倶(とも)に纏(まと)いし、纏われし ―〔新たなる一歩〕―

緋村 真実

文字の大きさ
27 / 58
第二幕 ―― 超越再臨

2-11

しおりを挟む
「“”は仮面を被っていてその素顔は未だ明るみになっていません。しかし、ゼナが指摘した鳳凰を模した刻印がある宝玉が“はばき”に埋め込まれている“”は見間違える事はありません。一年前に起きた我が国と光の柱の反対側にある先進国同士の諍い――無人島を領土にしようと引き起こされた――から発展した世界大戦。泥沼と化し、我が国側まで広まってもおかしくない戦火をたった独りにも関わらず圧倒的な武力を誇示し鎮圧――戦争の発端ともなった無人島を文字通り世界地図から完全消滅させた事で先進国等を震撼させた――せしめてみせた、倶纏使いが振るっていた武具がまさにそれ。世界中の名だたる権威達が口を揃え証明した、古今東西の世界でも十数例しか目撃例がないと云われている、上位・甲型級の力。それを振るっていた正体、畏怖と畏敬を込めて付けられた字名あざな――規格外の超越者エクストラ・オーバーロード――と語られる人物こそ……貴方ですね?」

 女王が詞御を見て同意を求める。だが、詞御は明確な言葉を返さない。それはこの場では意味のないことだから。必要なのは、ただ一つ。

「……さあ、ね。いま重要なのは、この武具が後で持ち込んだ物でない、という事が分かってもらえること。それで、自分は十分ですよ」

 詞御は右腕で大刀を持ち上げ、刀の峯の部分をトン、と右肩に乗せる。

 上位・甲型の力。

 それより下位の倶纏が持つ全ての性質を伴い、各種様々な武装へと倶纏を変化させ、その武装は本体と融合する形をとる。その威力は絶大で一騎当千、戦術級をかるく超え戦略級の力を誇るとされている。一人で各国の軍事バランスをあっさりと根底から引っ繰り返すくらいに。
 武具には何かしらの〝刻印〟が必ず刻み込まれており、この階位では最高位を示す。事実、詞御のがまさにそれに該当する。

 詞御から明確な答えが返ってこない物の、事実上の肯定を得た女王は、この混乱を引き起こした人物にしっかりと向き合う。

「闘いを続行しますか、ゼナ・フィリプス・間宮?」

 理事長にフルネームで名指しされたゼナは、身体を震わせる。

〔あいつは下位・乙型の力を散々馬鹿にしてましたから、武具に対する浸透率の修練はどうせ積んでいないでしょう。それでも、詞御は闘ってみたいかもですが、結果は見えました。これ以上の闘いは無駄です〕

 セフィアに心を読まれた詞御は、内心苦笑する。
 でも、「このまま終わればそれで良いか」とも思った。なので、肩に担いだ剣を下ろし、高密度の昂輝と消滅の力が纏っている巨大な大刀の切っ先をゼナに向ける。
 短く「ひっ」という、か細い声が巨躯から発せられる。そして、ぺたんと尻餅を着く。

「わ、分かった。俺様、いや俺の負けだ。か、勘弁してくれ!!」

 ゼナが戦闘開始前に見せた威勢の良さも質実剛健さも、もはや見る影もなくなっていた。
 理事長は審判員たちに視線を配ると、彼等は言葉を発することはなく、ただ一つだけ頷く。

「では、序列決定戦は高天詞御の勝利で異議は無いですね」

 尻餅をついているゼナは、今度こそは文句を言うことはなかった。

「そして……ゼナ、分かってます、ね?」

 理事長が手をかざすと、闘技場の扉が開き、屈強な肉体を持つ教員二人が出てきた。そして、ゼナを拘束するとそのまま闘技場の外に連れ出していく。
 ゼナは抵抗はおろか、そのそぶりすらしなかった。完全に観念したらしい。ただ、闘技場を出る時に、ゼナの口から「ちくしょう……」という言葉が出たのを、詞御は聞き逃す事はなかった。

「彼をこれからどうなさるおつもりですか?」

 二人の教員が出て行った扉を見ながら、詞御は理事長に訊ねた。正直言ってしまえば、ゼナがどういう処分を受けようと知ったことでは無い。だが、半分巻き込まれた形になったのだ。しかも、秘匿しておきたいことも一部にバレてしまったのだ。知っておく権利もあると思っている。

「取りあえず、懲罰室で反省をしてもらいつつ、正確な真相を問い質します。その後は、司法機関に任せます。傷害を起こしていた訳ですからね。養成機関的には、現段階では停学処分。余罪が明らかになれば退学処分も免れる事はできません」

 それを訊き、周囲に悟られないよう心の中で安心する。理事長が聡明な方でよかった、と。

「もう一つ、聞きたい事がある。ゼナの欠損は〝左腕〟関係、と見て良いのか?」
「お察しの通りです。ですが、その事について、貴方に問う事は何一つとしてありません。貴方が〝その力〟を振るってくだされなければ、私たちが最悪の手段を取らねばいけなかったと処だったのです。闘う者としての命は絶たれはしましたが、生きる為の命があるだけでも、十分すぎる結果です」

〔問いただされない事自体は良かったが、後味の悪さはどうにも、な。過程がどうあれ、敵でもない相手の倶纏を〝コロス〟というのはしたく無かったよ〕
〔理事長の言う通り、詞御が気にする事では有りません。優しいのは私も嬉しいですが、あの者の事まで貴方が背負う事は無いのです〕

 セフィアこそ優しすぎる、と思わずにいられなかった。
 しかし、今は感傷に浸っている場合ではない事を思い出し、大刀の実体化を解く。
 大刀は形を創った過程を逆回しするかのような現象を辿り、空中へと消えていった。と同時に詞御自身にも呪昂鍵を掛け直し、“力”を平時の状態に戻す。

「それでは場所を変えましょう。こんなところでする話でもないでしょうから」

 理事長の提案は詞御にとってありがたかった。一部にバレてはしまったが、おいそれと出しておきたくはなかったからだ、セフィアと〝この力〟、そしてそれらをひっくるめて全世界で謂われている字名については。
 出来れば広まって欲しくはない、と願いつつ詞御は闘技場を後にするのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

縫剣のセネカ

藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。 -- コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。 幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。 ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。 訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。 その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。 二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。 しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。 二人の道は分かれてしまった。 残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。 どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。 セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。 でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。 答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。 創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。 セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。 天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。 遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。 セネカとの大切な約束を守るために。 そして二人は巻き込まれていく。 あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。 これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語 (旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...