32 / 58
第三幕 ―― 信念相違
3-5
しおりを挟む
「そ、先生。流派や倶纏の操り方だけではなく、生きていく方法や、本来高等部まで習う範囲を十二歳までの六年間で詰め込んでくれたんだ。浄化屋と本人は言っていたけど、その知識は多岐にわたったよ。政治・経済・医療、その他諸々と。一体、何をしている人なんだか。未だに分からない部分が多い。先生とは、その人がそう呼べと言ったから」
全く謎多き人だと、詞御は言葉をこぼす。現在に至っても、予測が出来ない人だから。
「名前を教えて、と言った事もあったんだが、『追いついたら教えてやる』と言われ、結局追いつけないまま六年間が過ぎ、十三歳を迎えた。そして、当時の浄化屋の受験資格を得て、一発合格したら『ここからはお前一人で生きていけ詞御。セフィアも一緒にいることだし問題ないだろう。次に会ったときには名前を教えてやる』と言われて一方的に放逐された」
これが三年半前の出来事になる。
結局、出会う事叶わず、時が過ぎ、やっきになって探していたらライセンス凍結の憂き目に詞御は遭う。その間も修行を続けて、なんとか上位・甲型に達することは出来た。が、その矢先に今の生活に至るという顛末。まいったよ、と詞御は心の中で思っていた。
「自分が振るう剣術が含まれている・高天防人流とは、平たく言えば、昂輝の扱いと各種ある武術を融合させた下位・乙型を極めた流派なんだ。既存の下位・乙型とは一線を画する。なんたって、階位の力の差の常識を覆すほどの威力を秘めているからね。極めれば、上位に迫るとさえ言われている流派。
成り立って歴史が浅い黎明期、過去の使い手が戦争でどこかの国に加担した結果勝利をもたらし、その国の人々の幸せは守れたけれど、敗戦国の人間を結果的に見殺しにしてしまった過ちもあったらしい。そんな歴史背景もあってか、それ以降は、その強さゆえずっとこれまで歴史の影に隠匿され続け、いつしかこの流派は吟遊詩人の詩に出てくる程度の認識しか無くなっていった。同時に、その長い歴史の中で唯一無二の理が必然的に出来上がった」
食事の為に一旦腰から外し机に掛けていた、愛刀が収められた鞘を手にする詞御。
それを依夜たちに見せるように掲げる。
「その理が自分が浄化屋にこだわり続ける二つ目の理由にも関わってくるのだけれど、それは、時代時代の苦難から目に映る『人々』を守っていくのが唯一にして絶対の理。流派の最後に【防人】とあるように、守るべきは、『国』ではなく『人』、なんだ。
そして、『国』に関わらない以上、それはあくまでもどの権力、どの派閥にも属さないことを意味する。自由の武力として初めて、やっとこの世界に存在を許されるのが自分が扱う力。『自由の力でなければ、必ずどこかに歪みを生み出す』、と先生に強く言われた。加担した勢力に間違いなく勝利をもたらし他の人間を不幸にしてしまうから、とも」
「何となく判る気がします。最終試験を務めた私にはわかる。詞御さんの流派には、まだまだ深く広いモノがあることを。恐らく、今日の騒動も、形振り構わなければ、貴方が持つ『力』だけで事態を収められたのでは、と今想像すると、そう考えられます」
依夜が隣に居る倶纏に目配せすると、同意見といわんばかりにルアーハの深く頷く姿が詞御の目に映った。だが、詞御は肯定もしなければ否定もしない。理ゆえに。
依夜たちも答えを求めてはいなかったのだろう、話の続きを促す視線を送ってくる。
「だから、自分は自分の信念とそれを含む理と教えを守り、警察にも軍にも所属するつもりはない。しがらみが多すぎるから、両方には。月読王国に籍を置いてはいるが、あくまで中立の立場であるという自負を自分は貫いている。浄化屋という職は、組織とはいえ、国際的な立場。
先生も在籍しているように、理に反しない。一人でも多くの犯罪者を捕まえれば、弱い人の手助けに成る。また理不尽な暴力で、泣く人・悲しむ人・苦しむ人を見過すなど、どんな理由があろうと放っておくなど自分はしたくない。流派の理も含め、これが自分が浄化屋の仕事にこだわる理由だよ」
「……そうでしたのですか、やはり詞御さんは凄い方ですね」
やっと納得してくれたのか、依夜はしきりに頷いていた。横を見れば、ルアーハも納得したらしく、しきりに頷いている。
〔そんなに凄いものかな? 自分の信念に従ったことをしているだけなのに〕
〔詞御を認めてくれる人が増えるのは私にとっても嬉しいことです〕
セフィアと思念で会話していて、詞御は尚も頭に疑問符を浮かべていた。
「さて、依夜とルアーハの疑問にも答えたところで、約束どおり、もう三つほど訊きたいことがあるのだけど、良いかな?」
「多いですね。でも約束なのでお受けします。何でしょうか?」
「いや、その壁にかけてある鞘に収められてある仰々しい柄を持つ刀と床に置いてある大きなバックは何かな、と思いまして」
ああ、と依夜がぽんと手を打つ。
「お母様が、序列二位の祝いということで、王宮の宝物庫からそれを詞御さんに、と。持ってみてください」
全く謎多き人だと、詞御は言葉をこぼす。現在に至っても、予測が出来ない人だから。
「名前を教えて、と言った事もあったんだが、『追いついたら教えてやる』と言われ、結局追いつけないまま六年間が過ぎ、十三歳を迎えた。そして、当時の浄化屋の受験資格を得て、一発合格したら『ここからはお前一人で生きていけ詞御。セフィアも一緒にいることだし問題ないだろう。次に会ったときには名前を教えてやる』と言われて一方的に放逐された」
これが三年半前の出来事になる。
結局、出会う事叶わず、時が過ぎ、やっきになって探していたらライセンス凍結の憂き目に詞御は遭う。その間も修行を続けて、なんとか上位・甲型に達することは出来た。が、その矢先に今の生活に至るという顛末。まいったよ、と詞御は心の中で思っていた。
「自分が振るう剣術が含まれている・高天防人流とは、平たく言えば、昂輝の扱いと各種ある武術を融合させた下位・乙型を極めた流派なんだ。既存の下位・乙型とは一線を画する。なんたって、階位の力の差の常識を覆すほどの威力を秘めているからね。極めれば、上位に迫るとさえ言われている流派。
成り立って歴史が浅い黎明期、過去の使い手が戦争でどこかの国に加担した結果勝利をもたらし、その国の人々の幸せは守れたけれど、敗戦国の人間を結果的に見殺しにしてしまった過ちもあったらしい。そんな歴史背景もあってか、それ以降は、その強さゆえずっとこれまで歴史の影に隠匿され続け、いつしかこの流派は吟遊詩人の詩に出てくる程度の認識しか無くなっていった。同時に、その長い歴史の中で唯一無二の理が必然的に出来上がった」
食事の為に一旦腰から外し机に掛けていた、愛刀が収められた鞘を手にする詞御。
それを依夜たちに見せるように掲げる。
「その理が自分が浄化屋にこだわり続ける二つ目の理由にも関わってくるのだけれど、それは、時代時代の苦難から目に映る『人々』を守っていくのが唯一にして絶対の理。流派の最後に【防人】とあるように、守るべきは、『国』ではなく『人』、なんだ。
そして、『国』に関わらない以上、それはあくまでもどの権力、どの派閥にも属さないことを意味する。自由の武力として初めて、やっとこの世界に存在を許されるのが自分が扱う力。『自由の力でなければ、必ずどこかに歪みを生み出す』、と先生に強く言われた。加担した勢力に間違いなく勝利をもたらし他の人間を不幸にしてしまうから、とも」
「何となく判る気がします。最終試験を務めた私にはわかる。詞御さんの流派には、まだまだ深く広いモノがあることを。恐らく、今日の騒動も、形振り構わなければ、貴方が持つ『力』だけで事態を収められたのでは、と今想像すると、そう考えられます」
依夜が隣に居る倶纏に目配せすると、同意見といわんばかりにルアーハの深く頷く姿が詞御の目に映った。だが、詞御は肯定もしなければ否定もしない。理ゆえに。
依夜たちも答えを求めてはいなかったのだろう、話の続きを促す視線を送ってくる。
「だから、自分は自分の信念とそれを含む理と教えを守り、警察にも軍にも所属するつもりはない。しがらみが多すぎるから、両方には。月読王国に籍を置いてはいるが、あくまで中立の立場であるという自負を自分は貫いている。浄化屋という職は、組織とはいえ、国際的な立場。
先生も在籍しているように、理に反しない。一人でも多くの犯罪者を捕まえれば、弱い人の手助けに成る。また理不尽な暴力で、泣く人・悲しむ人・苦しむ人を見過すなど、どんな理由があろうと放っておくなど自分はしたくない。流派の理も含め、これが自分が浄化屋の仕事にこだわる理由だよ」
「……そうでしたのですか、やはり詞御さんは凄い方ですね」
やっと納得してくれたのか、依夜はしきりに頷いていた。横を見れば、ルアーハも納得したらしく、しきりに頷いている。
〔そんなに凄いものかな? 自分の信念に従ったことをしているだけなのに〕
〔詞御を認めてくれる人が増えるのは私にとっても嬉しいことです〕
セフィアと思念で会話していて、詞御は尚も頭に疑問符を浮かべていた。
「さて、依夜とルアーハの疑問にも答えたところで、約束どおり、もう三つほど訊きたいことがあるのだけど、良いかな?」
「多いですね。でも約束なのでお受けします。何でしょうか?」
「いや、その壁にかけてある鞘に収められてある仰々しい柄を持つ刀と床に置いてある大きなバックは何かな、と思いまして」
ああ、と依夜がぽんと手を打つ。
「お母様が、序列二位の祝いということで、王宮の宝物庫からそれを詞御さんに、と。持ってみてください」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる