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第二幕 ―― 超越再臨
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国立倶纏東養成機関は六つの学部に分類される。
幼等部・三年制、小学部・六年制、中等部・三年制、高等部・三年制、大学部・四年制、大学院部・二年制の四歳から二十四歳までの幅広い年齢の人間が在籍し、一学年が三十人構成で十クラス、つまり合計で六千三百人の大規模だということ。
その中で序列に入れるのは年齢問わず六十三分の一の百人。つまり序列入りするだけでも相当な実力者ということになるのだ。その序列二位に今から自分は挑む。はたして周囲からはどう思われているのか。
「話題になってますよ。〝あの〟編入試験をパスしてきた者が挑むって。どんな実力者なんだろうと興味津々になってます、みんな。何せこれまで誰も編入試験をパスした者は居なかったですからね。詞御さん、貴方が編入してくるまでは」
「プレッシャー掛けないでくれよ依夜。緊張してしまう。しかし、本日は休日と聞いている。そんなに人が集まりするものか? 誰かしら予定はあるだろうに」
「わたしに勝った貴方が言う言葉ですか。プレッシャーなんて感じてないくせに。それに人でしたらほら」
依夜は電子情報端末を操作し空間に投影されたディスプレイ画面を詞御に見せる。そこには観客席は満席、施設内視聴率もほぼ百パーセント近くと表示されていた。
ある意味予想を裏切る数字に、詞御は一瞬だけ絶句する。
「……勉強熱心な方が多いんだな(〝血気盛ん〟とは言わないで置こう)」
「そう言って貰えると助かります」
〔たのしそうですねー〕
〔終わったら目一杯愛でるし、会話にも混ぜるからふて腐れないでくれ〕
詞御は言葉で依夜の相手をし、内なる声でセフィアと会話するという慣れないことをするはめになる。都合よく、セフィアを詞御と依夜だけにしか見えなくは出来ないのだ。
何時の間にか、専用通路の終わりに差し掛かっていた。
「さて、詞御さんとはここでいったんお別れになります。わたしはおか、とと、理事長と先に行ってます。試合会場は分かりますよね? 昨日、わたしと闘った場所です」
「了解、覚えているよ。じゃあ、行って来る」
「はい、いってらっしゃい」
このやりとりを見ていた者がいたらこう言っていただろう。どこぞのカップルか夫婦か、と。
そんな事とは露知らず、詞御は迷うことなく、時間通りに闘技場がある扉の前に立っていた。
〔結構な数の人間と強力な倶纏がいるなあ、こんなこと記憶している限りではないぞ〕
〔それはそうでしょう。私も記憶ありませんから。緊張、してませんよね?〕
〔そりゃあ、緊張はするさ。〝戦い〟だから、な〕
〔……そうでしたね。入りましょうか〕
セフィアに促されて扉を開けて入る。すると詞御の耳朶を打つ、大きな声が会場に響き渡った。誰にも気付かれる事なく〝感覚の眼〟で辺りを見回して、詞御は状況を確認する。
〈へえ、あの子が編入者なんだ、なんか可愛いね〉
〈そんなに強そうに見えないけどな。倶纏が凄いのかな?〉
〈俺としては武器持ちって言う点が気になる。階位は下なのか〉
多種多様な声が、聞こうとしなくても詞御とセフィアに聞こえてくる。まあ、色々あるが、共通していることといえば、詞御の実力を疑うというか測りかねてない声が多い。
〔武器を持っているせいもあるんだろうな〕
〔それでも、正確に推し量っている異様な視線を幾つかを感じます。やはりきちんとした実力者は居るという事ですね〕
〔なんにせよ、初めての経験だが、復帰するための一歩と捉えればどうという事はない。浄化屋稼業では、幾度となく〝力〟を開放しているわけだしな。公表はしてないだけで〕
〔そうですね。この養成機関に在籍している限り、何時かは私もバレる時が来るのかもしれません。バレると色々厄介になりそうなのは目に見えていますが、一々説明することを考えると今から憂鬱になります〕
〔なるべくそうならない様にする。昨日受験した時以上の力は出したくない所だ。とはいえ、ここに来る前にお前に言ったが、〝戦い〟は何が起こるかわからない〕
〔分かっています。〝常在戦場〟を心掛けるならば、いかなる戦況にも応じる覚悟はできています。今の私に心の隙はありません〕
心の内でセフィアと会話し、彼女の心強い言葉を聞きながら詞御は闘技場に上がる。
闘技場の中心には、理事長と護衛、そして依夜が既に居た。
「早い到着ですね、高天さん。こちらはやっと準備が終わったところです」
「少し身体を慣らしておきたいのと、改めて会場を見ておきたくてね」
「ふふ、ここにいる皆だけでなく、映像で見ている方々も興味津々ですよ」
緊張を解してくれるのか、それとも増してくれているのか分からない言葉だった。
お好きに使ってください、という理事長の言葉を貰えたので、詞御は闘技場の隅で身体をほぐす為、柔軟体操を始める。既に到着していた依夜は理事長となにやら話していた。時折、依夜が慌てふためく様子があって、顔を僅かに赤くさせていたのが気になる処ではあったが。
(衆人環視の前でなにをやっているのか……っと、来たかな?)
詞御たちが入ってきた扉と反対方向にある扉から、ひと際大きい倶纏の気配を感じた。倶纏の気配を隠そうともしないのは、自信の表れか、それともただの馬鹿か。だが、昨日とは違い詞御たちは〝浄化屋〟として、〝敵〟と相対するスタンスを取っていた。
幼等部・三年制、小学部・六年制、中等部・三年制、高等部・三年制、大学部・四年制、大学院部・二年制の四歳から二十四歳までの幅広い年齢の人間が在籍し、一学年が三十人構成で十クラス、つまり合計で六千三百人の大規模だということ。
その中で序列に入れるのは年齢問わず六十三分の一の百人。つまり序列入りするだけでも相当な実力者ということになるのだ。その序列二位に今から自分は挑む。はたして周囲からはどう思われているのか。
「話題になってますよ。〝あの〟編入試験をパスしてきた者が挑むって。どんな実力者なんだろうと興味津々になってます、みんな。何せこれまで誰も編入試験をパスした者は居なかったですからね。詞御さん、貴方が編入してくるまでは」
「プレッシャー掛けないでくれよ依夜。緊張してしまう。しかし、本日は休日と聞いている。そんなに人が集まりするものか? 誰かしら予定はあるだろうに」
「わたしに勝った貴方が言う言葉ですか。プレッシャーなんて感じてないくせに。それに人でしたらほら」
依夜は電子情報端末を操作し空間に投影されたディスプレイ画面を詞御に見せる。そこには観客席は満席、施設内視聴率もほぼ百パーセント近くと表示されていた。
ある意味予想を裏切る数字に、詞御は一瞬だけ絶句する。
「……勉強熱心な方が多いんだな(〝血気盛ん〟とは言わないで置こう)」
「そう言って貰えると助かります」
〔たのしそうですねー〕
〔終わったら目一杯愛でるし、会話にも混ぜるからふて腐れないでくれ〕
詞御は言葉で依夜の相手をし、内なる声でセフィアと会話するという慣れないことをするはめになる。都合よく、セフィアを詞御と依夜だけにしか見えなくは出来ないのだ。
何時の間にか、専用通路の終わりに差し掛かっていた。
「さて、詞御さんとはここでいったんお別れになります。わたしはおか、とと、理事長と先に行ってます。試合会場は分かりますよね? 昨日、わたしと闘った場所です」
「了解、覚えているよ。じゃあ、行って来る」
「はい、いってらっしゃい」
このやりとりを見ていた者がいたらこう言っていただろう。どこぞのカップルか夫婦か、と。
そんな事とは露知らず、詞御は迷うことなく、時間通りに闘技場がある扉の前に立っていた。
〔結構な数の人間と強力な倶纏がいるなあ、こんなこと記憶している限りではないぞ〕
〔それはそうでしょう。私も記憶ありませんから。緊張、してませんよね?〕
〔そりゃあ、緊張はするさ。〝戦い〟だから、な〕
〔……そうでしたね。入りましょうか〕
セフィアに促されて扉を開けて入る。すると詞御の耳朶を打つ、大きな声が会場に響き渡った。誰にも気付かれる事なく〝感覚の眼〟で辺りを見回して、詞御は状況を確認する。
〈へえ、あの子が編入者なんだ、なんか可愛いね〉
〈そんなに強そうに見えないけどな。倶纏が凄いのかな?〉
〈俺としては武器持ちって言う点が気になる。階位は下なのか〉
多種多様な声が、聞こうとしなくても詞御とセフィアに聞こえてくる。まあ、色々あるが、共通していることといえば、詞御の実力を疑うというか測りかねてない声が多い。
〔武器を持っているせいもあるんだろうな〕
〔それでも、正確に推し量っている異様な視線を幾つかを感じます。やはりきちんとした実力者は居るという事ですね〕
〔なんにせよ、初めての経験だが、復帰するための一歩と捉えればどうという事はない。浄化屋稼業では、幾度となく〝力〟を開放しているわけだしな。公表はしてないだけで〕
〔そうですね。この養成機関に在籍している限り、何時かは私もバレる時が来るのかもしれません。バレると色々厄介になりそうなのは目に見えていますが、一々説明することを考えると今から憂鬱になります〕
〔なるべくそうならない様にする。昨日受験した時以上の力は出したくない所だ。とはいえ、ここに来る前にお前に言ったが、〝戦い〟は何が起こるかわからない〕
〔分かっています。〝常在戦場〟を心掛けるならば、いかなる戦況にも応じる覚悟はできています。今の私に心の隙はありません〕
心の内でセフィアと会話し、彼女の心強い言葉を聞きながら詞御は闘技場に上がる。
闘技場の中心には、理事長と護衛、そして依夜が既に居た。
「早い到着ですね、高天さん。こちらはやっと準備が終わったところです」
「少し身体を慣らしておきたいのと、改めて会場を見ておきたくてね」
「ふふ、ここにいる皆だけでなく、映像で見ている方々も興味津々ですよ」
緊張を解してくれるのか、それとも増してくれているのか分からない言葉だった。
お好きに使ってください、という理事長の言葉を貰えたので、詞御は闘技場の隅で身体をほぐす為、柔軟体操を始める。既に到着していた依夜は理事長となにやら話していた。時折、依夜が慌てふためく様子があって、顔を僅かに赤くさせていたのが気になる処ではあったが。
(衆人環視の前でなにをやっているのか……っと、来たかな?)
詞御たちが入ってきた扉と反対方向にある扉から、ひと際大きい倶纏の気配を感じた。倶纏の気配を隠そうともしないのは、自信の表れか、それともただの馬鹿か。だが、昨日とは違い詞御たちは〝浄化屋〟として、〝敵〟と相対するスタンスを取っていた。
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