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第三十一節「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
~後編至曲〝変容〟~
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小野崎紫織と小倉海斗。
周りから見るだけではなんて事の無い二人の男女。
彼等を取り巻く日常生活はそれほどまでに普遍的だった。
幾つかの授業を終え、時は四時限。
その時間の授業は体育……生徒達はこぞって更衣室へ向かい、着替えを済ませてグラウンドへと向かう。
この学校での体育着はジャージ。
露出を嫌う生徒が多い故の風習である。
もちろん、良識の範疇で脱ぐ事も許されてはいるが。
紺のジャージを身に纏い、授業を受ける為に生徒達がグラウンドへと足を踏み入れていく。
その中に詩織と海斗の姿は無い。
二人は教師に言われ、今日行われるサッカー実習用のボールを体育倉庫まで取りに行っていたのである。
もっとも……言われたのは海斗だけであり、詩織は半ば強引に連れてこられた訳であるが。
グラウンドの隅にある体育倉庫。
同じグラウンド内とはいえ、遠くも離れれば生徒達の掛け声も掠れてしか聞こえない。
そんな場所に二人……詩織と海斗がやってきていた。
詩織は当然、どこか不機嫌そうな顔付きを浮かべているが。
「ごめんねシオちゃん、俺一人じゃ運べるか心配でさ~!」
男一人で運べない物を女の子に手伝わせようとするのは如何なものか。
詩織が依然口を塞いだまま佇む中、海斗は倉庫の扉を開いて彼女を誘う。
もはや抵抗すらする事無く、詩織もまた倉庫内へと足を踏み入れた。
「サッカーボールの入った籠、そっちにあるか見てくんない?」
海斗が指を差すのは倉庫の奥。
埃が積もりに積もったその中は、一見何があるかわからない。
詩織は言われるがまま倉庫の奥へとフラフラと歩き、目的の物を探す様に周囲を見回し始めた。
ガシャン……
途端、その場に金属同士がぶつかった音が鳴り響く。
それに気付いた詩織が振り返り見ると……視界に、扉を閉めた海斗の姿が映り込んだ。
「ごめん、シオちゃん……今の嘘、サッカーボールここにあるんだわ」
海斗が傍へ置かれていた籠に積まれたボールを指で突き示す。
探していたボールは、実は扉の裏に隠れていたのである。
それはまるで彼女を倉庫内に誘導する為に付いた嘘。
しかし彼のそんな不可解な行動の前でも、詩織はなお不愛想な表情を浮かべたままだった。
「でも怒らないでくれよ……俺、もう我慢出来ないんだ……!!」
その声は内から漏れたかの様に掠れた声。
彼の中に募りに募った……本音だった。
「俺、昔からずっとずっと君に振り向いてもらいたくて……それで何度もアプローチしたのに気付いてもらえなくて……!! だからこうやって強引にでも聞いてもらわないとわからないんじゃないかって……!!」
最初の一言を皮切りに、海斗の想いがとめどなく溢れ出る。
それは詩織に対する恋心ゆえの。
そう……海斗は詩織の事が好きだった。
だから登校の時の様に彼女の気を惹きたくて、あの様な行動を起こしていたのである。
「昔からシオちゃんに色んな所連れてってもらってさ、いっぱい遊んだよね!? 俺、堪らなく嬉しかったんだ……そんな事をしてくれるシオちゃんが大好きだったからッ!!」
そしてこの日、遂に思いが爆発した。
きっとこの一年半ほどの間、冷たくなってしまった彼女に想いを募らせ続けたのだろう。
あまりにも変わり過ぎてしまったから。
まるで他人になってしまったかの様に。
「俺、今も昔も……シオちゃんの事が大好きだ!! 俺の想い受け取ってくれえッ!!」
倉庫内に大声が響き、その中で木霊する。
外へ僅かに漏れた声も……グラウンドで動く生徒達の下へ届く頃には、その声に掻き消されて耳には入らない。
途端、倉庫内に然るべき静寂が訪れた。
海斗の前に居る詩織は、相変わらずの不愛想の表情を浮かべて佇んだまま。
「想いは届かなかったのか」……そうすら思える間に、海斗は思わずその眼を僅かに窄めさせる。
だがその時……詩織の口元が僅かに「ピクリ」と動いた。
「そう……私の事……好き……フフッフフフ」
続き上がったのは、彼女が久しく人前で上げていなかった声。
そしてその顔に浮かんだのは、光悦さを魅せた……妖艶の笑みだった。
今まで人に見せた事の無い一面。
昔から彼女と共に居たはずの海斗ですら知らぬ表情を前に、思わずその身を固めさせていた。
詩織の含み笑いは次第に喉を引っ掛けた様な「ヒッヒッヒ」という甲高い笑い声へと変質させていく。
まるでタガが外れたかの如く。
「シオ……ちゃん……?」
余りの変貌ぶりに、海斗は唖然とするばかり。
目の前に居る詩織が本物なのか疑う程に、知る彼女と掛け離れていたのだから。
そんな時、突如として室内に響き渡っていた笑い声が止まる。
途端に静寂に包まれた倉庫には、外で動く生徒の声が僅かに聞こえ始めていた。
「ねぇ……私の事、そんなに……好き……?」
ねっとりとした言葉遣いは、何かを誘うかの様に艶めかしい。
その一言は……彼女を求める海斗の情欲を心の奥底から逆撫で上げる。
気付けば、唖然としていたはずの彼は頬を赤く染め、無心で見惚れていた。
「う、うん……好き……大好きだ……!」
「そう……なのね」
すると何を思ったのか、詩織が自身の腰にゆるりと手を回す。
交差する様に自身の腰へと充てられた手が見纏う上着の裾を掴み取った。
そして突然……上着を引き上げ、脱ぎ始めたのだった。
「シ、シオちゃんっ!?」
海斗が慌て声を上げるも、彼女は止まらない。
脱ぎ終えた上着を放り投げ、ブラジャー一枚身に纏うだけの上半身が露わとなった。
なおも止まる事無く、今度はアンダーのジャージをも脱ぎ始め……海斗が目のやり場に困り、視線を逸らす。
しかしやはり気になるのか……そっと視線を再び彼女へと向けた。
そこに見えたのは……下着姿となった詩織の艶めかしい肢体。
突然の事に、もはや海斗は声も出ない。
夢にまで見たであろう彼女の半裸体が、今こうして目の前にあるのだから。
「フフ……」
詩織がゆっくりとした足取りで海斗へと歩み寄っていく。
それがどこか期待と不安を与え、海斗の足をすくませ動かさせない。
肢体に手が届きそうなまでの距離へと近づいた時……詩織の両手がそっと彼の顔を包む様に触れる。
その感触は、海斗の脳裏を痺れさせる程に……優しく、心地良かった。
「それなら……愛してあげる……クフフッ……!」
ズグリ……ッ!!
その時突然、海斗の首筋に妙な圧迫感が響き渡った。
彼の頬へ回された手の指が……その首に突き刺さっていたのだ。
突き刺さった詩織の指先は、まるで鋭利なアイスピックの様に尖った形へと変質していた。
強引に変形したのだろう、皮が異質なまでに歪み捻られた形で変わっていたのである。
「アッ……ガッ……!?」
海斗は何が起きたかわからぬまま、息とも悲鳴とも言えぬ声を上げる。
だが……彼にはもう、何が起きたのかを理解する事は出来なかった。
既に彼の意識は……変わり始めていたのだから。
「アがガ……ガあッ!!?」
詩織が全ての指を引き抜き、海斗からゆるりと離れる。
当の海斗は頭を抱えて途端もがき苦しみ始めていた。
それと同時に、海斗の体が「ゴリリッ」と音を立てて急激な変化を始める。
それは筋肉や骨、血管が異常なまでの速さで変化する事から生まれた摩擦音。
途端、体の至る箇所が「ボコボコ」と膨れ始め……おぞましいまでに変形していく。
整っていた顔も、体も……元の形がわからなくなってしまう程に、はち切れんばかりに膨れ脈動していた。
「アッガがアあオォぉお……!!!!」
肺の奥から全ての空気が捻り出されたかの様な、低い唸り声。
それはもやは彼の声では無い。
彼だった者の雄叫び。
全てが終わった時……彼はもはや、人間ではなくなっていた。
「コォォォォォ……!!」
その姿を簡単に形容するならば……悪魔。
全長は三メートル程までに伸びあがっていた。
上半身が異様にまで膨れ上がり、それを支える下半身も以前の腰回りの二倍と言わんばかりに太く強靭。
筋肉質だが全身が黒の短毛に覆われており、背中には骨太の巨大な翼竜の様な翼が生え、体内から抜き出た時に付着した赤茶黒い体液のぬめりがおぞましさを掻き立てる。
その頭には鹿の様に左右アンバランスに曲がりくねった茶色の角が二本生えていた。
顔は獣の様に鼻が伸び、長く鋭い牙を有する大きな口が露わとなる。
まるで魔者……そうとしか言えない程に、海斗は人間と掛け離れた存在へと変わり果ててしまったのである。
「ア……ギ、ギモヂイイヨままァ……ア、ぱぱ……?」
言葉は喋るが、そこに理性は感じない。
まるで赤子の様な知能の低下……肉体を変質させた代償なのだろうか。
「フフ……お誕生日おめでとう……私の可愛いボウヤ……ウッフフ!」
詩織がその手を広げ、海斗の変化に悦び応える。
蕩けてしまいそうな程に先以上の光悦さを滲ませた笑みを浮かべながら。
「……命脈を探る小動物が二匹……貴方ならもう……わかる……?」
「ウン……ワガル……ままノデキ……ゴロズゥ……」
「イイ子ね……さぁお行きなさい……やり遂げたら……もっと可愛がってあげる……!!」
彼女の一言を最後に、海斗だった怪物は天井へと顔を向ける。
その先に見えるのは……果たして……。
グラウンドで教師や生徒が道具の到着を待つ。
皆既に準備運動は済み、後は実習を残すのみの状態。
だがその時突然、体育倉庫が轟音と共に弾け飛んだのだった。
ドバァーーーーーーンッ!!!!
凄まじい爆風、凄まじい衝撃が倉庫建屋を粉砕し、破片を周囲へと飛び散らかせた。
余りの衝撃の出来事に、グラウンドに居た生徒達から多数の悲鳴が打ち上がる。
教師ですらも腰を抜かし、その場にへたり込む程に激しかったのだ。
しかし殆どの誰もが気付いていない。
体育倉庫が破裂した時……空高く向けて巨大な黒い塊が飛んで行った事に。
目の前で起きた出来事に目を盗られ、殆どの者が意識の外。
気付いた者も一人ほど居たが……一瞬にして空の彼方へと消えた所為か、幻にしか見えなかった様であった。
その後、詩織は倉庫内で起きた謎の爆発に巻き込まれた被害者として病院へ搬送されるも、大事無く退院。
海斗は行方不明のまま。
詩織の「海斗一人が倉庫に入って、出て来るのを待っていたら突然爆発した」という証言が元となり……捜査は結局わからぬまま打ち切られる事となった。
勇達の与り知らぬ場所で異変が起きている。
誰も知らぬところで加速的に……かつ確実に。
果たしてそれは一体何を意味するのだろうか。
小野崎紫織。
彼女の中に潜む異質に気付く者は……まだ居ない。
周りから見るだけではなんて事の無い二人の男女。
彼等を取り巻く日常生活はそれほどまでに普遍的だった。
幾つかの授業を終え、時は四時限。
その時間の授業は体育……生徒達はこぞって更衣室へ向かい、着替えを済ませてグラウンドへと向かう。
この学校での体育着はジャージ。
露出を嫌う生徒が多い故の風習である。
もちろん、良識の範疇で脱ぐ事も許されてはいるが。
紺のジャージを身に纏い、授業を受ける為に生徒達がグラウンドへと足を踏み入れていく。
その中に詩織と海斗の姿は無い。
二人は教師に言われ、今日行われるサッカー実習用のボールを体育倉庫まで取りに行っていたのである。
もっとも……言われたのは海斗だけであり、詩織は半ば強引に連れてこられた訳であるが。
グラウンドの隅にある体育倉庫。
同じグラウンド内とはいえ、遠くも離れれば生徒達の掛け声も掠れてしか聞こえない。
そんな場所に二人……詩織と海斗がやってきていた。
詩織は当然、どこか不機嫌そうな顔付きを浮かべているが。
「ごめんねシオちゃん、俺一人じゃ運べるか心配でさ~!」
男一人で運べない物を女の子に手伝わせようとするのは如何なものか。
詩織が依然口を塞いだまま佇む中、海斗は倉庫の扉を開いて彼女を誘う。
もはや抵抗すらする事無く、詩織もまた倉庫内へと足を踏み入れた。
「サッカーボールの入った籠、そっちにあるか見てくんない?」
海斗が指を差すのは倉庫の奥。
埃が積もりに積もったその中は、一見何があるかわからない。
詩織は言われるがまま倉庫の奥へとフラフラと歩き、目的の物を探す様に周囲を見回し始めた。
ガシャン……
途端、その場に金属同士がぶつかった音が鳴り響く。
それに気付いた詩織が振り返り見ると……視界に、扉を閉めた海斗の姿が映り込んだ。
「ごめん、シオちゃん……今の嘘、サッカーボールここにあるんだわ」
海斗が傍へ置かれていた籠に積まれたボールを指で突き示す。
探していたボールは、実は扉の裏に隠れていたのである。
それはまるで彼女を倉庫内に誘導する為に付いた嘘。
しかし彼のそんな不可解な行動の前でも、詩織はなお不愛想な表情を浮かべたままだった。
「でも怒らないでくれよ……俺、もう我慢出来ないんだ……!!」
その声は内から漏れたかの様に掠れた声。
彼の中に募りに募った……本音だった。
「俺、昔からずっとずっと君に振り向いてもらいたくて……それで何度もアプローチしたのに気付いてもらえなくて……!! だからこうやって強引にでも聞いてもらわないとわからないんじゃないかって……!!」
最初の一言を皮切りに、海斗の想いがとめどなく溢れ出る。
それは詩織に対する恋心ゆえの。
そう……海斗は詩織の事が好きだった。
だから登校の時の様に彼女の気を惹きたくて、あの様な行動を起こしていたのである。
「昔からシオちゃんに色んな所連れてってもらってさ、いっぱい遊んだよね!? 俺、堪らなく嬉しかったんだ……そんな事をしてくれるシオちゃんが大好きだったからッ!!」
そしてこの日、遂に思いが爆発した。
きっとこの一年半ほどの間、冷たくなってしまった彼女に想いを募らせ続けたのだろう。
あまりにも変わり過ぎてしまったから。
まるで他人になってしまったかの様に。
「俺、今も昔も……シオちゃんの事が大好きだ!! 俺の想い受け取ってくれえッ!!」
倉庫内に大声が響き、その中で木霊する。
外へ僅かに漏れた声も……グラウンドで動く生徒達の下へ届く頃には、その声に掻き消されて耳には入らない。
途端、倉庫内に然るべき静寂が訪れた。
海斗の前に居る詩織は、相変わらずの不愛想の表情を浮かべて佇んだまま。
「想いは届かなかったのか」……そうすら思える間に、海斗は思わずその眼を僅かに窄めさせる。
だがその時……詩織の口元が僅かに「ピクリ」と動いた。
「そう……私の事……好き……フフッフフフ」
続き上がったのは、彼女が久しく人前で上げていなかった声。
そしてその顔に浮かんだのは、光悦さを魅せた……妖艶の笑みだった。
今まで人に見せた事の無い一面。
昔から彼女と共に居たはずの海斗ですら知らぬ表情を前に、思わずその身を固めさせていた。
詩織の含み笑いは次第に喉を引っ掛けた様な「ヒッヒッヒ」という甲高い笑い声へと変質させていく。
まるでタガが外れたかの如く。
「シオ……ちゃん……?」
余りの変貌ぶりに、海斗は唖然とするばかり。
目の前に居る詩織が本物なのか疑う程に、知る彼女と掛け離れていたのだから。
そんな時、突如として室内に響き渡っていた笑い声が止まる。
途端に静寂に包まれた倉庫には、外で動く生徒の声が僅かに聞こえ始めていた。
「ねぇ……私の事、そんなに……好き……?」
ねっとりとした言葉遣いは、何かを誘うかの様に艶めかしい。
その一言は……彼女を求める海斗の情欲を心の奥底から逆撫で上げる。
気付けば、唖然としていたはずの彼は頬を赤く染め、無心で見惚れていた。
「う、うん……好き……大好きだ……!」
「そう……なのね」
すると何を思ったのか、詩織が自身の腰にゆるりと手を回す。
交差する様に自身の腰へと充てられた手が見纏う上着の裾を掴み取った。
そして突然……上着を引き上げ、脱ぎ始めたのだった。
「シ、シオちゃんっ!?」
海斗が慌て声を上げるも、彼女は止まらない。
脱ぎ終えた上着を放り投げ、ブラジャー一枚身に纏うだけの上半身が露わとなった。
なおも止まる事無く、今度はアンダーのジャージをも脱ぎ始め……海斗が目のやり場に困り、視線を逸らす。
しかしやはり気になるのか……そっと視線を再び彼女へと向けた。
そこに見えたのは……下着姿となった詩織の艶めかしい肢体。
突然の事に、もはや海斗は声も出ない。
夢にまで見たであろう彼女の半裸体が、今こうして目の前にあるのだから。
「フフ……」
詩織がゆっくりとした足取りで海斗へと歩み寄っていく。
それがどこか期待と不安を与え、海斗の足をすくませ動かさせない。
肢体に手が届きそうなまでの距離へと近づいた時……詩織の両手がそっと彼の顔を包む様に触れる。
その感触は、海斗の脳裏を痺れさせる程に……優しく、心地良かった。
「それなら……愛してあげる……クフフッ……!」
ズグリ……ッ!!
その時突然、海斗の首筋に妙な圧迫感が響き渡った。
彼の頬へ回された手の指が……その首に突き刺さっていたのだ。
突き刺さった詩織の指先は、まるで鋭利なアイスピックの様に尖った形へと変質していた。
強引に変形したのだろう、皮が異質なまでに歪み捻られた形で変わっていたのである。
「アッ……ガッ……!?」
海斗は何が起きたかわからぬまま、息とも悲鳴とも言えぬ声を上げる。
だが……彼にはもう、何が起きたのかを理解する事は出来なかった。
既に彼の意識は……変わり始めていたのだから。
「アがガ……ガあッ!!?」
詩織が全ての指を引き抜き、海斗からゆるりと離れる。
当の海斗は頭を抱えて途端もがき苦しみ始めていた。
それと同時に、海斗の体が「ゴリリッ」と音を立てて急激な変化を始める。
それは筋肉や骨、血管が異常なまでの速さで変化する事から生まれた摩擦音。
途端、体の至る箇所が「ボコボコ」と膨れ始め……おぞましいまでに変形していく。
整っていた顔も、体も……元の形がわからなくなってしまう程に、はち切れんばかりに膨れ脈動していた。
「アッガがアあオォぉお……!!!!」
肺の奥から全ての空気が捻り出されたかの様な、低い唸り声。
それはもやは彼の声では無い。
彼だった者の雄叫び。
全てが終わった時……彼はもはや、人間ではなくなっていた。
「コォォォォォ……!!」
その姿を簡単に形容するならば……悪魔。
全長は三メートル程までに伸びあがっていた。
上半身が異様にまで膨れ上がり、それを支える下半身も以前の腰回りの二倍と言わんばかりに太く強靭。
筋肉質だが全身が黒の短毛に覆われており、背中には骨太の巨大な翼竜の様な翼が生え、体内から抜き出た時に付着した赤茶黒い体液のぬめりがおぞましさを掻き立てる。
その頭には鹿の様に左右アンバランスに曲がりくねった茶色の角が二本生えていた。
顔は獣の様に鼻が伸び、長く鋭い牙を有する大きな口が露わとなる。
まるで魔者……そうとしか言えない程に、海斗は人間と掛け離れた存在へと変わり果ててしまったのである。
「ア……ギ、ギモヂイイヨままァ……ア、ぱぱ……?」
言葉は喋るが、そこに理性は感じない。
まるで赤子の様な知能の低下……肉体を変質させた代償なのだろうか。
「フフ……お誕生日おめでとう……私の可愛いボウヤ……ウッフフ!」
詩織がその手を広げ、海斗の変化に悦び応える。
蕩けてしまいそうな程に先以上の光悦さを滲ませた笑みを浮かべながら。
「……命脈を探る小動物が二匹……貴方ならもう……わかる……?」
「ウン……ワガル……ままノデキ……ゴロズゥ……」
「イイ子ね……さぁお行きなさい……やり遂げたら……もっと可愛がってあげる……!!」
彼女の一言を最後に、海斗だった怪物は天井へと顔を向ける。
その先に見えるのは……果たして……。
グラウンドで教師や生徒が道具の到着を待つ。
皆既に準備運動は済み、後は実習を残すのみの状態。
だがその時突然、体育倉庫が轟音と共に弾け飛んだのだった。
ドバァーーーーーーンッ!!!!
凄まじい爆風、凄まじい衝撃が倉庫建屋を粉砕し、破片を周囲へと飛び散らかせた。
余りの衝撃の出来事に、グラウンドに居た生徒達から多数の悲鳴が打ち上がる。
教師ですらも腰を抜かし、その場にへたり込む程に激しかったのだ。
しかし殆どの誰もが気付いていない。
体育倉庫が破裂した時……空高く向けて巨大な黒い塊が飛んで行った事に。
目の前で起きた出来事に目を盗られ、殆どの者が意識の外。
気付いた者も一人ほど居たが……一瞬にして空の彼方へと消えた所為か、幻にしか見えなかった様であった。
その後、詩織は倉庫内で起きた謎の爆発に巻き込まれた被害者として病院へ搬送されるも、大事無く退院。
海斗は行方不明のまま。
詩織の「海斗一人が倉庫に入って、出て来るのを待っていたら突然爆発した」という証言が元となり……捜査は結局わからぬまま打ち切られる事となった。
勇達の与り知らぬ場所で異変が起きている。
誰も知らぬところで加速的に……かつ確実に。
果たしてそれは一体何を意味するのだろうか。
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