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第1章 焔の精霊
◆5 賢者の部屋で告げられる真実①
しおりを挟む……そして今。
全寮制の男子校。
国立聖セラフィム魔術学院の教授室の片隅では、折しもイリヤの胸の痣の見聞が行われていた。
「うむ……これは……!ううむ!」
普段、何事にも動じない「魔法使いの長」みたいな雰囲気を漂わせる、長い白髪と白髭のカラドリウス教授。その「賢者」がしきりに首をひねり、唸りながら何やら興奮している。
何度も何度も、手持ちの拡大鏡を使ってイリヤの胸を凝視するので、とても気まずい。出来れば早くブラウスの紐を閉じたいところだ。
「うむ――そうじゃな、うむ……!間違いはなかろう、な」
教授はまたもや唸り、ゆっくりと片眼鏡を外してその目をきらりと光らせた。
イリヤは息を呑む。
いまイリヤたちは、教授の研究室に居た。天鵞絨のソファに座るイリヤと教授の傍らにフィルがいて、落ち着きなくソファの周りをウロウロと歩き回っている。
壁際には天井まである高い本棚が幾つも並んでいる。
にもかかわらず、部屋には革張りの立派な装丁の本……魔術書が収まりきらず床に積み上がっていた。
その他にも、奥に置かれた樫の木の大机には星座盤やら天球儀やら、謎の生物の卵の化石や、鳥の羽根。乾燥した野草が、棚と棚に渡されたロープに吊るされていたり。様々な液体が詰められた小瓶に実験道具など……沢山の品で溢れ返っていて。初めて入る「賢者」の部屋に、イリヤは好奇心を隠せずに視線をあちこちに彷徨わせる。
「うむ……イリヤよ。よく心して聞きなさい」
「はいっ」
その言葉にイリヤは教授に視線を戻し、背筋を伸ばした。
一体、何を言われるんだろう?
(もしも知らないうちに誰かに、呪われている――とか。そんなことだったりしたらどうしよう。僕は貧しい地方領主の息子だし政治の中枢や権力とは無縁で、誰かに呪われるようなそんな覚えは……ないんだけど)
ドキドキしているイリヤを見つめながら、教授は重々しく口を開いた。
「そなたの胸のこれは……『朱雀』の紋章であろうな。恐らく……いや間違いなく。確実に、じゃ」
「ええっ……!?まさか、イリヤが――あの『朱雀』に選ばれたってことですか……!?」
驚愕と興奮――そんな色を宿した目でフィルがこちらを見た。
顔にも声にも、全く信じられないという感情が滲んでいる。
「――朱雀?」
それに反してイリヤは。
感情も頭も、全く追いつかないでいる。
「えっと、朱雀、とは――この世界を統べる四大元素のひとつ、火を司る炎の精霊の長にして、主に東の世界を中心に信じられている光陰信仰の神で……最も尊いと言われる四神の一柱で……?」
「受験対策用の丸暗記知識そのまんまだな」
フィルに揶揄されても、反応する余裕なんてない。
「そうじゃ、その朱雀じゃ」
「――その朱雀の紋章が、何故……僕の胸に??」
「そなたは選ばれたのだ。理由は誰にも分からぬが、炎の精霊の守護を受ける者として選ばれた証しが、その紋章じゃ。見よ、この古文書を」
そう言って教授が取り出したのは、表紙が取れてしまいそうなくらい年季の入った古文書。
ぱらりと捲ると、そのうちの一頁に――すっかり見慣れてしまった紋様が登場している場所があった。
「僕の胸にあるのと同じ、紅い鳥が翼を広げたような図像……!」
「そうじゃ」
思い出した――……!
そうだ、確かに僕もこの図象は目にしている……!
イリヤの記憶にそれが蘇って来た。
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