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第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」
~さぁ始めようか、最高の戦いって奴をよ~
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勇達の進路は【グリュダン】の歩行ルートの直線上。
つまり、向かい合う形で互いに進んでいる。
となればすぐにでも見えてきそうなものだが、それもなかなか叶わない。
というのも、グランドキャニオンの巨大な起伏が景色の先を覆っていたから。
加えて、降り立った地点もかなり離れていて。
おかげで車に乗ってからおおよそ半時間。
それでも未だ影一つ見えてこないという。
そんな広大な土地に驚かされてばかりだ。
ただ、気配はもう感じ始めている。
突風が吹き荒れているのだ。
それも籠った様な重音を乗せて。
まるで、遥か彼方で花火を鳴らしているかの様な。
だからか車までもがギシギシと揺らされていて。
そのお陰で、戦場が近い事を報せてくれる。
「間も無く作戦領域です」
更にこうも言われれば緊張感が車内を包む事に。
すると剣聖が遂に二つの箱を開き始める。
唯一持ってきていた荷物の停め金具を、バチリバチリと。
そうして現れたのはやはりあの巨大な魔剣。
しかもなんと、それが二本も。
「もしかして剣聖さんって二刀流、なんです?」
「おう。こいつぁ使い勝手がいいからな、おかげで昔に手に入れてからずっと使ってるっつうシロモンよ。ま、重過ぎて他の誰も使えねぇけどな」
「そりゃあこれ、大金庫を片手で持ち上げる様なもんですしね」
以前に勇と戦った時は一本だけしか使っていなかった。
しかし今回は二本。
つまり、剣聖としてもそれだけ本気だという事だ。
少なくとも愛刀を使うならばそうとしか思えない。
それに、どうやらこの魔剣は相応にお気に入りらしい。
同じ物を揃えるくらいなのだから。
なら、秘められた力はもしかしたら勇の【大地の楔】にも負けないかもしれない。
「その名を、魔剣【アラクラルフ】という」
その名を何故、今に教えてくれたのかは勇もちゃなにもわからない。
けれど、意味の無い事をしない剣聖だと知っているからこそ静かに頷ける。
きっとそれだけ、剣聖は自分達の事を認めてくれているのだと。
この間の空での戦いもきっと眺めていた事だろう。
それでちゃなの飛行能力も、勇の強靭な足腰も知っていて。
だから今までの話でも驚く素振りを一切見せなかった。
そしてその二人の実力を認めたからこそ、己の力も見せようとしてくれている。
そう思わずには居られなかったのだ。
剣聖はそう思わせる様な笑みを二人に返していたから。
「皆さん、前を見てください!」
でも、そんな感傷に浸っている暇はどうやらもう無かったらしい。
そんな福留の声が聴こえ、勇達が急いてその頭を上げる。
すると間も無く、彼等の視界にあの存在がとうとう現れる事に。
【グリュダン】である。
あの巨体が、景色の先で暴れていたのだ。
歩く速度はそれほど速くない。
だが迫撃砲の爆発にも一切怯まず、遂には戦車を踏み潰していて。
それでも一切動じる事無く、周囲を飛ぶヘリコプターへ拳を奮うという。
その拳は当たる事こそ無かったが、それだけで突風が荒れ狂う。
ヘリコプターの航行軌道が不安定となる程に。
恐らく、それさえも認識して奮っているのだろう。
そんな荒々しい戦闘の所為で地響きが凄い。
相手がまだ小さく見えるくらいの距離だというのに。
それでも車を通してだろうと普通に伝わってくるくらいだ。
というのも、その車がもう停止していたから。
「我々の送迎はここまでです」
そう、これ以上は近づけないのだろう。
戦いに巻き込まれない為にも。
きっとそう指示を受けているに違いない。
「勇君、ちゃなさん、剣聖さん、我々はここで状況を伺っています。とはいえ基本的には状況判断は全て三人に任せる形となるでしょう」
それは福留の了承範囲でもあるらしい。
だからこそ車から降りて、勇達の前に立つ。
想像を絶する死地へ送る事の悔しさを滲ませながら。
「ですが、絶対に無茶はしないでください。例え負けそうになっても。生きて帰って来る事を第一前提としてください」
「わかりました。でも米軍は引き揚げさせてくださいね。攻撃の煽り喰らったら不味いでしょうから」
「了解。どうかご武運を」
その中で勇とちゃなが新型インカムをその耳に備える。
完全なる完成を果たした正規品第一号だ。
光沢ある銀装甲に赤いラインが走り、ランプの光を示してくれる。
既に起動済み、性能も上々な様子。
なお剣聖は嫌がって付けていない。
ワンマンでやる気だからだろう。
二人の服装は今まで通りの戦闘服。
この辺りはバージョンアップに至らなかったらしい。
そもそも着るだけだから改良の余地はもう無さそうだ。
そんな装備を身に纏うと、勇が魔剣を鞄ごと腰裏に備えて屈み込む。
ちゃなに笑顔と視線を向けながら。
「ぶっつけ本番だけど、やるしかない。行こう、田中さん」
「はいっ!」
するとちゃながそっと勇の背へ手を伸ばして。
魔剣鞄を足受けにし、そのまま背負われる形へ。
それで勇が立ち上がると、たちまち二人による騎馬形態が誕生する事に。
これが勇達の導き出した新しい答えだった。
勇が足となる事で高速移動を実現。
かつちゃなが砲台として機能する事が出来る。
これなら動きも単調とならずに済み、攻撃力にも期待出来るだろう。
苦肉の策だが理には叶っている。
少なくとも飛行作戦よりは攻撃力が増していると言えよう。
後の至らない点は臨機応変で行動すればいい。
もちろん、これは勇達が戦う事になった場合の話だが。
そう準備が整った事を剣聖も理解したのだろう。
突然と駆け出し、一瞬にして景色の彼方へ。
米軍兵が驚く中、勇達もが負けぬ速度で駆けていく。
「な、なんだあの速度は……彼等は本当に人間なのか!?」
「えぇ、人間ですとも。誰よりも強く気高く、そして優しい切り札です」
その速度はまさしく全速力の車並み。
並の人間では到底実現出来ない速度である。
しかし、その超人たる力がどんな想いから生まれたかを福留は知っている。
だからこそこう堂々と宣えるのだ。
彼等こそが対魔者の切り札。
この国の持つ切り札よりもずっとクリーンで敬うべき存在なのだと。
剣聖を筆頭として、勇がちゃなを背に乗せて走る。
その速度はもはや常人では実現出来ない程に速い。
それでも恐らく本気では無い。
その気にでもなれば飛び跳ねて行きそうなもので。
きっと敢えて勇達に合わせているのだろう。
「す、凄い……これが勇さんの全速力!?」
それでもちゃなにとっては驚異でしかない。
余りにも速過ぎて、風圧・加速重圧が凄まじくて。
少しでも気を抜いたら弾かれてしまいそう。
「君の飛行と比べたら段違いに遅いけどね。けど、その代わり小回りが利く!」
それだけ脚力が凄まじいのだ。
足が一つ蹴り上げれば、地面が砕けて背後で強く跳ね上がる。
それも土煙がクラッカーの如く弾け飛ぶ中で。
故に、踏み抜かれた跡には無数の亀裂が稲妻の如く続いているという。
まさに雷の如き豪胆さと速度。
今の勇はそれさえ可能な程に身体が強化されているのだ。
今までの鍛錬と、研究の末に編み出した命力節約術の成果である。
お陰で【グリュダン】の巨体が見る見るうちに大きくなっていく。
外観がハッキリと認識出来て来る程に。
その姿、見紛う事無き岩の巨人だ。
それも身長三〇〇メートル級というのは間違いじゃなかった。
天を衝かんばかりの巨大さである。
その肌は周囲の岩々と色・質ともに変わらない。
言うなれば、この地の岩を削って作られた石像が動き出した、という感じ。
デザイン性から考えて、石器時代の石人形と言えば良いだろうか。
ただ本当に石人形という感じは否めない。
手足が動けば擦れて破片が飛んでいくもので。
つまり関節部分は動くだけで自壊するらしい。
どうくっついて動いているかまでは想像も付かないけれども。
しかしその自壊を補って余りある巨体だからこそ関係は無い。
特に肩や腰は人間と比較するととても大きい。
風貌のモチーフはさしずめ〝鎧を纏った古代武人〟といった所か。
それに情報もあった通り、目と思しき部分がしきりに動いている。
米軍機の動きをしっかり捉えている様だ。
となると、意思があるのは間違いなさそう。
理性があるかどうかまでは怪しいが。
そんな姿が見え始め、勇とちゃなに強い重圧を与えていく。
威圧感もが凄いのだ。
繰り出す攻撃が余りにも容赦無い故に。
その正体は、驚異の戦闘力にある。
この巨体なのに攻撃の挙動がやたらと速い。
反応速度も言わずもがな、判断力もがとても本能的で。
本当に人間を大きくしたような、そんなしなやかな動きさえ見せてくれる。
足腰を使った重心移動が人体構造的に凄まじく的確なのだ。
身体を捻り、肘膝どころか爪先をも伸ばしていて。
だから腕を伸ばせば見た目以上に拳の先が伸びる。
ボクサーのストレートパンチなどと同じ原理である。
とても岩とは思えない圧倒的身体能力だ。
これでは勇の足でも躱せるかどうか。
そんな不安を抱き始めた時だった。
突然、別の気配が膨れ上がる。
剣聖が命力を放出し始めたのだ。
それも凄まじいまでの量を。
今までにちゃなが見せて来たものよりもずっと大きく、濃い。
まるで光の壁が勇達の前に現れたかの如く。
それを目の当たりにした途端、勇の足が大地を滑る。
まるで〝巻き込まれたくなければこれ以上進むな〟と言われた様に感じて。
幸い、ここで米軍にも後退命令が下ったのだろう。
周囲を取り巻いていた兵器群が一斉に拡散していく。
となればあつらえ向き。
合わせて剣聖の速度が更に高まっていて。
そして遂に、【グリュダン】の眼が剣聖を捉える事となる。
するとどうだろう。
あの巨体が突如として動きを止め、剣聖へと向けて直立するという。
その姿はまるで、決闘を前にした者のそれだ。
なれば剣聖も同様に。
巨体の前へと辿り着いた途端に立ち止まっていて。
二本の大剣を軽々と振り払いながら首を伸ばして見上げ立つ。
これまで無い程にニカリとした大笑みを見せつけながら。
「いよぅ。会いたかったぜぇ【グリュダン】」
そんな笑みには鬼気が混じる。
戦いに魅入られ、悦び、求め続けた男の本性が。
その姿に期待と、慄きをも感じずにはいられない。
少なくとも、勇達にとっては剣聖が余りにも巨大に見えていたからこそ。
「さぁ始めようか、最高の戦いって奴をよ……!!」
かの男の一端を知る者にしかわからない畏怖がそこにあったのだ。
何者をも喰らわんばかりの、野獣さえ狩り屠る強者の威圧感が。
剣の究極 対 超巨大岩戦士。
この二人の戦いの行く末はもはや、誰にも予想など出来はしない。
つまり、向かい合う形で互いに進んでいる。
となればすぐにでも見えてきそうなものだが、それもなかなか叶わない。
というのも、グランドキャニオンの巨大な起伏が景色の先を覆っていたから。
加えて、降り立った地点もかなり離れていて。
おかげで車に乗ってからおおよそ半時間。
それでも未だ影一つ見えてこないという。
そんな広大な土地に驚かされてばかりだ。
ただ、気配はもう感じ始めている。
突風が吹き荒れているのだ。
それも籠った様な重音を乗せて。
まるで、遥か彼方で花火を鳴らしているかの様な。
だからか車までもがギシギシと揺らされていて。
そのお陰で、戦場が近い事を報せてくれる。
「間も無く作戦領域です」
更にこうも言われれば緊張感が車内を包む事に。
すると剣聖が遂に二つの箱を開き始める。
唯一持ってきていた荷物の停め金具を、バチリバチリと。
そうして現れたのはやはりあの巨大な魔剣。
しかもなんと、それが二本も。
「もしかして剣聖さんって二刀流、なんです?」
「おう。こいつぁ使い勝手がいいからな、おかげで昔に手に入れてからずっと使ってるっつうシロモンよ。ま、重過ぎて他の誰も使えねぇけどな」
「そりゃあこれ、大金庫を片手で持ち上げる様なもんですしね」
以前に勇と戦った時は一本だけしか使っていなかった。
しかし今回は二本。
つまり、剣聖としてもそれだけ本気だという事だ。
少なくとも愛刀を使うならばそうとしか思えない。
それに、どうやらこの魔剣は相応にお気に入りらしい。
同じ物を揃えるくらいなのだから。
なら、秘められた力はもしかしたら勇の【大地の楔】にも負けないかもしれない。
「その名を、魔剣【アラクラルフ】という」
その名を何故、今に教えてくれたのかは勇もちゃなにもわからない。
けれど、意味の無い事をしない剣聖だと知っているからこそ静かに頷ける。
きっとそれだけ、剣聖は自分達の事を認めてくれているのだと。
この間の空での戦いもきっと眺めていた事だろう。
それでちゃなの飛行能力も、勇の強靭な足腰も知っていて。
だから今までの話でも驚く素振りを一切見せなかった。
そしてその二人の実力を認めたからこそ、己の力も見せようとしてくれている。
そう思わずには居られなかったのだ。
剣聖はそう思わせる様な笑みを二人に返していたから。
「皆さん、前を見てください!」
でも、そんな感傷に浸っている暇はどうやらもう無かったらしい。
そんな福留の声が聴こえ、勇達が急いてその頭を上げる。
すると間も無く、彼等の視界にあの存在がとうとう現れる事に。
【グリュダン】である。
あの巨体が、景色の先で暴れていたのだ。
歩く速度はそれほど速くない。
だが迫撃砲の爆発にも一切怯まず、遂には戦車を踏み潰していて。
それでも一切動じる事無く、周囲を飛ぶヘリコプターへ拳を奮うという。
その拳は当たる事こそ無かったが、それだけで突風が荒れ狂う。
ヘリコプターの航行軌道が不安定となる程に。
恐らく、それさえも認識して奮っているのだろう。
そんな荒々しい戦闘の所為で地響きが凄い。
相手がまだ小さく見えるくらいの距離だというのに。
それでも車を通してだろうと普通に伝わってくるくらいだ。
というのも、その車がもう停止していたから。
「我々の送迎はここまでです」
そう、これ以上は近づけないのだろう。
戦いに巻き込まれない為にも。
きっとそう指示を受けているに違いない。
「勇君、ちゃなさん、剣聖さん、我々はここで状況を伺っています。とはいえ基本的には状況判断は全て三人に任せる形となるでしょう」
それは福留の了承範囲でもあるらしい。
だからこそ車から降りて、勇達の前に立つ。
想像を絶する死地へ送る事の悔しさを滲ませながら。
「ですが、絶対に無茶はしないでください。例え負けそうになっても。生きて帰って来る事を第一前提としてください」
「わかりました。でも米軍は引き揚げさせてくださいね。攻撃の煽り喰らったら不味いでしょうから」
「了解。どうかご武運を」
その中で勇とちゃなが新型インカムをその耳に備える。
完全なる完成を果たした正規品第一号だ。
光沢ある銀装甲に赤いラインが走り、ランプの光を示してくれる。
既に起動済み、性能も上々な様子。
なお剣聖は嫌がって付けていない。
ワンマンでやる気だからだろう。
二人の服装は今まで通りの戦闘服。
この辺りはバージョンアップに至らなかったらしい。
そもそも着るだけだから改良の余地はもう無さそうだ。
そんな装備を身に纏うと、勇が魔剣を鞄ごと腰裏に備えて屈み込む。
ちゃなに笑顔と視線を向けながら。
「ぶっつけ本番だけど、やるしかない。行こう、田中さん」
「はいっ!」
するとちゃながそっと勇の背へ手を伸ばして。
魔剣鞄を足受けにし、そのまま背負われる形へ。
それで勇が立ち上がると、たちまち二人による騎馬形態が誕生する事に。
これが勇達の導き出した新しい答えだった。
勇が足となる事で高速移動を実現。
かつちゃなが砲台として機能する事が出来る。
これなら動きも単調とならずに済み、攻撃力にも期待出来るだろう。
苦肉の策だが理には叶っている。
少なくとも飛行作戦よりは攻撃力が増していると言えよう。
後の至らない点は臨機応変で行動すればいい。
もちろん、これは勇達が戦う事になった場合の話だが。
そう準備が整った事を剣聖も理解したのだろう。
突然と駆け出し、一瞬にして景色の彼方へ。
米軍兵が驚く中、勇達もが負けぬ速度で駆けていく。
「な、なんだあの速度は……彼等は本当に人間なのか!?」
「えぇ、人間ですとも。誰よりも強く気高く、そして優しい切り札です」
その速度はまさしく全速力の車並み。
並の人間では到底実現出来ない速度である。
しかし、その超人たる力がどんな想いから生まれたかを福留は知っている。
だからこそこう堂々と宣えるのだ。
彼等こそが対魔者の切り札。
この国の持つ切り札よりもずっとクリーンで敬うべき存在なのだと。
剣聖を筆頭として、勇がちゃなを背に乗せて走る。
その速度はもはや常人では実現出来ない程に速い。
それでも恐らく本気では無い。
その気にでもなれば飛び跳ねて行きそうなもので。
きっと敢えて勇達に合わせているのだろう。
「す、凄い……これが勇さんの全速力!?」
それでもちゃなにとっては驚異でしかない。
余りにも速過ぎて、風圧・加速重圧が凄まじくて。
少しでも気を抜いたら弾かれてしまいそう。
「君の飛行と比べたら段違いに遅いけどね。けど、その代わり小回りが利く!」
それだけ脚力が凄まじいのだ。
足が一つ蹴り上げれば、地面が砕けて背後で強く跳ね上がる。
それも土煙がクラッカーの如く弾け飛ぶ中で。
故に、踏み抜かれた跡には無数の亀裂が稲妻の如く続いているという。
まさに雷の如き豪胆さと速度。
今の勇はそれさえ可能な程に身体が強化されているのだ。
今までの鍛錬と、研究の末に編み出した命力節約術の成果である。
お陰で【グリュダン】の巨体が見る見るうちに大きくなっていく。
外観がハッキリと認識出来て来る程に。
その姿、見紛う事無き岩の巨人だ。
それも身長三〇〇メートル級というのは間違いじゃなかった。
天を衝かんばかりの巨大さである。
その肌は周囲の岩々と色・質ともに変わらない。
言うなれば、この地の岩を削って作られた石像が動き出した、という感じ。
デザイン性から考えて、石器時代の石人形と言えば良いだろうか。
ただ本当に石人形という感じは否めない。
手足が動けば擦れて破片が飛んでいくもので。
つまり関節部分は動くだけで自壊するらしい。
どうくっついて動いているかまでは想像も付かないけれども。
しかしその自壊を補って余りある巨体だからこそ関係は無い。
特に肩や腰は人間と比較するととても大きい。
風貌のモチーフはさしずめ〝鎧を纏った古代武人〟といった所か。
それに情報もあった通り、目と思しき部分がしきりに動いている。
米軍機の動きをしっかり捉えている様だ。
となると、意思があるのは間違いなさそう。
理性があるかどうかまでは怪しいが。
そんな姿が見え始め、勇とちゃなに強い重圧を与えていく。
威圧感もが凄いのだ。
繰り出す攻撃が余りにも容赦無い故に。
その正体は、驚異の戦闘力にある。
この巨体なのに攻撃の挙動がやたらと速い。
反応速度も言わずもがな、判断力もがとても本能的で。
本当に人間を大きくしたような、そんなしなやかな動きさえ見せてくれる。
足腰を使った重心移動が人体構造的に凄まじく的確なのだ。
身体を捻り、肘膝どころか爪先をも伸ばしていて。
だから腕を伸ばせば見た目以上に拳の先が伸びる。
ボクサーのストレートパンチなどと同じ原理である。
とても岩とは思えない圧倒的身体能力だ。
これでは勇の足でも躱せるかどうか。
そんな不安を抱き始めた時だった。
突然、別の気配が膨れ上がる。
剣聖が命力を放出し始めたのだ。
それも凄まじいまでの量を。
今までにちゃなが見せて来たものよりもずっと大きく、濃い。
まるで光の壁が勇達の前に現れたかの如く。
それを目の当たりにした途端、勇の足が大地を滑る。
まるで〝巻き込まれたくなければこれ以上進むな〟と言われた様に感じて。
幸い、ここで米軍にも後退命令が下ったのだろう。
周囲を取り巻いていた兵器群が一斉に拡散していく。
となればあつらえ向き。
合わせて剣聖の速度が更に高まっていて。
そして遂に、【グリュダン】の眼が剣聖を捉える事となる。
するとどうだろう。
あの巨体が突如として動きを止め、剣聖へと向けて直立するという。
その姿はまるで、決闘を前にした者のそれだ。
なれば剣聖も同様に。
巨体の前へと辿り着いた途端に立ち止まっていて。
二本の大剣を軽々と振り払いながら首を伸ばして見上げ立つ。
これまで無い程にニカリとした大笑みを見せつけながら。
「いよぅ。会いたかったぜぇ【グリュダン】」
そんな笑みには鬼気が混じる。
戦いに魅入られ、悦び、求め続けた男の本性が。
その姿に期待と、慄きをも感じずにはいられない。
少なくとも、勇達にとっては剣聖が余りにも巨大に見えていたからこそ。
「さぁ始めようか、最高の戦いって奴をよ……!!」
かの男の一端を知る者にしかわからない畏怖がそこにあったのだ。
何者をも喰らわんばかりの、野獣さえ狩り屠る強者の威圧感が。
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