倶(とも)に纏(まと)いし、纏われし ―〔新たなる一歩〕―

緋村 真実

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第三幕 ―― 信念相違

3-2

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〔仕方ありませんね。確かに、私がとどめを刺した事にしたほうが着地点としては無難でしょう。階位も中位・甲型までと抑えられますしね〕
〔済まないセフィア。お前を矢面に立たせてしまう形になってしまって〕
〔お気になさらず、詞御。それに、今のならそんなに騒がれないでしょうし〕

 だから、理事長が示した妥協案をすんなり受け入れた。
 それを聞いた理事長は、不安気な表情を一変させ、いつもの表情に戻っていた。そして、改めて本来伝えるべき内容を詞御たちに提示する。

「依夜に聞いているかもしれませんが、序列十位までは特別に個室が用意されますが、模様替えに一日を要しますので、本日も王宮に泊まってください。食事もこちらで用意いたしますのでご心配なく。それと倶纏の事も手回ししておきますので、セフィアさんも部屋で顕現してかまいません」

〔依夜の予想が当たったな〕
〔まあ、当然の結果です〕

「それでは高天さん。申し訳ありませんが、先に王宮に戻ってもらえませんか? 依夜は養成機関の高等部にいるとはいえ皇女の立場。普段、休日は公務を手伝ってもらってますので、昼食は一人で取ってください。帰りは専用通路を使ってかまいません」
「わかりました、理事長。依夜も頑張れよ」
「はい、詞御さん。夕食は一緒に食事しましょうね」

 まぶしい笑顔で言われ、詞御は一瞬言葉に詰まる。

「詞御さん?」
「……いや、なんでもない。楽しみにしているよ」

 そういうのが精一杯だった。僅かばかり心臓の鼓動が早くなる。理由が分からなかった。
 セフィアを己の内に戻すと依夜たちにいとまを告げる。詞御は理事長室を後にし、今朝も使った専用通路を通って出入り口へと足を運んだ。出入り口には昨日と同様、車が一台停めてあり、それに乗って、また詞御は王宮へと向かう。
 部屋に着いた頃には、もうお昼ごろに差し掛かっていたのもあってか、昨夜と同様、お膳が用意されていた。しかも、〝二人分〟のお膳が。

〔さすが女王様、手際が良いです。私の分まで用意してくださるなんて〕
〔よかったなセフィア。顕現してもいいぞ〕

 女王から許可を貰っていたので、詞御はセフィアを顕現させる。そして、ふたりして昼食を摂った。

「こうして詞御と一緒にごはんを食べるのはいつ振りでしょう」

 にこにことセフィアは上機嫌に食事をしている。意識のある倶纏は非常に珍しいので、あまり表には出せない。妬まれるだけならまだいい。気味悪がって、お店から入店を拒否されたこともある。それ故に、セフィアと食事できるというのは、滅多にないのだ。
 だから、詞御も自然と笑顔になっていた、我知らずに。

「はあ~、食べた食べた」

 椅子に座ったままで、う~ん、と両手を上に伸ばしてその後脱力するセフィア。
 姿が姿だけに微笑ましい光景ではあるのだが、

でされると困るからなぁ)

 詞御自身の倶纏とはいえ、本来の姿は、色んな意味で目の毒ではあるのは確かだ。
 そんな思考を頭の片隅に押しやり、今はこの食事の後の余韻を満喫するべきだ、と詞御は思い、椅子から立ちベッドに横たわる。

「昨日も思ったが、いい寝心地だな。流石、王宮仕様、というべきだよな」
「そうなのですか? えいっ」

 空いているベッドの場所に、仰向けでセフィアは跳びこんで来た。
 ばふっという音と共に、彼女の体がベッドに沈む。

「お前、〝姿〟でいる時は、精神が退行してないか?」
「良いんですよ、姿相応な対応とらないと不自然でしょう? でも、ほんと寝心地が良いですね。これに寝慣れたら、他の物では満足できなくなりますよ」

 そんな他愛もない話をセフィアとするのは楽しい。
 心の内では何時でも話しているが、やはり面と向かっての会話の方が何倍も良いと詞御は感じていた。
 詞御が物心付く頃から一緒にいてくれている、己が半身ともいえる存在とこうしていられる奇跡に感謝したくなる。

 それから暫く、詞御は軽い睡魔に襲われてそのまま深い眠りに入った。詞御自身はあまり自覚は無かったが、昨日の試験と今日の思わぬ力の解放に疲労が溜まっていたのだ。

「お疲れ様です、詞御。ゆっくり休んでください」

 傍らでは、セフィアが慈愛の表情を見せていた。倶纏は憑依した者の欠損を補う存在。普段は寝たり食べたりする必要はない。でも、何時からだっただろうか、セフィアが意識体であることが分かってからは、こんな形で一緒に過ごすことが多くなっていった。特殊な倶纏ゆえに多少の制限はあるが、セフィアはそれでもこうして詞御と過ごせるのは、詞御の力に成れるのは嬉しかった。

(必ず守って見せます、何者からも何事からも)

 セフィアは、改めて静かに心の中でそう決意した。

        ◇       ◇       ◇       ◇
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