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第三幕 ―― 信念相違
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依夜の言葉を受けて、詞御は椅子から立ち上がり壁に立てかけられた刀を取る。まずその重さに驚く。【軽すぎるのだ】、従来の刀が持つ重さに比べて。そして気付く。仰々しい柄――その柄頭は、金の瞳をした黄龍が虹色の煌きを輝かせる宝玉を抱え込んでいるもの――であり、鍔が竜の翼を模している形のため、今にも飛び立ちそうなほどの躍動を感じる。
その従来の刀とは異形ともいえる柄と異様なまでの軽さを気に掛けながら鞘から抜刀してみる。
「これは――」
「やはり詞御さんでも驚きますよね、わたしもお母様に見せられたとき驚きました。何でも、名のある名工が打ったという特殊な業物らしいです。この業物は、昂輝と強く反応し威力を高めるという稀少な鉱石、そして熟練の業で造られた武具、とお母様が言ってました。それとお母様からの伝言です」
すると依夜は一通の封書を手渡してきた。封を切られていない所を見ると依夜にも見せられない物だというのは容易に想像がつく。
詞御は慎重に封を切り、中身を取り出す。二通の手紙が入っていた。
『創られてから二百年、一度として使い手に巡り恵まれず、宝物庫に埋もれて埃を被っていました。でもあの序列戦で見せてくれた貴方が持つ〝真〟の力を使いこなす方であればこの〝刀〟も使いこなせるはず。ですので、気にする事無く、貴方の力の一つにしてあげて下さい。それが創造れても、使われ無かったこの刀の為になります。扱い方はもう一通の手紙に。お礼はいりません。〝恩〟も兼ねてますので』
と書いてあった。
〔有り難い事ですね。それだけ、〝闘いの儀〟と【とあること】に力を入れているということでしょうね〕
〔そうだな、自分には勿体無いくらいだが……しかし、〝恩〟とはなんだ? 自分には、皆目検討がつかないぞ、セフィア〕
〔それもあとで教えてもらえるのでしょう。今はありがたく貰っておくべきです。まずは試してみましょう。万が一が有ってはいけませんから〕
〔そうだな〕
二枚目の手紙にざっと目を通し、仕様を確認する。それから、仰々しい柄を両手で握り、正眼に構えた。そして、一呼吸いれると仕様書にあった事を試みる。微量の〝力〟を籠めて。すると、それは【目に見える形】となって詞御たちの眼前に顕現した。
「……綺麗」
依夜は感嘆した表情で声音を発する。詞御も言葉に出さないもの同意見だった。同時に、使い手が現れなかった理由とこの武器の畏怖すべきところを察した。だから、この刀の使い方の最後に書かれていた事を実行する。詞御は、使い方を書かれた紙を、常人の目に見えぬ剣速で刀を振るい、細切れにすると同時に【文字通り消滅】させたのだ。
詞御の行為に、訳が分からず、依夜は目で問いかける。
「〝使い方は誰にも教えるな〟、それがこの刀を譲り受ける絶対条件。軍事機密で言えば代々の王と王妃しか知っていない最高機密度の一つに当たるそうだ。悪しき者の手に渡って使われれば、一国など軽く滅ぼしてしまう災厄をこの世にもたらすことになる、と。尤も、真に使いこなせればの話だが、だそうだ」
〝力〟を抜いた刀を鞘に納めつつ依夜に説明しながら、詞御は軽く念じる。すると、刀全体が淡く発光。そして刀全体の輪郭が消えていき光の粒子と化し、詞御の左手首に細いリング状となって形を成す。
「便利なものだよ。持ち運びに苦労しないし、且つこれであれば、誰にも盗られることもない」
詞御の左手首にはまったリング状の腕輪をみた依夜は、
「その〝力〟をお母様は、詞御さんに託した。教えてもらえない事を悔しくないと言えば嘘になります。しかし、それ以上にお母様は詞御さんを信じて下さっている。その事がわたしにはとても嬉しいです」
「その期待に応えられる様に、〝闘いの儀〟で全力を尽くすよ」
詞御と依夜の間にあたたかい雰囲気が流れる。俗に言う〝二人の世界〟が形成されつつあった。が、それを察したセフィアが二人の間に言葉で割り込む。
「処で皇女さま、そのバッグは一体なんです?」
「……絶妙なタイミングで割り込んできますね、セフィアさん?」
にこにこと笑顔のまま睨み合う一人と一体。その醸し出す雰囲気に部屋の温度が下がる錯覚を感じる詞御。だが、それも束の間の事。ルアーハが依夜の頭を軽く小突く事で収束する。
「あイタぃ……。何しますか、ルアーハ」
「依夜もセフィア殿もその辺りにせぬか。進む話も進まん」
鶴の一声、という訳でもないのだが、年長者の雰囲気を纏っているルアーハの言葉はてき面だった。依夜だけでなく、セフィアもバツが悪そうに視線を逸らす。それを見計らって、詞御は言葉を掛ける。
「それで、セフィアの言葉を再度訊ねる形になるのだが、床に置いてある大きなバッグは何?」
「制服と教材一式ですよ?」
〝それが何か?〟と言わんばかりに、こともなげに依夜が言った。聴いた瞬間、うげっ、という表情をする詞御。
「これは明日のカリキュラムの課業の教科書です。だって明日からは詞御さんも生徒な訳ですし、本当の意味で編入になりますからね。残りの教材は、寮に運んでおくそうです」
「そうか、勉強もしないといけないんだな……」
「それはそうです。倶纏の養成機関ではありますが、一般科目も、他の学校よりは少ないですが、あります。これもお母様から聴いたのですが、昨日の午前中の筆記試験も満点に近い点数だったので、授業には付いてこれるはずですが、と」
確かに、詞御が先生から教えて貰った知識の範囲では、高校卒業程度は教えてもらっていた。だが、この三年半で新しく増えた知識や覆った歴史もあるだろう。それはこれから憶えていかなければ行けない事。基本、興味の無い分野の勉強が嫌な詞御は、
〔セフィア……〕
〔分かってます。後で、私が見ておきますから〕
情けない声で詞御はセフィアに懇願するしかなかった。セフィアも詞御が言うのが分かっていたのだろう。即答で詞御の言いたいことが分かった答えを返す。
「それで、最後の質問なんだが、依夜の眼がこの国には存在しないはずの『紅い』虹彩なのは何故だ?」
瞬間、ピリッと室内の空気が一瞬張り詰めるのが分かった。
その従来の刀とは異形ともいえる柄と異様なまでの軽さを気に掛けながら鞘から抜刀してみる。
「これは――」
「やはり詞御さんでも驚きますよね、わたしもお母様に見せられたとき驚きました。何でも、名のある名工が打ったという特殊な業物らしいです。この業物は、昂輝と強く反応し威力を高めるという稀少な鉱石、そして熟練の業で造られた武具、とお母様が言ってました。それとお母様からの伝言です」
すると依夜は一通の封書を手渡してきた。封を切られていない所を見ると依夜にも見せられない物だというのは容易に想像がつく。
詞御は慎重に封を切り、中身を取り出す。二通の手紙が入っていた。
『創られてから二百年、一度として使い手に巡り恵まれず、宝物庫に埋もれて埃を被っていました。でもあの序列戦で見せてくれた貴方が持つ〝真〟の力を使いこなす方であればこの〝刀〟も使いこなせるはず。ですので、気にする事無く、貴方の力の一つにしてあげて下さい。それが創造れても、使われ無かったこの刀の為になります。扱い方はもう一通の手紙に。お礼はいりません。〝恩〟も兼ねてますので』
と書いてあった。
〔有り難い事ですね。それだけ、〝闘いの儀〟と【とあること】に力を入れているということでしょうね〕
〔そうだな、自分には勿体無いくらいだが……しかし、〝恩〟とはなんだ? 自分には、皆目検討がつかないぞ、セフィア〕
〔それもあとで教えてもらえるのでしょう。今はありがたく貰っておくべきです。まずは試してみましょう。万が一が有ってはいけませんから〕
〔そうだな〕
二枚目の手紙にざっと目を通し、仕様を確認する。それから、仰々しい柄を両手で握り、正眼に構えた。そして、一呼吸いれると仕様書にあった事を試みる。微量の〝力〟を籠めて。すると、それは【目に見える形】となって詞御たちの眼前に顕現した。
「……綺麗」
依夜は感嘆した表情で声音を発する。詞御も言葉に出さないもの同意見だった。同時に、使い手が現れなかった理由とこの武器の畏怖すべきところを察した。だから、この刀の使い方の最後に書かれていた事を実行する。詞御は、使い方を書かれた紙を、常人の目に見えぬ剣速で刀を振るい、細切れにすると同時に【文字通り消滅】させたのだ。
詞御の行為に、訳が分からず、依夜は目で問いかける。
「〝使い方は誰にも教えるな〟、それがこの刀を譲り受ける絶対条件。軍事機密で言えば代々の王と王妃しか知っていない最高機密度の一つに当たるそうだ。悪しき者の手に渡って使われれば、一国など軽く滅ぼしてしまう災厄をこの世にもたらすことになる、と。尤も、真に使いこなせればの話だが、だそうだ」
〝力〟を抜いた刀を鞘に納めつつ依夜に説明しながら、詞御は軽く念じる。すると、刀全体が淡く発光。そして刀全体の輪郭が消えていき光の粒子と化し、詞御の左手首に細いリング状となって形を成す。
「便利なものだよ。持ち運びに苦労しないし、且つこれであれば、誰にも盗られることもない」
詞御の左手首にはまったリング状の腕輪をみた依夜は、
「その〝力〟をお母様は、詞御さんに託した。教えてもらえない事を悔しくないと言えば嘘になります。しかし、それ以上にお母様は詞御さんを信じて下さっている。その事がわたしにはとても嬉しいです」
「その期待に応えられる様に、〝闘いの儀〟で全力を尽くすよ」
詞御と依夜の間にあたたかい雰囲気が流れる。俗に言う〝二人の世界〟が形成されつつあった。が、それを察したセフィアが二人の間に言葉で割り込む。
「処で皇女さま、そのバッグは一体なんです?」
「……絶妙なタイミングで割り込んできますね、セフィアさん?」
にこにこと笑顔のまま睨み合う一人と一体。その醸し出す雰囲気に部屋の温度が下がる錯覚を感じる詞御。だが、それも束の間の事。ルアーハが依夜の頭を軽く小突く事で収束する。
「あイタぃ……。何しますか、ルアーハ」
「依夜もセフィア殿もその辺りにせぬか。進む話も進まん」
鶴の一声、という訳でもないのだが、年長者の雰囲気を纏っているルアーハの言葉はてき面だった。依夜だけでなく、セフィアもバツが悪そうに視線を逸らす。それを見計らって、詞御は言葉を掛ける。
「それで、セフィアの言葉を再度訊ねる形になるのだが、床に置いてある大きなバッグは何?」
「制服と教材一式ですよ?」
〝それが何か?〟と言わんばかりに、こともなげに依夜が言った。聴いた瞬間、うげっ、という表情をする詞御。
「これは明日のカリキュラムの課業の教科書です。だって明日からは詞御さんも生徒な訳ですし、本当の意味で編入になりますからね。残りの教材は、寮に運んでおくそうです」
「そうか、勉強もしないといけないんだな……」
「それはそうです。倶纏の養成機関ではありますが、一般科目も、他の学校よりは少ないですが、あります。これもお母様から聴いたのですが、昨日の午前中の筆記試験も満点に近い点数だったので、授業には付いてこれるはずですが、と」
確かに、詞御が先生から教えて貰った知識の範囲では、高校卒業程度は教えてもらっていた。だが、この三年半で新しく増えた知識や覆った歴史もあるだろう。それはこれから憶えていかなければ行けない事。基本、興味の無い分野の勉強が嫌な詞御は、
〔セフィア……〕
〔分かってます。後で、私が見ておきますから〕
情けない声で詞御はセフィアに懇願するしかなかった。セフィアも詞御が言うのが分かっていたのだろう。即答で詞御の言いたいことが分かった答えを返す。
「それで、最後の質問なんだが、依夜の眼がこの国には存在しないはずの『紅い』虹彩なのは何故だ?」
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