時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」

~活躍をその目にしっかりと焼き付けろぉい~

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 フライトはおおよそ丸半日にも及んだ。
 進路を一旦ハワイへ向け、そこから給油して本土へ。
 このかつてない長旅に、さすがの勇とちゃなも退屈は免れなかった様だ。

〝これから激戦が待っているかもしれない〟
 こんな想いが眠気を取り払ってしまって。

 だからと映画や音楽を楽しもうにも、はやる気持ちが心を曇らせて入り込めない。
 時折り提供される機内食やおやつが救いと言った所か。

 とはいえ一方の剣聖はマイペースに眠ったままだが。
 相変わらずの図太さはここでも発揮出来るらしい。
 その快眠姿に誘われたのか、気付けばちゃなも自然と眠りへ落ちていて。
 結局、緊張に囚われていたのは勇だけだったと証明される事に。



 そんなフライトを乗り越え、ようやく現場最寄りの滑走路へと着地を果たす。
 勇とちゃな、人生初のアメリカ合衆国入国だ。



 辿り着いたのはどうやら空港などではなく、ただ滑走路だけがある場所らしい。
 機内から外を覗き込めば、映画などに出て来る荒野がもう見えていて。
 ついでに燦燦と輝く太陽が眩しいばかりに照らしてくれる。

 日本では深夜の時間帯だが、この地は現在昼の真っ只中。
 お陰で噂の時差を肌で感じ、感動を憶えてならない。
 なお体調自体は良好、フライトの影響は無い模様。
 さすがに鍛えられているだけの事はあるか。

 それでいざ外へ足を踏み出せば、更には砂嵐もが迎えてくれて。
 少し荒っぽい歓迎に、勇達の困惑する姿が。

「目に埃が入らないように気を付けて」

「う、うん」

 それでも勇がちゃなを守る様に片腕で覆い、タラップを一緒に降りていく。
 完全には覆えないけれど、靡く黒髪を抑えるので精一杯なちゃなには大助かりだ。

 こうして勇達がアメリカの大地へ降り立って。
 すると間も無く、皆の前に迷彩色の服を纏った男がやってくる。

「ようこそアメリカ合衆国へ。お話は伺っております。早速ですがこちらへ」

 それは厳つい体格と赤白さを持つ欧米系白人の兵隊で。
 あの杉浦でさえ小物と見えるくらいに大きい。
 勇達と比べるとまさに大人と子供だ。

 しかしそんな観察をしている猶予も無いらしい。
 米軍兵は出会い頭すぐさまに勇達を軍用車へと誘っていて。
 呼ばれるままに乗り込むと、シートに座り込む間も無く発進する事に。
 福留以外は質素な荷台に、とあまり好待遇とは言えないが。

「それで、状況は?」

「既に戦闘機が二機大破。ヘリも三機と対空車両が八機。人的被害も多大です」

「ふぅむ、かなり悪化している様ですね」

 そして始まった福留と米軍兵との会話に、勇もちゃなも無言で耳を傾ける。
 ただ聴くに、状況はどうやら更に悪化し続けているらしい。

 というのも、フライト中にも戦況のやりとりは何度か行っていて。
 現在、米軍が【グリュダン】と交戦している事は既に知っている。
 なんでも、今朝から再攻撃を開始したのだとか。

 だが、その戦況は実に一方的だ。

 攻撃が通用しない事はわかっている。
 それでも彼等は【グリュダン】の進路を変えようと躍起になっている様で。
 その結果、戦闘兵器はおろか人的被害にも至ってしまった。
 しかも相手の進路は未だ変わっていないという。

 最悪の状況である。

 場の雰囲気からでさえその最悪さが伺える。
 だからか、勇もちゃなも表情から険しさが消えなくて。

「しかし、本当に平気なのですか? 大男の方ならまだしも、連れて来たのがこんな子供二人など……」

 おまけにこんな話題が飛び出せば、顔を強張らせずにはいられない。

 恐らく米軍兵は勇達が英語をわからないとでも思っているのだろう。
 大統領の肝煎りとはいえ、日本という独立言語国家から来た子供だから。
 それにどうやら魔剣使いの事も知らないらしい。
 なら勇達に何かが出来るなど到底思える訳も無く。

「大統領からは切り札と伺っていますが、どういう事なのか私にはわかりかねます」

「ハッ、わからねぇ奴が出しゃばって軽口叩くなクソガキがぁ」

「ッ!?」

 それでも我慢して押し黙っていたのだけれど。
 どうやら剣聖だけは黙っていられなかった様だ。

「コイツラはおめぇらが束になって掛かったって勝てねぇよ。それこそ銃とかいう玩具を使わねぇとなぁ。で、その玩具を使っても巨人に勝てねぇってピーピー喚いてる奴はどこのどいつだ? それで俺らが呼ばれた理由ワケは? その事実がありゃ、力の差くれぇ考えなくてもわかんだろうが」

「そ、それは……」

 相変わらず、剣聖の言葉は文言以上に心へ刺さる。
 米軍兵でさえ押し黙らせる程に。
 その説得力効果は万国共通か。

「確かに俺達が倒せる確証は無いですけど、それでもやるだけの事はやってみせますよ」

「剣聖さんが居ればその必要も無いかもしれないですけどね」

「うっ、君達、英語が喋れたのか……」

 だからこそ勇達も続く。
 その説得力を更に際立たせる為にも。
 自分達を持ち上げてくれた剣聖にも応えようと。

 どう思われようが関係無い。
 結果を出せればそれでいい。
 今の勇達にはそんな想いがあったから。

 必要なのは勝つ事ではなく、生き残る事。
 それが何より大事だと思わされるくらいの相手が待っているのだから。

「えぇ、彼等の言う通りです。無茶を承知なのはそちらも同じでしょう。でしたらこれからの流れに身を任せるしかありません。そしてその流れを作るのは、間違い無く彼等なのですよ」

「……失言、大変失礼いたしました」

 そんな想いが言葉に乗って、米軍兵に伝わっていく。
 決して敵意ではなく、心を落ち着かせる慈しみの様に。
 だからか、福留の言葉を最後に謝意を見せていて。

「でしたらもう一つ、奴の情報をお伝えいたします」

 それと同時に、決意の瞳をも輝かせる。

 きっと最初は必要以上の事を話すつもりなど無かったのだろう。
 勇達の存在が眉唾だったから。

 しかしこうして説得された今、語らずにはいられない。
 この男が垣間見た【グリュダン】という存在の恐ろしさを。

 人知を超えたその戦闘能力を、たった一言で。



「奴はあろうことか、高高度飛行中のF-35超音速戦闘機を飛び跳ねて叩き潰したのです」



 例え最新鋭の武装であろうと通用するとは限らないのだと。
 それは決して攻撃が通る云々の話ではなく。

 そう、相手の戦闘力はもはや現代人の知識でさえ測れないのだ。
 現代人の最新技術でさえも、岩巨人の身体能力を超えられないのである。

 その事実を前に、勇達が再び驚愕する。

 戦闘機を軽々撃墜、しかも直接叩き潰して。
 その結果から導き出された答えは、ここに至るまでに立てた計画さえ無為にしよう。

「田中さん、作戦は変更だ。空を飛んで戦うのは止めておこう!」

「えっ!?」

「それがいいな。直線的な動きは簡単に捉えられる。それに、今のおめぇらの実力じゃ戦闘機ってヤツと大して変わらねぇんだろ? 同じ目に遭いたくなきゃ、よしときな」
 
 実は勇達、フライト中に作戦を練っていて。
 仮に自分達が戦う事になった場合、どう立ち回るべきかを決めていた。

 その作戦はこう。
〝ちゃなの自慢の飛行能力で瞬時に近づき、斬りつけて離れる〟
 つまりヒット&アウェイを基礎とした戦いを想定していたのだ。

 だが、それが今になって悪手だとわかってしまった。

 もしも実行したら、恐らく剣聖の言う通りになるだろう。
 ならその行き付く先は、脱出の間に合わなかった戦闘機パイロットと同じに。
 しかも守る鉄の壁さえ無いから、きっと瞬時にしてお陀仏だ。

「ま、安心しな。出しゃばる前に俺が軽くちょいちょいと片付けてやらぁ。おめぇらはその活躍をその目にしっかりと焼き付けろぉい」

「つまり、【グリュダン】に打ち勝った事を伝える生き証人になれって事ですかね?」

「おう、そういうこった。なはは!!」

 ただ、そんな状況であろうと剣聖は変わらない。
 それが不思議と勇気を分けて貰えたかの様で。

 本当は勇も内心怖くて堪らなかったのだけれど。
 手も震えていて、それでも我慢して耐えていたのだけれど。
 そんな剣聖を前にしたら、それさえ馬鹿馬鹿しく思えてならなくて。

 気付けば、手の震えは止まっていた。

 これはまるで、初めて会った時と同じだ。
 あの時も、剣聖の一言二言で沢山の勇気を貰っていたから。
 だから今、こうしてまだ生きて戦えている。



 なら、きっと今回も平気だろう。
 そんな楽観的な想いが、勇にこれ以上無く強い気力を与えてくれていた。


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