令よ!」
「オーナー?」
ソラが小首をかしげた。
「このビルは私が管理してるの。圭人は店番みたいなものよ」
梨夏の言葉に嘘はない。
亡くなった彼女の叔父さんから、俺がこの店を継いだのは3年前。
インスタントコーヒーしか淹れたことのない俺に、丁寧に優しく接してくれた人。付き合いは短かったけど、俺の師匠だ。
「それなら、ちゃんと挨拶しなきゃ」
「なぁに?」
ソラが梨夏に膝を向ける。
「僕、ケイと一緒に住んでるんだ」
「住んでる?」
「拾われたんだ」
「拾った……?圭人が?」
俺は店の中央にある、一枚板のダイニングテーブルに、ワイングラスを並べた。
「まぁ、色々あってね」
「お酒のツマミに、ゆっくり聞かせてもらうわ」
梨夏は持ってきたワインボトルを手にした。すると、
「僕が開けるよ」
ソラがソムリエナイフで手際よくコルクを抜いた。鮮やかな手さばき。
「上手ね、見ていて気持ちがいいわ」
「ホストクラブで働いていたときに、たくさん練習したんです」
「まぁ、さぞかし売れっ子だったでしょうね」
「ええ、おかげさまで。今夜は梨夏さんが僕の『姫』ですね」
手慣れたウインクを1つ。
「やだ、うれしい!圭人、ドンペリ入れるわ!コールしてくれる?」
「この店にあるわけないだろ」
2人のやりとりに呆れる。
「乾杯しましょう」
ソラはグラスを持ち上げ、少し首を傾けて微笑む。
ワインと簡単なつまみ。
楽しく会話が弾むと、梨夏がふいに切り込んできた。
「それで、圭人とソラくんは、恋人関係なの?」
俺は思わずむせた。ソラは楽しげに見つめ返す。
「まだ恋人未満。圭人のガードがすごくて、途中まではよかったけど、不発でした」
その言葉と同時に、ソラは俺の肩に体を密着させた。背中から伝わる温もりは、まるで「誰にも渡さない」と言わんばかりだ。
猫が獲物を前足で押さえ込むような、甘くしたたかな仕草だった。
「あらまあ、お気の毒ね」
ワインで少し赤らんだ頬の梨夏は、大げさに眉をしかめた。
「ソラは……男だぞ」
「圭人ってほんと頭が固いのね。世の中ジェンダーレスなのよ?」
「そうだそうだ!」
ソラと梨夏は意気投合し、俺は完全に蚊帳の外だ。
「そういう、梨夏さんは、もしかして、ケイの元カノ?」
「ふふ、違うわ」
梨夏は、俺の恩人であり、姉のような存在だ。ソラはグラスを持ち上げ、俺の顔を覗き込む。
「僕はあきらめないよ」
その悪戯っぽい笑みと低く柔らかい声に、俺は一瞬、息を詰めた。
猫に絡まれるような甘さと、男としての衝動を刺激される。ソラはまるで、俺の理性の弱点を知り尽くしているかのようだ。
梨夏はそれを見て、柔らかく笑った。
「ふふ、健闘を祈るわ」
微妙な三角関係の火蓋が切られ、夜のカフェは甘く、危うい空気に包まれた。
タオルを受け取ると、代わりにワインの入った紙袋を差し出した。
梨夏は店内をさっと見渡す。すぐに、カウンターのソラに目が止まった。
「こんばんは。はじめて見るお客様ね」
梨夏がにこりと品良く微笑む。
「はじめまして、ソラです」
さっき一瞬見せた警戒心はどこへやら。
猫は爪をうまく隠せるらしい。ソラも同じように、可愛らしく微笑み返す。
「ソラ君、随分とかわいい顔してるわね。いい男は大好きなの。ねぇ、よければ一緒に飲まない?」
梨夏の目は興味深く、俺とソラを行き来する。
その視線は、人を吟味するように冷静で、それでいて妖艶だ。
「ほら、圭人。さっさとCLOSEの看板を出してらっしゃい。オーナー命令よ!」
「オーナー?」
ソラが小首をかしげた。
「このビルは私が管理してるの。圭人は店番みたいなものよ」
梨夏の言葉に嘘はない。
亡くなった彼女の叔父さんから、俺がこの店を継いだのは3年前。
インスタントコーヒーしか淹れたことのない俺に、丁寧に優しく接してくれた人。付き合いは短かったけど、俺の師匠だ。
「それなら、ちゃんと挨拶しなきゃ」
「なぁに?」
ソラが梨夏に膝を向ける。
「僕、ケイと一緒に住んでるんだ」
「住んでる?」
「拾われたんだ」
「拾った……?圭人が?」
俺は店の中央にある、一枚板のダイニングテーブルに、ワイングラスを並べた。
「まぁ、色々あってね」
「お酒のツマミに、ゆっくり聞かせてもらうわ」
梨夏は持ってきたワインボトルを手にした。すると、
「僕が開けるよ」
ソラがソムリエナイフで手際よくコルクを抜いた。鮮やかな手さばき。
「上手ね、見ていて気持ちがいいわ」
「ホストクラブで働いていたときに、たくさん練習したんです」
「まぁ、さぞかし売れっ子だったでしょうね」
「ええ、おかげさまで。今夜は梨夏さんが僕の『姫』ですね」
手慣れたウインクを1つ。
「やだ、うれしい!圭人、ドンペリ入れるわ!コールしてくれる?」
「この店にあるわけないだろ」
2人のやりとりに呆れる。
「乾杯しましょう」
ソラはグラスを持ち上げ、少し首を傾けて微笑む。
ワインと簡単なつまみ。
楽しく会話が弾むと、梨夏がふいに切り込んできた。
「それで、圭人とソラくんは、恋人関係なの?」
俺は思わずむせた。ソラは楽しげに見つめ返す。
「まだ恋人未満。圭人のガードがすごくて、途中まではよかったけど、不発でした」
その言葉と同時に、ソラは俺の肩に体を密着させた。背中から伝わる温もりは、まるで「誰にも渡さない」と言わんばかりだ。
猫が獲物を前足で押さえ込むような、甘くしたたかな仕草だった。
「あらまあ、お気の毒ね」
ワインで少し赤らんだ頬の梨夏は、大げさに眉をしかめた。
「ソラは……男だぞ」
「圭人ってほんと頭が固いのね。世の中ジェンダーレスなのよ?」
「そうだそうだ!」
ソラと梨夏は意気投合し、俺は完全に蚊帳の外だ。
「そういう、梨夏さんは、もしかして、ケイの元カノ?」
「ふふ、違うわ」
梨夏は、俺の恩人であり、姉のような存在だ。ソラはグラスを持ち上げ、俺の顔を覗き込む。
「僕はあきらめないよ」
その悪戯っぽい笑みと低く柔らかい声に、俺は一瞬、息を詰めた。
猫に絡まれるような甘さと、男としての衝動を刺激される。ソラはまるで、俺の理性の弱点を知り尽くしているかのようだ。
梨夏はそれを見て、柔らかく笑った。
「ふふ、健闘を祈るわ」
微妙な三角関係の火蓋が切られ、夜のカフェは甘く、危うい空気に包まれた。
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