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第1章 焔の精霊
◆6 賢者の部屋で告げられる真実②
しおりを挟むそうだ。まさに受験対策。
この学院に入る為の勉強をしている時に見たんだ。
「四神」は、アストライアでは古い異教の神と捉えられていて、さほど重要視されていない。
だからこの「朱雀」の紋章にまつわる記述も、サラリと見ただけで流していたけど……記憶には残っていたらしい。
「これは、朱雀の加護を受けた者に現れる紋章だと言われている。そなたは久方ぶりに現れた――朱雀をスピリット・ガイドとする資格を持つ、受諾者なのじゃよ……イリヤ!」
教授が静かな声で厳かに宣言する。
イリヤは大きな目を瞬かせて、その意味を噛みしめるように見詰め返した。
「自分の友人に受諾者が誕生するなんて……驚いたな。こんな感動的な場面に立ちあえて僕は嬉しいよ、イリヤ……!」
「うむうむ。そうであろう、そうであろう」
2人はあれこれと朱雀に関する知識を共有しあい、感動を分かち合っていて……何故かイリヤよりも盛り上がっている。
ポカンとして取り残されていたイリヤにも――これは凄い事なんだと、だんだん分かってきた。でも分かってくればそれはそれで、大変なことになったなと……冷汗も出てくる。
(この精霊を受け入れたら――僕の生活は、多分、何もかも変わってしまう……!)
今まで通りの、ただの学生ではいられなくなる気がした。
イリヤの胸には不安ばかりが浮かんできた。
奨学生である自分は、とにかくきちんと学校を卒業して一生使える技能を手にしたかった。希望としては、医療薬学と医療魔術の知識を修め、修道院などの医療系で働きたい。苦しい財政事情の中、自分をここに送り出してくれた母と、今は遠くにいる父を安心させたいという思いがあるからだ。
朱雀の受諾者となれば、もしかしたら男爵家の財政は潤うかもしれないけれど……
国にとって貴重な存在になれば、きっと色々な責任も発生し、自由に動けなくなるのだろう。
それよりもイリヤは、親の傍で静かに地道に働きたかった。元々、堅実な道を選びたい性格なのだ。
正直……辞退したい。
いや、それしかない。
今ならまだ間に合うかも?イリヤはそんな風に考えた。
「――えっと、ちなみに受諾をお断りしたい時はどうしたら……?」
2人の興奮に反して、あっさりとイリヤがそう言うと――
「馬鹿者!!」
「どうしてだよ!!」
別方向から同時に声が重なる。
「こんな名誉なことはないんだぞ!?守護精霊の中でも最高ランク!世界で4人しか受けられない加護を受け取らないなんて……あり得ないだろう?」
「精霊は――特に上位の精霊は、国の財産と見なされる。そなたは我が国の国賓クラス……いやいや世界の宝としての扱いを受けることになるだろう。その重責を、よーく理解しなければならないぞ!?」
スゴい勢いでお説教をされてしまう。
うう、とイリヤは呻いた。何だか圧がスゴい。
「そう言われても……僕にも、僕なりの人生設計が」
「そなたは選ばれたことがどれほどの奇蹟か、分かっておらぬ」
「……分かりません!どうして僕なのか、全く納得が出来ません。だからこそ簡単に、はいそうですかと喜べないと思ったんです」
イリヤはぎゅっと拳を握った。
「……そうじゃな。お主のその気持ちは当然だろう。だがな――そんな悠長なことも言っておられぬ事態なのだ、イリヤよ」
「えっ?」
そう言うと、教授は長衣の袖を翻しサッと左手を閃かせる。
「!?」
突然、手品のようにパアッと黒い羽根が空中に舞い散った。
その中から現れたのは大きな黒い烏だ――
バサバサと、濡れたように美しい漆黒の翼をはためかせ、カア、とひと鳴きしてから教授の肩に乗る。
その烏に向かって何やら呪文を唱えると。
「お行き」
ただそれだけの言葉で、両開きの部屋の窓がバタンと勝手に開く。
そうして、魔術で呼び出された烏はサッと翼を翻し、あっという間に窓から外に向かって飛んで行ってしまう。
一瞬の出来事だ。
イリヤとフィルは、舞い散る羽根の中、呆然としてその様子を見詰めていた……
「――今のは……教授の使い魔ですか!?」
「そうじゃ。魔術協会に報告をするために、飛ばしたのじゃよ。精霊の加護を宿した者が現れた時、我々魔術師は魔術協会に報告せねばならん……いずれ、そなたへの特使がやって来るであろう」
「魔術協会の……特使が、ここに!?」
「そなたには、これから様々な出来事が降りかかる。良い事も悪しき事も。その苦難を乗り越えるために、足りないものがある」
足りないもの――?
それなら……幾らでもある気がした。
知識も、心の強さも身体の強さも、魔力の強さも。全てこれから学んで身につけなければと思っている身で。
血筋は古いが、中央の重要な役職についている貴族たちとは全く違い、田舎の領地へと追いやられているディアスレイ家は、国政とは縁遠い、貧しい男爵家。
裕福で、国の重臣を務めている主要な貴族の子弟と、その縁戚ばかりが集まる華やかなこの学院では、当たり前のように差別を受ける日々だ。
自分には何もない。イリヤはそんな風に思ってしまう。
「教授の仰る足りないものって――何ですか?」
「守護者じゃ」
「……守護者?」
「俗に“精霊憑き”と呼ばれる受諾者の中でも、四神のような特別な存在が降りる者には守護者が選ばれる掟となっておる。その者が、お前の盾となり剣となり、御身を守ってくれるであろう。その守護者を選抜するためにも、協会の助けが必要なのじゃよ」
「…………」
イリヤは教授の言葉を聞いても、未だに現実感を持つことが出来なかった。
そっと胸に手を当てる。
「……今のところ、僕にはこの紋章以外何も変化がないんです。朱雀だなんて、そんな大きな精霊が憑いてるとは、とても信じられません」
「そう。まだ、お前の身体に完全に憑いてはおらぬ。四神は、受諾者が現れぬ間は長く精霊石の中で眠るという。協会から石が運ばれ、そなたが触れることで初めて――朱雀はそなたの一部となる。姿や、その力を見ることはそれからになろうな」
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