倶(とも)に纏(まと)いし、纏われし ―〔新たなる一歩〕―

緋村 真実

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第五幕 ―― 神滅覚醒

5-1

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「詞御さん、お疲れではないですか? それにセフィアさんも身体に負担があるのでは?」

 〝闘いの儀レクシオン〟の表彰式が終わり、詞御たちと依夜たちは、王宮に案内されていた。これから、勝者である者に【】が伝えられる運びとなっているからだ。案内役に連れられるがままに十分は歩いている。

「問題ないよ依夜。あの試合の最後の技を発動するのに時間が掛ったのは、に物にしていないから。このが凄すぎて、まだ瞬間的な微調整が出来ないんだ。抑え込むのがなかなか難しくてね……まあ、自分の至らなさと修行不足なだけ。兎も角、自分“達”には問題ないよ。なあ、セフィア」
〔その通りです。私に不具合はありません。むしろ絶好調です〕

 〝闘いの儀レクシオン〟の勝敗の決め手となった技。その凄さと怖さを知るだけに依夜は心配だったが、どうやら杞憂に終わりそうでホッとしていた。

「それにしても、あとどれくらい歩いて、いくつのセキュリティを通るんだ? もう三つくらいは通過しているぞ?」
「わたしも王宮全てに行ける訳ではありません。実際、ここに足を踏み入れるのは初めてです」

(依夜も足を踏み入れたことない場所か……。よほどの機密とみるべきだな)

 数えて四つ目のセキュリティを通過したところで、一つの重厚な扉が詞御たちの眼の前に飛び込んできた。案内役は、扉の横にあるカードスロットに一枚の黒いカードを通し、更には暗証番号や静脈認証、網膜認証、声帯認証を行ってやっと扉の鍵が外れて開いた。

〔扉の向こうには、勝手知ったる気配とそうでない気配があるな〕
〔それも並々ならぬ倶纏の気配もです。これは一体?〕

 詞御は依夜に目配せするが、依夜も訳が分からないと首を振る。

「取り敢えず入るか、依夜」
「そうですね……」

 心なしか依夜の声に震えがある。不安なのだろうかと思いつつも、室内にある一つの気配は知っている人物のもの。多少の警戒はしながら詞御は依夜を引き連れて重厚な扉を通り抜けて、部屋の中に入る。入った瞬間、重厚な扉は自動で閉まり、再び施錠された。

「随分、セキュリティが厳重ですね理事長、いやこの場では女王陛下とお呼びすべきか?」

 詞御の問いかけには答えず、女王は話を続ける。

「それだけ、これから貴方たちに見せ、話す内容が絶対外部には漏れてはいけないという証しです。この部屋はあらゆるものを外部に漏れないように遮断します、音声は勿論のこと気配すら、全て。随時メンテナンスはしていますが、この部屋を使うのも、二十年振りなのです。……ずっと使われないままでいて欲しいと云うのが本音ですが」

 室内に明かりが点り、全貌が明らかになる。部屋はそれほど大きくはない。円形のテーブルが一つと四つの椅子。どうやら四人掛け専用らしいその机は、部屋の中央に鎮座している。二席は既に埋まっていて、女王陛下と国王陛下の二名が腰を降ろしていた。傍らには、〝闘いの儀〟で解説をしていた、王宮警護隊長を務める柊純哉が一人立っているだけだった。

「初めまして、国王陛下。そして、王宮警備隊長殿。側近の方は貴方だけですか? 確か理事長室では、別な側近を見かけましたが」

 詞御の問いに、“闘いの儀”で聞いた口調とは打って変わって重厚と緊張を帯びた声が返ってくる。

「初めましてになる高天詞御殿。先ほどの闘いは誠に見事であった。貴方たちと依夜たちならば〝アレ〟を任せられる。側近が純哉だけなのは、それだけ重要機密だということだよ。なにせ国家の繁栄と存亡が掛かっているのだから」

 国王陛下から予想だにせぬ言葉が発せられる。それに呼応する形で王宮警護隊長は頷いた。先ほどまで声高らかに解説をしていた人物と同一とは思えぬほど堅牢な気配を身に纏いながら。

「国家の繁栄と存亡? お父様、一体何をわたし達にさせるのですか?」
「まずは座りなさい、依夜。そして高天殿も。悪いが倶纏も顕現させてくれ、立ったままになるのは悪いが」

 有無を言わせぬ言葉。だからこそ余計に真剣だというのが伝わってくる。だから詞御と依夜は訝しみながらも、椅子に座ると同時に、己が倶纏であるセフィアとルアーハを顕現させた。セフィアは童女形態で詞御の膝に座り、ルアーハはスモールサイズで依夜の肩に乗る。

「そうか、失念していた。お互い、上位・丙型以上だったな、これはすまん」
「いえ、お構いなく国王陛下。それで、〝国家の繁栄と存亡〟とは一体どういう事態なのですか? 余ほどの事とお見受けしますが」

 詞御の言葉を受けて、国王陛下は女王陛下と王宮警備隊長に目配せをする。すると、両者は、分かってます、といわんばかりに頷く。それを受けて国王が重い口を開く。

「まず、今から話すことを見聞きした以上、後戻りはできぬ。口外はもってのほかだ。尤も、見聞きした後は口外できぬことを痛感する事になるが、な。それでも良いか? 覚悟はあるかな?」

 父親の未だかつてない真剣な顔を初めて目の当たりにした依夜は、不安になり、となりにいる詞御の腕の服、その襟手首をきゅっと握り、詞御を見てくる。普通ならセフィアが絡んでくる処だが、状況を察してか、何も言ってこない。逆に、振り返り詞御を見上げる。これは「お任せします」というセフィアの意思表示だ。念話を使うまでもなく分かる。

 詞御は、ふうっと一呼吸置くと、国王に向かい、

「おそらく女王陛下からお聞きと思いますが、自分は、【】も承諾しています。覚悟はとうの前に出来ています」
「そうか、依夜も良いな?」
「……わたしは詞御さんについていきます」

 僅かな逡巡。しかし、それでもはっきりとした意思表示をする依夜。

「分かった、伝えよう、最重要国家機密である〝国家の繁栄と存亡〟について」
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