幼馴染みに決闘を申し込むために手袋を投げつけたら拾ったのは想い人でした。

風季

文字の大きさ
6 / 13

6.街へ

しおりを挟む


 街へついてからレイモンドはステラに尋ねた。


「ステラ嬢はどこか行きたいところはある?」


 これで「ない」と言われれば、レイモンドはステラに劇を見るのはどうかと誘うつもりだ。下見に来た時、ちょうどこの日に初演となる劇があると若い女性が口にしていたのを聞いていたのだ。時間帯も調べており、もし寄りたいところがあると言われても次の時間に合わせるつもりであった。


「いいえ。……あ、でも」


 何かを思い出したようだが、ステラは言葉にするのを戸惑っているようだった。このまま黙って続きを待っていればステラは口をつぐみそうだと思ったレイモンドは続きを話すように促した。


「行きたいところがあるなら何でも言って欲しい」
「えぇと、帰りに、その、メイルにお土産を買っていきたいのです。……いつも買ってきてくれるので」


 ステラはどこか申し訳なさそうに言った。

 何でも言ってと言った手前、反対することもできない。そもそもレイモンドがステラのやりたいことに反対することもないが。思うことは一つである。


(キャロット嬢……! 羨ましい……!)


  内心では悔し涙を流していることなどおくびにも出さず、レイモンドはステラの申し出を了承した。


「では、帰りに女性に人気の雑貨店へ寄りましょう。今から観劇はいかがですか?」


 観る予定の劇の名前を伝えれば、ステラを目を輝かせてうなずいた。


「その劇、今話題になっていて観たいと思っていたんです! メイルは今日観に行くと言っていたので、誰と観に行こうか困っていたの!」


 レイモンドはステラの喜び具合を見て、今日劇を観に行くことを決めた先週の自分を称賛した。


 劇場へ行き、事前に購入しておいたチケットで中へと入る。やはり女性が多く、男性は少ない。それに男性は全員女性の付き添いのようだ。仲睦まじく話している男女もいれば、女性の話にもう飽きたと言わんばかりの態度の男性もいる。


 何について話しているのだろうと聞き耳を立てれば、今から始まる劇についてのことが多かった。

 ステラも話したいと思っているのだろうかと思い、ステラを見ても話したそうには見えない。話したいなら話すだろうと勝手に思いながらレイモンドは開演を待った。





 劇場から出たレイモンドとステラは、昼食を摂るために貴族向けに作られた飲食店へとやってきた。

「ステラ嬢、劇は楽しかった?」
「はい! とっても……! 主人公である平民の男性が貴族の女性を攫って駆け落ちしたところが素敵でした」
「そうだね。素敵だったね」


 レイモンドはステラの言ったことに頷いたが、劇の内容なんて一切頭に入っていない。まず見てすらいない。

 隣で一喜一憂するステラを見て悶えていただけである。


(そもそも、貴族の女性が平民になって暮らせるものか。苦労を前に愛は廃れていきそうだ)


 レイモンドの感想はこんなものである。

 似たような感想を初恋の少女に直接言ってしまい、冷たい目で見られた経験があるのだ。今度は絶対に言わないと決め、思ったことは忘れることにした。


「——それに対して主人公が、君以外目に入らないよ、と言っていたところ、も……ぅ、ごめんなさい。話しすぎですよね」
「構わないよ。もっとステラ嬢が思ったことを聞かせて欲しい」


 恥ずかしそうに身を縮こめたステラだったが、レイモンドに続きを促されたことでおずおずと話し出した。

 途中からは生き生きと語っており、レイモンドはその表情を見て幸せを噛み締めていた。



 昼食を終えた後、二人は様々な場所を回った。

 そして、最後に雑貨屋へと寄った。

 ステラがメイルへのお土産を選んでいる間、レイモンドは店内を見回した。特に興味の惹かれるものはないが、なんとなくだった。


(あ、これ)


 レイモンドは目に入った髪飾りを手に取った。小ぶりでシンプルな髪飾り。

 絶対にステラに似合うと確信したレイモンドは、その髪飾りをすぐに購入した。


「あ、レイモンド様。購入してきますね」
「うん。ここで待ってるよ」


 わざわざそれを言うためにレイモンドを探していたのだろうか。もう少し早く戻ればよかったかと思いながら、レイモンドはステラを待った。


「お待たせしました」
「急がなくても良かったのに。……それじゃあ帰ろうか」


 待っていたステラが隣に来たのを見て、レイモンドは歩き出した。


 来た時と同じで、レイモンドはステラの話に耳を傾けて頷くだけだったが、一つだけ違ったのは、その話の内容だ。メイルのことではなく今日楽しかったことを話すため、レイモンドの参考になった。


 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、もう学園が見えてきた。その事にがっかりしながらもステラを寮の前まで送った。


「ではレイモンド様。今日は本当に楽しかったです。おやすみなさい」
「あ、ステラ嬢!」
「はい」


 寮の中へ入ろうとしたステラを呼び止め、レイモンドは購入した物を取り出した。


「今日はありがとう。俺も楽しかった。これ、ステラ嬢に似合うと思って」
「開けてみても?」
「もちろん」


 レイモンドはステラが髪飾りを取り出すのを緊張しながら見ていた。

 どんな反応が来るだろうか。
 ステラの好みを知らないため、似合うと思った物を購入したのだ。

 一番いいのは喜んでくれる事だ。


「……可愛い」


 取り出した髪飾りを見てステラはそう呟いた。


「嬉しいです! ありがとうございます、レイモンド様!」


 頬を上気させながら笑ったステラは、大事そうに胸の前で髪飾りを抱きかかえた。

 レイモンドは今まで見たことがないほどに嬉しそうな笑顔のステラに、渡してよかったと言う喜びとまたその笑顔を見たいと言う欲求に駆られた。


「それじゃあ本当にありがとうございました! また明日!」


 しかし時間というものは無常で、もうすぐ寮の門限になるということもあり、ステラは中へと入っていった。


 翌日、ステラから髪飾りのお礼にとステラが刺繍したハンカチをもらった。そして、その日から髪飾りを毎日つけてくるようになったステラを見て、レイモンドは嬉しさと可愛さに悶えるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...