獣王の花嫁─ときは縁を結ぶ

しろがね はな

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1.はじまりの王女とゆめ

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 今思えば、不思議な母だった。父はお堅いとまではいかないがそれなりに威厳のある人で。




 私の家はバルファルク皇国の皇帝の血脈を分けた由緒正しき家柄だ。

 現在の皇族では皇子が5名、皇女ひめが3名いたが他国《そと》と繋がりを持てるちょうど良い歳─つまりは婚姻可能である─の皇女ひめは1名。
 少し前から持ち上がっているいわゆる政略結婚の話があるのだが、その相手国というのが野蛮だと有名な獣人の国・ヴォルスであった。
 その話に相当な嫌悪を示し何がなんでも嫌だと皇女ひめは逃げ回ったらしい。さすがの皇帝も頭を抱え何度となく血筋の近しい者に打診をしたが同じように大きく首を横に振りまくるか、泣いて土下座までして断る令嬢まで出たようで困り果てた。
 そして、近くはないが遠すぎもしない我が家・フィズフィス家の長女である私に話が回ってきたのである。

「ヴォルスに?」
 私が?
 指をさしながら確認すると、父母は頷いた。
 確かに嫁に行くことはいつかはあるだろうと覚悟はあったものの、まさか正統な皇女ひめを差し置いての国の代表としての婚姻とは。
 ヴォルスは獣人の住む国だが、現在のトップは歴代の中ではかなり温厚な主だと学んでいる。
「……テアの遺言の1つでもある」
 父が静かに言った。
 実母の名だ。いまの母は義母。実母は私が8つくらいの頃、病で亡くなった。
「母さんの……?」
 母は元は庶民であり、かつてのジプシーの血を引いていた。当時はやはり身分差があり過ぎるという事でかなり反対をされたらしい。─しかも惚れたのは父の方だと母から聞き、子供ながらに物凄く驚いた記憶がある。母は面白おかしく、でも幸せそうにわらっていた。
「……義母かあさまは……」
 母の死後、すぐにやってきた歴とした令嬢。義理の妹2人、弟3人の姉にしてくれた人だ。
「シルビアは遺言とお前・メティアナの意思を尊重する、と」
 義母は何も言わず微笑んだ。
 義母シルビアは嫁いでいきなり一児の母になったものの、特にメティアナを嫌ったり敬遠したりはしなかった。
 最初こそ父を取られた気がして反抗していたメティアナだったが、穏やかな人柄で忍耐強く自分と向き合ってくれるシルビアに徐々に心を開いていった。
 だがやはり、シルビアに子どもが産まれるとどこか寂しい気持ちにはなった。
 きょうだい仲は幸いにも悪くは無い。
 
ただ、ほんの少し気になる事はある。
「─あの……こういうのもあれですが私より、エリシアの方が血統的にも良くありませんか……?」
 純粋に疑問をぶつける。
 庶民の母をもつメティアナと貴族令嬢の母をもつ義妹エリシア。
 令嬢としての見た目やふるまい、雰囲気も義妹には敵わないと自覚している。様々な縁談がひっきりなしに持ち込まれるくらいだ。
 勿論、メティアナもきちんとした教育は受けている。
 両親は少し顔を見合わせ、やや目線を落とし再び彼女を見た。
「……少し考える時間を与えよう。彼女の遺言の1つだということは忘れぬように」
 その晩はそれでお開きになった。


 *****


 かあさまの、遺言。

 天蓋付きのベッドに大の字で転がりながらメティアナは思った。
(うーん。私は別にいいのだけれど、やはり血筋がなあ。問題にならないのかしら??)
 けれど、多分義母は皇帝の皇女ひめと同じようにかの国を恐れているのだろう。だからエリシアを送りたくない、と。
 分からないでもない。
野蛮だなんだと昔から噂が絶えない国なのだから。だが、どこかチクリとした。
 しかしメティアナも自身の分を弁えているのですぐに気を取り直した。
(獣人の国かあ)
 実母が健在の頃、話を聞いたような気がする。とても楽しそうに話していた記憶はある。
 母譲りの柔らかな白金色をした髪をいじりながらふかふかの布団に潜る。興味が無くはない。母の話も聞けるかもしれないし。
 いや、国の代表として行くのだから、そんなにのんびりとはいかないかなあ。
そもそも政略結婚とはいえ、受け入れられるのかどうか。

 ─なにかあったときは、あなたがこの家の力になるのよ─

 幾度となく繰り返し実母に言い聞かされてきた言葉。
 その為に令嬢としてのふるまいも、学も、そして密かに武器を扱う術や護身術なども身につけてきた。それを覚えるのに特に苦はなくむしろ楽しんでいた。
(役に立てるのなら、まあいいか)
 何かあっても自分ならどうにか出来るだろうし最悪でも、義妹を守ることが出来る。
 それならそれでいい。
 唯一の実母との約束を守れる。
 義母シルビアにも恩返しができる─。
 ただやはり国の血統が気になるのでまた父に聞こう。これは国同士の問題なのだ。それだけは入念に。はい、と答えてあちらの国と争いになってはいけない。

(あ…ヴォルスの御相手のこと、聞き忘れた…)

 うとうとしながらメティアナは呑気なことを考え─……眠りに包まれてゆく。
 夜は静かに流れていった。



ゆめをみた。

やや大きな白い大蛇が少し遠くからじっとこちらをみているのだ。
不思議と怖くはなかった。
透き通るようなアイスブルーの瞳は、威嚇するでもなく見下すでもなくただただじっとメティアナを見つめていた。
近づこうとするものの、何故か距離が縮まらない。
とりあえず立ち止まりメティアナも大蛇を見つめた。

あなた、きれいね

そう呟いたときぼんやりと目が覚めた。
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