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最終幕 ―― 然後壮途
6-2 新たなる絆
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依夜の提案に詞御は驚きを露にする。
「自分がか? 言うのもなんだが、自分は浄化屋で、いずれは世界を飛び回る。それに、以前も話したが、確かに自分はこの国に国籍はある。今回の様な災厄からは守りたいとは思う。でも、自分の信念と流派の理、この二つの理由でどの派閥にも組みはできない。仮にこの国がどこかに戦争を仕掛けようとしても加担は出来ない。それでも、か?」
「だからこそ、です。何物にも縛れず、己が信念にしたがって野良猫暮らしとして生活する詞御さんに持ってもらうのが一番の機密保持になります。だって、伝説とまで謳われている階位に覚醒めた方なのですから。これ以上の安全な処なんて、世界中何処を探しても無いですよ」
依夜と詞御の瞳が交差する。依夜が本気で言っているのだというのが嫌でもわかる。そして、詞御に絶対なる信頼を寄せてくれている事にも。
ここまでされて、応えられないほど詞御は軟弱な男ではない。
「――了解だ、依夜。自分が預かろう。ただ今は行動に制限があるから、枕の下にでも隠してくれ」
詞御の言う通りに、依夜は金属板を詞御の枕元に隠す。
取り敢えずは、一つの区切りが付いた処で、詞御は思ったことを口にする。
「それにしてもこの国の医療技術は凄いな。依夜の怪我もそうだが、自分の筋繊維が寸断されていたのがもうくっついているなんて」
「ああ、それはですね――」
依夜は詞御の枕元にあるボタンを押した。一体なんだろう? と詞御は疑問に思うが、数分後それは氷解する事になる。
「詞御様、目が覚めたんですね!!」
病室の扉が開くな否や、養成機関の制服に白衣を身に纏ったフィアナが病室に駆け込んでくる。続いて、セブラルがのっそりと入ってきた。
「よう目覚めたか詞御。まったく、俺に勝ったお前がその有様とは、そうとうな戦いだったらしいな」
「お兄様、そのようは言い方はあんまりではありませんか? 詞御様はひどいお怪我をされていたんですよ?」
「悪りい悪りい、そんなつもりはねえよ。ただ、あまりの酷さにな、つい」
悪びれた様子も無く、セブラルは妹に言う。展開についていけない詞御とセフィアが依夜のほうを見る。何故この場にリインベル兄妹が居るのか? その視線の意味に気付いたのか、依夜は口を開く。
「わたしの怪我と詞御さんのズタズタに断裂していた筋繊維。それを治療してくださったのが、フィアナさんなのです」
フィアナの方を見れば、えっへん、と胸を張っていた。
「わたしたちの怪我〝も〟現代医療では手の施しようが無かったそうです。そこで、お父様は、緊急でリインベル兄妹を呼んで下さったのです」
詞御はセブラルの方を見る。すると誇るようにフィアナを指差して、
「俺の妹が持つ倶纏の特性は、〝再生能力〟。自他の傷の修復はもちろんの事、失った血液でさえ再生できる。極めつけは〝欠損〟以外の欠けた部位であればどこでも再生できるという正に優れものよ」
セブラルの言葉を受け一瞬はにかむフィアナ。が、直ぐにまじめな顔になると言葉を続けた。
「それでも、詞御様たちほどの重体は、わたくしの昂輝量では一人分の再生で手一杯。とても二人分の再生は無理でした。ましてやお二方とも瀕死の状態。状況はひっ迫してました」
「そこで俺の出番というわけだ。覚えているか〝闘いの儀〟の事。あの時、俺とフィアナの倶纏は融合した。つまり昂輝も融合したという事。ここまで言えばもうわかるな、そう、俺がもう一人分の〝再生能力〟の昂輝量をフィアナに供給したというわけよ。自慢じゃないが、昂輝量はフィアナの倍近くはあるからな」
どうだ、といわんばかりにセブラルが言ってくる。
「そうか、借りが出来たな」
詞御がそう言うと、セブラルはふんっと鼻を鳴らした。
「貸しっていうなら、今回の治療で帳消しだ。貸し借りなしってことだ」
「どういうことだ?」
「詞御、てめえ国王陛下に言ったそうじゃないか。〝【とあること】が無事に終わったら、リインベル兄妹とその一族の国籍を認めてください〟っと。お前たちを治療し終わったあと、国王陛下からそう聞かされ、そして、一週間以内に一族全員の国籍を認める手続きをすると約束してくれたよ。
【とあること】の詳細は国家機密というからその事については聞きやしないが、てめえがそこまで体張って戦ってくれた。借りというなら、こっちにあるっていうもんだ。だから、今回の治療の件でてめえが〝借り〟と思うなら、それは取り消せ。感謝するのはこっちなんだからよ」
感謝の言葉を口にするのがよほど照れくさかったのか、セブラルは言葉を発し終わるな否やそっぽを向いてしまう。フィアナは兄のそんな様子を微笑ましく見ながら、
「そういう事で、詞御様も依夜さんも今回の治療の事は気にしないでください。兄も言っていましたが、感謝するのはこちらなのですから。でも――」
不意にフィアナは口元を依夜の耳に近づけると、詞御に聞こえないようにそっと、それでいて力強い言葉で依夜だけに呟く。
「――恋の闘いの方はお譲りしません。先日も言いましたが、〝恋敵〟だと。負けませんから依夜さんには」
「なっ!?」
ボッと顔に火が付いたように顔面を赤くする依夜。それを不思議そうに見ていた詞御は会話の内容が気になり、依夜に問う。
「どうした依夜? まだ体調が悪いんじゃないか? 顔が物凄く真っ赤だぞ」
「べべべ別になんでもありません! 詞御さんは気にしないでください! 体調は問題なく回復してます!!」
そのやり取りを見ていたセフィアは、ぼそっと「詞御の鈍感」と言ったが、詞御の耳に入る事はなかった。フィアナはくすくすと笑うと、二人に向かって、
「〝再生能力〟で完全に治療は終わりましたが、詞御様は特にひどいので、効果が現れるのは一日待ってください。今晩休めば体の痛みも完全に引くでしょうから。それと依夜さんも念の為に包帯を巻かせてもらってますが、傷痕は残りませんのでご安心を」
満足したのか、フィアナは一歩後ずさる。代わりに前に出たのはセブラルだった。
「詞御、てめえと勝負がしたい」
「〝闘いの儀〟では満足できないか?」
「いや、直接対戦はもういい。俺は十二分に満足しているからな。ただ、負けっぱなしでナットクするかといえば話は別だ。勝負と言うのは〝浄化屋〟稼業でだ。聞いたぜ、女王陛下から。お前が〝闘いの儀〟で望んでいたのが高卒扱いで、それを必要としているわけをも。
そして思ったわけよ。俺も今年で十八歳で高等部を卒業する。実は進路で迷っていた。このまま大学部に進み卒業後〝王宮警備隊〟に就くか、高卒後に別な職を就くかで、な」
髪の毛を一掻きして、ゼナは一呼吸を入れる。
「遅かれ早かれ、フィアナを養っていかなければいけないしな。そんな時、てめえの話を聞いてそういう職もあるのかとはじめて知ったわけだ。俺は頭は妹ほど良くねえ。でも〝力〟には自信がある。それに世界を巡ってもみたかったしな、俺にはぴったりな職だと思ったよ。だから、高等部卒業後に資格を取る。そしててめえより犯罪者を多く捕まえてみせる」
「試験は難しいぞ」
詞御は苦笑しながら、そうセブラルに言い返す。まったくおかしくてしょうがなかった。まさか自分の目的が一人の男をある進路に突き動かす原動力となったことに。
「あ、てめえ俺が合格できないと思っているな!? 半年後を待っていろ、合格したらいの一番にてめえに知らせに来てやるからな!」
〔いい友人ができそうではありませんか。未来とはいえ同業者の仲間です。詞御はいままで独りだったのですから、仲間ができる事はいい事だと思います。〝定着〟していきましょう。彼のことも。まあ、フィアナはちょっとですが、助けてもらった恩がありますしね、ついでに彼女の事も、ね〕
〔友人、ねぇ。まあ、確かに良いか、こういうのも〕
そんな思念通話をセフィアとしていると、興奮が収まったのか、セブラルが踵を返す。
「俺がてめえに言いたい事はそれだけだ。あとは伝える事はないよ。せいぜい全快するまでは養生するこった。皇女さまもな。ほれ、いくぞフィアナ」
「はい、お兄様。詞御様も依夜さんも今夜と明日はゆっくりとしていって下さい。別の養成機関ですが、同じ国に住んでいるのです、また後で会いましょう。特に、詞御様は――」
「――いつまでくっちゃべってやがる! さっさと行くぞ! 今ので一個思い出した。詞御、てめえには絶対に渡さねえからな!!」
「痛いです、お兄様! 襟元を引っ張らないでください! 首が絞まります!!」
つい先日の〝闘いの儀〟が始まる前の顔合わせを彷彿とさせるかのように、フィアナの襟首をむんずと掴んだセブラルはずかずかと大股で病室を後にしていった。
「渡さないって、一体何を? 依夜、なんだか分かる?」
「分かるけど教えません!」
「セフィア」
「私も教えたくは有りません。詞御の馬鹿」
またしても一人と一体の女性の機嫌を損ねてしまい、詞御は途方にくれる。そして辿り着いた答えが、「女って、やっぱりわからない」である。その心情を汲み取ったのか、ルアーハが深ーいため息をつくのであった。
リインベル兄妹が出て行った後、代わりに入ってきたのは王宮警護隊・隊長――柊純哉を連れた国王夫妻。国王らはしきりに詞御に感謝していた。そして、無事な事を喜んでくれる。そして、正式に女王から高卒扱いの資格を詞御はもらう事ができた。それが詞御にはとびきり嬉しく、喜んだ。
こうして、紆余曲折を経て、詞御は晴れて当初の目的どおり、浄化屋稼業を再開できる運びとなった。
◇ ◇ ◇ ◇
「自分がか? 言うのもなんだが、自分は浄化屋で、いずれは世界を飛び回る。それに、以前も話したが、確かに自分はこの国に国籍はある。今回の様な災厄からは守りたいとは思う。でも、自分の信念と流派の理、この二つの理由でどの派閥にも組みはできない。仮にこの国がどこかに戦争を仕掛けようとしても加担は出来ない。それでも、か?」
「だからこそ、です。何物にも縛れず、己が信念にしたがって野良猫暮らしとして生活する詞御さんに持ってもらうのが一番の機密保持になります。だって、伝説とまで謳われている階位に覚醒めた方なのですから。これ以上の安全な処なんて、世界中何処を探しても無いですよ」
依夜と詞御の瞳が交差する。依夜が本気で言っているのだというのが嫌でもわかる。そして、詞御に絶対なる信頼を寄せてくれている事にも。
ここまでされて、応えられないほど詞御は軟弱な男ではない。
「――了解だ、依夜。自分が預かろう。ただ今は行動に制限があるから、枕の下にでも隠してくれ」
詞御の言う通りに、依夜は金属板を詞御の枕元に隠す。
取り敢えずは、一つの区切りが付いた処で、詞御は思ったことを口にする。
「それにしてもこの国の医療技術は凄いな。依夜の怪我もそうだが、自分の筋繊維が寸断されていたのがもうくっついているなんて」
「ああ、それはですね――」
依夜は詞御の枕元にあるボタンを押した。一体なんだろう? と詞御は疑問に思うが、数分後それは氷解する事になる。
「詞御様、目が覚めたんですね!!」
病室の扉が開くな否や、養成機関の制服に白衣を身に纏ったフィアナが病室に駆け込んでくる。続いて、セブラルがのっそりと入ってきた。
「よう目覚めたか詞御。まったく、俺に勝ったお前がその有様とは、そうとうな戦いだったらしいな」
「お兄様、そのようは言い方はあんまりではありませんか? 詞御様はひどいお怪我をされていたんですよ?」
「悪りい悪りい、そんなつもりはねえよ。ただ、あまりの酷さにな、つい」
悪びれた様子も無く、セブラルは妹に言う。展開についていけない詞御とセフィアが依夜のほうを見る。何故この場にリインベル兄妹が居るのか? その視線の意味に気付いたのか、依夜は口を開く。
「わたしの怪我と詞御さんのズタズタに断裂していた筋繊維。それを治療してくださったのが、フィアナさんなのです」
フィアナの方を見れば、えっへん、と胸を張っていた。
「わたしたちの怪我〝も〟現代医療では手の施しようが無かったそうです。そこで、お父様は、緊急でリインベル兄妹を呼んで下さったのです」
詞御はセブラルの方を見る。すると誇るようにフィアナを指差して、
「俺の妹が持つ倶纏の特性は、〝再生能力〟。自他の傷の修復はもちろんの事、失った血液でさえ再生できる。極めつけは〝欠損〟以外の欠けた部位であればどこでも再生できるという正に優れものよ」
セブラルの言葉を受け一瞬はにかむフィアナ。が、直ぐにまじめな顔になると言葉を続けた。
「それでも、詞御様たちほどの重体は、わたくしの昂輝量では一人分の再生で手一杯。とても二人分の再生は無理でした。ましてやお二方とも瀕死の状態。状況はひっ迫してました」
「そこで俺の出番というわけだ。覚えているか〝闘いの儀〟の事。あの時、俺とフィアナの倶纏は融合した。つまり昂輝も融合したという事。ここまで言えばもうわかるな、そう、俺がもう一人分の〝再生能力〟の昂輝量をフィアナに供給したというわけよ。自慢じゃないが、昂輝量はフィアナの倍近くはあるからな」
どうだ、といわんばかりにセブラルが言ってくる。
「そうか、借りが出来たな」
詞御がそう言うと、セブラルはふんっと鼻を鳴らした。
「貸しっていうなら、今回の治療で帳消しだ。貸し借りなしってことだ」
「どういうことだ?」
「詞御、てめえ国王陛下に言ったそうじゃないか。〝【とあること】が無事に終わったら、リインベル兄妹とその一族の国籍を認めてください〟っと。お前たちを治療し終わったあと、国王陛下からそう聞かされ、そして、一週間以内に一族全員の国籍を認める手続きをすると約束してくれたよ。
【とあること】の詳細は国家機密というからその事については聞きやしないが、てめえがそこまで体張って戦ってくれた。借りというなら、こっちにあるっていうもんだ。だから、今回の治療の件でてめえが〝借り〟と思うなら、それは取り消せ。感謝するのはこっちなんだからよ」
感謝の言葉を口にするのがよほど照れくさかったのか、セブラルは言葉を発し終わるな否やそっぽを向いてしまう。フィアナは兄のそんな様子を微笑ましく見ながら、
「そういう事で、詞御様も依夜さんも今回の治療の事は気にしないでください。兄も言っていましたが、感謝するのはこちらなのですから。でも――」
不意にフィアナは口元を依夜の耳に近づけると、詞御に聞こえないようにそっと、それでいて力強い言葉で依夜だけに呟く。
「――恋の闘いの方はお譲りしません。先日も言いましたが、〝恋敵〟だと。負けませんから依夜さんには」
「なっ!?」
ボッと顔に火が付いたように顔面を赤くする依夜。それを不思議そうに見ていた詞御は会話の内容が気になり、依夜に問う。
「どうした依夜? まだ体調が悪いんじゃないか? 顔が物凄く真っ赤だぞ」
「べべべ別になんでもありません! 詞御さんは気にしないでください! 体調は問題なく回復してます!!」
そのやり取りを見ていたセフィアは、ぼそっと「詞御の鈍感」と言ったが、詞御の耳に入る事はなかった。フィアナはくすくすと笑うと、二人に向かって、
「〝再生能力〟で完全に治療は終わりましたが、詞御様は特にひどいので、効果が現れるのは一日待ってください。今晩休めば体の痛みも完全に引くでしょうから。それと依夜さんも念の為に包帯を巻かせてもらってますが、傷痕は残りませんのでご安心を」
満足したのか、フィアナは一歩後ずさる。代わりに前に出たのはセブラルだった。
「詞御、てめえと勝負がしたい」
「〝闘いの儀〟では満足できないか?」
「いや、直接対戦はもういい。俺は十二分に満足しているからな。ただ、負けっぱなしでナットクするかといえば話は別だ。勝負と言うのは〝浄化屋〟稼業でだ。聞いたぜ、女王陛下から。お前が〝闘いの儀〟で望んでいたのが高卒扱いで、それを必要としているわけをも。
そして思ったわけよ。俺も今年で十八歳で高等部を卒業する。実は進路で迷っていた。このまま大学部に進み卒業後〝王宮警備隊〟に就くか、高卒後に別な職を就くかで、な」
髪の毛を一掻きして、ゼナは一呼吸を入れる。
「遅かれ早かれ、フィアナを養っていかなければいけないしな。そんな時、てめえの話を聞いてそういう職もあるのかとはじめて知ったわけだ。俺は頭は妹ほど良くねえ。でも〝力〟には自信がある。それに世界を巡ってもみたかったしな、俺にはぴったりな職だと思ったよ。だから、高等部卒業後に資格を取る。そしててめえより犯罪者を多く捕まえてみせる」
「試験は難しいぞ」
詞御は苦笑しながら、そうセブラルに言い返す。まったくおかしくてしょうがなかった。まさか自分の目的が一人の男をある進路に突き動かす原動力となったことに。
「あ、てめえ俺が合格できないと思っているな!? 半年後を待っていろ、合格したらいの一番にてめえに知らせに来てやるからな!」
〔いい友人ができそうではありませんか。未来とはいえ同業者の仲間です。詞御はいままで独りだったのですから、仲間ができる事はいい事だと思います。〝定着〟していきましょう。彼のことも。まあ、フィアナはちょっとですが、助けてもらった恩がありますしね、ついでに彼女の事も、ね〕
〔友人、ねぇ。まあ、確かに良いか、こういうのも〕
そんな思念通話をセフィアとしていると、興奮が収まったのか、セブラルが踵を返す。
「俺がてめえに言いたい事はそれだけだ。あとは伝える事はないよ。せいぜい全快するまでは養生するこった。皇女さまもな。ほれ、いくぞフィアナ」
「はい、お兄様。詞御様も依夜さんも今夜と明日はゆっくりとしていって下さい。別の養成機関ですが、同じ国に住んでいるのです、また後で会いましょう。特に、詞御様は――」
「――いつまでくっちゃべってやがる! さっさと行くぞ! 今ので一個思い出した。詞御、てめえには絶対に渡さねえからな!!」
「痛いです、お兄様! 襟元を引っ張らないでください! 首が絞まります!!」
つい先日の〝闘いの儀〟が始まる前の顔合わせを彷彿とさせるかのように、フィアナの襟首をむんずと掴んだセブラルはずかずかと大股で病室を後にしていった。
「渡さないって、一体何を? 依夜、なんだか分かる?」
「分かるけど教えません!」
「セフィア」
「私も教えたくは有りません。詞御の馬鹿」
またしても一人と一体の女性の機嫌を損ねてしまい、詞御は途方にくれる。そして辿り着いた答えが、「女って、やっぱりわからない」である。その心情を汲み取ったのか、ルアーハが深ーいため息をつくのであった。
リインベル兄妹が出て行った後、代わりに入ってきたのは王宮警護隊・隊長――柊純哉を連れた国王夫妻。国王らはしきりに詞御に感謝していた。そして、無事な事を喜んでくれる。そして、正式に女王から高卒扱いの資格を詞御はもらう事ができた。それが詞御にはとびきり嬉しく、喜んだ。
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