時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
852 / 1,197
第三十一節「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」

~艦内驚曲〝24h〟~

しおりを挟む
 勇達グランディーヴァを乗せたアルクトゥーンは日本を発った後、進路をヨーロッパへと向けて航行していた。

 目的地はスイス、ジュネーヴ。

 そこは元々国連の本部があった地。
 だが今現在、急遽本部機能を戻している。

 それというのも……本部を置くアメリカ合衆国が自国における状況を危険視し、半年ほど前にそうする様に促したからである。
 その原因は当然、【救世同盟】絡みの問題だ。
 アメリカは以前から国内における【救世同盟】の思想の蔓延を止めきる事が出来ず、どこに潜入者スパイが潜んでいるかわからないという状況に陥っている。
 先日空島を急襲したのもアメリカ軍に潜んでいた工作員だったという事もあり、事態は深刻であるのが伺えるだろう。
 そんな事もあり、元々実績もあって比較的【救世同盟】の影響が少ないスイスに白羽の矢が立ったのである。
 当時移設した事情も諸々あるのだが……状況が状況なだけにやむを得ず、という訳だ。
 とはいえ西に行けば、すぐ【救世同盟】の影響がより強く出ているフランスがある。
 悠長にする事も出来ぬ場所ではあるが、かといって途端に争いが起きる訳ではない。
 もしもむやみに争いを起こした場合、スイスは元より周辺諸国が黙っていないからである。
 周囲に別国がひしめいているヨーロッパだからこその抑止力が働いている証拠なのだろう。

 勇達がその地へ向かう理由は、【双界連合グランディーヴァ】の設立を国際的に認めてもらうため。

 例え福留達が各国へ働き掛けたとしても、それはあくまで仮の承認。
 正式な団体として認めてもらう為には、勇達が直接赴いて査察を受ける必要があったのだ。
 本来であれば派遣査察チームを受け入れ、日本国内で受けるのが一般的であろうが……今は事情が違う。
 【救世同盟】が絡んでいる昨今、国外での迂闊な調査は情報漏洩しかねない。
 それを危惧し、国連本部の人間が直接査察を執り行う事に。
 もちろんそれでも全てが防げる訳では無いが……福留が知る人間が多いともあって、信頼性は比較にならない。

 こうして勇達は目的地を決め、空路を進んでいたという訳である。



 そんな彼等……出発から二日目の現在、ロシア南東部領空にいた。
 位置的に言えばモンゴルの北部辺り……まだ日本から言う程遠く離れていない場所である。

 それというのも……領空航行に関してのロシア政府との折り合いがすぐに付かなかったからだ。

 当初、最短ルートを選択し、中国、モンゴルを経由しながらロシア領空を通り、そのままヨーロッパへと到達する予定だった。
 中国は龍が居たという事もあって話し合いも掛からず、ほぼ通り抜けスルー状態。
 モンゴルもイ・ドゥールでの一件での借りを返す形でやり過ごしてくれていた。
 しかし残念ながらロシアとの関係はそれほどではない。
 アンディとナターシャの件はあるが、あれは言うなれば押し付けの様なもの……彼等の善意とはまた別だ。
 そして何よりグランディーヴァは独立組織……もはや日本とは何の関係も無いので、立場に関しては相手の方が上手。

 その結果……交渉が思った以上に手間取ってしまったという訳である。

 現在その了承も得て領空へと侵入、大きな街を避ける様に迂回しながら航行中。
 入ってしまえば、国土の広いロシアともあって、一気にヨーロッパまでノンストップで行く事が可能だ。
 もちろん、道中で何も起きなければの話であるが。

 ロシア政府からは国内での戦闘は禁止されている。
 攻撃されてもし返す事が出来ない現状で、勇達もいささか不安を憶えていたものだ。
 とはいえ、空気の薄い高山地帯をも悠々と越せるアルクトゥーンの航行高度に達せる戦闘機は殆ど存在しない。
 居たとしても、ロシア軍が目を見張らせてる以上は何の心配も無いだろう。





 取り越し苦労とも言える心配が過る艦内。
 勇達はといえば……自分達の生活の為の準備を整えていた。

 家財道具一式は艦内の仮設住宅に揃っているものの、自分達が良く使う道具や機器は持参品だ。
 そういったもののセッティングや身の回りの整頓など、やる事は山ほどある。
 準備期間も無いまま空に上がったという事もあって、乗り込んだ者達のほとんどがそんな対応に追われる様子を見せていた。

 それに関しては当然、個室のある勇達も一緒だ。
 とはいえ、勇の様な趣味を持たない人間であれば移す荷物も無く……初期状態とほとんど変わらない。
 瀬玲は多少モダンな雰囲気を取り入れた内装を演出しているが、実はあまり手を入れていない。
 ナターシャに至っては何故か学生服だけを持ってくるといった、よくわからない状態である。

 問題は茶奈と心輝だ。

 茶奈は一見、性格上こだわりはあまり無いと思われていた。
 しかしどうやらこの二年間の抑圧でこだわりが生まれたのだろう……引っ越し期間の行動はとても激しかった。
 店と旗艦の往来であれば、恐らく彼女が一番多い。
 ホームセンターや家具屋に直接飛んでは魔剣を抱えたまま買い物を行い、巨大な荷物を背負って直接旗艦へ帰るなどといった暴挙は彼女ならではと言えるだろう。
 そんな姿を見届けた人々の心配が目に浮かぶようである。
 その甲斐あってか個室の中は荷物でごった返し、未だ整頓出来ていない。
 一日目は藤咲両親の部屋に泊まるなどで万事逃れた様だが……その間こっそり遊びに入ったキッピーを荷物の雪崩が襲うなど、もはや人が住める場所では無い状態だ。 
 もっとも、勝手に入ったという所で自業自得ではあるが。

 心輝は当然、趣味一辺倒。
 引っ越し期間中は同伴者となった友人二人を引き連れ、今まで遊べなかった分を取り戻すかの様に最新趣味アイテムを買い漁り続けた。
 ゲーム、フィギュア、プラモデル、アニメDVDに漫画ラノベ同人etc……僅かな期間で彼等は金を湯水の様に使い、艦内生活を豊かにしようと目論んだのである。
 「いつまで続くかわからない艦内生活、退屈凌ぎが多くあっても困りはしない」、そんなマインドで集め回ったが最後、彼は驚愕する。
 なんと艦内民間フロアには人員向けのコンビニが存在していたのだ。
 しかも客の要望に応えて品物が入荷出来るオンライン注文も完備、抜け目は無い。
 日本のみならず、世界各国の物品がリアル物価で購入可能なグローバルカタログ実装である。
 この事実を乗艦後に知った後……部屋を圧迫する荷物の中で頭を抱えて項垂れる心輝の姿が在ったそうな。



 そんな二人が自室の整理に必死になっている頃。
 手空きの勇と瀬玲とナターシャは、竜星を加えて雑談を交えながら再びの内部散策を始めていた。

 最初に訪れた時と異なり、人の気配がふんだんに感じられる居住区。
 一度歩けば見知った顔が横切り、挨拶が交わされる。
 割り当てられた家々の中では既にくつろぎ始めてる者達も多く、整理は順調である様だ。

 活気すら感じられる中を歩き続け……三人は最初の目的地である、噂のコンビニへと辿り着いた。

「これ、最初無かったよね??」

「うーん……いや、でも気付かなかっただけかもしれないし……」

 そこに掲げられていたのは彼等がよく見た事のある看板。
 緑と白の基調が目立つの文字は、そこが街中なのではないかと思わせる程に普遍的だ。

「なんでファミメなのよ……」

 まさに外観は街中で見られる一般的なコンビニ【ファミリーメイト】そのものだ。
 しっかりと窓ガラスには『アルクトゥーン支店』と書かれており、きちんとした連携フランチャイズ店である事がわかる。
 ナターシャが通い慣れていたコンビニと同じという事もあり、彼女の眼がどこか輝いて見えた。

 一歩中に足を踏み入れると……途端にこれまた聞き慣れた曲が耳に入ってくる。
 当然、ファミリーメイトでお馴染みのCMソングだ。
 軽やかなテンポの曲に店名を連呼するだけのものだが、一時期は「中毒性がある」などと揶揄されつつ好かれていただけに、知らぬ者など居ないと言われるほど。
 そんな明るい雰囲気を醸し出す店内から彼等を見つめるのは、店の雰囲気にはそぐわない屈強な東南アジア系男性の店員。
 一応は兵隊員なのだろうか、店舗用エプロンの下に覗くのは彼等の制服だった。

「ダイジョウブ、ジャパニーズ、ワカルヨー」

 第一声がそれなのは、命力を持たない人への配慮なのだろう。
 勇達には何の心配も無いが、どこかそれが微笑ましくて。
 瀬玲に至っては、あまりのギャップがツボだったようで……引きつった笑みが浮かび上がっていた。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~

名無し
ファンタジー
 主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...