紅の宝玉と二人の守護者

凍星

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第1章 焔の精霊

◆1 異変は突然に①

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汝――焔の受諾者。

受けよ、天啓を。
聞くがよい、焔の詩を――

我が声を受け止めよ――……




***




男爵子息のイリヤ・ディアスレイが、この学院に――アストライア皇国の国立聖セラフィム魔術学院に入学してから、3ヶ月ほど経ったある日のこと。

季節外れの夏風邪にでもやられたのか、突然の高熱に見舞われてしまった。
すっかり寝込んでしまい、夢現ゆめうつつの世界を彷徨い……息も絶え絶えにベッドの中で3日を過ごした。
これは、その後に起きた出来事である。



――ようやく熱が下がって目覚めた時、やっと……やっと普通の日常に戻れると、イリヤは歓喜した。

(ああ、健康って素晴らしい!聖なる熾天使セラフィム様……ありがとうございます)

皇国で信仰されている唯一神の名を唱えて、感謝の意を捧げる。

休んでいた間に出来なかったこと……日々の授業に出ることも勿論だけど、朝の走り込みや、授業の予習復習、そういう毎日の習慣も早く再開しなければ。3日も休んでしまったなんて……どれだけ勉強が遅れてしまったか、考えただけで恐ろしい。
奨学金を利用してここに入学している身としては、成績を落とす訳にはいかないのだ。

一刻も早く遅れを取り戻そうと、ベッドから這い出て、大きく伸びをし――
とりあえず、ゆっくりお風呂にでも入ろうと思い、自室にあるバスルームへと向かった。
そうして寝間着を脱ごうとして、胸元のボタンを開けた時――


自分の胸に浮き上がった「謎の紋様」を発見して、それはもう、驚いてしまった。


「な、ななな、何……これ――?」

赤い――痣、だろうか?

花弁を散らしたような……複雑な紋様が胸の上で踊っている。何か意味のある図柄に見えて、一瞬、不思議な既視感にとらわれた。

(高熱のせい!?でも何だろう、この形には見覚えがあるような……?)

イリヤは部屋に戻り、分厚い医術系の辞書を書棚から引っ張り出し、パラパラと頁をめくった。
「高熱」、「後遺症」、「魔術熱傷」……
様々な単語で索引を引くが、思うような記述や図象は出てこない。

病気じゃなければ、呪術系?
どこかで見た、という自分の微かな記憶。
何だろう、どうも引っかかる。
学院受験の為に暗記した何か、とか……?

思い出せそうで思い出せず、モヤモヤする。
もう一度、確認の為にバスルーム横の小さな洗面台の前に立ち、寝間着の胸許を大きく開けた。

薄くて白い胸が露わになる。
この学院は主に魔術を学ぶための場所だ。だが国の直轄する国立の学院なので、卒業後は軍人になる人間の割合も多い。剣術の授業も当然必須だし、体を鍛えるための教科も色々ある。それを3カ月受け続けた今、昔よりはだいぶ筋肉もついたと、自分では思っているのだが……それでも相変わらず身体の線は細い。
筋肉のつきにくい体質みたいだなと、指導教官にもこの間言われたばかりだ。
幼馴染の誰かさんみたいに、胸板のぶ厚い立派な体格だったらなと――人を羨ましく思うことは幾度もあった。

胸に現れた痣を改めてじっくり眺めると、まるで大きな鳥が両翼を広げている絵みたいにも見える。
それを単純化した線で描いたような――そんな美しさがある。これが、ただの発熱による湿疹や痣、だとはとても思えない……

「あ、炎魔法系の図象に似てるかも?」

この世界を支配する4つの属性。
風火水土。
そのうちの一つ。
炎を表す紋章には、特徴的な棘のデザインが見てとれる。
それに似ているのだ。

「うーん……1人で悩むより、紋章学の教授とかに尋ねた方が早いか」

そんなことを考えていた時、開け放たれたままのドアをノックする音がした。

「何やってるんだイリヤ?もう起きて大丈夫なのか?」

いつ現れたのか、鏡の中に人が映り込んでいる。
バスルームへの入口、つまり真後ろに立っている男は、心配顔でこちらの様子を窺うようにジッと見詰めていた。


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