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第三幕 ―― 信念相違
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「自分は両親の顔を知らない。物心ついたときには、とある保護施設に預けられていた。セフィアの話では、自分の欠損で覚える事もままならなかった幼少期、親戚をたらい回しにされていたらしい。見聞きした事を忘れるんだもんな、手が掛かりすぎたのだろう。最後に行き着いたのが、自分と同様、身寄りのない子供が集まる施設だった」
それを聞いてハッとしたのか、依夜は申し訳なさそうな顔をする。それに気付いた詞御は、なだめる様な声音で話を進める。
「依夜が気にすることじゃない。そういう生まれだったんだ、仕方のないこと。その施設で自分は、何とか暮らす事ができるようになっていた。セフィアとの意思疎通ができ始め、記憶の定着の仕方が分かった頃だったからな。そんな時、事件が起きた」
「事件……っ」
依夜はごくっと唾を飲み込む。詞御からただならぬ気配を感じたから。
「十年ちょっと前の〝あの日〟は、保護施設にある幼稚園の卒園式の日だった。つつがなく進行する式の中、それは唐突に起きた。とある犯罪集団がいきなり進入してきたんだ。下位・甲型の使い手が一人。他は無位だったが、過去の遺物である自動小銃を携えていて暴力の限りを尽くした……!」
「その事件は儂も見聞きした記憶がある。確か当時、大きな報道じゃった」
子供時代の話だ。依夜は覚えていなくても不思議ではないが、倶纏であるルアーハが覚えている事はありえるだろうと詞御は思った。なにせ人格を持つ倶纏は、生れ落ちた時点で、成人並みの智力は備えているから。そう理解し話を進めていく。
「保護施設の先生は、殆どが無位だった。唯一、下位・乙型の先生が応戦してくれたが、あっけなく下位・甲型の倶纏使いに殺された。卒園式に参加していた児童は、俺を除いて無位。過去の遺物とはいえ、昂輝を纏えないため弾丸を防ぎきる事はできなく、みんな次々に殺されていったよ。俺は、その時、下位・丙型にはかろうじて達していたので、なけなしの昂輝を振り絞って弾丸の嵐を耐え抜いた」
それは仕方のないことだ、と依夜は思った。階位が一つ違えば、実力の隔たりは大きい。尤も、能力の相性が合えば逆転の手もあるが、余程のことでない限りは覆らない。階位の格差を超えた能力でも持たなければ。
また、無位は倶纏はあれど、それは欠損を補うだけのもの。顕現はおろか、昂輝をその身に纏う事は出来ない。
逆を言えば、昂輝をその身に纏う事ができたら旧世代の武器――弾丸程度の攻撃から身を守ってくれる。傷つくことはない。
「でも、それが拙かった。死なない俺に対し、下位・甲型の使い手が目を付けたんだ。これは殺される、とあの時は思ったよ。そんな時だった、一振りの刀を携えた見知らぬ青年が来て、犯罪者集団を屠ったんだ。
下位・甲型の倶纏も一刀両断し、残りも難なく取り押さえた。そして、全てが終わったとき、俺だけが生き残った。生き残ってしまった、唯一〝力〟を使えたせいで。そして、許せなかった。誰一人、守れなかった自身が」
詞御は、右腕を上に掲げると、白銀の昂輝を薄っすらと纏わせる。まるで何かの決意を表明するかのごとく。
「初めて、本当に力を欲した。だから、混乱を収拾してくれた人に頼み込んだんだ。『命を捨ててでも守れる力が欲しい』と。何回も頼み込んだら、その青年は腰をかがめて自分と同じ目線に持ってきて、『間に合わなくってごめんな坊や。なら僕と一緒に来るかい?』と問うてきたんだ。ここがどんな施設なのか分かったのだろう。そして、自分が孤児だということにも。一にも二にも頷いたよ。そして、自分はその青年の養子となった」
長く喋って、口が渇いた詞御は、一呼吸入れる意味合いも含めて、食後に用意されたお茶をすする。依夜もルアーハも言葉が出ないという様子で詞御の語りを聞いていた。
「それからその青年と一緒に世界各地を色々と回ったよ。浄化屋という職業の仕事を知ったのは、その青年の職業だったから。青年は、自分に語ってくれたんだ、『僕が持つこの力――高天防人流を教えてあげる』と。〝高天〟の性はその流派から、青年によって自分に与えられたものなんだ。
青年の階位は、自分が見せてもらった限りでは、中位・乙型までだったが、見せてくれないだけでそれ以上あったのかもしれない。何せ、知識の上だけでは最も高い、上位・甲型まで性質と一緒に教えてくれたからね。今振り返れば、少なくとも見た事があるか、持っていなければ教えられない知識なのは間違いない。自分自身が今の力に目覚めたのもその知識あってこそだ」
「あの……」
「うん、なに依夜?」
「先ほどから〝青年〟と言われてますが、つまり詞御さんにとってお師匠さんに当たる人、なんですよね? 名前はないのですか?」
「それと、〝高天防人流〟という流派も初耳じゃ。差し障りなければ教えてもらえんかのう?」
依夜とルアーハ。一人と一体から質問が上がる。長い話の中だ。そりゃあ疑問も沸くか、と詞御は思い、問い掛けに答えを返す。
「あ~師匠と言えば師匠になるのかな? 自分にとっては、先生、と云う言葉が一番しっくりくるのだけれども」
「先生、ですか?」
依夜が答える。その顔は不思議そうな顔をしていた。
それを聞いてハッとしたのか、依夜は申し訳なさそうな顔をする。それに気付いた詞御は、なだめる様な声音で話を進める。
「依夜が気にすることじゃない。そういう生まれだったんだ、仕方のないこと。その施設で自分は、何とか暮らす事ができるようになっていた。セフィアとの意思疎通ができ始め、記憶の定着の仕方が分かった頃だったからな。そんな時、事件が起きた」
「事件……っ」
依夜はごくっと唾を飲み込む。詞御からただならぬ気配を感じたから。
「十年ちょっと前の〝あの日〟は、保護施設にある幼稚園の卒園式の日だった。つつがなく進行する式の中、それは唐突に起きた。とある犯罪集団がいきなり進入してきたんだ。下位・甲型の使い手が一人。他は無位だったが、過去の遺物である自動小銃を携えていて暴力の限りを尽くした……!」
「その事件は儂も見聞きした記憶がある。確か当時、大きな報道じゃった」
子供時代の話だ。依夜は覚えていなくても不思議ではないが、倶纏であるルアーハが覚えている事はありえるだろうと詞御は思った。なにせ人格を持つ倶纏は、生れ落ちた時点で、成人並みの智力は備えているから。そう理解し話を進めていく。
「保護施設の先生は、殆どが無位だった。唯一、下位・乙型の先生が応戦してくれたが、あっけなく下位・甲型の倶纏使いに殺された。卒園式に参加していた児童は、俺を除いて無位。過去の遺物とはいえ、昂輝を纏えないため弾丸を防ぎきる事はできなく、みんな次々に殺されていったよ。俺は、その時、下位・丙型にはかろうじて達していたので、なけなしの昂輝を振り絞って弾丸の嵐を耐え抜いた」
それは仕方のないことだ、と依夜は思った。階位が一つ違えば、実力の隔たりは大きい。尤も、能力の相性が合えば逆転の手もあるが、余程のことでない限りは覆らない。階位の格差を超えた能力でも持たなければ。
また、無位は倶纏はあれど、それは欠損を補うだけのもの。顕現はおろか、昂輝をその身に纏う事は出来ない。
逆を言えば、昂輝をその身に纏う事ができたら旧世代の武器――弾丸程度の攻撃から身を守ってくれる。傷つくことはない。
「でも、それが拙かった。死なない俺に対し、下位・甲型の使い手が目を付けたんだ。これは殺される、とあの時は思ったよ。そんな時だった、一振りの刀を携えた見知らぬ青年が来て、犯罪者集団を屠ったんだ。
下位・甲型の倶纏も一刀両断し、残りも難なく取り押さえた。そして、全てが終わったとき、俺だけが生き残った。生き残ってしまった、唯一〝力〟を使えたせいで。そして、許せなかった。誰一人、守れなかった自身が」
詞御は、右腕を上に掲げると、白銀の昂輝を薄っすらと纏わせる。まるで何かの決意を表明するかのごとく。
「初めて、本当に力を欲した。だから、混乱を収拾してくれた人に頼み込んだんだ。『命を捨ててでも守れる力が欲しい』と。何回も頼み込んだら、その青年は腰をかがめて自分と同じ目線に持ってきて、『間に合わなくってごめんな坊や。なら僕と一緒に来るかい?』と問うてきたんだ。ここがどんな施設なのか分かったのだろう。そして、自分が孤児だということにも。一にも二にも頷いたよ。そして、自分はその青年の養子となった」
長く喋って、口が渇いた詞御は、一呼吸入れる意味合いも含めて、食後に用意されたお茶をすする。依夜もルアーハも言葉が出ないという様子で詞御の語りを聞いていた。
「それからその青年と一緒に世界各地を色々と回ったよ。浄化屋という職業の仕事を知ったのは、その青年の職業だったから。青年は、自分に語ってくれたんだ、『僕が持つこの力――高天防人流を教えてあげる』と。〝高天〟の性はその流派から、青年によって自分に与えられたものなんだ。
青年の階位は、自分が見せてもらった限りでは、中位・乙型までだったが、見せてくれないだけでそれ以上あったのかもしれない。何せ、知識の上だけでは最も高い、上位・甲型まで性質と一緒に教えてくれたからね。今振り返れば、少なくとも見た事があるか、持っていなければ教えられない知識なのは間違いない。自分自身が今の力に目覚めたのもその知識あってこそだ」
「あの……」
「うん、なに依夜?」
「先ほどから〝青年〟と言われてますが、つまり詞御さんにとってお師匠さんに当たる人、なんですよね? 名前はないのですか?」
「それと、〝高天防人流〟という流派も初耳じゃ。差し障りなければ教えてもらえんかのう?」
依夜とルアーハ。一人と一体から質問が上がる。長い話の中だ。そりゃあ疑問も沸くか、と詞御は思い、問い掛けに答えを返す。
「あ~師匠と言えば師匠になるのかな? 自分にとっては、先生、と云う言葉が一番しっくりくるのだけれども」
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依夜が答える。その顔は不思議そうな顔をしていた。
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