倶(とも)に纏(まと)いし、纏われし ―〔新たなる一歩〕―

緋村 真実

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第二幕 ―― 超越再臨

2-10

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〔どうやら、新しい倶纏が〝憑いて〟くれたみたいだな〕
〔そうですね。本人の自我も残ってくれて何よりです。生きる為の〝命〟は救えました〕

 両手に携えた〝柄〟からセフィアの意識が伝わる。
 詞御が両腕で持っているのは、身の丈ほどの刀身を持ち、片方が峰で、もう片方が刃を持つ直刀に近い地肉と刃肉が合わさった刀身が肉厚な大刀。だが、重さは全く感じない。
 何故なら、これは詞御自身の半身ともいうべき物だから。

「お前、その刀は……」

 ゼナが何かを言いかけるが、それを遮る形で別な声が割り込んでくる。

「詞御さん!!」
「依夜様?」

 なぜこの場に? という疑念の声がゼナの口から発せられた。だが、依夜は気に留める事無く、ぼろぼろに壁が崩れた闘技場に入ってきた。次いで入ってきたのは理事長でもある女王とその護衛。最後に審判員たちが続けて入ってくる。皆その顔は驚きの表情だった。そして、この場にいる誰もが詞御と彼が手に携えた物に意識が向かっていて、誰一人としてゼナに気を配る物はいない。

〔う~ん、呪昂鍵を掛け直して〝〟を戻す機会を完全に逸してしまった〕
〔それは、致し方ないことです。あの状況で、命を助ける為に確実なのはこれしかなかったのですから。それにまだ終わってませんし、出したままの方が、この際は都合が良いでしょう……尤も、この後騒ぎになってしまうのは避けられませんが〕

 セフィアの言葉に、確かに、と詞御は心で深いため息と共に頷いた。とはいえ、問われる事で別な方向に話題が行き過ぎるのも、今、この場では非常に困る。それ故に、避けられない話題を切り出す事にした。

「理事長と審判員たちが降りて来てくれたという事は〝決した〟という事で良いですね?」
「……決した、とは何をです?」

 理事長が問うてくる。

「この試合の〝勝負〟が、です。自分もゼナ先輩も降参してません。また、十カウントの数えもありませんでした。ルール的には、まだ勝負が続いている訳ですよね?」

 理事長を始め、詞御たちを除くここに残っている全員が「あっ」という顔になる。指摘されて初めて気付いたと言わんばかりに、そして、皆が顔を付き合わせた。
 皆の視線が、詞御が持っている大刀からようやく外れてくれる。
 ナーパの暴走自体は収める事は出来たが、試合そのものが終わった訳ではない。形の上では未だ継続中なのだ。

〔審判員たちは兎も角として、理事長たちも忘れているとは、よほどの混乱をしていたと見える〕
〔ゼナの〝堕纏〟に始まって、止めは〝真なる〟詞御の存在ですからね〕

 怒涛のような展開だよな、とセフィアの言葉を詞御は他人事のように聞き流して、左手を柄頭から外し、右手に視線を移す。
 鍔近くの縁の所にある右手。文字通り融けるように同化している柄とその先に延びている大きな刀身に、そっと詞御は目線を移動させる。

「無効だ! こんな序列決定戦は無効に決まっている! 俺様の倶纏を破壊したんだぞ、この男は!! それに、そんな武器は開始前には何処にも携えていなかったはず! ど、どうせこけおどしの“模造品”だろうがそんなのは関係ない! 大事なのは開始後での持ち込みの事実! それは試験準拠では禁止されているはずだ! そ、そうだ! 貴様の反則負けだ。そうに決まっているッ!!」

 だらりと下げた左腕を、右手で抱え押さえながらゼナが叫ぶ。というか、わめき散らしている。そこには開始前に見せた質実剛健な姿からはかけ離れていた。恐らく、これが彼の〝地〟なのだろう。

〔感謝は元から期待していませんでしたが、反省の色も無しで、その上、言いがかりまでしてくるとは。何とも浅はかな男です〕
〔予想はしていたさ、〝これ〟の事含めてな。けど、やっぱり、暴走状態時の記憶は持ちえていない……か〕

「黙りなさい、ゼナ!!」

 理事長として、そして女王としての一喝がゼナの喚く口を塞いだ。すっ、と手を後ろ向きにかざすと、空中に大型の空間ディスプレイが展開され、ある映像が流れる。どうやらあの惨状で生きていたカメラがあったようだ。先程のゼナが操る倶纏が暴走し始めてから、問題の発言をした場面で映像は止まった。
 ゼナの表情が先ほどまでの怒りを露にした物から、まるで信じられない物を見たと言わんばかりの驚愕の表情に変わり、次第に青ざめていった。

「何か釈明することはありますか?」

 ゼナに言葉は無かった。ただただ頭をたれて、力なく右手を握る仕草をするだけのゼナの姿が詞御には見えた。だが、ゼナの状態には意を介する事無く理事長は言葉を続ける。

「そして、倶纏の破壊についても、貴方には高天さんを責める理由は一つもありません。そもそも、物理設定を提案したのは貴方ではありませんでしたか? それに、今、貴方がそうして自我を保ち、生きていられるのも高天さんのお陰なのですよ」

 静かだが、凛としていてはっきりとした声だった。そして、映像は再び流れ、詞御が今右手に融合した大刀を出現させ、ナーパを寸断した所で終わる。

「な……?! では、今こいつが右手に携えているのは、ほ、本物の上位・乙型の力? いや、はばきに埋め込まれている宝玉、そしてそこに刻まれている“鳳凰を模した刻印”。極め付けに体と融合しているその大刀は……⁉ ま、まさか……」

 ゼナはそれ以上言葉にできないのか、ただ口をぱくぱくさせているだけだった。
 埒が明かないと見たのか、女王が詞御を見る。その瞳には、同意を求めるのと同時に驚愕を孕んでいたのも詞御とセフィアは感じ取っていた。
 此処まで大々的に披露してしまったのだ。ゼナでさえ知っている様子から、この国のトップにいる女王が知らないわけがない。なにせ当時は全世界に報道されたのだから。

 詞御は心の中に一つ溜息をつき、女王に向き合うと軽く瞳を閉じる。それを受けて女王が言葉を発する。その中に、畏怖と驚愕と畏敬を込めながら。
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