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第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」
~再び相まみえた二人のディベーション~
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ふんわりと浮く感じが……彼女を包み、心地よささえ感じさせる。
時折、暗く沈む様な静かな空間に、流れる様な風が吹き荒れ……彼女の意識がゆらりと揺れる。
全てを曝け出した様な感覚。
激しく昂りが頂点へと達した様な感覚。
揺れる度に、その感覚が何度も波打つ様に訪れて、その度に激しく飛んで……真っ白と、真っ黒が交互に訪れる……。
そしてまた……静かな黒が訪れて……また彼女は……黒く冷たい底に沈んでいく……。
そんな事が幾度と無く訪れて……気付けば空に、白い光が灯っていた。
手を伸ばしたら、届きそうだけど届かない。
そもそもそれが手なのか何なのか。
けれど、きっとそれは手で、足があって、二つが合わせて体だから、全部を繋げれば、きっと届く、そんな気がしたのだろう。
一生懸命、手と足を延ばした。
それでも届かない、なんでだろう?
どうして届かないのだろう?
きっとそれは、体が気付いてないんだ。
だってそこには頭が無いから。
頭には目も口も耳もあるから、わかるんだ。
やっと気付いた……気持ち良くて、忘れていたのだろう。
手が頭をとって、繋げたら……
光は、きっと、届くから―――
―
――
―――
「んう……」
彼女が見たのは奇妙な夢だった。
自分が自分ではない感覚……それを客観的に見る自分。
でもそれを繋げたことで……彼女はきっと、目覚める事が出来たのかもしれない。
「あれ……ここ……?」
瀬玲が目を覚ますと……見た事の無い景色が一面に広がっていた。
筒抜けの窓から漏れる光、石造りの部屋、命力珠で灯る光……いずれも彼女が知る風景には無いもの。
不意に体を動かそうとするが……重く苦しい感じが全身を覆い、動かす事が出来ない。
無理に動かそうとすれば刺さる様な痛みが襲い掛かり、彼女の顔を歪めさせた。
「なん……で……?」
ろれつの回らない口もまた……彼女の不自由の証。
首すらも自由に回らない状況で……ふんわりとした意識のままの彼女は思わずゆっくりと首と目を横へ背ける。
すると瀬玲の横に、見知らぬ誰かが自身の寝るベッドへ頭を降ろし眠りこける姿が目に映り込んだ。
―――は? え……誰……?―――
「あ……う……誰よ……誰なの……」
すると、その声に気付いたのか……その頭がピクリと動きを見せ、無造作に持ち上がり……彼女の視界に一人の魔者が映りこんだ。
当然彼はイシュライトである。
だが瀬玲は彼の事など知る由も無く……。
「だ、誰……アンタ……誰よ……」
怯えにも近い声を上げ、目の前の魔者に対し一心に問い詰める。
相手は魔者……いつ殺されてもおかしくないと思える状況に、震えない方がおかしいというものだ。
だが、そんな彼女の想いを他所に……イシュライトは彼女に優しい笑みを浮かべると、聞き取りやすい様にゆっくりと話し掛けた。
「おはようございます……ようやく目が覚めましたね。 安心してください、私は貴女の敵ではありませんよ。 私の名前はイシュライト……貴女の……そう、専属の医者です」
「医者……」
「我等が……おっと、ウィグルイ様が貴女を癒す様にと、ね……申し遣ったので、私が貴女の面倒を見る事に成ったのです」
ウィグルイという名前が出た時……彼女は自分がどの様な状況に居るのかを少しづつ思い出し始めていた。
モンゴルの地に訪れた事。
イ・ドゥール族の根城へとやってきた事。
そして戦いに成った事。
死闘を繰り広げ、自分がウィグルイに勝利した……はずの事。
だがその後の記憶は一切無い。
全てを思い出し、繋がった時……彼女は自分が何故ここに居るのかようやく理解した。
「あの後……私、倒れたの?」
「えぇ、死にかけていました……ですが、ウィグルイ様が貴女の窮地を救ったと聞き及んでおります」
「そう……」
彼の言葉を聞くと……そっと天井を見上げ、歪めていた体を自然体へと戻す。
途端、僅かに体が軽くなり……首を曲げるだけで負荷が掛かっていた事にその時初めて気が付かさせた。
「回復までは今暫くの時間が必要……それまでは私が退屈を凌ぐ為の暇潰しの役を致しましょう」
「……ありがと……」
彼の言葉の一言一言が優しさを感じさせ、それがどこか心地よさも感じたのだろう……自然と瀬玲の顔に笑みが生まれ、安らかな表情を作っていた。
もしかしたら彼の治療の行為が、夢の中で感じた『気持ち良さ』なのかもしれない。
瀬玲が目覚めた今、その正体はもうわかりはしないが。
すると、瀬玲達が居る部屋に一人の人影が訪れる……それはウィグルイであった。
彼もまた未だに全身を包帯に包んだ痛々しい姿のまま。
彼のそんな姿をを前に、彼女はすぐさま気付く……彼が自分と激戦を繰り広げたウィグルイであるという事に。
「おや、起きたようだな……」
「えぇ、経過は順調ですよ……アージ殿とマヴォ殿は?」
「うん? あぁ彼等は今子供達と遊んでおるよぉ」
子供達に妙に人気があったのか……二人は子供にせっつかれ、否応なしに遊びに付き合う姿が都の一角にあった。
とはいえ、二人も割と乗り気だったのだろう。
無邪気に笑う子供達と戯れる姿は武人とは思えぬ程に優しい面持ちを浮かべていた。
二人の名前が出た事で、瀬玲はイ・ドゥール族との和解が成された事を理解する。
「そうですか。 少し話されますか?」
「うむ、そうさな……アイザワセリ殿、名前はあの二人に聞き及んでおる……二人には詫びを贈ったが……儂から改めて貴公に詫びたいと思う。 申し訳なかった、許してほしい」
「……なんで謝るのさ……」
彼等が自分達の為に戦った事は瀬玲にも理解出来ていた。
今まで戦ってきた魔者のいずれもが、魔剣を恐れ、自分達の在り方を守る為に戦いを挑んで来たのだ。
そう理解していたからこそ……謝られる理由を感じなかった瀬玲は思わずそう口走る。
礼節にも欠いた彼女の言葉であったが……それに嫌な顔をする事も無く、ウィグルイは真っ直ぐ彼女の目へと向き合い己の言葉を連ねた。
「これは勝者に対する非礼の詫びだと思って欲しい。 このように頭を下げるのは、貴公が……いや、師父と成られた貴方に対する非礼を詫びたいという事なのだ」
「師父って……ちょっと……恥ずいんだけど……」
戦いにおいて狂気染みた戦いを繰り広げたものの、曲がりなりにも彼女も女性……師婦ならともかく師父では、と思わず眉間を寄せる。
「少なくとも今の貴方はこの都と長とも言うべき存在と成られた事は承知願いたい」
「え……面倒くさいんだけど……」
本当に面倒臭いのだろう……彼女の性格上。
「ま、まぁ……オホン……完治した暁には是非とも我等に力添えを頂きたいものよ。 それよりも……貴方の戦いぶりには非常に感動した。 もし宜しければ、我が孫であるイシュライトとも是非戦い、切磋琢磨してもらいたいものよ……」
「え、絶対嫌……っていうか、その人がアンタの孫だったんだ。 フーン」
覚醒し、自分の本性を知ったとはいえ……冷静に考えてみれば、戦いたくないと思う事は当たり前な訳で。
「んん……イシュライトとは男同士、仲良くあって頂きたいと―――」
「ていうか私女なんだけど?」
「んんふぐ……」
「ウィグルイ様……申し訳ありませんが、これ以上は……」
「アイザワセリとはなんとすばらしくたくましき……!!」
「相沢はともかく、瀬玲は聡明であって欲しいっていう親の願いから生まれた名前なんだけど!?」
完全論破されたウィグルイはとうとう言葉が詰まり……ガクリと肩を降ろすと、何も返す事無く部屋からトボトボと立ち去っていった。
その時のイシュライトの顔はどこか込み上げる笑いの衝動を堪えるのに必死そうな、引きつった笑顔を浮かばせていた……。
エスカレートする事で口の調子だけが加速して治った事には少し感謝を憶えた瀬玲であった。
時折、暗く沈む様な静かな空間に、流れる様な風が吹き荒れ……彼女の意識がゆらりと揺れる。
全てを曝け出した様な感覚。
激しく昂りが頂点へと達した様な感覚。
揺れる度に、その感覚が何度も波打つ様に訪れて、その度に激しく飛んで……真っ白と、真っ黒が交互に訪れる……。
そしてまた……静かな黒が訪れて……また彼女は……黒く冷たい底に沈んでいく……。
そんな事が幾度と無く訪れて……気付けば空に、白い光が灯っていた。
手を伸ばしたら、届きそうだけど届かない。
そもそもそれが手なのか何なのか。
けれど、きっとそれは手で、足があって、二つが合わせて体だから、全部を繋げれば、きっと届く、そんな気がしたのだろう。
一生懸命、手と足を延ばした。
それでも届かない、なんでだろう?
どうして届かないのだろう?
きっとそれは、体が気付いてないんだ。
だってそこには頭が無いから。
頭には目も口も耳もあるから、わかるんだ。
やっと気付いた……気持ち良くて、忘れていたのだろう。
手が頭をとって、繋げたら……
光は、きっと、届くから―――
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「んう……」
彼女が見たのは奇妙な夢だった。
自分が自分ではない感覚……それを客観的に見る自分。
でもそれを繋げたことで……彼女はきっと、目覚める事が出来たのかもしれない。
「あれ……ここ……?」
瀬玲が目を覚ますと……見た事の無い景色が一面に広がっていた。
筒抜けの窓から漏れる光、石造りの部屋、命力珠で灯る光……いずれも彼女が知る風景には無いもの。
不意に体を動かそうとするが……重く苦しい感じが全身を覆い、動かす事が出来ない。
無理に動かそうとすれば刺さる様な痛みが襲い掛かり、彼女の顔を歪めさせた。
「なん……で……?」
ろれつの回らない口もまた……彼女の不自由の証。
首すらも自由に回らない状況で……ふんわりとした意識のままの彼女は思わずゆっくりと首と目を横へ背ける。
すると瀬玲の横に、見知らぬ誰かが自身の寝るベッドへ頭を降ろし眠りこける姿が目に映り込んだ。
―――は? え……誰……?―――
「あ……う……誰よ……誰なの……」
すると、その声に気付いたのか……その頭がピクリと動きを見せ、無造作に持ち上がり……彼女の視界に一人の魔者が映りこんだ。
当然彼はイシュライトである。
だが瀬玲は彼の事など知る由も無く……。
「だ、誰……アンタ……誰よ……」
怯えにも近い声を上げ、目の前の魔者に対し一心に問い詰める。
相手は魔者……いつ殺されてもおかしくないと思える状況に、震えない方がおかしいというものだ。
だが、そんな彼女の想いを他所に……イシュライトは彼女に優しい笑みを浮かべると、聞き取りやすい様にゆっくりと話し掛けた。
「おはようございます……ようやく目が覚めましたね。 安心してください、私は貴女の敵ではありませんよ。 私の名前はイシュライト……貴女の……そう、専属の医者です」
「医者……」
「我等が……おっと、ウィグルイ様が貴女を癒す様にと、ね……申し遣ったので、私が貴女の面倒を見る事に成ったのです」
ウィグルイという名前が出た時……彼女は自分がどの様な状況に居るのかを少しづつ思い出し始めていた。
モンゴルの地に訪れた事。
イ・ドゥール族の根城へとやってきた事。
そして戦いに成った事。
死闘を繰り広げ、自分がウィグルイに勝利した……はずの事。
だがその後の記憶は一切無い。
全てを思い出し、繋がった時……彼女は自分が何故ここに居るのかようやく理解した。
「あの後……私、倒れたの?」
「えぇ、死にかけていました……ですが、ウィグルイ様が貴女の窮地を救ったと聞き及んでおります」
「そう……」
彼の言葉を聞くと……そっと天井を見上げ、歪めていた体を自然体へと戻す。
途端、僅かに体が軽くなり……首を曲げるだけで負荷が掛かっていた事にその時初めて気が付かさせた。
「回復までは今暫くの時間が必要……それまでは私が退屈を凌ぐ為の暇潰しの役を致しましょう」
「……ありがと……」
彼の言葉の一言一言が優しさを感じさせ、それがどこか心地よさも感じたのだろう……自然と瀬玲の顔に笑みが生まれ、安らかな表情を作っていた。
もしかしたら彼の治療の行為が、夢の中で感じた『気持ち良さ』なのかもしれない。
瀬玲が目覚めた今、その正体はもうわかりはしないが。
すると、瀬玲達が居る部屋に一人の人影が訪れる……それはウィグルイであった。
彼もまた未だに全身を包帯に包んだ痛々しい姿のまま。
彼のそんな姿をを前に、彼女はすぐさま気付く……彼が自分と激戦を繰り広げたウィグルイであるという事に。
「おや、起きたようだな……」
「えぇ、経過は順調ですよ……アージ殿とマヴォ殿は?」
「うん? あぁ彼等は今子供達と遊んでおるよぉ」
子供達に妙に人気があったのか……二人は子供にせっつかれ、否応なしに遊びに付き合う姿が都の一角にあった。
とはいえ、二人も割と乗り気だったのだろう。
無邪気に笑う子供達と戯れる姿は武人とは思えぬ程に優しい面持ちを浮かべていた。
二人の名前が出た事で、瀬玲はイ・ドゥール族との和解が成された事を理解する。
「そうですか。 少し話されますか?」
「うむ、そうさな……アイザワセリ殿、名前はあの二人に聞き及んでおる……二人には詫びを贈ったが……儂から改めて貴公に詫びたいと思う。 申し訳なかった、許してほしい」
「……なんで謝るのさ……」
彼等が自分達の為に戦った事は瀬玲にも理解出来ていた。
今まで戦ってきた魔者のいずれもが、魔剣を恐れ、自分達の在り方を守る為に戦いを挑んで来たのだ。
そう理解していたからこそ……謝られる理由を感じなかった瀬玲は思わずそう口走る。
礼節にも欠いた彼女の言葉であったが……それに嫌な顔をする事も無く、ウィグルイは真っ直ぐ彼女の目へと向き合い己の言葉を連ねた。
「これは勝者に対する非礼の詫びだと思って欲しい。 このように頭を下げるのは、貴公が……いや、師父と成られた貴方に対する非礼を詫びたいという事なのだ」
「師父って……ちょっと……恥ずいんだけど……」
戦いにおいて狂気染みた戦いを繰り広げたものの、曲がりなりにも彼女も女性……師婦ならともかく師父では、と思わず眉間を寄せる。
「少なくとも今の貴方はこの都と長とも言うべき存在と成られた事は承知願いたい」
「え……面倒くさいんだけど……」
本当に面倒臭いのだろう……彼女の性格上。
「ま、まぁ……オホン……完治した暁には是非とも我等に力添えを頂きたいものよ。 それよりも……貴方の戦いぶりには非常に感動した。 もし宜しければ、我が孫であるイシュライトとも是非戦い、切磋琢磨してもらいたいものよ……」
「え、絶対嫌……っていうか、その人がアンタの孫だったんだ。 フーン」
覚醒し、自分の本性を知ったとはいえ……冷静に考えてみれば、戦いたくないと思う事は当たり前な訳で。
「んん……イシュライトとは男同士、仲良くあって頂きたいと―――」
「ていうか私女なんだけど?」
「んんふぐ……」
「ウィグルイ様……申し訳ありませんが、これ以上は……」
「アイザワセリとはなんとすばらしくたくましき……!!」
「相沢はともかく、瀬玲は聡明であって欲しいっていう親の願いから生まれた名前なんだけど!?」
完全論破されたウィグルイはとうとう言葉が詰まり……ガクリと肩を降ろすと、何も返す事無く部屋からトボトボと立ち去っていった。
その時のイシュライトの顔はどこか込み上げる笑いの衝動を堪えるのに必死そうな、引きつった笑顔を浮かばせていた……。
エスカレートする事で口の調子だけが加速して治った事には少し感謝を憶えた瀬玲であった。
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