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告解の章
◆千種有恒
二人の婚約を告げられたのは、華夜の肖像画が完成し、藤堂家に招かれた時だった。
落ち着いていて可憐な、華夜の雰囲気がよく表現された繊細な肖像画は素晴らしい出来だったが、私はその絵をゆっくり眺めることも出来なかった。
余りにも驚きすぎて――
「秘密にしていてごめんなさい。忍様が、お兄様を驚かせようと仰って――」
「僕たちを引き合わせてくれたのは君だから、この絵の完成と共にきちんと話そうと思ったんだよ」
二人の言葉が。
耳に入らない。
私の頭の中に染み入らず、どこか遠い場所で話しを聞いているような気がしていた。
「……祝福してくれるかい?」
桐原の声が。
見知らぬ他人の声のように聞こえた。
「……ああ。ああ、勿論――」
心は凍ったままだ。
何も感じられない。
それなのに、私は笑っていた。
「おめでとう――」
そう言う自分の声を、私は聞いた。
私は笑って、二人を祝福していた――
逃げるように藤堂家を出た。
どうやって自邸まで帰ったのか、よく覚えていない。
私。
私は――
何に、こんなに衝撃を受けているのだろう。
華夜が、私以外の男を受け入れたことだろうか。
二人の婚約が、余りにも早かったからだろうか。
いや――
何よりも、桐原が。
私に何も言わず、華夜を、自分のものにしたこと、が。
どうしようもなく――私の心を引き裂いた。
どうして、何も話してくれなかったんだ?
ここに至るまで、幾らでも話す機会はあった筈だ。
華夜の言う通り、驚かせようと?
そんな悪戯心が、君の本心なのか?
彼女が、私の許嫁のようなものだと話したにも関わらず。
手を出すなと釘を刺したにも関わらず。
私の言葉を全く無視したこのやりようは――
『……お気を付けなさいな、千種のお坊ちゃん』
『あの人、他人を自分の思い通りにすることにかけては、悪魔みたいに天才的ですから』
かつての、女性の忠告が思い浮かぶ。
彼にとっては、華夜より誰より、私が一番身近な人間だと思っていた。
その彼が、私より華夜を選び、私を傷つけることを平気な顔でしているのは……わざとなのか?
『貴方はあの人が望んでも手に入らないものを生まれつき持っているから――』
手が震える。
自室に置かれていた、彼の画帖。
桐原が私を描いたスケッチが沢山残されている。
突然、厭わしいものに思えた。
私に向けられた沢山の言葉を、同じように華夜に囁いたのだと思うと。
全てを引き裂きたくなって、手を掛けた――
落ち着いていて可憐な、華夜の雰囲気がよく表現された繊細な肖像画は素晴らしい出来だったが、私はその絵をゆっくり眺めることも出来なかった。
余りにも驚きすぎて――
「秘密にしていてごめんなさい。忍様が、お兄様を驚かせようと仰って――」
「僕たちを引き合わせてくれたのは君だから、この絵の完成と共にきちんと話そうと思ったんだよ」
二人の言葉が。
耳に入らない。
私の頭の中に染み入らず、どこか遠い場所で話しを聞いているような気がしていた。
「……祝福してくれるかい?」
桐原の声が。
見知らぬ他人の声のように聞こえた。
「……ああ。ああ、勿論――」
心は凍ったままだ。
何も感じられない。
それなのに、私は笑っていた。
「おめでとう――」
そう言う自分の声を、私は聞いた。
私は笑って、二人を祝福していた――
逃げるように藤堂家を出た。
どうやって自邸まで帰ったのか、よく覚えていない。
私。
私は――
何に、こんなに衝撃を受けているのだろう。
華夜が、私以外の男を受け入れたことだろうか。
二人の婚約が、余りにも早かったからだろうか。
いや――
何よりも、桐原が。
私に何も言わず、華夜を、自分のものにしたこと、が。
どうしようもなく――私の心を引き裂いた。
どうして、何も話してくれなかったんだ?
ここに至るまで、幾らでも話す機会はあった筈だ。
華夜の言う通り、驚かせようと?
そんな悪戯心が、君の本心なのか?
彼女が、私の許嫁のようなものだと話したにも関わらず。
手を出すなと釘を刺したにも関わらず。
私の言葉を全く無視したこのやりようは――
『……お気を付けなさいな、千種のお坊ちゃん』
『あの人、他人を自分の思い通りにすることにかけては、悪魔みたいに天才的ですから』
かつての、女性の忠告が思い浮かぶ。
彼にとっては、華夜より誰より、私が一番身近な人間だと思っていた。
その彼が、私より華夜を選び、私を傷つけることを平気な顔でしているのは……わざとなのか?
『貴方はあの人が望んでも手に入らないものを生まれつき持っているから――』
手が震える。
自室に置かれていた、彼の画帖。
桐原が私を描いたスケッチが沢山残されている。
突然、厭わしいものに思えた。
私に向けられた沢山の言葉を、同じように華夜に囁いたのだと思うと。
全てを引き裂きたくなって、手を掛けた――
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