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第二十九節「静乱の跡 懐かしき場所 苦悩少女前日譚」
~その内の心 激情~
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心輝達とバロルフ……まさに一触即発。
キッカケがあればすぐにでも衝突、そう思われた時……緊張を一人の声が遮った。
「皆、待つんだ!!」
その声を上げたのは……勇だった。
茶奈達も、そしてバロルフや魔剣使い達も、その声を耳にした途端に彼へと振り向く。
その時、彼等が視界に映したのは……落ち着きを見せる勇の澄ました顔であった。
「皆落ち着いてくれ……衝突したって何の意味も無いのはわかってるだろ」
「けどお前……茶奈がよぉ!?」
勇の発言に、心輝達が耳を疑う。
まるでバロルフに肩を貸す様な……そうとも思える発言だったから。
バロルフもまたそう感じたのか、歯を見せニタリとした笑みを勇へと向けた。
「フン……わかっているではないか、力ある者の―――」
「意味が無いから……単純な方法で決着を付けよう」
バロルフの言葉を遮り、勇が負けじと声を上げる。
言い掛け、口をパクリと開けたままのバロルフは……勇の一言を前に、ゆっくりと開いた口を笑みへと変えていった。
「どういう事か教えてもらおうか?」
「簡単さ……俺とバロルフさんが戦い、勝った方が茶奈を得ればいい。 負けた方は勝った方に従う。 至極単純だろ?」
「フン、なるほどな……確かにそれならば魔剣使いたる者、受けねばならぬ話というもの」
勇の提案を前に、バロルフの口角が大きく上がる。
それは自信故か……茶奈の方へと伸びていた腕が引き戻され、大きく胸前に組まれた。
「いいだろう……なればすぐにでも地下でやりあうとしよう。 お前達、行くぞ」
そう言い残すと、茶奈達を押し退ける様に廊下の中央を堂々と進んでいく。
茶奈達が道を開け、彼をやり過ごすと……続く様に部屋から多くの魔剣使い達が列を成して出て行ったのだった。
バロルフ達が階下へと姿を消し、再び静寂が訪れる。
曲りなりにではあるが……場が鎮静化した事で、茶奈達が安堵の溜息を付く。
しかし心輝だけは、どこか煮え切らない訝しげな表情を浮かべていた。
「お前、一体どういうつもりなんだよ? 茶奈が大事なんじゃねぇのかよ……? まるでモノみたいに扱ってよォ……!」
心輝としてはどうやら、勇が茶奈を条件に勝負を挑んだ事に納得がいかない様だ。
心輝達はバロルフの実力を知っている。
勇が負けると思っている訳ではないが、それでも苦戦を強いられる可能性は大いにあると感じているのだ。
もし勇が負けてしまえば……茶奈を失うだけでなく、勇達が彼等に従わなければならない状況に陥るのだから気が気で無いのは仕方の無い事である。
それに対し勇は……なお澄ました顔のまま。
「ポン」と心輝の両肩へ手を乗せ、静かに呟いた。
「大丈夫だシン……何の問題も無い」
それはただの励ましのよう。
だが……心輝だけはそんな勇を前に、一言も発する事が出来ないでいた。
無音が包む空気の中、心輝が目を見開き、押し黙り震える。
両肩に乗せられた手から、勇の激しく渦巻く衝動を感じとっていたからだ。
まるで全身の力を抜き取られたかの如く……心輝の体が抑え付けられ、動きが完全に塞き止められていた。
それ程までに、勇が肩を抑える力は凄まじかったのである。
顔は澄ましたままでも、内に秘めた激情は力をとめどなく溢れさせていた。
その力を感じとれずとも、周囲に居た者達もが異変に気付き、唾を飲む。
「心輝さん、私は気にしていませんよ」
その時……間を裂く様に茶奈の優しい声が周囲に響き渡った。
「むしろ助かったかな……これでようやくあの人から解放されるから……」
茶奈の口ぶりはまるでもう勇が勝ったかの様な。
いや、きっともう彼女にはわかっているのかもしれない。
勇とバロルフ……どちらが強いのかを。
気を失ったキッピーを振り回し、喜びを露わにする茶奈を前に、勇も思わずニコリと笑みを浮かべていた。
その拍子に心輝の体が自由となり……思わずその身をよろめかせる。
背後に立つイシュライトが肩を取り、よろめきを制すが……途端に彼の顔が僅かに強張りを見せた。
心輝の肩が震えていたのだ。
それを察したイシュライトは……勇の秘めた底力の一端を誰よりも強く感じ取っていた。
強者故の嗅覚だろうか。
そんな勇達の傍らでナターシャとマヴォが会話を交わす。
「でもししょ……きっとまけないよ」
「ん……ナッティはどうしてそう思うのだ?」
彼女にもまた笑みが零れ、茶奈と勇の二人を見上げながら呟いた。
「だって……今のししょはあの時といっしょだから……ボク達がやられた時と……」
「あ……」
アンディとナターシャが初めて勇達の前に現れた時も、勇が激昂して彼等を制した。
結果、二人は改心し、勇を慕って今に至る。
その時の状況が今と重なり、それが彼女にとっての安心の種となったのだろう。
二人の会話に聞き耳を立てていた瀬玲や心輝も「なるほど」と小さく呟く。
きっと勇には何か思う所があったからこそこんな事を提案したのか……と。
気付けば満場一致で……皆が勇の提案を受け入れていた。
「それじゃあ行くか、逃げたなんて思われても癪だしな」
「アイツラなら言いかねねぇな」
勇が一歩を踏み出し、階下へと進んでいく。
それに続き、仲間達もまた階段へ向けて歩を進め始めた。
バロルフ達が待つであろう地下訓練場へと向けて。
勇の内に秘める激情が……漏れ出さんとばかりに彼の心の扉を叩き続ける。
解放される時まで……ただひたすらに。
しかし茶奈はと言えば……その場に蹲り、キッピーを弄り始めていた。
「茶奈は行かないの?」
それに気付いた瀬玲が茶奈を呼ぶ。
しかしそれに気付いた茶奈は……キョトンとした瞳を瀬玲へと向けた。
「え、行く必要あるんですか? 勇さんが負ける訳ないのに……」
何一つ疑いを持たない純真の眼差しを向けられ、返す言葉に困る瀬玲なのであった。
キッカケがあればすぐにでも衝突、そう思われた時……緊張を一人の声が遮った。
「皆、待つんだ!!」
その声を上げたのは……勇だった。
茶奈達も、そしてバロルフや魔剣使い達も、その声を耳にした途端に彼へと振り向く。
その時、彼等が視界に映したのは……落ち着きを見せる勇の澄ました顔であった。
「皆落ち着いてくれ……衝突したって何の意味も無いのはわかってるだろ」
「けどお前……茶奈がよぉ!?」
勇の発言に、心輝達が耳を疑う。
まるでバロルフに肩を貸す様な……そうとも思える発言だったから。
バロルフもまたそう感じたのか、歯を見せニタリとした笑みを勇へと向けた。
「フン……わかっているではないか、力ある者の―――」
「意味が無いから……単純な方法で決着を付けよう」
バロルフの言葉を遮り、勇が負けじと声を上げる。
言い掛け、口をパクリと開けたままのバロルフは……勇の一言を前に、ゆっくりと開いた口を笑みへと変えていった。
「どういう事か教えてもらおうか?」
「簡単さ……俺とバロルフさんが戦い、勝った方が茶奈を得ればいい。 負けた方は勝った方に従う。 至極単純だろ?」
「フン、なるほどな……確かにそれならば魔剣使いたる者、受けねばならぬ話というもの」
勇の提案を前に、バロルフの口角が大きく上がる。
それは自信故か……茶奈の方へと伸びていた腕が引き戻され、大きく胸前に組まれた。
「いいだろう……なればすぐにでも地下でやりあうとしよう。 お前達、行くぞ」
そう言い残すと、茶奈達を押し退ける様に廊下の中央を堂々と進んでいく。
茶奈達が道を開け、彼をやり過ごすと……続く様に部屋から多くの魔剣使い達が列を成して出て行ったのだった。
バロルフ達が階下へと姿を消し、再び静寂が訪れる。
曲りなりにではあるが……場が鎮静化した事で、茶奈達が安堵の溜息を付く。
しかし心輝だけは、どこか煮え切らない訝しげな表情を浮かべていた。
「お前、一体どういうつもりなんだよ? 茶奈が大事なんじゃねぇのかよ……? まるでモノみたいに扱ってよォ……!」
心輝としてはどうやら、勇が茶奈を条件に勝負を挑んだ事に納得がいかない様だ。
心輝達はバロルフの実力を知っている。
勇が負けると思っている訳ではないが、それでも苦戦を強いられる可能性は大いにあると感じているのだ。
もし勇が負けてしまえば……茶奈を失うだけでなく、勇達が彼等に従わなければならない状況に陥るのだから気が気で無いのは仕方の無い事である。
それに対し勇は……なお澄ました顔のまま。
「ポン」と心輝の両肩へ手を乗せ、静かに呟いた。
「大丈夫だシン……何の問題も無い」
それはただの励ましのよう。
だが……心輝だけはそんな勇を前に、一言も発する事が出来ないでいた。
無音が包む空気の中、心輝が目を見開き、押し黙り震える。
両肩に乗せられた手から、勇の激しく渦巻く衝動を感じとっていたからだ。
まるで全身の力を抜き取られたかの如く……心輝の体が抑え付けられ、動きが完全に塞き止められていた。
それ程までに、勇が肩を抑える力は凄まじかったのである。
顔は澄ましたままでも、内に秘めた激情は力をとめどなく溢れさせていた。
その力を感じとれずとも、周囲に居た者達もが異変に気付き、唾を飲む。
「心輝さん、私は気にしていませんよ」
その時……間を裂く様に茶奈の優しい声が周囲に響き渡った。
「むしろ助かったかな……これでようやくあの人から解放されるから……」
茶奈の口ぶりはまるでもう勇が勝ったかの様な。
いや、きっともう彼女にはわかっているのかもしれない。
勇とバロルフ……どちらが強いのかを。
気を失ったキッピーを振り回し、喜びを露わにする茶奈を前に、勇も思わずニコリと笑みを浮かべていた。
その拍子に心輝の体が自由となり……思わずその身をよろめかせる。
背後に立つイシュライトが肩を取り、よろめきを制すが……途端に彼の顔が僅かに強張りを見せた。
心輝の肩が震えていたのだ。
それを察したイシュライトは……勇の秘めた底力の一端を誰よりも強く感じ取っていた。
強者故の嗅覚だろうか。
そんな勇達の傍らでナターシャとマヴォが会話を交わす。
「でもししょ……きっとまけないよ」
「ん……ナッティはどうしてそう思うのだ?」
彼女にもまた笑みが零れ、茶奈と勇の二人を見上げながら呟いた。
「だって……今のししょはあの時といっしょだから……ボク達がやられた時と……」
「あ……」
アンディとナターシャが初めて勇達の前に現れた時も、勇が激昂して彼等を制した。
結果、二人は改心し、勇を慕って今に至る。
その時の状況が今と重なり、それが彼女にとっての安心の種となったのだろう。
二人の会話に聞き耳を立てていた瀬玲や心輝も「なるほど」と小さく呟く。
きっと勇には何か思う所があったからこそこんな事を提案したのか……と。
気付けば満場一致で……皆が勇の提案を受け入れていた。
「それじゃあ行くか、逃げたなんて思われても癪だしな」
「アイツラなら言いかねねぇな」
勇が一歩を踏み出し、階下へと進んでいく。
それに続き、仲間達もまた階段へ向けて歩を進め始めた。
バロルフ達が待つであろう地下訓練場へと向けて。
勇の内に秘める激情が……漏れ出さんとばかりに彼の心の扉を叩き続ける。
解放される時まで……ただひたすらに。
しかし茶奈はと言えば……その場に蹲り、キッピーを弄り始めていた。
「茶奈は行かないの?」
それに気付いた瀬玲が茶奈を呼ぶ。
しかしそれに気付いた茶奈は……キョトンとした瞳を瀬玲へと向けた。
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